小説とセックスにまつわる衝動

亜蘭圭

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8 美咲と弓枝

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「で、ソレで何人くらいの人とヤっちゃったの?」
 三杯目のハイボールを片手に弓枝は茜のスマホを指差して言った。
 その場に男性がいない時の弓枝は下ネタの言葉選びが明快だ。
 ここは昔のカフェバー風の古いバーの片隅のテーブル。無駄に広い店内はガラガラで、他の客はかなり離れたカウンターにひとりだけ。

「いちいち数えてないけど、この四~五年でこれくらいかな?」
 美咲はVサインで左手を挙げた。
「二十?……二百!?」
 美咲はかすかにうなずいた。
 弓枝は大袈裟に驚いた風の表情で「さすがに、ちょっと、多くない?」と言った。
「 でも、週に一人くらいだよ」
「はー、すごいね、これ」

 弓枝は出会い系アプリ・TONDERが表示されている茜のスマホを手に取り、
「そんなに、毎回、ほいほい、マッチングするモンなの? いい男と?」
「私は、顔は、殆どどうでもいいのよ。あまりに生理的にムリそうなの以外はだいたいオッケー。どうせ会ってみないとわかんないしねー」
「実際会って断る事もあったりするの?」
「全然あるよ」
「気まずくなんない?」
「なるわけないじゃん。二度と会わないんだから」
「あ、そっか」
「最近は、声とか雰囲気とかで、最初の数分で判っちゃうんだよね。コイツとは、あわないなって」
「そーゆー時はどうするわけ?」
「最初の頃は、なんか悪いかな、って思って、ギリセしてたんだけど……」
「ギリセ?」
「義理でセックス」
「義理もないのに?」
「そうなんだけど、なんか、断れなくて……でも、やっぱ、会って話してみて、なんかダメそうなのはやっぱりとことん全然ダメ」
「気持ちよくならない?」
「それ以前。マジで肌があわないって感じ」
「相性ってあるっていうもんねー」
「だから、最近は、はっきり、『あ、ごめん。本命とマッチングしたんで今日は失礼しまーす。また今度ね』って、さっさと店から出て、秒でブロックよ」

 弓枝はTONDERの男性の顔写真を茜に見せて「じゃあ、例えば、コレは?」と訊いた。 
「アリ」
「マジで? 結構ハゲてんじゃん……コレはさすがにパスでしょ?」
「いや全然アリ」
「ウソ。相当ジジイだよ」
「あえてそういう写真選んでる人は、意外と逆に正直者だったりするのよ」
「ホントー?」
「奇跡の一枚載っけてる奴はほぼ100%ナルちゃんだから」
「えー、でも、やっぱ、顔がいい方がよくなくない?」
「つきあうなら、多少はね。ヤるだけなら正直で誠実な方が断然いい」
「いろんな事を、誠実に、してくれる?」
「ハゲちらかしてるジジイはしてくれるよー ナルちゃんはほぼダメ」
「ナルちゃんはナメないちゃん?」
「ナルちゃんはナメないちゃん。そのくせフェラは普通に要求してきて、結構な確率で勃たないんだよ、これがまた」
「勃たないのはダメだね~ 勃たないくせに出会い系とかするなって?」
「全くだよ。勃たせるものを勃たせてから来てよって感じだよ……なんか私の話ばっかだけど、弓枝もなんだかんだ、あるんでしょ?」

「私はこーゆーのなんか苦手なんだよねー」
「会社関係はいろいろ面倒そうだから避けてる、って、言ってたよね。大学の……裕二だっけ?  は、さすがにとっくに別れたんだっけ?」
「んー、完全に、ではないんだけど、まあ、殆ど、別れてるようなもんかな」
「なんか、微妙な言い方」
「一昨年かな、一応、別れて、今は向こうには彼女いるんだけど」
「だけど?」
「だけど、たまに会う、みたいな」
「会うったって、会ってお茶飲むだけじゃないでしょ。二十代後半のオトナのふたりが?」
「まあね」
「いまはたまの裕二だけ……って、事はないよね。こーゆーのはやらなくても?」と、美咲はTONDERが表示されていたスマホの電源を切った。

「ほら、私って、子供の頃から習い事好きじゃない?」
「そうだったっけ?」
「社会人になっても、なんだかんだやってるんだ」
「いまも何かやってんの?」
「今は何回目かの料理、ちょっと前はワインとか」
「花嫁修業的な?」
「とは限らない。去年はボルダリングなんかやってたし」
「そういうアクティブなのもやるんだ。そう言えば、弓枝、ずっと体育会系だったもんね」
「で、何やっても、たいてい三ヵ月くらいでやめちゃう」
「三ヵ月もやれば、だいたい極められる……って話、ではなくって」
「三ヵ月もあれば、たいていひとりは見つけちゃうって話」
「なるほどねー。いまは料理だっけ? いいの、いた?」
「うーん、一応何度か会ってみたのはいるんだけど、さっきの話じゃないけど、どっちかって言うとナルちゃん系なんだよねー。料理ができる男はモテるっていうステイタスだけを求めてるっぽい」

「って事はクンニ下手?」美咲はいつのまにか酒が進んで言葉を選ばなくなってきていて、「いや、さっきの話の通りだよ。そもそもあんまりクンニしてくんない」と、弓枝も平然と返す。
「ダメだね。そんな男は」
「だから、その前のワイン男、こっちは中年ちょいワル系で、ルックスはいまいちなんだけど、丁寧な仕事をしてくれるから、一応キープしてるんだ」
「ほら、やっぱりルックス弱めの方がいいでしょー」
「たしかに、ヤリモクだけだったら、そうなのかもねー。実は、今日も、この後、会う予定なんだけど」
「どっち? 舐めないナルちゃん? ちょい悪ワイン?」
「ちょい悪ワイン。ねー、この後、決まってないなら、一緒に会わない?」
「会うって事は会うだけじゃないよね?  むこうはオッケーなの?」
「全然オッケーでしょー。だって美咲と弓枝だよ?」
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