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側にいるために
第102話 マオとイーオ
しおりを挟む「光太朗、皆に君を紹介したい」
「……こんな大げさにか? もう皆知ってると思うけど……」
壇上から騎士たちを見回すと、思った以上の迫力に仰け反りそうになった。いつもなら光太朗が見上げているはずの騎士たちが、こちらを一斉に見上げている。
口を引き結んでいると、リーリュイが口を開いた。
「知っている者も多いとは思うが、魔導騎士団に入ることとなった光太朗だ」
「へ!? 俺、入団したの!?」
光太朗の驚愕の声をかき消すように、騎士たちの雄叫びが再度響く。
びりびりと肌を震わす迫力に、光太朗は今度こそ仰け反った。リーリュイの手が伸びてきて、そっと腰を支えられる。
「入隊試験の結果を確認した。あれだけの結果を叩き出せる新兵がいれば、各騎士団から誘いの手が伸びるだろう。司令部からの許可も降りたため、光太朗は私の一存で入団させる。外部からの非難は、競技会に光太朗を参加させる事で黙らせる事とする」
「……まじかよ……」
「加えて、光太朗は私の専属薬師となる。周知しておくように」
その言葉を合図に、騎士らが光太朗へ向けて一斉に姿勢を正した。そして腕を後ろへ回し、両手の甲を腰へと押し付ける。「休め」の様なこの姿勢は、騎士の敬礼だ。
攻撃体勢とは真反対の動作をすることで、忠誠心を示す。光太朗もその事は知っていたが、まさか自分に向けられるとは思わず、背筋がぞくりと粟立った。
(ちょ、ちょっと待てよ……。何で俺に敬礼してるんだ?)
敬礼されて、どう返すかなど学んではいない。戸惑う光太朗の代わりに、リーリュイが片手を上げた。
「直れ。……光太朗は私の側近となるが、ここの一員として今まで通り接して欲しい。訓練も手加減しなくていい。……それでいいな? 光太朗」
「そ、それで良い! 今まで通りがいい」
「という事だ。徹底するように」
リーリュイの言葉に、騎士らが敬礼の体勢を解いた。笑顔を浮かべる騎士もおり、いつも通りの様子に、光太朗はほっと息を吐く。
騎士たちとは訓練を通して、かなり親しくなっていた。フェンデを差別しない彼らと過ごすのは、楽しい時間だったのだ。溝が出来るのは避けたい。
騎士らに笑顔を返していると、隣にいたリーリュイが、光太朗を隠すように前へと進み出る。
「それから……お前たちは光太朗の事を、キュウヤやらコウやらと呼んでいるようだか、これからはコウに統一するように」
「……(そこまで指定するのか……)」
リーリュイをちらりと見やると、その顔は厳格な団長顔だ。呼び名の指定をしている顔には見えない。
反して騎士たちは穏やかな顔を浮かべていた。見守るような目線も感じると共に、遠くからウルフェイルの爆笑する声も聞こえてくる。
彼らの不可解な反応に、光太朗が訝し気に顔を顰める。それと同時に声が響いた。
「団長! 王都から薬師が到着しました!」
その声にいち早く反応したのは、ウルフェイルだった。壇上からリーリュイと光太朗が降り切る前に、報告に来た門番へと詰め寄る。
「予定より早いな」
「それが……予定されていた方と違いまして……」
「……まさか……」
ウルフェイルが零すと同時に、闘技場へ2人の男性が姿を現す。彼らを見た瞬間、ウルフェイルが眉根を引き絞った。
瘦身の男性の後ろに、体格の良い男性が付き従うように立っている。
瘦身の男性は、女性と見紛う程に華奢で美しい。金の髪は高めに結われ、腰の辺りまで真っ直ぐに垂れている。肌は褐色だが、身長は光太朗と同じ位だ。
後ろにいた男性は、金の短髪に褐色の肌。しかし体つきは逞しく、この国特有の容姿と言っていい。体格の割に、痩身の男性に隠れるように立っているのが印象的だった。
2人に気付いたリーリュイは、驚いたように眉を上げた。そして2人に歩み寄る。
「マオ公子。……それにイーオ公子も。……どうしてこちらへ?」
「殿下。お久しぶりでございます」
マオと呼ばれた痩身の男は、流れるような所作で腰を折った。後ろにいたイーオも胸に手を当て頭を下げる。
「殿下が教育係として指名していた薬師は、急な案件で不在となりまして……。代わりに私と弟のイーオが派遣されました。これから宜しくお願い致します」
「……初耳だ。王宮から許可は出たのか?」
「ええ、勿論」
「んなわけねぇだろ!」
リーリュイの隣まで進んだウルフェイルが、怒気を孕んだ声を発する。
マオはウルフェイルへ視線を移し、微笑みを浮かべた。ぞっとするほど、美しい笑みだ。
「叔祖父様も、お久しぶりですね。……嘘ではありませんよ。きちんと許可を頂きました」
「馬鹿言え。王宮の薬部長が、こんな所に来れるわけがないだろ」
「薬部には、優秀な部下が多くおります。長など飾りのようなもの……。それに、こちらの任務の方が格段に楽しそうでしたから」
マオはそう言うと、リーリュイの後ろに立つ光太朗へと視線を寄越した。じっと見つめられ、光太朗は息を詰める。
(……見れば見るほど綺麗だな。ウィリアムも綺麗な顔だったけど、あいつは体格が良かったから……。この人はほんと、女の人よりも綺麗かも)
蠱惑的とはこの事なのだろうと、光太朗はマオを見つめ返した。ついつい眉を顰めてしまい、いつの間にか側に来ていたロブに突かれる。
マオは光太朗から視線をずらし、今度はリーリュイを見つめた。
「殿下。私では力不足でしょうか? 念のため弟も連れてきましたが……」
「いや、そうではない。ウルフェイルも言っていた通り、公子は王宮の……」
「マオ。とお呼びください、殿下。昔のように」
マオが眉を下げ、小首を傾げる。その仕草は、見た者全てを魅了してしまう程の威力に満ちていた。
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