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前編
第22話 甘い唇
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エリトが目を覚ますと、朝の薄い光が差し込んでいた。冬が近づいて来ているのか、鼻先がつんと冷える。
最近はこの寒さで何度も夜中に目を覚ましていたのが、昨晩はぐっすりと眠れたようだ。眠気眼をごしごしと擦り、エリトは自分の身体に巻き付いている毛布を見た。
(クリオが持ってきた毛布……めちゃくちゃ暖かかったな……)
昨晩クラーリオが渡してきた毛布は、今までエリトが見たことがないほどぶ厚い。流石にこれは使えないと、エリトは毛布を突き返した。しかしクラーリオは、自分は暑がりだから使ってほしいと、その毛布をエリトへと巻きつけたのだ。
エリトは頭を掻き回しながら、クラーリオが寝ているはずの窓際を見遣った。そこに彼の姿はなく、粗末なエリトの毛布だけが固まっていた。
「クリオ?」
そう呟きながら部屋を見渡すと、玄関からクラーリオが顔を出した。
「エリト、起きた? ちょうど良かった」
「? どこ行ってたの?」
「玄関先」
クラーリオの右手にはカップが握られており、湯気が立っている。クラーリオはエリトの前で膝を折ると、持っていたカップを差し出した。
「エリト、甘いものは平気? ココアをいれたよ」
「……俺に? どうして?」
「どうしてって、エリトに飲んでほしいから」
クラーリオはそう言うものの、エリトの寝起きの頭はよく働かなかった。どうしてこんなに良くしてくれるのか、理解が追い付かない。
頭を捻ったままカップに口を付け、エリトは息を呑んだ。
「!! なんだこれ! うっまぁぁい!」
「……はは、気に入った?」
「入った! すげぇ甘い! ミルクが入ってるのか?」
「入ってる」
夢中で飲んでいると、クラーリオがエリトの髪を撫でた。
優しい手つきに、エリトはついうっとりと頬を緩ませてしまう。
「エリト、今日は早めに出るよ。朝食は用意しているから、食べて」
「え? もう? わざわざ外で作んなくても、家の中で作ればいいだろ? 寒いのに……」
「駄目だよ。エリトを起こしたくない」
エリトの髪を撫でるクラーリオの手は、すっかり冷たくなっている。エリトはその手に自身の手を重ね、頬を擦り寄せた。
「こんなに冷たくなってる。馬鹿だな、俺のことなんて気にしなくていいのに……」
「エリト……食べたい」
「? 食べたい? 何を……」
言葉半ばで、クラーリオの顔が突如として近づいた。エリトが身構える間もないまま、唇を塞がれる。
いつも隠れているクラーリオの瞳が見え、エリトはその美しさに魅入られた。
ちゅ、と小さな音を立てて唇が離れ、エリトははっと意識を引き戻す。
「な、なななな、何してんだクリオ!! この馬鹿! いったいどういうつもりだよ!」
「……美味そうな唇をしている、エリトが悪い」
少しも悪びれずに言うクラーリオは、先ほどまで重ねっていた唇をぺろりと舐める。そして「甘い」と言いながら立ち上がり、自身の上着を手に取った。
「エリト、今日の昼飯は一緒にとれないかもしれない。ちゃんと食べるんだよ?」
「え? そうなのか……」
少し寂しそうに眉を落とすエリトを見て、クラーリオは思わずまたしゃがみこんだ。エリトが巻き付いていた毛布を引き上げて、その身を包み込むようにして抱きしめる。
エリトからふわりと香るのは、クラーリオが渡した石鹸の香りだ。
彼が身に着けている服も、巻き付いている毛布も、クラーリオが与えた物だ。そう思うとゾクゾクとした感覚がクラーリオの身を這った。
(ああ、このまま離したくない。ずっとこの腕の中に抱いていたい)
「く、クリオ? どうした?」
「……何でもないよ。行ってくるね、エリト」
クラーリオがエリトの髪を撫でると、エリトはこくりと頷いた。そしてまたココアに口をつけて、にっこりと微笑む。
「これ、ありがとうな。また作って?」
「もちろん。行ってきます」
クラーリオが出ていった扉を見つめて、エリトは自身の唇に触れた。まだ感触が残るそこに触れると、心臓がとくりと跳ねる。
(不思議だ、ちっとも嫌じゃなかった。前に街の人間にされた時は、不快感しかなかったのに……)
からかい半分でキスされたことは、数えられないほどある。穢れの子であるからか、それ以上の事をされることは無かったが、不快で屈辱的だった。
手元のカップに残ったココアは、もう残り少ない。使い古されたカップは、ふちも欠けてぼろぼろだ。
(やっぱり、カップが欲しいな。クリオの分も、俺の分も)
新しいカップで飲むココアは、きっと美味しいだろう。クラーリオと2人で、ココアを飲んでみたい。そんな想いが熱く込み上げてくる。
エリトは立ち上がって、汚れたいつもの服に着替える。まだ暖かさの残った寝間着に頬ずりして、エリトも玄関から出た。
最近はこの寒さで何度も夜中に目を覚ましていたのが、昨晩はぐっすりと眠れたようだ。眠気眼をごしごしと擦り、エリトは自分の身体に巻き付いている毛布を見た。
(クリオが持ってきた毛布……めちゃくちゃ暖かかったな……)
昨晩クラーリオが渡してきた毛布は、今までエリトが見たことがないほどぶ厚い。流石にこれは使えないと、エリトは毛布を突き返した。しかしクラーリオは、自分は暑がりだから使ってほしいと、その毛布をエリトへと巻きつけたのだ。
エリトは頭を掻き回しながら、クラーリオが寝ているはずの窓際を見遣った。そこに彼の姿はなく、粗末なエリトの毛布だけが固まっていた。
「クリオ?」
そう呟きながら部屋を見渡すと、玄関からクラーリオが顔を出した。
「エリト、起きた? ちょうど良かった」
「? どこ行ってたの?」
「玄関先」
クラーリオの右手にはカップが握られており、湯気が立っている。クラーリオはエリトの前で膝を折ると、持っていたカップを差し出した。
「エリト、甘いものは平気? ココアをいれたよ」
「……俺に? どうして?」
「どうしてって、エリトに飲んでほしいから」
クラーリオはそう言うものの、エリトの寝起きの頭はよく働かなかった。どうしてこんなに良くしてくれるのか、理解が追い付かない。
頭を捻ったままカップに口を付け、エリトは息を呑んだ。
「!! なんだこれ! うっまぁぁい!」
「……はは、気に入った?」
「入った! すげぇ甘い! ミルクが入ってるのか?」
「入ってる」
夢中で飲んでいると、クラーリオがエリトの髪を撫でた。
優しい手つきに、エリトはついうっとりと頬を緩ませてしまう。
「エリト、今日は早めに出るよ。朝食は用意しているから、食べて」
「え? もう? わざわざ外で作んなくても、家の中で作ればいいだろ? 寒いのに……」
「駄目だよ。エリトを起こしたくない」
エリトの髪を撫でるクラーリオの手は、すっかり冷たくなっている。エリトはその手に自身の手を重ね、頬を擦り寄せた。
「こんなに冷たくなってる。馬鹿だな、俺のことなんて気にしなくていいのに……」
「エリト……食べたい」
「? 食べたい? 何を……」
言葉半ばで、クラーリオの顔が突如として近づいた。エリトが身構える間もないまま、唇を塞がれる。
いつも隠れているクラーリオの瞳が見え、エリトはその美しさに魅入られた。
ちゅ、と小さな音を立てて唇が離れ、エリトははっと意識を引き戻す。
「な、なななな、何してんだクリオ!! この馬鹿! いったいどういうつもりだよ!」
「……美味そうな唇をしている、エリトが悪い」
少しも悪びれずに言うクラーリオは、先ほどまで重ねっていた唇をぺろりと舐める。そして「甘い」と言いながら立ち上がり、自身の上着を手に取った。
「エリト、今日の昼飯は一緒にとれないかもしれない。ちゃんと食べるんだよ?」
「え? そうなのか……」
少し寂しそうに眉を落とすエリトを見て、クラーリオは思わずまたしゃがみこんだ。エリトが巻き付いていた毛布を引き上げて、その身を包み込むようにして抱きしめる。
エリトからふわりと香るのは、クラーリオが渡した石鹸の香りだ。
彼が身に着けている服も、巻き付いている毛布も、クラーリオが与えた物だ。そう思うとゾクゾクとした感覚がクラーリオの身を這った。
(ああ、このまま離したくない。ずっとこの腕の中に抱いていたい)
「く、クリオ? どうした?」
「……何でもないよ。行ってくるね、エリト」
クラーリオがエリトの髪を撫でると、エリトはこくりと頷いた。そしてまたココアに口をつけて、にっこりと微笑む。
「これ、ありがとうな。また作って?」
「もちろん。行ってきます」
クラーリオが出ていった扉を見つめて、エリトは自身の唇に触れた。まだ感触が残るそこに触れると、心臓がとくりと跳ねる。
(不思議だ、ちっとも嫌じゃなかった。前に街の人間にされた時は、不快感しかなかったのに……)
からかい半分でキスされたことは、数えられないほどある。穢れの子であるからか、それ以上の事をされることは無かったが、不快で屈辱的だった。
手元のカップに残ったココアは、もう残り少ない。使い古されたカップは、ふちも欠けてぼろぼろだ。
(やっぱり、カップが欲しいな。クリオの分も、俺の分も)
新しいカップで飲むココアは、きっと美味しいだろう。クラーリオと2人で、ココアを飲んでみたい。そんな想いが熱く込み上げてくる。
エリトは立ち上がって、汚れたいつもの服に着替える。まだ暖かさの残った寝間着に頬ずりして、エリトも玄関から出た。
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