【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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いざ、競技会!

第155話 過去の夢

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 目の前に自分が立っている。だからこれは夢だ。
 光太朗は緩く瞬きを繰り返しながら、そう思った。

 目の前の自分はダボダボのパーカーを着て、裸足のままだ。前世はこんな恰好ばかりをしていたように思う。前髪を鼻筋まで伸ばして、表情は無い。

 振り返ると、顔が真っ黒に塗りつぶされた女性が立っていた。彼女を知っているはずなのに、顔は思い出せない。

『コウ……あの人が逝ってしまった。なのにあなたは、顔色一つ変えないのね……』

 顔は真っ黒で見えないのに、その悲痛な声だけで、女性が哀しんでいるのが分かった。
 光太朗は自分を見たが、その表情は変わらない。

 女性が嗚咽を漏らし始めた。

『……そうよね。あなたをそんな風にさせてしまったのは、私たち。……勝手なことは分かってる。だけど……』

 泣きじゃくる女性を、自分はただ見下ろしている。


(そうだ……は、声を掛けることも出来なかった。だって俺は、俺自身を壊してた。壊さないと、やっていけなかった。だから……彼女に何て言っていいか、わからなかった)

 女性が泣きながら蹲り、お腹を大事そうに抱える。その仕草を見て、怖気が走った。
 彼女を見下ろす自分に。そしてその後起こるであろう出来事にも、吐き気が込み上げてくる。

 光太朗は咄嗟に口を覆う。すると、まるで今までそこにいたように、目の前に女性が現れた。
 彼女は光太朗の左腕を掴んで、懇願するような目を向ける。


____駄目よ、コウ。

 

「……ロ……! コタロ!!」

 目を見開いた瞬間、全身から汗が吹き出した。動悸のせいで呼吸が荒れて、苦しさに胸元を鷲掴む。

 真っ暗だった目の前が、次第に明るくなっていく。そこには見慣れない、年若い青年がいた。

 褐色の肌に、紺色の長い髪。癖の無いまっすぐの髪が、帳のように落ちている。
 見慣れない男なのに警戒心が湧かない。光太朗は直感的に、その青年が誰かを認識した。

「……アゲハ?」
「大丈夫か? コタロ」
「……えっと、うん……。んん?」

 夢見の悪さも、アゲハのお陰で吹っ飛んでしまった。

 寝ている光太朗を見下ろしているアゲハは、鳥肌が立つ程の美男子だった。
 通った鼻筋に、宝石のような青い瞳。それを縁取る睫毛は、くるりと上向きに伸びている。
 完璧に整い過ぎて、造り物と疑うほどだ。

「あ、アゲハ……随分大きくなったな。そして何故、ここにいる?」

 光太朗は周りを見渡し、ここがリーリュイの屋敷であることを確認した。アゲハはこの屋敷の場所を知らないはずだ。しかもここは、闘技場からはかなり距離がある場所だった。

 何度引き剥がされても光太朗の元に戻ってくるアゲハだが、ここまで行動範囲が広いとは思わなかった。
 アゲハは光太朗を見下ろして、にっこりと笑う。

「俺はコタロがいる場所が、直ぐに分かる。……身体が大きくなったのは、我の故郷が近いからかもしれん。しかしまだ元には戻っていない。これではまだ青臭い子供だ」
「アゲハの故郷、王都から近いのか?」
「ザキュリオの北側に、大きな森がある。あれを抜ければ、我の故郷のルテラだ」

 光太朗は爺に見せてもらった地図を思い描く。
 ザキュリオの北西から南まで縦長に伸びる国が、リガレイア国だ。南に王都があり、北に王宮がある、変わった国らしい。

「じゃあアゲハの故郷は、リガレイア国なのか?」
「……あれの北端にある谷が、ルテラだ。……それよりも、大丈夫か?」
「……? 大丈夫って?」
「うなされていた上、体温も高い」

 ごつりと豪快に額と額を合わせられ、光太朗は反射的に目を閉じた。額から伝わってくるアゲハの体温は、ひんやりと冷たい。
 閉じていた目を開くと、アゲハの青い双眸は、真っ直ぐに光太朗を捉えていた。

「コタロ、ルテラに来い。あそこは異世界人を蔑んだりしない。リガレイアの王は、いけ好かん男だが異世界人だ」
「リガレイア王を知っているのか?」
「好かんがな。……リガレイアの方が、コタロの身体の事も管理しやすい。その症状は治らないぞ」
「この……症状?」

 光太朗は首を傾げた。
 体温が高いとは言われたが、微熱程度だと思う。最近は夢見が悪く、目が覚めると今のような状態になってしまうのだ。しかし直ぐに治まるし、日常生活も訓練さえも問題なく出来ていた。
 
「病気なのか? これ。いや、症状というほど辛いもんじゃないしなぁ」
「今は良いかもしれないが……」

 アゲハが顔を曇らせたところで、光太朗はある事に気付いた。窓の外がもう明るいのだ。
 一晩明けたとしたら、今日は魔法技会があるはずである。

「やっば、今何時!?」

 言いながら寝台を降りて、少々痛む内腿に顔を歪める。しかし歩けない程ではない。
 目を細めながら扉を探していると、身体がふわりと浮く。

 アゲハは光太朗を小脇に抱え、悠然と歩き出した。抱えられている方は、バランスが悪くて落ち着かない。

「っちょ、アゲハ! 持ち方!!」
「……横抱きにすると、あいつが怒るだろう。……あいつは本当に面倒くさい」
「あいつ? ……リュウの事か?」
「そうだ。あいつは好かん。本当に好かん」

 驚いたことに、アゲハは屋敷の中をしっかりと把握していた。
 迷いなく廊下を歩き、いくつも並ぶ扉の中から一際大きな扉を、ノックもなしに押し開ける。
 そこは執務室のようだった。ソファに座っていたのは、リーリュイとウルフェイルだ。

 突然入ってきたアゲハと光太朗に、2人とも目を見開いている。そして、ほぼ同時に声を上げた。

「お前、誰だ!」
「アゲハ! 光太朗を離せ!」
「はぁ!? アゲハぁ!?」

 ウルフェイルが驚愕の顔で、リーリュイを見る。

 リーリュイは眉根から鼻梁まで皺を寄せ、アゲハを睨んでいた。受けるアゲハは挑戦的な笑みを浮かべている。

 光太朗は抱えられながら、苦笑いを零した。一目でアゲハと見抜いたリーリュイは、流石といったところだろうか。

「っはは。……リュウとアゲハって、もしかしたら一番相性が良いんじゃないか?」

 2人からキッと睨まれ、光太朗は肩を竦めて口を噤んだ。
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