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最終章
最終話&エピローグ
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「暴戻の魔神は休暇中です」
何百回と繰り返した言葉を放り、スガノは通信魔法を閉じた。そして嘆息すると、執務室に掛けられている地図を見遣る。
地図に書かれたメモを見ると、2人はナークレンにいる頃合いのようだった。
(……もうすぐ帰ってくるな……さて、どうなる事やら)
クラーリオの机に溜まっていく大量の書類を見て、スガノは嘆息する。
クラーリオは今、旅に出ている。もちろんエリトと一緒にだ。
記憶を消されていたエリトの痕跡を辿り、花を手向ける。そう決めたのはクラーリオだ。
2人にとっては、いわゆる婚前旅行と称されるものになるだろう。しかしそれに伴う休暇は、意外にあっさりと受理された。
クラーリオに結婚相手が出来たことを、魔王は泣いて喜んだのだ。
クラーリオ本人が引くほどの喜びようで、国を挙げて婚礼の儀をしようと魔王は意気込んでいる。
そんな魔王を他所に、クラーリオとエリトは結婚式を挙げる気も無いらしい。
カマロが制圧した騎士団と、穢れの子の管理組織は、一晩で崩壊した。その際に失われた命がある以上、しばらく祝い事は避けたいと2人は言う。
要を失って弱ったガーランデは、滅び行く選択肢しか残されてなかった。そのガーランデを、カマロはまるっと制圧したのだ。
『このままじゃ、民が飢えちゃうからねぇ』
そう軽口で言うカマロは、その時だけちゃんとした魔神だった。
しかし、『頻繁に攻め入られる事が無くなった! これで遊んで暮らせる!』とはしゃいでいる姿を、スガノは見てしまった。これでは尊敬する気持ちも消え失せるというものだ。
(……やっぱりこの国の要は……あなたですよ、宗主。ちゃんと帰ってくるんでしょうね?)
このまま帰ってこないのではないかと、スガノは危惧していた。
クラーリオは本来、上に立つのが苦手なようだ。争いごとも嫌う。魔神も辞めたいと何度も零していた。
クラーリオの幸せを考えれば、エリトと2人でひっそりと暮らすのが最良だろう。
ふぅ、と再度嘆息して、スガノは窓の外を見た。
遥か遠くの平原に、馬に乗ってこちらに近付く影がある。馬上にいる2人を見て、スガノは笑顔を溢れさせた。
________
エリトはゆっくりと歩を進める黒鉄の背を、そっと撫でた。
ナークレンを発ってから、クラーリオはゆっくりと帰路を進んでいる。馬酔いをするエリトを気遣って、クラーリオは黒鉄をあまり走らせないのだ。
もうすぐ屋敷というところで、エリトはくすくすと笑いを零した。
「どうした? エリト」
「……いや、あの時さ。俺、クリオが死ぬかと思って……本当に焦ったよ」
クラーリオの寝室で泣き崩れたあの日。単にクラーリオは貧血で寝ていただけだったらしいのだ。命に別状は無かった。
「心臓に剣が刺さった状態で暴れたからな。血が枯渇した」
「……ほんとうにごめんな? その……痛かっただろ?」
クラーリオの胸にはまだ、痛々しい傷痕が残っている。きっと一生消えることは無いだろう。
エリトがクラーリオに寄り添うように身体を預けると、その身体はきつく包み込まれた。
そして呆れたような口調の声が、クラーリオから降りて来る。
「まったく、何度謝れば気が済むんだ? あの件を気に病むことは一切ない」
「……うん……」
抱きしめられる心地が良くて、エリトはクラーリオの胸に頭を擦り寄せた。
その髪に、クラーリオが鼻を埋める。そして彼は眉を下げた。
「エリトの髪、またブロンドの割合が増えたな」
「そう? 頭のてっぺんだけがブロンドなの、変じゃないか?」
エリトの髪に顔を埋めたまま、クラーリオは顔を横に振る。「きれいだ」と小さく呟かれ、エリトはくすぐったそうに身を捩った。
そして少しだけ、その顔に寂しさを滲ませる。
「……そういえば、俺の母さんだった人……何者だったの?」
「どうした……?急に」
「いや、あの人の髪……白に近いアッシュグレーだったろ? 俺、髪色は母さんに似たんだって思ってたから……」
ずっと母だと思っていた女への情を、エリトは完全に捨てきれないようだった。
自分を愛してくれるのは母だけ。刷り込まれた感情はそう簡単に消せはしない。
女はクラーリオが殺した。その事実をエリトには告げていない。今までエリトが尋ねてくることも無かった。
「あの女と仮面の男は、前魔王の甥と姪だ。いつから人間に加担していたのかは、カマロがそのうち解き明かすだろう。……俺に対して怒りを向けていたから、かつての王座争いに関係していたのかもしれん。……エリト、もう忘れろ。あいつらの事ほど、忘れて最良なものは無い」
「……うん……。俺の家族は、とっくに居なかったんだな……」
寂しそうに眉を下げるエリトを見て、クラーリオは短く嘆息した。エリトの柔らかい髪を撫でて、クツクツと笑う。
急に笑いだしたクラーリオを、エリトは不思議そうに見上げた。
「……クリオ?」
「エリト。家族はいない、なんて……あいつらが聞いたら泣いてしまうぞ?」
あいつらって、とエリトが首を傾げると、クラーリオが目線を前に向ける。その目線の先には、クラーリオの屋敷があった。
門前に、屋敷の使用人たちがずらっと並んでいる。エリト達に向かって手を振り、嬉しそうに彼らは声を合わせる。
「エリトさん、宗主、おかえりなさい!」
スガノもゼオも、モートンもいる。ジョリスを始めとした軍人たちまで勢ぞろいだった。
盛大な出迎えに、エリトの胸が熱くなる。目頭までもが熱くなり、エリトは眉根を寄せながらクラーリオを見た。
愛おしい人は、エリトを見て微笑んでいる。
エリトも涙を零しながら微笑んだ。
「……そうだ、ここが俺の家だった」
「……ああ、エリトの家族だ。いっぱいいるぞ?」
すべてを受け入れて、愛してくれる人達がいる。
すべてを捧げるほど、愛してくれる人がいる。
エリトは肺一杯に息を吸い込んで、手を振った。
「ただいま!!」
===おしまい===
◇
ラストまでお読みいただき、感謝申し上げます!
今回もあとがき、失礼します
今回、初めて恋愛を主軸にした物語に挑戦しました
主人公たちが「愛を原動力」に動いている作品です
結果、私には本当に難しかったです
いわゆる〈純な恋愛もの〉は、私の技量では書ききれません
恋愛小説家さんは、ほんとうに凄いですね……(-_-;)
読者様の心を少しでも「きゅん」とさせたいのですが、今回(も?)まったく自信がありません
少しでも楽しんで頂けたら、本当に嬉しいです
前日譚も色々悩みましたが、別作品として分けたままにしておきます
読者様の思うがまま、読んでもらえると嬉しいです
最後にもう一度、本当にありがとうございました!
何百回と繰り返した言葉を放り、スガノは通信魔法を閉じた。そして嘆息すると、執務室に掛けられている地図を見遣る。
地図に書かれたメモを見ると、2人はナークレンにいる頃合いのようだった。
(……もうすぐ帰ってくるな……さて、どうなる事やら)
クラーリオの机に溜まっていく大量の書類を見て、スガノは嘆息する。
クラーリオは今、旅に出ている。もちろんエリトと一緒にだ。
記憶を消されていたエリトの痕跡を辿り、花を手向ける。そう決めたのはクラーリオだ。
2人にとっては、いわゆる婚前旅行と称されるものになるだろう。しかしそれに伴う休暇は、意外にあっさりと受理された。
クラーリオに結婚相手が出来たことを、魔王は泣いて喜んだのだ。
クラーリオ本人が引くほどの喜びようで、国を挙げて婚礼の儀をしようと魔王は意気込んでいる。
そんな魔王を他所に、クラーリオとエリトは結婚式を挙げる気も無いらしい。
カマロが制圧した騎士団と、穢れの子の管理組織は、一晩で崩壊した。その際に失われた命がある以上、しばらく祝い事は避けたいと2人は言う。
要を失って弱ったガーランデは、滅び行く選択肢しか残されてなかった。そのガーランデを、カマロはまるっと制圧したのだ。
『このままじゃ、民が飢えちゃうからねぇ』
そう軽口で言うカマロは、その時だけちゃんとした魔神だった。
しかし、『頻繁に攻め入られる事が無くなった! これで遊んで暮らせる!』とはしゃいでいる姿を、スガノは見てしまった。これでは尊敬する気持ちも消え失せるというものだ。
(……やっぱりこの国の要は……あなたですよ、宗主。ちゃんと帰ってくるんでしょうね?)
このまま帰ってこないのではないかと、スガノは危惧していた。
クラーリオは本来、上に立つのが苦手なようだ。争いごとも嫌う。魔神も辞めたいと何度も零していた。
クラーリオの幸せを考えれば、エリトと2人でひっそりと暮らすのが最良だろう。
ふぅ、と再度嘆息して、スガノは窓の外を見た。
遥か遠くの平原に、馬に乗ってこちらに近付く影がある。馬上にいる2人を見て、スガノは笑顔を溢れさせた。
________
エリトはゆっくりと歩を進める黒鉄の背を、そっと撫でた。
ナークレンを発ってから、クラーリオはゆっくりと帰路を進んでいる。馬酔いをするエリトを気遣って、クラーリオは黒鉄をあまり走らせないのだ。
もうすぐ屋敷というところで、エリトはくすくすと笑いを零した。
「どうした? エリト」
「……いや、あの時さ。俺、クリオが死ぬかと思って……本当に焦ったよ」
クラーリオの寝室で泣き崩れたあの日。単にクラーリオは貧血で寝ていただけだったらしいのだ。命に別状は無かった。
「心臓に剣が刺さった状態で暴れたからな。血が枯渇した」
「……ほんとうにごめんな? その……痛かっただろ?」
クラーリオの胸にはまだ、痛々しい傷痕が残っている。きっと一生消えることは無いだろう。
エリトがクラーリオに寄り添うように身体を預けると、その身体はきつく包み込まれた。
そして呆れたような口調の声が、クラーリオから降りて来る。
「まったく、何度謝れば気が済むんだ? あの件を気に病むことは一切ない」
「……うん……」
抱きしめられる心地が良くて、エリトはクラーリオの胸に頭を擦り寄せた。
その髪に、クラーリオが鼻を埋める。そして彼は眉を下げた。
「エリトの髪、またブロンドの割合が増えたな」
「そう? 頭のてっぺんだけがブロンドなの、変じゃないか?」
エリトの髪に顔を埋めたまま、クラーリオは顔を横に振る。「きれいだ」と小さく呟かれ、エリトはくすぐったそうに身を捩った。
そして少しだけ、その顔に寂しさを滲ませる。
「……そういえば、俺の母さんだった人……何者だったの?」
「どうした……?急に」
「いや、あの人の髪……白に近いアッシュグレーだったろ? 俺、髪色は母さんに似たんだって思ってたから……」
ずっと母だと思っていた女への情を、エリトは完全に捨てきれないようだった。
自分を愛してくれるのは母だけ。刷り込まれた感情はそう簡単に消せはしない。
女はクラーリオが殺した。その事実をエリトには告げていない。今までエリトが尋ねてくることも無かった。
「あの女と仮面の男は、前魔王の甥と姪だ。いつから人間に加担していたのかは、カマロがそのうち解き明かすだろう。……俺に対して怒りを向けていたから、かつての王座争いに関係していたのかもしれん。……エリト、もう忘れろ。あいつらの事ほど、忘れて最良なものは無い」
「……うん……。俺の家族は、とっくに居なかったんだな……」
寂しそうに眉を下げるエリトを見て、クラーリオは短く嘆息した。エリトの柔らかい髪を撫でて、クツクツと笑う。
急に笑いだしたクラーリオを、エリトは不思議そうに見上げた。
「……クリオ?」
「エリト。家族はいない、なんて……あいつらが聞いたら泣いてしまうぞ?」
あいつらって、とエリトが首を傾げると、クラーリオが目線を前に向ける。その目線の先には、クラーリオの屋敷があった。
門前に、屋敷の使用人たちがずらっと並んでいる。エリト達に向かって手を振り、嬉しそうに彼らは声を合わせる。
「エリトさん、宗主、おかえりなさい!」
スガノもゼオも、モートンもいる。ジョリスを始めとした軍人たちまで勢ぞろいだった。
盛大な出迎えに、エリトの胸が熱くなる。目頭までもが熱くなり、エリトは眉根を寄せながらクラーリオを見た。
愛おしい人は、エリトを見て微笑んでいる。
エリトも涙を零しながら微笑んだ。
「……そうだ、ここが俺の家だった」
「……ああ、エリトの家族だ。いっぱいいるぞ?」
すべてを受け入れて、愛してくれる人達がいる。
すべてを捧げるほど、愛してくれる人がいる。
エリトは肺一杯に息を吸い込んで、手を振った。
「ただいま!!」
===おしまい===
◇
ラストまでお読みいただき、感謝申し上げます!
今回もあとがき、失礼します
今回、初めて恋愛を主軸にした物語に挑戦しました
主人公たちが「愛を原動力」に動いている作品です
結果、私には本当に難しかったです
いわゆる〈純な恋愛もの〉は、私の技量では書ききれません
恋愛小説家さんは、ほんとうに凄いですね……(-_-;)
読者様の心を少しでも「きゅん」とさせたいのですが、今回(も?)まったく自信がありません
少しでも楽しんで頂けたら、本当に嬉しいです
前日譚も色々悩みましたが、別作品として分けたままにしておきます
読者様の思うがまま、読んでもらえると嬉しいです
最後にもう一度、本当にありがとうございました!
応援ありがとうございます!
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他の作品から、こちらの作品も読ませていただきました!キュンキュンしましたよ?あっという間に読み終わり、もっと読みたい!素敵な2人、物語をありがとうございます。
あーさん、こちらの作品にもありがとうございます!
きゅんとして頂いて本当に嬉しいです
約1年前の作品ですが、こうして感想を頂いたことで、エリトとクラーリオの事を思い出しました
作品を読んでいただき、本当にありがとうございます
そしてご感想、本当に感謝します!
本当に素晴らしかったです。感動しました✨
キュンも100回くらいしましたよჱ̒˶ー̀֊ー́ )
純愛ですね♡♡♡
ちゃこぴんさん、ご感想ありがとうございます!
いっぱいキュンして頂いて嬉しいです✨
純愛な2人なので、この先も幸せに過ごすと思います!
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
本当に、ほんっっっとうに最高でした!
初めて感想を送るためにアカウント登録しました。自信がない、というあとがきをみてこんな素晴らしいお話を書ける人も悩むことがあるのか…と驚いた次第です。きゅんきゅんしすぎて胸が痛いです。早く読みたい…でも終わってほしくない…という気持ちで葛藤し続けながら一気に読み終わってしましました。どんどんお話を世に生み出してくださると本当に嬉しいです😭こんな素晴らしい作品を読ませていただきますありがとうございました😭
傘さん、ご感想ほんとうにありがとうございます!
わぁああ、一気読みしてくださったんですね!光栄です!
し、しかも感想を書くためにアカウント登録までして頂いて…感激です!
今作は、書きながら泣くぐらい感情移入した作品だったのですが、その反面、かなり自信が無い作品でした。
しかし、少なからず読者さんの心には届いていたようで、本当嬉しく思っています!
傘さんの感想のお陰で、また新たなお話を書く原動力が生まれそうです
繰り返しになってしまいますが、ご感想本当にありがとうございました!