23 / 56
前編
第22話 甘い唇
エリトが目を覚ますと、朝の薄い光が差し込んでいた。冬が近づいて来ているのか、鼻先がつんと冷える。
最近はこの寒さで何度も夜中に目を覚ましていたのが、昨晩はぐっすりと眠れたようだ。眠気眼をごしごしと擦り、エリトは自分の身体に巻き付いている毛布を見た。
(クリオが持ってきた毛布……めちゃくちゃ暖かかったな……)
昨晩クラーリオが渡してきた毛布は、今までエリトが見たことがないほどぶ厚い。流石にこれは使えないと、エリトは毛布を突き返した。しかしクラーリオは、自分は暑がりだから使ってほしいと、その毛布をエリトへと巻きつけたのだ。
エリトは頭を掻き回しながら、クラーリオが寝ているはずの窓際を見遣った。そこに彼の姿はなく、粗末なエリトの毛布だけが固まっていた。
「クリオ?」
そう呟きながら部屋を見渡すと、玄関からクラーリオが顔を出した。
「エリト、起きた? ちょうど良かった」
「? どこ行ってたの?」
「玄関先」
クラーリオの右手にはカップが握られており、湯気が立っている。クラーリオはエリトの前で膝を折ると、持っていたカップを差し出した。
「エリト、甘いものは平気? ココアをいれたよ」
「……俺に? どうして?」
「どうしてって、エリトに飲んでほしいから」
クラーリオはそう言うものの、エリトの寝起きの頭はよく働かなかった。どうしてこんなに良くしてくれるのか、理解が追い付かない。
頭を捻ったままカップに口を付け、エリトは息を呑んだ。
「!! なんだこれ! うっまぁぁい!」
「……はは、気に入った?」
「入った! すげぇ甘い! ミルクが入ってるのか?」
「入ってる」
夢中で飲んでいると、クラーリオがエリトの髪を撫でた。
優しい手つきに、エリトはついうっとりと頬を緩ませてしまう。
「エリト、今日は早めに出るよ。朝食は用意しているから、食べて」
「え? もう? わざわざ外で作んなくても、家の中で作ればいいだろ? 寒いのに……」
「駄目だよ。エリトを起こしたくない」
エリトの髪を撫でるクラーリオの手は、すっかり冷たくなっている。エリトはその手に自身の手を重ね、頬を擦り寄せた。
「こんなに冷たくなってる。馬鹿だな、俺のことなんて気にしなくていいのに……」
「エリト……食べたい」
「? 食べたい? 何を……」
言葉半ばで、クラーリオの顔が突如として近づいた。エリトが身構える間もないまま、唇を塞がれる。
いつも隠れているクラーリオの瞳が見え、エリトはその美しさに魅入られた。
ちゅ、と小さな音を立てて唇が離れ、エリトははっと意識を引き戻す。
「な、なななな、何してんだクリオ!! この馬鹿! いったいどういうつもりだよ!」
「……美味そうな唇をしている、エリトが悪い」
少しも悪びれずに言うクラーリオは、先ほどまで重ねっていた唇をぺろりと舐める。そして「甘い」と言いながら立ち上がり、自身の上着を手に取った。
「エリト、今日の昼飯は一緒にとれないかもしれない。ちゃんと食べるんだよ?」
「え? そうなのか……」
少し寂しそうに眉を落とすエリトを見て、クラーリオは思わずまたしゃがみこんだ。エリトが巻き付いていた毛布を引き上げて、その身を包み込むようにして抱きしめる。
エリトからふわりと香るのは、クラーリオが渡した石鹸の香りだ。
彼が身に着けている服も、巻き付いている毛布も、クラーリオが与えた物だ。そう思うとゾクゾクとした感覚がクラーリオの身を這った。
(ああ、このまま離したくない。ずっとこの腕の中に抱いていたい)
「く、クリオ? どうした?」
「……何でもないよ。行ってくるね、エリト」
クラーリオがエリトの髪を撫でると、エリトはこくりと頷いた。そしてまたココアに口をつけて、にっこりと微笑む。
「これ、ありがとうな。また作って?」
「もちろん。行ってきます」
クラーリオが出ていった扉を見つめて、エリトは自身の唇に触れた。まだ感触が残るそこに触れると、心臓がとくりと跳ねる。
(不思議だ、ちっとも嫌じゃなかった。前に街の人間にされた時は、不快感しかなかったのに……)
からかい半分でキスされたことは、数えられないほどある。穢れの子であるからか、それ以上の事をされることは無かったが、不快で屈辱的だった。
手元のカップに残ったココアは、もう残り少ない。使い古されたカップは、ふちも欠けてぼろぼろだ。
(やっぱり、カップが欲しいな。クリオの分も、俺の分も)
新しいカップで飲むココアは、きっと美味しいだろう。クラーリオと2人で、ココアを飲んでみたい。そんな想いが熱く込み上げてくる。
エリトは立ち上がって、汚れたいつもの服に着替える。まだ暖かさの残った寝間着に頬ずりして、エリトも玄関から出た。
最近はこの寒さで何度も夜中に目を覚ましていたのが、昨晩はぐっすりと眠れたようだ。眠気眼をごしごしと擦り、エリトは自分の身体に巻き付いている毛布を見た。
(クリオが持ってきた毛布……めちゃくちゃ暖かかったな……)
昨晩クラーリオが渡してきた毛布は、今までエリトが見たことがないほどぶ厚い。流石にこれは使えないと、エリトは毛布を突き返した。しかしクラーリオは、自分は暑がりだから使ってほしいと、その毛布をエリトへと巻きつけたのだ。
エリトは頭を掻き回しながら、クラーリオが寝ているはずの窓際を見遣った。そこに彼の姿はなく、粗末なエリトの毛布だけが固まっていた。
「クリオ?」
そう呟きながら部屋を見渡すと、玄関からクラーリオが顔を出した。
「エリト、起きた? ちょうど良かった」
「? どこ行ってたの?」
「玄関先」
クラーリオの右手にはカップが握られており、湯気が立っている。クラーリオはエリトの前で膝を折ると、持っていたカップを差し出した。
「エリト、甘いものは平気? ココアをいれたよ」
「……俺に? どうして?」
「どうしてって、エリトに飲んでほしいから」
クラーリオはそう言うものの、エリトの寝起きの頭はよく働かなかった。どうしてこんなに良くしてくれるのか、理解が追い付かない。
頭を捻ったままカップに口を付け、エリトは息を呑んだ。
「!! なんだこれ! うっまぁぁい!」
「……はは、気に入った?」
「入った! すげぇ甘い! ミルクが入ってるのか?」
「入ってる」
夢中で飲んでいると、クラーリオがエリトの髪を撫でた。
優しい手つきに、エリトはついうっとりと頬を緩ませてしまう。
「エリト、今日は早めに出るよ。朝食は用意しているから、食べて」
「え? もう? わざわざ外で作んなくても、家の中で作ればいいだろ? 寒いのに……」
「駄目だよ。エリトを起こしたくない」
エリトの髪を撫でるクラーリオの手は、すっかり冷たくなっている。エリトはその手に自身の手を重ね、頬を擦り寄せた。
「こんなに冷たくなってる。馬鹿だな、俺のことなんて気にしなくていいのに……」
「エリト……食べたい」
「? 食べたい? 何を……」
言葉半ばで、クラーリオの顔が突如として近づいた。エリトが身構える間もないまま、唇を塞がれる。
いつも隠れているクラーリオの瞳が見え、エリトはその美しさに魅入られた。
ちゅ、と小さな音を立てて唇が離れ、エリトははっと意識を引き戻す。
「な、なななな、何してんだクリオ!! この馬鹿! いったいどういうつもりだよ!」
「……美味そうな唇をしている、エリトが悪い」
少しも悪びれずに言うクラーリオは、先ほどまで重ねっていた唇をぺろりと舐める。そして「甘い」と言いながら立ち上がり、自身の上着を手に取った。
「エリト、今日の昼飯は一緒にとれないかもしれない。ちゃんと食べるんだよ?」
「え? そうなのか……」
少し寂しそうに眉を落とすエリトを見て、クラーリオは思わずまたしゃがみこんだ。エリトが巻き付いていた毛布を引き上げて、その身を包み込むようにして抱きしめる。
エリトからふわりと香るのは、クラーリオが渡した石鹸の香りだ。
彼が身に着けている服も、巻き付いている毛布も、クラーリオが与えた物だ。そう思うとゾクゾクとした感覚がクラーリオの身を這った。
(ああ、このまま離したくない。ずっとこの腕の中に抱いていたい)
「く、クリオ? どうした?」
「……何でもないよ。行ってくるね、エリト」
クラーリオがエリトの髪を撫でると、エリトはこくりと頷いた。そしてまたココアに口をつけて、にっこりと微笑む。
「これ、ありがとうな。また作って?」
「もちろん。行ってきます」
クラーリオが出ていった扉を見つめて、エリトは自身の唇に触れた。まだ感触が残るそこに触れると、心臓がとくりと跳ねる。
(不思議だ、ちっとも嫌じゃなかった。前に街の人間にされた時は、不快感しかなかったのに……)
からかい半分でキスされたことは、数えられないほどある。穢れの子であるからか、それ以上の事をされることは無かったが、不快で屈辱的だった。
手元のカップに残ったココアは、もう残り少ない。使い古されたカップは、ふちも欠けてぼろぼろだ。
(やっぱり、カップが欲しいな。クリオの分も、俺の分も)
新しいカップで飲むココアは、きっと美味しいだろう。クラーリオと2人で、ココアを飲んでみたい。そんな想いが熱く込み上げてくる。
エリトは立ち上がって、汚れたいつもの服に着替える。まだ暖かさの残った寝間着に頬ずりして、エリトも玄関から出た。
あなたにおすすめの小説
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。
夏笆(なつは)
BL
公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。
ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。
そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。
初めての発情期を迎えようかという年齢になった。
これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。
しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。
男性しか存在しない、オメガバースの世界です。
改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。
※蔑視する内容を含みます。
【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。