【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby

文字の大きさ
36 / 41
新しい恋

5 分かるよね

オリーブが宿舎に帰りつくと、談話室でふくれっ面のシトロンが待っていた。

「どこに行っていたのさ。リブのお茶を飲まなかったから、喉は乾くし力は出ないし、汗びっしょりだったんだよ」
「それはっ、ご、ごめんなさいっ」

そう言えば急遽宿舎を出たため、オリーブが公爵邸に行っていたことは寮執事しか知らない。
きっとシトロンは休憩時間にオリーブを探したのだろう。
頭を下げるオリーブに、シトロンは慌てたように言った。

「違う、責めているわけじゃないんだ。──急にいなくなったから、心配したって言いたかったんだ」

シトロンは思ったことを言葉に出来る人だ。オリーブはシトロンのそんなところをいつも羨ましく思っている。

「いいえ。シトロン様は休憩時間をいつもここで過ごされているのですもの。その事を誰かに言付けて出るべきだったわ。急に公爵家から迎えの馬車が来て驚いたものだから、慌ててしまって──本当にごめんなさい」

オリーブが再び頭を下げるがシトロンの返答がない。オリーブが恐る恐る顔を上げると、何故かシトロンの顔から笑みが消え、目を見開いたまま固まっていたのだ。

「シ、トロン様?」

オリーブが恐る恐る声を掛けると、宙を見つめていたシトロンの焦点がオリーブに合った。

「公爵家から・・・?誰、か、聞いても?」

「ええ、ジェード・フロスティ公爵令息からの召喚でした」

「!」

シトロンの表情から知り合いであることが察せられた。あまり、彼に好意がないであろうことも。

「あいつ・・・!あいつ、リブはあいつの知り合いなの??何の用事だったの!?なんて言われた!?」

いつもの、計算して甘えてくるような余裕が感じられない。
らしくなく、切羽詰まった様な、今にも不安に押しつぶされそうなシトロンの剣幕に、オリーブは辺境であったことの全てをシトロンに話すことにした。

恋愛対象ではない、弟のようなシトロンであれば気を使わなくていいし、オリーブ自身が、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。



「──というわけで、フロスティ公爵令息に呼ばれたのです。用件はお詫び?ですね」

「公爵令息が伯爵令嬢をわざわざ呼び出しておいて、詫びることだけが用件なわけがないよね。リブ」

ヴェルトのことやオリーブの失態をスルーしてくれたのはいいが、一番触れられたくないことを尋ねられてしまった。

「確かにそうなのですが、それは、シトロン様には関係がないと言うか・・・」

他意は無い。
しかし、オリーブがそう口にした瞬間、シトロンの表情が泣きそうに歪んだ。

(え?)

しかし、その変化は本当に一瞬で、オリーブが瞬きをした次の瞬間にはいつものシトロンに戻っていた。

「そんな悲しいことを言わないで、リブ」

その作られたようなわざとらしい懇願の台詞に、彼が本心を隠しているような気がして、心がざわざわした。

シトロンは、ジェードに他に用件があったことを確信している様だった。
オリーブは自身の言葉に傷付いたようなシトロンを見なかったことにするために、ジェードの提案を白状することにした。



*--*--*



「ヴェルトはもうあの平民と婚約してしまったんだ。あいつと結ばれたいなどとは、もう思っていないのだろう?」

ヴェルトの気持ちがオリーブに向いていない以上、流石のオリーブもそんなことは考えていない。

しかし、なぜこの男にこんなことを言われなければならないのか。
まして男性を紹介するなどと──。

「彼となら爵位の釣り合いも取れているし、君を見ていると、彼が気に入るであろうことが手に取るように分かるんだ」

こんな、異性に苦労なんかしていないであろう男に、人の心の機微の何が分かると言うのか。
それに、いくら何でもレィディアンスからの手紙に婚約者を斡旋しろと書いてあったとは思えない。
この男の目的は、一体なんなのだろうか。

「平民の彼女が陥れようとした侯爵令嬢のことは知っているかい?」

返事をせずに考えこんでしまったオリーブが、唐突に切り替えられた話題に思わず頷くと、ジェードは話を続けた。

「僕の婚約者はね、その侯爵令嬢に腹が立つほど心酔しているんだよ。その侯爵令嬢があの平民のことをいつまでも気にしているものだから、僕の婚約者もあの平民のことを気にするんだ。侯爵令嬢だけでも許せないのに、だよ?
ならば彼女を侯爵令嬢の目の届かないところにやるのが一番だ。

だけどね、厄介なことに、侯爵令嬢は自身の評価を犠牲にしてまでその平民の『幸せ』を願ったんだ。これがさっき言った、放り出すことも修道院行きにすることも出来なかった理由だよ」

まさか、と思う。
まさかジェードがエボニーを辺境の男爵家──ヴェルトの元に送って来たのは罰でもなんでもなくて──。

「そう、ヴェルトなら彼女に侯爵令嬢も納得する『幸せ』を与えられると思ったんだ」

「そんなっ・・・」

そんな理由で、と思ってしまう。
今となってはオリーブがヴェルトの中にこれっぽっちもいなかったことが分かっているし、はじめから彼との未来などなかったということも理解している。
しかしエボニーが辺境に送られてきたその理由が、ジェードの婚約者の関心を得ている彼女を物理的に王都から離すためだったなんて・・・!

オリーブはジェードの傲慢さに開いた口が塞がらなかった。

そして彼の話は続く。


「だけどここで思わぬ弊害が生じた──君だ。君が辺境からやって来た。
僕があの平民が『幸せ』になれるよう動いたことで、『不幸』になった君が辺境からやって来たんだ。しかもブラッシュ辺境伯令嬢が手を回したおかげで、侯爵令嬢と僕の婚約者も君の存在を知ってしまった」

その優雅な所作からは想像が出来ない程、レィディアンスの名を不快げに口にしたジェード。
それは「余計なことをしてくれた」と言わんばかりだ。

「フロスティ公爵令息の婚約者様が私を気にしている、ということですか?」

美貌の公爵令息からこれほどまでの独占欲を向けられ、唯一と言わしめる令嬢に気にされているなんて、オリーブにはまるで心当たりがなかった。
彼の勘違いで、見知らぬ男と未来を歩まされてはたまらない。
それに、万が一本当にそうだというのであれば、名前くらい知っておいた方が良いだろう。
オリーブはそう思い、その名を尋ねた。

「──失礼ですが、婚約者様のお名前を伺っても?」

「あぁ、クラレットだよ。クラレット・メイズ伯爵令嬢。君、会ってるだろう」

「え」

オリーブが王都に来たばかりの頃、侯爵令嬢に頼まれたからと色々世話を焼いてくれた無表情の令嬢。

──確かにこれ以上は無いほどに、オリーブは気にされていた。

「だから、クラレットの関心をなくすには、君にも『幸せ』とやらになって貰わなければならない。──分かるよね」

ジェードの瞳に宿る仄暗い執着に、オリーブは身震いをするとともに、クラレットのことを羨ましいとも思ってしまった。



*--*--*



その翌日、オリーブは前日の休憩時間にお茶を淹れることが出来なかったお詫びに、お気に入りの茶葉を準備して、シトロンが来るのを待っていた。



リブ!喉が渇いたっ──



いつも掃除中のオリーブを見つけると、笑顔で駆け寄り、甘えるようにおねだりしてくるシトロン。



だけど、その日オリーブがシトロンの姿を見ることは一度もなかった。
感想 34

あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

「愛があれば十分だ」と私を捨てた婚約者へ――では、その婚約破棄の条件から確認いたしましょう

師走
恋愛
伯爵令嬢リディア・エーヴェルは、貴族たちの婚約や離縁、持参金や相続に関わる条件調整を陰でまとめてきた実務家だった。 だがある夜会で、婚約者である王太子側近ユリウス・グランツから「君は条件ばかりで冷たい。愛があれば契約などいらない」と一方的に婚約破棄されてしまう。 静かに婚約破棄を受理したリディアは、その場で持参金返還、贈与品、名誉回復の文言など必要事項の確認を始めるが、誰もその意味を理解しない。 けれど彼女が婚約から外れた直後から、王都では縁談、婚約、離縁の調整が次々と滞り始める。今まで多くの案件を陰でまとめていたのは、ほかでもないリディアだったのだ。 そんな中、法務局の裁定官補佐セオドア・ヴァレントから、王女ヘレナの婚姻条件を見直してほしいと依頼が舞い込む。 北方大公家との政略結婚。けれど提示された条件は、婚姻ではなく人質の引き渡しに等しいものだった。 「条件は愛の代わりではありません。ですが、愛が壊れたときに人を守ることはできます」 傷つきながらも再び交渉の場に立つリディアは、王女の未来を守るため、そして自分自身の人生を取り戻すため、契約と誠意を武器に王都最大の婚姻交渉へ挑む。 一方、自分を支えていたものの大きさに気づいた元婚約者は、今更になって復縁を望み始めるが――。 小説家になろう様でも掲載中

「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版

まほりろ
恋愛
 公爵令嬢のアデリナ・ブラウフォードの人生は実母の死後大きく変わった。  公爵は妻の葬儀が終わって間をあけず再婚。公爵と後妻の間には、再婚前に作った子供までいた。  アデリナは継母と異母妹に私物を奪われ、「離れ」と名ばかりの小屋に押し込められる。  腹違いの妹はアデリナを悪者に仕立て、周囲はそれを信じた。  本来ならアデリナの味方にならなくてはならない婚約者の王太子も、異母妹の魅力に骨抜きにされ全く頼りにならない。  学園の教師も、生徒も、生徒の保護者も王太子と異母妹の味方だ。    そんなアデリナにも唯一の味方がいる。それはトカゲのクヴェル。クヴェルは美少年に変身し、家事も炊事も裁縫も完璧にこなす不思議な存在だ。  実はクヴェルはこの国の建国に携わる水竜で、アデリナは三百年前に水竜を救った初代女王の生まれ変わりだったのだ。  アデリナを蔑ろにする国に嫌気がさしたクヴェルは、アデリナを連れて旅に出る。  神に去られた国は徐々に荒廃していき……。  一方その頃、祖国の荒廃を知らないアデリナはクヴェルとのグルメ旅を満喫していた。  「ん~~! このアップルパイは絶品! 紅茶も美味しい!!」 ・人外×人間、竜×人間。 ・短編版は小説家になろう、pixivにもアップしています。 ・長編版を小説家になろうにも投稿しています。小説家になろう先行投稿。 「Copyright(C)2025-まほりろ」 ※タイトル変更しました(2025/05/06) ✕「卒業パーティーで王太子から婚約破棄された公爵令嬢、親友のトカゲを連れて旅に出る〜私が国を出たあと井戸も湖も枯れたそうですが知りません」 ✕「嫌われ者の公爵令嬢は国外追放を言い渡される。私が神の祝福持ちだと王家が気付いた時には国の崩壊が始まっていました」 ◯新タイトル「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」 ・2025年5月16日HOTランキング2位!  ありがとうございます! ※表紙イラストは猫様からお借りしています。

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります

たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。 リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。 「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。 リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです

hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。 ルイーズは伯爵家。 「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」 と言われてしまう。 その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。 そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。