冷酷非道な魔神様は、捌き屋に全てを捧げる

墨尽(ぼくじん)

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最終章

第52話


 クラーリオが立ち上がり、男を上から見下ろす。
 男のもう片方の膝を破壊しながら、静かに言葉を零した。

「俺が来ると、いつも撤退する。……あのガーランデ軍の事か?」

「……ひっ、ひィイ……!」

 助けを求めるように、男は扉を見遣る。そこから来るはずだった援軍は、いつまで経ってもやってこない。

 男が恐怖に慄いていると、側の床が黒く染まった。そこが沸騰したように沸き立ち、中なら魔族が現れた。
 その姿を見て、男は驚愕のあまり目を見開いた。


「ごめ~ん、クラーリオ。ガーランデの軍、もう潰してきちゃった」

「……カマロ。……このくそ野郎」

「……! こっわ、ごめんってば。これは残しておいたからさ」

 突如現れたカマロは、にやにやと愉しそうに笑っている。そして手を床に翳すと、そこからスガノが這いあがって来た。
 手には偽の母を掴んでおり、スガノはそれを放り投げる。そしてクラーリオ前で膝を折った。

「……宗主。エリトさんを守れず、申し訳ございませんでした」

「スガノ、問題ない。立て」

 スガノに怪我が無いことを確認すると、クラーリオは女に視線を移す。猿轡を噛まされた女の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。

 かつてはエリトの母役だった女だ。エリトが気になり視線を落とすと、彼は瞼を閉じている。


(数百年分の記憶を取り戻したんだ。かなり負担が大きかっただろう……)

 頭痛が和らぐように治癒魔法を流し込んだが、それが良かったようだ。眉を顰めることもなく、エリトは眠っている。

 クラーリオがエリトを見つめていると、カマロが呆れたように嘆息した。

「お前それ……大丈夫そうに見えないぞ。抜かないのか?」

 カマロがクラーリオの胸に刺さっている短剣を指さし、まるで自分が痛みを感じているように顔を歪める。
 クラーリオはカマロに向けて、きっぱりと言い放った。

「これを抜けば、失血して動けなくなる。それにこの短剣は、エリトの大事な商売道具だぞ?」

「……十分失血していると思うけど? 剣が刺さっている限り、自己修復も難しい。早く屋敷に戻って治療を受た方がいいって」

「……こいつらを、あと50は刺し貫かないと気が済まん」

「も~、まったく。……せめて腕の中のそれを、スガノに渡したら? そのかわいこちゃん、屋敷で先に治療を受けさせた方が良いよ。その子に使われた魔法は把握したから、対処の治癒魔法もきっと効く」

 珍しく正論を言うカマロを見て、クラーリオはスガノを見た。クラーリオの胸に刺さっている短剣を見て顔を青くしているスガノは、強張った面持ちで頷く。

 止めても無駄だと思っているのだろう。エリトを受け取ると、スガノは眉根に皺を寄せる。

「……屋敷で……お帰りを待っています。……宗主」

「ああ。エリトを頼んだ」

「死んでもお守りします」

 スガノに抱かれたエリトの髪を撫で、クラーリオは息を吐いた。

「カマロ。穢れの子らを管理している組織は、潰したか?」

「ううん。……潰す?」

 カマロの問いに、クラーリオは口端を吊り上げた。勿論、と言わんばかりの笑みだ。

 眼帯がないと、殺気の籠った笑みの迫力が如何なく発揮される。
 スガノ同様、止めることは出来ないと分かっているカマロは、呆れたように笑みを返した。
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