小説とセックスにまつわる衝動

亜蘭圭

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1 脳で感じる

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 彼氏に内緒でこっそり撮影してた初体験のビデオを見てみる。

 ビデオの中の私は、私が記憶している私とは別人に見えた。
 私が覚えていない事を話して、私が覚えていない声を出している。
 見ているうちに、奇妙な姿勢で奇妙な声を出しているのは、私ではなく、人でさえなく、未知の動物のように見えてきて、なにか気持ちが悪くなってビデオを消去した。

 初体験に関して文章に書いてみる。
 映像よりも文章の方が私には何かしら逆にリアルに感じられた。
 実際の出来事の一部をなかった事にして、別のある部分を美化して誇張して粉飾して、この文章は、だから、実際に起こった事とは違う部分もあるんだけど、でも、それでも、私には何かしらリアルに感じられる。

 そもそも、実際に起こった本当の事と違っていて何が悪いの?
 誰も実際に起こった本当の事の全てを覚えてなんかいない。
 それができるのは神様だけだ。

 ただ書くだけでは何か物足りなって小説っぽくしてみた。
 どうせならと官能小説風にしてみたら、ますます本当とはかけ離れて行く気はするけど、読み返すと興奮した。

 実際に体験していた最中は無我夢中で、自分が興奮していたかどうかも定かではないけれど、文章を読み返すと、とても興奮して、快感さえあったような気がしてきた。

 別の男と別のセックスをする度に文章を書く。

 実際にセックスをしている時は無我夢中になってしまって、その瞬間に自分の身体に生じている感覚を、具体的な言葉に置き換える余裕がない。
 ひとりになって、まだ身体のどこかに残る余韻に浸りながら、直近のセックスの行為の断片を、近くて遠い言葉や擬音に置き換える。

 文章を書いている時。
 文章を読んでいる時。
 冷静にじっくりと、ひとつひとつの言葉を味わう。
 言葉が意味する感覚を好きなだけ時間をかけてじっくりと吟味して、頭の中で再現する。
 セックスそのものよりも、言葉で再構築したセックスを、脳で感じる。
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