小説とセックスにまつわる衝動

亜蘭圭

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5 こんな不測の事態

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 もともと在宅でする仕事が多かったので、仕事のやり方は変わらなかったものの、それ以前からの、制作費削減の波は、最下流の俺の所に如実に押し寄せていて、以前に比べて、受注量も受注単価も激減。仕事の先行きの不透明度がどんどん増す中に今回の伝染病。

 いよいよ仕事が減ってきたら近所の飲み屋でバイトでもしようかと思っていた目論見も困難になり、暇だけはあるので、売れるあてのない小説を書き始めてはみるが、思うように進まない。そもそも、俺には、何がなんでもコレを書きたい、というモノが果たしてあるのか?

 この1Kの仕事部屋兼住居にずっとこもってデスクに向かっていると、ストレスも溜まるし、腰も痛くなってくる。俺の三大気分転換は、散歩、映画館、夕方または深夜のちょい飲み(時に痛飲)なのだが、この伝染病のせいでいずれも以前のように気楽には楽しめない。散歩はできなくはないが、肺炎を患って以降、常に鼻はつまり気味で喉はタンが絡み気味、長時間マスクをしていると、だんだん呼吸が苦しくなってくる。

 他人が視界にいない時には自分もマスクをアゴにずらすくせに、自分がマスクを着用している時に、アゴマスクやマスクを着けてない人を見かけると腹が立つ。

 つい先日も、あごマスクで歩きタバコで激しく咳払いをして、道端にタンをはく初老の男(推定年齢70歳)と、ノーマスクで一切口元を覆う事もなく、何度も激しい咳をする若者(推定年齢30歳)に続けて遭遇。俺は、屋外・単身・無言・普通の呼吸で距離がある(またはすれ違うだけ)ならば、ノーマスクで全然構わないと思っているのだが、さすがにこの二人がいた空間を通る気になれずに迂回する。俺は、今回の伝染病でこういう世の中になる以前から、口元を覆わずに咳をする奴は結構気になっていた。映画館で、上映中ずっとノーカバーで激しい咳をする奴が隣にいて、その日の夜から風邪っぽい症状が出た事もあった。

 散歩も半ばストレスで、マスクをした状態で混んでいる電車に乗りたくないので繁華街の映画館に行けず、もちろん深夜の飲み屋もやっていない。

 部屋でひとりで発泡酒を飲んでも、解消されないストレスは、自分では意識できないレベルでは、相当積もっているのかもしれない。

 コンビニで買物をして、タッチパネルで支払い方法を選択して、クレジットカードで支払い、その横の機械から出てきたレシートをいつものように手に取ろうとすると、若干のひっかかりを感じる。レシートがきちんと切れていなくて、次の部分のヘッダー部分が印字されているようだ。若い女性店員に見せると「無理に引っ張るとそうなるんで…」と、まるで俺が悪いような言い方をする。「無理に引っ張ってないけど」と言うと「いや、無理に引っ張るとそうなるんで…」と同じ事を繰り返すので「俺が悪いって言うのか?」「いや、とにかく、無理に引っ張ると…」「このマスクも、この邪魔な仕切りも、俺のせいか?」俺はマスクを取り、仕切りを引きちぎり「キャンセルするから金返せ」と紙パックのジュースを思い切り投げつけた。

 ジュースの直撃をみぞおちのあたりに受けた店員は「うっ」とうめいてうずくまる。カウンターの上に登った俺は思い切りキャッシャーにかかとおとしを食らわせてレジを開けて、現金(推定30万円)をつかみとってバックパックに入れた。座り込んで苦しそうにうめいている店員をよく見ると、一応若くてスタイルもよさそうなのでマスクをはぎとってみると顔も悪くない。怯えた小動物のような目で俺を見て「あ…あの…」と何かを言おうとするが、恐怖でうまく言葉が出てこない。俺は瞬時に更に罪を重ねる決意をした。

 店員の口を塞ぎながら床に押し倒し、マウントポジションで両膝で肩関節を押さえつける。恐怖で目を見開いた店員は「んむんっ…んむん」と、声にならない声を漏らして抵抗しようとするので、更に体重をかける。推定157㎝
48㎏の店員は、体重90㎏の俺にこの体勢を取られては跳ね返す事は困難で、ただ脚をバタバタさせる事しかできない。

 こんな不測の事態に備えて持ち歩いていた水に溶かしたスリープドラッグを入れたケースをバックパックから取り出し、店員の口を左手で塞いだまま、噴出孔を鼻腔に押し付けて中身を繰り返し噴射する。やがて店員の動きがとまってぐったりする。

 そのままひきずってバックヤードに連れ込み、店員が首から下げているIDカードで店内のコンソールにログインして、臨時休店の処理を行う。店内の照明が消えてシャッターが降りる音が聞こえてきた。

 いつもかけているスマートグラスでブラックウェブにアクセスして脳波操作モードをONにする。いつもなら感じるチップが埋め込めれているこめかみのあたりの痛みが、いまはアドレナリンが出ているせいか、あまり感じられない。

 俺は以前から、文化作品保存の使命と自分に言い聞かせて、ビデオテープにダビングしていた80年代のアダルトビデオをデジタルに変換してはブラックウェブに上げていて、その数はほんの数百本だけだったのだが、ちりも積もればヤマト発進で、その対価としてブラックウェブから得られるポイントはかなり溜まっていた。

 このポイントを使うのは今しかない。

 脳波操作モードのレベルをマキシマムに設定してブラックウェブに全ポイントを投入、状況を「説明」すると、こんな不測の事態にも馴れているのか、ブラックウェブから矢のようにリプライが飛んでくる。その情報を元に店内の監視カメラを切り、過去24時間の映像を強制消去。同時にブラックウェブのクルーがコンビニの地域管轄本部にハッキングをかけて通報を遅らせる処理に入ってくれる。

 本部サーバーにある従業員データから女性店員の素性が判明した。

 小林弥生。21歳。大学生。

 興奮している俺が、自分で認識できない尋常でない速度で半ば無意識に依頼しているのか、小林弥生のウォールを破る闇アプリ・闇コードがブラックウェブからガンガン飛んできて、それを誰かが矢継ぎ早に解凍・展開・実行され、スマートグラスのディスプレイは無数のウィンドウが百花繚乱。

 数分で小林弥生の個人情報は丸裸にされた。
 幸いな事に最上級の性犯罪防止プログラムには加入していない事が判明したので、小林弥生が使用している全てのデバイスに侵入してライフログ機能を強制的に一時停止する。これでしばらくの間、俺が何をしても、ログとしての証拠は残らない。

 俺の意志なのか、俺が接続しているブラックウェブの無数のクルーの意志なのか、ライブ配信アプリを起動する。これから俺がスマートグラスのカメラで捉える映像はブラックウェブにライブ配信される。クルーはメタデータを消去して、場所が特定される部分はマスクした上で表世界のネットに流す事になるだろう。もちろん小林弥生の顔や体はマスクしない。これで小林弥生の人生は終了、という事になるだろうが、俺の知ったこっちゃない。

 クスリが効いて朦朧としている弥生をストッカーとデスクのすきま部分の壁にもたれかかるように座らせて、ブラックウェブから送られてきたSEXKIVECAMというカメラアプリをテストする。照明や色彩を自動調整して女性の顔や肌が一番魅力的に撮影できるアプリのようだ。試しにON/OFFを繰り返すと、俺が普段使っているカメラでは、明度不足なのか、弥生の表情は若干不明瞭だが、このアプリをONにすると、明るすぎす暗すぎす、絶妙に自然な感じで確かに魅力的に見える。

 スリープドラッグの効果は切れてくるかもしれないので、こんな不測の事態に備えて持ち歩いていたセックスドラッグを口に含んで舌の上で転がして溶かし、弥生の口の横を指で押して口を開けさせて舌をさしこみ、唾液と一緒に流し込む。数秒後には、ドラッグが効いてきたようで弥生が微妙に舌を動かし始めた。

 初めて使うふたつのドラッグはうまく機能しているようだ。

 完全に寝ている状態でやっても味気ないが、覚醒すると騒がれる。
 半睡半覚の朦朧とした状態でセックスドラッグが効いている理想的な状態の弥生の、やわらかい舌と唇の感触を味わううちに俺の覚悟は決まってきた。

 スマートグラスのカメラを視線追尾モードから、周囲の動きを判別してカメラが追う自動追尾モード併用に変えて、弥生の赤いチェックのブラウスのボタンを上から外していく。スマートグラスの視界の片隅のウィンドウはふたつに増えて、一方のウィンドウには間近の弥生の顔、もう一方のウインドウは俺の右手の動きを追尾して弥生の胸元をを写している。

 そこにもうひとつウィンドウが開き、俺と弥生を天井から捉えた映像が写っている。ブラックウェブのクルーが天井の監視カメラをハッキングしてくれたようだ。

 ボタンを4つ外して胸元を開くと、淡いブルーのブラが見えてくる。ブラの上辺を押し下げると、細めの身体にしては意外に大きめなバストとやや大きめなで色が薄めの乳輪と乳首が露出する。ライブアプリは光量調整・色補正その他の調整を瞬時に行って、絶妙に魅力的に見える映像をメイクする。

 スマートグラスの半透明レイヤーのブラウザに、様々な投げ銭のたぐいのアイコンが登場して、俺がゆっくりと指先で乳首を弄び、乳首がその硬度を増す度に、その各種アイコンの動きは台風の日の落ち葉のように舞い踊る。ライブアプリは、俺の指示を待つまでもなく、乳首をズームアップで捉えるショットを作り、更に別のウィンドウが開く。俺はもう片方のブラも押し下げて、右の乳首も全世界に晒した。

 体勢を少し変えて両方の乳首を同時にいたぶり、舌先でゆっくりとねぶる。
 目を閉じて脱力したままの弥生が漏らす「あっ……んっ……んむん」という、声にならないような声は、高性能マイクとアプリの補正効果で、ハイパーバイノーラルなオールサラウンドのサウンドで世界中に届いている筈だ。

 気が付くと、ここ数年ですっかり引退気味だった筈の俺のペニスはギン勃ちしている。

 俺は、立ち上がってジッパーをおろしてペニスをを取り出して、弥生の口元に先端を押し付けてみた。よほどセックスドラッグが効いているのか、弥生は嫌がるそぶりも見せず、俺のペニスの先端を舌先でゆっくりチロチロと舐めてくる……次の瞬間、今ままでに感じた事のない、とてつもない絶頂感が、その先端から背中を走って脳天から宇宙へ迸り、俺の視界は真っ白になった……。
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