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今日明かされるアホの実態

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「こんにちわー!」

第十三研究室の扉を勢いよく開けてべアトリスは入って来た。
クラブの練習は大体朝練に回したので放課後は基本的に来れるようになった彼女はあのアホには色々思うこと有ったが、それでも魔法使いとして全く新しい概念である『魔法近代兵器』に興味津々だったし、意外にも可愛いモノ好きの彼女はエリザベスや英美里がそう言った趣の衣装に身を包んだ姿も見て見たいと思っていたのだ。
自然とテンションも上がり、声も大きくなる。

「こんいちわトリス先輩。」

「おまちしておりました。」

そこにはエリザベスと英美里の2人しかいなかった。
アホの姿は見えない。

「あれ?アホ教授はまだ来てない感じ?」

「ああ、あれでしたら今朝病院行ってからくると連絡があったっ切り来てないそうです。
そのままサボったんじゃないですかね?」

「そんな男子中学生みたいな。まあ、やりそうだけど。」

「そんなわけで今日はお茶飲んでお喋りするぐらいしか出来ませんね。」

昨日したばかりですけど、と言ってエリザベスはベアトリスに手元にあったポットから注いだ紅茶を渡す。

「ありがとう。確かに世間話とか魔法方面の話題は語りつくしてしまいましたし、どうしましょうか?」

「良い機会ですし、あのアホの危険性を理解していただくのはどうでしょう?」

危険性って、と思うベアトリスだったが、昨日の最低発言とかを鑑みると、あながち否定できないかもしれないと思い、聞いとくだけ聞いとくかと姿勢を正す。

「そうだなぁ、まずアホ教授ってなんでアホ教授って呼ばれてるの?」

「本名アルフレッドAlfredハリーHalleyオハラO'Har
略してアホ。裂けめの向こうの世界の国で、私のルーツでもある日本国の言葉で阿保という意味です。」

「皆よく知らない人も普通にアホ教授って言ってるけどメッチャ罵倒じゃん!
それ今まで誰も指摘しなかったの!?」

アホ教授本人含めて日本語話せる人ってこっちじゃ結構少ないですしね。
家名を汚さない為に偽名で通ってる人も多いですから、皆気付いていませんね。
まああの男は存在自体が哺乳類の汚点みたいなものですけど。」

「せめて人類って言ってあげようよ…」

苦笑するベアトリスに英美里は
あ、この人まだわかってないなと思い、説明を続けた。

「まあそんな通りなとは裏腹に魔法使いとしては極めて優秀。
魔力感知しか出来ない様な真の落ちこぼれからまだ目が出てない方々まで集まる特設クラス無能組の担任。
実験事故とかで責任取らされ豚箱にぶち込まれたことも少なくありません。
この前も自慢げに衛兵全員と顔見知りとか言ってしたよ。」

「ねえ逮捕されるような実験ミスって何やったの?なんか殺したの?」

「さあ?大なり小なり色々やりすぎて毎度毎度何で逮捕されたのか心当たり有りすぎてわからないそうです。」

「そんな人でもそれなりに責任ある立場と研究室を与えてる学院にモノ申せばいいの?
それともそれだけやらかしてなお凶行に手を染めるアホ教授を通報すればいいの?」

「通報して逮捕されてもすぐ出てきますよ。
毎回獄中で良くも悪くも今までの常識を無視した論文を発表して恩赦に次ぐ恩赦で一週間とかそこらで復職する怪物です。」」

「まあ、じゃなきゃ魔砲なんて作れないよね。
これもすごくよく出来てるし。けど近代兵器、嫌いなんじゃないの?」

理由こそアレだが、あの親の仇を見るような目は確かに近代兵器を全力で嫌っていた。

「嫌いですが有用性は認めてますね。
そうじゃなきゃこんな物作りませんよ。」

「まあその後すぐに自分の趣味と結び付けて学会発表なんかより早く魔砲少女なんてコスプレPRガールを用意するなんて蛮行をしてくれる訳ですが。」

「まあ、正直あそこまで来ると若干引くよね。
そうゆう趣味をどうこう言うつもりはないけど、
それで儲けようとしてるんだから逞しいよね。」

三人が同時にため息をつく。
そしてさらに補足すると

「あのアホがなぜあそこまで銭勘定浅ましくなったかと言えば彼の実家に問題があったからです。」

「実家?確かめっちゃ雑にだけど赤く染めてるし男爵家の人だよね?」

「はい。もともとオハラ家は王家にも近い公爵家だったのですが歴代の当主が国の歴史から抹消されるレベルのあんまりにもあんまりなやらかし過ぎを重ねた結果順当に降格していき男爵家へ。
そしてあまりにも慎みが無いからと厄介払い同然に嫁がされた子爵令嬢と先代党首との間に生まれた子供の一人があのアホです。」

脈々と受け継がれてきたモンスターの系譜にベアトリスは戦慄した。
それと同時に疎ましく思って排除しようとする連中を跳ね除けるだけの才能も受け継いでることに恐怖した。

「それで、アレの生き写しみたいな人が後何人も居るの?」

「ご安心を。アホの兄は魔法薬の研究と称して媚薬とか作って収監されていて、妹の方は人間の精を吸いつくす危険な魔法植物を扱う牧場開こうとして王宮地下で拷問うけています。」

「いや何一つ安心できないよ!
テロリストどもに『ヤツらを開放せよ!』とか要求されたら国終わらない!?」

「よくそんなネタ知ってましたね。
まあ確かにそうなんですが、多分アホでもやりませんよ。
兄妹仲は悪くないですけどいざ互いが互いの商売の邪魔になると分かったら容赦なく殺し合うアホ共ですから。」

「それアホってか大分クズだよね?
そんなのに振り回されて我らが王は何やってるの?」

ベアトリスがそう言うとあー、それ言っちゃう?とでも言いたげにエリザベスと英美里は顔を合わせて

「あの王は駄目ですよ。
側室の女狐にあれこれ言われてその通りにしか動きません。」

「あのアホの『絶対ほぉう!ぶっ放すリスト』堂々の第一位です。
そこだけは同意しますけど。」

「ちなみに他には?」

「『異世界転生しそうな冴えないオタク高校生』とか『キラキライケメン野郎』とかいう酷く曖昧な物ばかりで…」

「アホ教授アニメやラノベの見過ぎじゃない?
せめて現実を正しく現実と認識させてあげよう?」

「無理ですよ、何たってあの男は…」

「やー!学校サボって貪る惰眠は最高だったな!
よし!今日も素晴らしいアイデアが沸いてくる気がするぞう!
お、みんな揃ってるじゃないか!
被服部からのコスチュームもさっきスッた金で払って来たし早速試着を…」

言い終わる間もなく背後に回り込んだ英美里の指ぬき付きナイフが容赦なくアホのケツを貫いた。
衣装を奪い取り前のめりに倒れたアホのケツをさらに蹴り、ナイフをめり込ませる。

「この通り善性や反省や他社優先とはおおよそ対極にいる人間です。」

「うん……そうだね。」

なんだかグダグダと締まらない展開だったなと、頭を掻くベアトリスと深く反省する作者でした。
めでたしめでたし。
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