茨姫は悪魔と呼ばれる俺に依存する

大井 芽茜

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生きる意味

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「ね、今からイルカのショーするって。行こユイト!」
「なにそれ。まてって」
 相変わらず彼女の力は強く俺は抵抗できずにひきづられていた。椅子に座ると、彼女は俺を抱きついていた。

「絶対に離れないでね」
「なにをいまさら。お前が俺を必要としない限り俺はずっといるだろ。」
「うん。」
 イルカのショーというものが始まると、イルカと呼ばれるものが人間が作った火のわっかを越えたり、氷を手で砕いたりと魔法と合わせた一芸をまるで人間のようにしている。

「すごかったね」
「あぁ、これがイルカというものか。」
「練習いっぱいしているんだよ。人間の言うとおりにするのも大変そうだけどね」
 彼女はそう言うと、芸が終わり満足そうに泳いでいるイルカを見つめていた。

「私もあの子みたいに愛されたかったな。本当にこの世界が嫌いだよ。あのイルカみたいに愛されたかった。……可愛いって言ってもらいたかった」

 そう言うと、彼女は俺の顔をジッと見つめてきた。
 悲しいのか圧をかけているのか。
 だが、俺はなんとなくコミュニケーションを理解してきた。~してもらいたかった。を叶えるのが俺。つまり、「可愛い」と褒めればいいのかもしれない。

「可愛いよ。この世界のことは知らないが、お前がそこまで苦しんでいる世界は良くないんだろうな」
「……っ」
 顔は見えないが、この数日でこの感じは笑っているんだろうなという感覚が分かった。

「ねぇ、ユイト」
「なに?」
 そういうと、彼女は改まった表情になった。

「生に、生きる人それぞれに意味……役割はあると思う?」
「なんだそれ」
 意味ねぇ。こうやって人に迷惑しかかけないし、生まれながらに殺されるべきが俺だ。

「分からない。でも、殺されるべき俺がここまで生きているのは何かしら意味があるのかな。ま、なんとなく生きていれば何かあるかもな」
「じゃあ長生きしないとね。見つかるまで」
「だな。」
 俺たちはイルカのショーを見終わり全部を回った。あとはギフトショップとかいう関連アイテムがある場所だ。

「じゃあ、記念になにか買おっかな。気に入った生き物はいる?」
「イルカかな。可愛かった。」
 そういうと、急に俺の腕をつかんで店の中に入った。どうやら怒らせてしまったらしい。前言撤回。コミュニケーションはよくわからない。


「いい?可愛いって私だけに言って。」
 そういうと、彼女はイルカを抱きしめながら不貞腐れていた。
「……すまない。」
「もういいよ。じゃあこれ買って帰ろうか」
 こうして、彼女とイルカの作り物をもって店を出た。

「これ魔力が入るらしいんだ。すごいね、今の技術は」
「魔力をいれてどうするんだ」
「喋らしたたり、洗脳魔術いれたり?」
「もっとマシな使い方してあげろよ」
 可哀そうだな。もっと大事に扱ってあげたらいいのに。
 作り物なのに、こんなにも情が沸いてしまうとはな。

「じゃあ、二人の思い出に記憶を入れとく」
「それでいいんじゃないか」
 ほんの少しだが、彼女は最初に会った時より元気になったような気がする。俺はただ言われた通りにしているが、彼女が満足そうだし役に立っているらしい。

「世界はこんなにも広いんだな」
「もっと広いよ。沢山色んなところ行ってるから、沢山教えてあげる」
 この生活も思ったより悪くない。あんなに死にたかったのにな。少し世界が広がっただけでも気分は、感情はこんなにも変わるのか。

「次はどこ行く?」
「任せるよ」
「じゃあ、魔書館はどう?私のお気に入りなんだ。明日行こうね!」
 そういいながら、また焼け果てた村を歩いていく。親にはまだどんな感情を持てばいいかわからない。それでも、ここまで生きていけたのはあの人達のおかげなんだ。

 この生活が終わるまで自分の意味を探し続ければいいか。そう、この生活が終わるまで。



「――!!」
 急にエスティアは何かを察したように家に入らずに俺を引っ張り後ろに下がった。

「どうしたんだよ」
「静かにしてて。」
 息を殺そうとしたが、既に上から数十人の人が俺たちを囲い込んだ。

「……やはり貴方でしたか。」
 長く葵い髪を持ち、帽子を深く被った女は薄ら笑いをした。茜色の目が俺に向いた。この目……どこかで見たような。

「死ね」
 それに反応するように、エスティアは茨を心臓を目掛けて伸ばすが、突き刺せずに球体上の何かに守られているようだった。

「……おい」
「彼女が水の魔女。ヴィン・トリア」
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