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今日も元気な新メンバー

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「はぁーー … …。」

第十三実験室に向かうエリザベスの足取りは非常に重かった。
何故ならこれ以上増やしたくなかったアホの趣味ガン盛りな上に欲望剥き出しの企画の被害者が今日から来るからだ。

「大きな溜め息ですね。
別に新しく来る彼女に問題がある訳ではないでしょう?」

「ええ。分かってるわよ。
ベアトリス・サイドリバー。
2年土組の生徒で、サイドリバー男爵家の次女。
正室の子で魔法の才能も十分。
クラブ活動でも優秀な戦績を残し、感覚的に動き過ぎる点とやや不真面目な授業態度を除けば極めて善人。
そんな善人があのアホの毒牙にかかると思うとね。」

「昨日今日でよくそんなに調べれましたね。
誰かに頼んだんですか?」

「代理人は使ったけど基本自分で。
私はスリースタックス家の人間よ?
我が領内のことは仮に魔法学院の中の事だろうと知れないことはないわ。」

なんて話しながら歩いていると、相変わらずいろんな意味で重いから開けたくなくなる扉の前にたどり着く。

「行くわよエミリー。」

「かしこまりました。」

意を決して扉を開けると

「遅かったじゃないか!
待っていたぞリジー君!」

相変わらずハイテンションな挨拶を返してくるアホと

「ご機嫌麗しゅうございます。
スリースタックス辺境伯令嬢。」

様になった綺麗なカーテシーをする褐色肌に赤く染めた髪の彼女、ベアトリスがいた。

「ありがとうサイドリバー男爵令嬢。
……ここは公の場では有りませんし、学校ではあなたの方が先輩です。
もっと砕けた話し方で大丈夫ですよ?」

そう言われるとベアトリスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニコッ!と快活な笑みを浮かべて

「じゃあお言葉に甘えて硬いのは抜きで!
改めて、ベアトリス・サイドリバー。
クラスやクラブの皆からはトリスって呼ばれてる。」

「ではトリス先輩と。
私の事も是非リジーと。」

「オーケーリジー。よろしくね。
そちらのメイドさんは?」

「申し遅れました。
わたくし、エリザベス様の従者の涌井英美里と申します。
エミリーとお呼びください。」

「そしてこの僕が!
魔法学院教師陣でもっとも恐れられる男!
アルフレッド …」

「アホ教授、今日はいつにも増して自分語りが激しいですね。
遺書の下書きでもしたんですか?」

相変わらずのエミリーは毒舌がアホのセリフを遮った。

「いやただの自己紹介だよ!?
流れで僕もやる感じじゃないの?」

「お前みたいなこの作品の汚点よりタイトルに掲げられている魔砲の方が大事でしょ?」

それもそうか!とサクッと切り替えてそもそも魔ほぉう!とは!
と、叫びながら机に飛び乗り、実物を高々と掲げる。

「あの夏祭りの射的を弓矢からコルク銃にすり替えた憎き近代兵器を根絶やしにする為に作り出した魔法版近代兵器だ!」

そう言い切ったアホに英美里は急接近して魔砲を掴むと思い切り銃床でアホの顎をかちあげエリザベスに投げ渡す。

「手っ取り早く実演しましょうか。」

「え?ちょ、ま、」

アホが何か命乞いの様なものをしかけたが全く無慈悲に魔砲の引き金を引いた。
発射された弾は土魔法を封じた物だったらしく、炸裂した球の破片が変質してアホの顔に張り付く。

「ーーーーーッ!
ーーーーーーーーッッッッ!!!」

「威力は見ての通りですわ。」

「あの、大丈夫?アホ教授息できる?」

「出来なくても大丈夫ですよ。
アホですから。アホは阿呆過ぎるまでに阿保ですから。」

なんとか握力、腕力を強化して顔面に張り付いた物を剥がしたアホは

「いや死ぬわ!魔法使いも人間だわ!
僕の扱い雑だとは思っていたけど殺意高すぎない?なんで?僕なんかした?」

「あなたの凡ゆる発明品の阿呆みたいな開発理由に呆れてるんですよ。
射的なんて弓でもコルク銃でもいいでしょ?」

「僕は弓矢の方が得意だし魔法と合わせて使って取れない様になってる景品取るのが好きだったに!
しかもその景品を転売して研究資金にするのが僕は大好きだったんだ!」

「いや理由!夏祭りそんな風に楽しむ人初めて見た!アホ教授友達いないでしょ!?
絶対それ屋台のおじさん相手に1人でやってて親子連れに遠巻きに見られてたでしょ!」

トリスの突き刺す様なツッコミに膝を突くアホ。

「エミリー、火炎弾。」

「ここに。」

その隙に容赦なく次弾を装填したエリザベスにアホは本気で焦って

「待って待って流石の僕も君の『超自然発火』を封じた火炎弾はやばいから!
あれ毎回オチに使われたりしてるけど結構洒落にならない威力だから!」

「はぁ、仕方ないですね。」

「リジー君…」

「経験ですしトリス先輩に打たせてあげましょう。」

「いやええぇ!?
だ、大丈夫なの?流石にヤバくない?」

「そこのアホの人間性程じゃないから大丈夫ですよ。」

戸惑いながらも魔砲を受けてるベアトリス。
アホは懇願する様な目で彼女を見上げて

「お願いやめてトリス君!
君がボールを取りに来た時、逸材が飛んで火に入る夏の虫してくれてラッキーとか美女が握ったボールとかなんか卑猥とか、健康スポーツ褐色美女とかマジ教権使ってペロペロしたいとか思った事は謝るから許して!」

最初は憐れみの目で見ていたベアトリスの目が見る見る死んでいく。
そして容赦なく額に銃口を突きつけると

「最後に何か言い残すことは?」

アホは諦めたのか無駄なキメ顔で

「生徒に欲情するとか、
教師として最悪だと思う。
けどね …君みたいな美女で抜かない奴とか、絶対女に興味ないよね?」

ベアトリスは容赦なく引き金を引いた。
上半身が炎に包まれたままアホは見事に吹っ飛び窓から上半身を突き出した状態で動かなくなった。

「私、魔砲少女向いてるかも。」

「お上手ですよ。
そこの絶対自分の世間体に興味がない男より良い腕です。」

そう言って空になった魔砲を手順に従い片付け始める英美里。

「さ、歓迎会と親睦会を兼ねてお茶でもしましょうか?」

「まだ良い茶葉が残ってましたし、丁度良いですね。」

そうして部屋を出て行く3人。
1人残されたお茶会に誘われなかったアホは、発見こそされましたが、罠を疑ったモブ達に警戒され、朝までそのままでしたとさ。
めでたしめでたし。
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