43 / 248
魔導騎士団の専属薬師
第41話 怒涛の一日 やっと夕方 ②
しおりを挟む街中を進むと、馴染みの魚屋が見えてきた。店の前に立つ店主が、光太朗を見て手を上げる。
それに応えるように光太朗も手を上げて、横にいるリーリュイへ視線を移した。
「あそこの魚屋は、奥さんが作るお惣菜が美味しいんだ。いつもお世話になってる」
「そうか。生の魚介類も売っているか?」
「勿論」
リーリュイを促して、光太朗は魚屋の前に立った。屋台の上に並べられた新鮮な魚介類と、その脇に惣菜が並べられている。
光太朗がそれを眺めていると、主人がニコニコしながら近寄ってきた。
「コウ! 数日来ねぇから、うちのが心配してたよ。ちゃんと食べてっか~って、そわそわしてよぉ。まったく、自分の息子のことより、コウが心配なんだとよ」
「昨日寄ろうとしたけど、もう閉まってたんだ。今日も美味そうだな、どれにしようか……」
今日の惣菜は、魚の煮物のようだ。光太朗が手に取って眺めていると、リーリュイがその惣菜を取り上げた。それをまじまじと見た後、光太朗へと視線を投げる。
「普段君は、こういう物を食べているのか?」
「うん。まぁ、よく食べる」
「分かった。私も買い物をしたいから、少し待っててくれないか?」
「ああ、勿論」
光太朗が頷くと、ちょうど奥から魚屋の奥さんが出てきた。
奥さんは魚屋の主人と同じく、大らかで気さくな人柄だ。そんな彼女が、光太朗に向けてちょいちょいと手招きをしている。
主人と話をしているリーリュイを置いて、光太朗は彼女へ近づいた。彼女はリーリュイをちらりと見ると、光太朗へ小声で話しかける。
「コウちゃん……あの人とは知り合い?」
「そうだけど。どうしたの?」
「あの人、多分王族よ。緑色の瞳を持つ人間は、ほとんどが王族なの。彼が顔を隠しているのは何故?」
「……それが、分からないんだ。俺も彼が何者か知らされていないから……」
彼女は小さく頷くと、視線を下げた。そしてさらに小さくなる声に、光太朗は耳を傾ける。
「現国王も前国王も長命で、その血を継ぐ者はたくさんいる。地位もピンからキリまであるし、数も多い。ただ、彼らには本当に気をつけて。機嫌を損ねると、大変なことになる……。コウちゃんも分かってるとは思うけど……」
「ああ、そうだね。商店街の人もリプトも、王族である領主に散々やられてるもんな……」
「魔導騎士団の兵舎が出来たことで、貴族もこの街にたくさん流入すると聞くわ。きっと土地代も高くなる。……コウちゃん、あなたが頑張っているのは、私らには痛いほど分かる。ただフェンデは地位も弱いし……あなたを害する人も増えてくるかもしれない。本当に気を付けて」
光太朗が頷いていると、リーリュイがこちらへ歩み寄ってきた。リーリュイは魚屋の奥さんへと頭を下げ、光太朗の手を取る。
「買い物は終わった。次は八百屋へ行きたい」
「ああ、分かった。シエラさん、また」
魚屋の主人と奥さんのシエラに見送られ、光太朗は店を出た。リーリュイの手元を見ると、手提げ袋には何やらたくさんの物が入っている。
その殆どが生の魚介類なのを見て、光太朗が口を開いた。
「兵舎には、料理をする場所があるのか? 寮母さんみたいな人がいるんじゃないのか?」
「魔導騎士団の兵舎には、料理人が数人いる。騎士たちの訓練内容を参考にしながら、毎食適切な食事が提供されている。居室棟には共同の厨房があるが、簡易なものだ」
「そっか、面白いな。一度行ってみたいもんだ。……リーリュイ、八百屋はあそこだ」
八百屋と魚屋は近い場所にある。光太朗が指を差すと、リーリュイは先に歩を進めて、野菜を品定めし始めた。その目は真剣だ。
(……王族なのに、料理好き? なんか分かんなくなってきたな)
王族といえば、お抱えの料理人がいるのが普通である。おまけにリーリュイは騎士だ。
多忙な彼は、いつ料理に勤しんでいるのだろう。小さな厨房でリーリュイが料理をしている所を想像すると、光太朗の頬が自然と緩む。
163
あなたにおすすめの小説
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる