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彼女が欲しい
婚約者不在となった王太子クライムの新たな婚約者が、第二王子アトラスの婚約者であったブレアに決まったのはそれからしばらくしてのことだった。
元よりアトラスが国王の座には興味がないことを示すために選んだ婚約者だ。伯爵令嬢では一国の王の正妃としては身分が低いと難色を示すものもいたが、婚約者のいない年頃の高位貴族の令嬢がいなかったことと、ブレアが既に王子妃教育を終えていることが大きく影響し、正式にクライムの婚約者に決定した。
式は聖女シャイニーの喪が明けた来年の秋以降となる。
その夜、クライムは一人祝杯を挙げた。
クライムの恋の相手。それがブレアだ。
しかし第一王子とはいえ側妃の子である自分には強力な後ろ盾が必要であった。都合が良いのか悪いのか、生まれながらに王妃となることが約束されている『精霊の愛し子』である女性が公爵令嬢であったことから、クライムは有無を言わさず立太子と同時に政略による婚約が決まってしまったのだ。
美しく、幼い頃から次期王妃として育てられてきたリリーは、隣に侍らせておくには申し分のない女性であった。
しかしその後だった。
第二王子であるアトラスが婚約者だと言ってブレアを紹介してくれたのだ。
一目惚れだった。
漆黒の髪と瞳を持ち公爵令嬢然としたリリーと違い、ふわふわとしたプラチナブロンドの髪と翠眼を持つ華奢なブレア。クライムは自身の両腕で抱きしめ、攫い、そのまま閉じ込めてしまいたいと思った。
あぁ、彼女が欲しい──。
ブレアを手に入れるためにはリリーとアトラスが邪魔だ。
アトラスは消してしまっても問題はないが、リリーを消すのには問題がある。彼女は『精霊の愛し子』なのだ。
アトラスは常々精霊という不確かな者の力を借りずとも成り立つ国家にしたいと思っていた。
世の中には魔石という道具の動力源になり得る石が存在する。遠く離れた国ではそれを利用し、精霊の加護に頼らず生活している国もあるのだ。
クライムは魔石によって動く道具を魔道具と名付けその研究に成功すれば、精霊に頼らずとも生きていけるのではないか。自分の治世に精霊の愛し子など必要なくなるのではないかと前々から考えていた。
学園卒業まで三年。その短期間で結果を出さなければならない。
しかしこの国には精霊が深く根付いており、国の政策としての魔道具の研究は認められず、個人的な事業という形で研究は始まった。魔石収集のために冒険者ギルドを立ち上げ、魔物の素材の売買を一括して行えるよう整備した。これは仕事がなく困っていた国民に冒険者という職を与えることになり、様々な魔物の素材が流通することによって商人を呼び、結果国が潤う結果になった。そして、それはそのままクライムの評価へと繋がったのだ。
そしてその魔道具研究が軌道に乗り、商品化も可能になった時──稀代の大聖女と言われているシャイニーが現れた。
リリーはもう、必要なかった。
リリーに対し、誠実な婚約者を演じつつ、シャイニーに対して思わせぶりな発言をする。様々な噂を利用しありもしないリリーによるシャイニー殺害の動機を捏造する。
煩わしいシャイニーの相手には、彼女に好意を持っている側近のディジットを積極的に使う。もっと聖女に傾倒してくれれば、いざという時良い働きをしてくれるはずだ。
そして時は満ち、クライムは聖女の毒殺を実行した。
排除しなければならないのはリリーだけではない。リリーとの婚約が無くなればシャイニーが婚約者になるであろうことは目に見えている。命を奪うであれ社会的にであれ、二人は同時に消さなければならない。
*――*――*――*――*――*
シャイニーを殺し、その罪をリリーに着せることに成功した。
『精霊の愛し子』であるリリーが無実を叫べば罪が軽くなってしまう可能性がある。その為リリーには毒と同時に用意した解毒剤を少量飲ませ、死にはしないが断罪の場に出席できないようにした。
状況証拠だけで罪が塗り固められていく。
やはりディジットはシャイニーを想うあまり、クライムの思った通りの働きをしてくれた。
そして、予定通り、リリーの行き先は“ダンジョン”に決まった。
「しかしシャイニーならまだしも、彼女に私の命を狙う理由などないではありませんか!」
「そうか──。彼女には共犯がいたに違いない。令嬢がそう簡単に毒など手に入れられるはずもないのだから──」
「ならばまだその輩が殿下の命を狙っている可能性がある。殿下の周辺の警護を今以上に厳しくする必要がある」
集まった貴族を誘導していく。
そう、私の計画には一番邪魔な、最後の一人を消さなければ意味がない。
第二王子アトラス──アレは私のブレアを手に入れながらもリリーのことを好いているのだ。ならばリリーと共に堕ち、そこで添い遂げればいい──。
態々クライムにリリーの救出計画を説明するアトラスに笑いが出る。その行動がアトラスの中の“正義”と“恋心”、どちらから来たものだとしても、やっていることは脱獄の幇助だ。
そんなことをすれば、王太子の座欲しさに利害の一致したリリーと共に罪を犯したと思われても仕方がないだろう。
アトラスが計画を実行すると言っていた深夜。
クライムはただ夜更けに、護衛付きでも構わないから最後に彼女と話がしたいと言うだけでいい。
元よりアトラスが国王の座には興味がないことを示すために選んだ婚約者だ。伯爵令嬢では一国の王の正妃としては身分が低いと難色を示すものもいたが、婚約者のいない年頃の高位貴族の令嬢がいなかったことと、ブレアが既に王子妃教育を終えていることが大きく影響し、正式にクライムの婚約者に決定した。
式は聖女シャイニーの喪が明けた来年の秋以降となる。
その夜、クライムは一人祝杯を挙げた。
クライムの恋の相手。それがブレアだ。
しかし第一王子とはいえ側妃の子である自分には強力な後ろ盾が必要であった。都合が良いのか悪いのか、生まれながらに王妃となることが約束されている『精霊の愛し子』である女性が公爵令嬢であったことから、クライムは有無を言わさず立太子と同時に政略による婚約が決まってしまったのだ。
美しく、幼い頃から次期王妃として育てられてきたリリーは、隣に侍らせておくには申し分のない女性であった。
しかしその後だった。
第二王子であるアトラスが婚約者だと言ってブレアを紹介してくれたのだ。
一目惚れだった。
漆黒の髪と瞳を持ち公爵令嬢然としたリリーと違い、ふわふわとしたプラチナブロンドの髪と翠眼を持つ華奢なブレア。クライムは自身の両腕で抱きしめ、攫い、そのまま閉じ込めてしまいたいと思った。
あぁ、彼女が欲しい──。
ブレアを手に入れるためにはリリーとアトラスが邪魔だ。
アトラスは消してしまっても問題はないが、リリーを消すのには問題がある。彼女は『精霊の愛し子』なのだ。
アトラスは常々精霊という不確かな者の力を借りずとも成り立つ国家にしたいと思っていた。
世の中には魔石という道具の動力源になり得る石が存在する。遠く離れた国ではそれを利用し、精霊の加護に頼らず生活している国もあるのだ。
クライムは魔石によって動く道具を魔道具と名付けその研究に成功すれば、精霊に頼らずとも生きていけるのではないか。自分の治世に精霊の愛し子など必要なくなるのではないかと前々から考えていた。
学園卒業まで三年。その短期間で結果を出さなければならない。
しかしこの国には精霊が深く根付いており、国の政策としての魔道具の研究は認められず、個人的な事業という形で研究は始まった。魔石収集のために冒険者ギルドを立ち上げ、魔物の素材の売買を一括して行えるよう整備した。これは仕事がなく困っていた国民に冒険者という職を与えることになり、様々な魔物の素材が流通することによって商人を呼び、結果国が潤う結果になった。そして、それはそのままクライムの評価へと繋がったのだ。
そしてその魔道具研究が軌道に乗り、商品化も可能になった時──稀代の大聖女と言われているシャイニーが現れた。
リリーはもう、必要なかった。
リリーに対し、誠実な婚約者を演じつつ、シャイニーに対して思わせぶりな発言をする。様々な噂を利用しありもしないリリーによるシャイニー殺害の動機を捏造する。
煩わしいシャイニーの相手には、彼女に好意を持っている側近のディジットを積極的に使う。もっと聖女に傾倒してくれれば、いざという時良い働きをしてくれるはずだ。
そして時は満ち、クライムは聖女の毒殺を実行した。
排除しなければならないのはリリーだけではない。リリーとの婚約が無くなればシャイニーが婚約者になるであろうことは目に見えている。命を奪うであれ社会的にであれ、二人は同時に消さなければならない。
*――*――*――*――*――*
シャイニーを殺し、その罪をリリーに着せることに成功した。
『精霊の愛し子』であるリリーが無実を叫べば罪が軽くなってしまう可能性がある。その為リリーには毒と同時に用意した解毒剤を少量飲ませ、死にはしないが断罪の場に出席できないようにした。
状況証拠だけで罪が塗り固められていく。
やはりディジットはシャイニーを想うあまり、クライムの思った通りの働きをしてくれた。
そして、予定通り、リリーの行き先は“ダンジョン”に決まった。
「しかしシャイニーならまだしも、彼女に私の命を狙う理由などないではありませんか!」
「そうか──。彼女には共犯がいたに違いない。令嬢がそう簡単に毒など手に入れられるはずもないのだから──」
「ならばまだその輩が殿下の命を狙っている可能性がある。殿下の周辺の警護を今以上に厳しくする必要がある」
集まった貴族を誘導していく。
そう、私の計画には一番邪魔な、最後の一人を消さなければ意味がない。
第二王子アトラス──アレは私のブレアを手に入れながらもリリーのことを好いているのだ。ならばリリーと共に堕ち、そこで添い遂げればいい──。
態々クライムにリリーの救出計画を説明するアトラスに笑いが出る。その行動がアトラスの中の“正義”と“恋心”、どちらから来たものだとしても、やっていることは脱獄の幇助だ。
そんなことをすれば、王太子の座欲しさに利害の一致したリリーと共に罪を犯したと思われても仕方がないだろう。
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