【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby

文字の大きさ
40 / 41
新しい恋

9 演出

何かを叫び、逃げ出してしまったオリーブの様子に、先ほどまで流れていた緊迫感が跡形もなく霧散した。

(え?オレ、逃げられたの?)

抱き締めたオリーブの身体に力が入ったことに気付き、腕に入れた力を緩めた。痛かっただろうかと思ったのだ。
なのにオリーブは、年上には見えない可愛らしい顔を朱に染めて、脱兎のごとく逃げ出したのだ。



「あの程度で逃げ出すとは──やはりノワールに似合いの令嬢だな。僕の見立ては間違いなかった」

ぽつりと呟いたジェードの言葉にシトロンが問い返す。

「・・・どういう意味だ?」

「え?彼女を見た時、君好みの女性だと思ったから、君に紹介してあげようと思ったんだ。君、ああいった純朴な令嬢が好みなんだろう?侯爵と伯爵──身分も釣り合う。

彼女が独り身である限り、キャナリィ・・・──ウィスタリア侯爵令嬢が気にかける。そうしたら必然的にクラレットも彼女に気を使うことになる。
それに、君がクラレットを好いていないことは重々承知しているが、“クラレットの件”をいつまでも根に持たれるのは気持ちのいいものではないからね。

まぁ、僕が手を出すまでもなく君は彼女に好意を持っている様だったが、いかんせん時間をかけすぎだ。これではクラレットがいつまでも彼女を気にしなければならない」

「ちょっと待て。じゃぁ、そこの男は?」

シトロンがジェードの後ろに控えるガタイの良い男を指さし尋ねる。

「彼は商会の従業員さ。これから商談に向かうのでね」

そこでその男がシトロンに微笑み会釈した。

「──もしかしてこの演出、お気に召さなかったかい?」

「演出?」

「彼女、君のことを男として意識していないようだと聞いたから一芝居うったんだよ。

彼をマルーン嬢に紹介する予定の男だと君たちに誤認させることで、二人とも焦るだろうから、何か進展があるのではないかと思ったんだが・・・効果覿面だったな。

・・・巷で流行っている物語が、こぞってこの演出を取り入れる理由がよく分かったよ」

元は平民の間で流行っていた物語だが、最近貴族の間でも流行り出しているから話題作りのために何冊か読んだんだ──。ジェードがそんなことを言っているが、シトロンの耳には届かない。

「オレが意識されてないなんて・・・なんで知って──」

「あぁ、宿舎の侍女をしている令嬢が教えてくれたよ。僕だってクラレットの関心を取り戻すためなら、笑顔のひとつくらい振りまくさ」

シトロンの脳裏をいつも訓練場で黄色い声援を送ってくる令嬢たちがかすめる。
あいつらがジェードと会話するために情報を流したに違いない。

「機密情報を聞き出した訳じゃないし、問題はないだろう?

さて、僕はもう行くよ。
ノワール、そんなことより彼女を追わなくていいのかい?」

ジェードがオリーブが走り去った方に視線を投げた。
既にその姿は見えなくなっている。

「あ!そうだ、リブ!!」

オリーブを追って駆け出すシトロンの背中を見送り、ジェードは馬車に乗り込んだ。





初めて会った時、オリーブの横顔が悲しそうで気になった。
彼女を試すために名を呼んでいいかと尋ねた時は、マナーがなってないと怒られて、侍女としてやってくる他の令嬢に比べ、きちんと弁えている人なのだと嬉しく思った。
訓練場には足を踏み入れず真面目に職務を果たしている姿に、これまでシトロンが出会ったどの令嬢とも違うのだと確信した。
彼女に話しかけるといつも屈託のない笑顔で迎え入れてくれた。
淹れてくれる紅茶はとても美味しく、彼女との時間はシトロンに癒しを与えてくれた。
シトロンが好意を仄めかすと、真面目な顔をして自身の年齢を告げてきた。シトロンは次期侯爵だ。そんなこと、アプローチをすると決めた日に調べ終えている。
しかしオリーブはまるで、それが枷であるかのように頑なだった。
若さなんかより重要な、シトロンが望むものを持っているのに。

彼女は、それを全くわかっていない。

クラレットとの縁談を考えていると当主である父に言われたとき「感情の起伏が少ないクラレットであれば、お互い熱はなくとも適当に付き合っていける」と考えた。
あれはこの感情を知らなかったから言えた言葉だ。



恋は“落ちる”ものというけれど、明確な“何か”をオリーブに感じたわけじゃない。
だけど、オリーブが淹れた紅茶を一口飲んだ瞬間に、渇いたシトロンの身体に染み渡ったように、出会って言葉を交わしたときに、オリーブという存在がシトロンの心に浸透していたのだ。

だから、いつの間にか受け入れてくれた“リブ”という愛称のように、シトロンも彼女に受け入れられているのだと思っていたのだが──。





シトロンが、まるで心を落ち着けるように無心で掃除をしているオリーブを見つけたのはいつもの談話室だった。

まだ仄かに耳が赤い気がする・・・。

『甘える』のはもうやめだ。
悔しいが、ジェードのおかげでオリーブの攻略法が分かったのだから。

シトロンはオリーブの方へと一歩踏み出した。








★★

明日の12時最終話、完結です(ง⁎˃ ᵕ ˂ )ง⁾⁾
感想 34

あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」連載版

まほりろ
恋愛
 公爵令嬢のアデリナ・ブラウフォードの人生は実母の死後大きく変わった。  公爵は妻の葬儀が終わって間をあけず再婚。公爵と後妻の間には、再婚前に作った子供までいた。  アデリナは継母と異母妹に私物を奪われ、「離れ」と名ばかりの小屋に押し込められる。  腹違いの妹はアデリナを悪者に仕立て、周囲はそれを信じた。  本来ならアデリナの味方にならなくてはならない婚約者の王太子も、異母妹の魅力に骨抜きにされ全く頼りにならない。  学園の教師も、生徒も、生徒の保護者も王太子と異母妹の味方だ。    そんなアデリナにも唯一の味方がいる。それはトカゲのクヴェル。クヴェルは美少年に変身し、家事も炊事も裁縫も完璧にこなす不思議な存在だ。  実はクヴェルはこの国の建国に携わる水竜で、アデリナは三百年前に水竜を救った初代女王の生まれ変わりだったのだ。  アデリナを蔑ろにする国に嫌気がさしたクヴェルは、アデリナを連れて旅に出る。  神に去られた国は徐々に荒廃していき……。  一方その頃、祖国の荒廃を知らないアデリナはクヴェルとのグルメ旅を満喫していた。  「ん~~! このアップルパイは絶品! 紅茶も美味しい!!」 ・人外×人間、竜×人間。 ・短編版は小説家になろう、pixivにもアップしています。 ・長編版を小説家になろうにも投稿しています。小説家になろう先行投稿。 「Copyright(C)2025-まほりろ」 ※タイトル変更しました(2025/05/06) ✕「卒業パーティーで王太子から婚約破棄された公爵令嬢、親友のトカゲを連れて旅に出る〜私が国を出たあと井戸も湖も枯れたそうですが知りません」 ✕「嫌われ者の公爵令嬢は国外追放を言い渡される。私が神の祝福持ちだと王家が気付いた時には国の崩壊が始まっていました」 ◯新タイトル「嫌われ者の公爵令嬢は神の愛し子でした。愛し子を追放したら国が傾いた!? 今更助けてと言われても知りません」 ・2025年5月16日HOTランキング2位!  ありがとうございます! ※表紙イラストは猫様からお借りしています。

「愛があれば十分だ」と私を捨てた婚約者へ――では、その婚約破棄の条件から確認いたしましょう

師走
恋愛
伯爵令嬢リディア・エーヴェルは、貴族たちの婚約や離縁、持参金や相続に関わる条件調整を陰でまとめてきた実務家だった。 だがある夜会で、婚約者である王太子側近ユリウス・グランツから「君は条件ばかりで冷たい。愛があれば契約などいらない」と一方的に婚約破棄されてしまう。 静かに婚約破棄を受理したリディアは、その場で持参金返還、贈与品、名誉回復の文言など必要事項の確認を始めるが、誰もその意味を理解しない。 けれど彼女が婚約から外れた直後から、王都では縁談、婚約、離縁の調整が次々と滞り始める。今まで多くの案件を陰でまとめていたのは、ほかでもないリディアだったのだ。 そんな中、法務局の裁定官補佐セオドア・ヴァレントから、王女ヘレナの婚姻条件を見直してほしいと依頼が舞い込む。 北方大公家との政略結婚。けれど提示された条件は、婚姻ではなく人質の引き渡しに等しいものだった。 「条件は愛の代わりではありません。ですが、愛が壊れたときに人を守ることはできます」 傷つきながらも再び交渉の場に立つリディアは、王女の未来を守るため、そして自分自身の人生を取り戻すため、契約と誠意を武器に王都最大の婚姻交渉へ挑む。 一方、自分を支えていたものの大きさに気づいた元婚約者は、今更になって復縁を望み始めるが――。 小説家になろう様でも掲載中

婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります

たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。 リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。 「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。 リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです

hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。 ルイーズは伯爵家。 「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」 と言われてしまう。 その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。 そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

私の頑張りは、とんだ無駄骨だったようです

風見ゆうみ
恋愛
私、リディア・トゥーラル男爵令嬢にはジッシー・アンダーソンという婚約者がいた。ある日、学園の中庭で彼が女子生徒に告白され、その生徒と抱き合っているシーンを大勢の生徒と一緒に見てしまった上に、その場で婚約破棄を要求されてしまう。 婚約破棄を要求されてすぐに、ミラン・ミーグス公爵令息から求婚され、ひそかに彼に思いを寄せていた私は、彼の申し出を受けるか迷ったけれど、彼の両親から身を引く様にお願いされ、ミランを諦める事に決める。 そんな私は、学園を辞めて遠くの街に引っ越し、平民として新しい生活を始めてみたんだけど、ん? 誰かからストーカーされてる? それだけじゃなく、ミランが私を見つけ出してしまい…!? え、これじゃあ、私、何のために引っ越したの!? ※恋愛メインで書くつもりですが、ざまぁ必要のご意見があれば、微々たるものになりますが、ざまぁを入れるつもりです。 ※ざまぁ希望をいただきましたので、タグを「ざまぁ」に変更いたしました。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法も存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。