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いざ、競技会!
第157話 支配欲は遺伝する
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ウィリアムは薄っすらと微笑んだまま、執務机に乗せられた自身の手を見つめた。ちらりと目線を上げれば、威圧的にこちらを睨みつける女性と目が合う。
きつく結い上げられた髪。歪められた唇には真っ赤な紅が差してある。
久しぶりに会った母は、随分年を取ったように見えた。しかし人を抑えつけたいという支配欲は、変わらず彼女の中にあるようだ。
ウィリアムは心中で溜息をつく。本当に吐き出してしまえば、どれほどすっきりするだろう。
(ほら見ろ、堅物皇子め……。コータローを晒してしまうと、面倒なのが動くんだ。王宮の馬鹿共ならまだ良いが、こいつらが動くのは本当に厄介……)
盛大に溜息を垂れ流し、悪態をつきたい。そこをぐっと堪えていると、ウィリアムの母であるユリアが口を開く。
「どういう事なの、ウィリアム。あのフェンデは何?」
「何、と言われましても……私には分かりませんね。ギフトを貰っていない異世界人ですから、フェンデでしょう」
「フェンデにしては、非凡すぎる。ドレイク侯も驚いておられたわ」
「おや? ドレイク様も観戦されていたので?」
「当たり前でしょう。第4皇子が王座に関心を示したのよ? どれだけの騒ぎか、あなたも分かっているでしょうに」
ユリアが眉を顰めると、顔中に皺が表れる。それは決して、穏やかに年を重ねて出来た皺ではない。
対面する者の神経を張り詰めさせる雰囲気は、いつになっても変わらない。
左上宮側であるドレイク侯爵は、北の国境を守る北軍の長だ。そしてザキュリオにやって来た、3番目のフェブールである。
北軍は、大国であるリガレイアとの国境を守る要だ。競技会に顔を出すほど、第4皇子の動向が気になっているのだろう。
「あの強さでギフトを得ていないなんて、あり得ない。第3騎士団の隊長でさえ、難なく打倒していたのよ?」
「そうですね。私もあれには驚きました」
「数百年続いた王宮を、打倒す日は近いと言うのに、あのフェンデと第4皇子が力をつければ……」
ユリアの言葉を聞き流しながら、ウィリアムはぼんやりと光太朗の事を思った。
剣技会に出ていた光太朗の姿に、皆が釘付けになっていた。ウィリアムでさえ息を呑むほどだったのだ。
顔の半分を覆っていた前髪が無くなり、顔つきも活き活きとしていた。加えて、華奢な身体から繰り出される剣技は、少しの無駄もない素晴らしいものだ。
あんなものを見せられては、誰もが彼を欲してしまうだろう。
(コータロー、本当に綺麗になっていた……。あいつの元で、幸せにやっているんだろうね……。本当に妬けるなぁ、すっごく嫌だ)
リーリュイと共闘する光太朗は、心底楽しそうに見えた。見ているだけで、とことん穢したい欲求に駆られる。
あの綺麗な顔が絶望に歪むところを想像するだけで、興奮で身が震え出しそうだった。
しかし左上宮にも見つかってしまっては、ウィリアムとて動くのが難しくなるだろう。
ユリアに目を遣ると、彼女は真っ赤な爪を噛みしめる。
「あのフェンデ……欲しいわね。うちに取り込めば、確実に戦力になる」
「しかし、もう彼は正式に魔導騎士団です。しかも第4皇子の側近という肩書もあります」
「……競技会で成績を残せなければいい。魔導騎士団に残れなくなるほどの、無様な試合をさせればいいよ。やりようはいくらでもあるわ。あのフェンデを側近に置いた第4皇子が、責任を問われるほどの、何かを起こせばいい」
ぶつぶつと、ユリアは言葉を零しながら思案している。この展開が読めていたウィリアムだったが、予想通り過ぎて苦笑いしか浮かばない。
(さぁ、左上宮も動くぞ。この展開を堅物皇子も読めてたら良いけど……聖人君子には読めない思考だろうなぁ……。嫌だなぁ、コータローは、僕の手で穢したいのに……)
「あのフェンデが王宮側から捨てられたら、うちが拾う。それしかないわ」
「……さすがお母さまですね。私に出来ることがあれば、何なりと」
「あなたは動かなくていいわ。引き続き、王への忠誠を示しておきなさい」
「はい、お母さま」
微笑んで言うと、ユリアは満足げに頷く。彼女は何年経ってもこうして、自分の息子を思い通りに動かせると思っている。
左上宮はどんな手でも使うだろう。いつもなら彼らのやり方に興味はないが、今回ばかりはどうしてか苛立ちが募る。
(コータローを、甘く見るなよ。……あの堅物もね……)
心中で毒づきながら、ウィリアムは虚な笑みを母へと捧げ続けた。
◇◇
魔法技会を迎え、闘技場は大いに湧いていた。
光太朗の目の前には、3本の短剣がある。刀身が赤いものと青いもの、そして通常の鋼色のものだ。それぞれに魔法の属性が宿っている。
キースは光太朗に目をやると、煙草を咥えながら器用に説明する。
「炎と氷は離して持っておけ。魔法攻撃にも、巧く当てれば跳ね返せる。何度も練習したから、大丈夫だよなぁ?」
「了解。そんでシールドを破壊して、攻撃を加えるんだな」
「そうだ。魔法技会は通常、シールドを張りながら行う。シールドの属性を見分けるのは、大得意だろぉ?」
キースがにやりと笑い、光太朗も得意げに笑ってみせる。
シールドに宿した属性を、いかに相手に悟らせないか。
これが魔法技会を勝ち抜く秘訣らしい。シールドを破られなければ、相手に攻撃されることもないからだ。
キースが指先に炎を灯す。それを光太朗はくんくんと嗅いだ。煙草の香りと混じって、静かに爆ぜる炎の匂いがする。
キースの魔法は小さくても、いつも力強い匂いがした。匂いを嗅ぐ光太朗を、キースは口端を吊り上げながら見遣る。
「まさか属性を、匂いで判断する奴が現れるとはなぁ……」
「炎属性は暖炉の匂いがするし、氷は冷蔵庫の匂いがするんだよなぁ」
「れいぞうこかぁ……見てみてぇなぁ」
紫煙を吐き出しながら、キースが言う。光太朗は腕を組んで、余裕そうなキースを見返した。
「班長はすげぇよなぁ。属性関係なしに、打ち負かしちまうんだもん」
「……属性だ何だって、面倒なだけだろぉ?」
「桁違い過ぎなんだって、班長も、リュウも」
「そりゃお前、魔導騎士団だからなぁ。勝たなきゃ、名折れだぁ」
魔法技会には3人が出場する。魔導騎士団からはリーリュイとキース、光太朗が選ばれた。
実はもう、リーリュイとキースはもう試合を終えている。キースは通常通りの怠そうな仕草で、圧倒的な勝利を手にした。炎の属性に炎の魔法を当て、見事に打ち破ったのだ。
リーリュイはというと、言うまでもないがそれ以上だった。
今まで出場した事が無かったリーリュイの戦いを、皆が固唾を飲んで見守っていた。
光太朗も観戦していたが、まさに彼の強さは異次元だったのだ。
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