179 / 248
いざ、競技会!
第176話 新たな影
しおりを挟む(あれは多分、ソワイル花の香りだ。大量に食べると直ぐに酩酊し、身体が痺れ出す。……そうか、人間相手じゃないからソワイルを使ったんだな)
ソワイル花はどこにでもある花で、少し食べただけでは何の害もない。しかし大量に摂取すると毒になるのだ。手軽に取れる花なので毒として重宝しそうなものだが、かなり匂いがきつい。
毒として調合するには大量の花が必要で、そうなると更に香りが強くなる。暗殺には不向きな毒花だ。
魔獣には、ソワイルを好んで食べる種もいる。少量なら薬草がわりになるのかもしれない。
エイバもフキミスウルフも、食べているのを見かけたことがある。魔獣には毒として認識されていないのだ。
「班長。あの子を助けられるかもしれない。このまま放っておいたら、死んでしまう可能性が高い」
「……あいつ、生きてんのかぁ?」
「生きている。まだ体温があった」
アゲハが答え、レレイアの方を振り返った。
子ドラゴンは、今度は白いレレイアの手に抱かれている。もしかすると、白いレレイアが母体なのかもしれない。
キースが身体を起こし、胸元を押さえ込んだ。痛みに顔を顰めているが、レレイアの方を鋭い目線で見据える。
「アゲハぁ、戦えるかぁ?」
「お前よりはな」
「よぉし。……コウ、あの白いのを戦闘不能にさせるぞ。長はひとまず、団長たちに任せちまおう」
「了解」
光太朗は立ち上がると、アゲハの長い髪をまとめ、紐でしばりつけた。雨で重くなっていた髪が軽くなったのか、アゲハは顔を輝かせる。
「コタロ、これは良い」
「だろ? アゲハは笑うと可愛いなぁ。ねぇ班長?」
「……呑気にしてんじゃねぇ。来るぞぉ」
キースが殺気を放つと、白いレレイアが直ぐに反応した。こちらへ身体を向けると翼を大きくはためかせる。
一瞬で間を詰めるレレイアに向かって、アゲハは駆けだした。
繰り出してきた鋭い爪を避け、アゲハはレレイアの背後へと回る。そして翼の付け根にぶら下がり、体重を掛けて捻り上げた。
レレイアが唸り声を上げ、暴れ始める。
「痛いよな? 我も付け根は嫌いだ」
「アゲハぁ! そのまま待ってろ!」
キースは胸を押さえたまま、氷の魔法を放つ。光太朗は地面に手を付いた。キースの魔法がレレイアの足元を凍らせた所で、鎮静剤を包んだ晄露を放つ。
1発、2発と放つごとに、レレイアの動きが緩慢になっていく。
その身体が崩れ落ちるのに時間は掛からなかった。その場に伏せたレレイアに、光太朗は駆け寄る。
白いレレイアはまだ子ドラゴンを抱えたままだ。光太朗は膝をついて、レレイアの顔を覗き込んだ。
「抱っこしたまんまで良いから。……ちょっと治療させてくれな?」
レレイアの瞳から殺気は消えない。しかし身体は動かせないようだ。光太朗は「ごめんな」と謝って、子ドラゴンに近づいた。
(やっぱり、息はある。外傷も大したことないな)
晄露を使って解毒剤を身体へと埋め込み、身体に薬草を塗りつける。
ドラゴンは自己再生能力に長けると聞く。外傷はこれで良くなるだろう。最後に柔らかい布で包んで、白いレレイアの身体へと近付けた。
「もう大丈夫だよ。……父ちゃんにも、大丈夫だと伝えたいけど……。まだかなり怒ってるみたいだな。そりゃそうだよなぁ、自分の子どもだもん……」
光太朗は立ち上がり、リーリュイの方を見た。ウルフェイルと共に、怒り狂う長へと立ち向かっている。
怪我を負わせないように気を使っている分、戦い方が制限されているようだ。早いところ加勢しないと、2人の体力が持たない。
キースを振り返ると、彼も加勢するつもりだったのか、こちらに歩み寄って来るのが見えた。
しかし次の瞬間、その身体が突き飛ばされたように跳ね上がった。
キースは数メートル吹き飛ばされ、崖のほうへと転がって行く。
「キース!!」
先に反応したのはアゲハだった。駆けていくアゲハの後を追いながら、光太朗は周囲を警戒した。
また何かが迫ってくる気配がする。光太朗は走りながら地面に手を付き、晄露の盾を引き出した。
盾に何かがぶち当たったかのような、鋭い衝撃音が響く。周りに飛び散ったのは白い光だ。ドラゴンからの攻撃ではない。放たれたのは魔法だ。
攻撃が来た方向に人影が見える。光太朗はそちらを注視しながら、キースの脇へと滑り込んだ。
アゲハがキースを抱き込んでいる。腹部に当てた手からは、大量の血が流れ出していた。
ひゅっと喉を鳴らしながら、光太朗は膝を折った。キースの顔は真っ青で、アゲハにぐったりと寄りかかっていた。
キースの腹部に当てられたアゲハの手は、少しだけ震えている。光太朗はその手を退けて、傷の状態を確認した。
「……っ急所は外れてる。止血すれば、きっと大丈夫だ。……アゲハ、あっちの方向を警戒してくれ」
「誰だ? 誰が攻撃を?」
「分からない。でもそこにいる」
何者かは分からないが、殺気は消えていない。晄露の盾を出したまま、光太朗はポーチから薬を取り出した。
止血剤を塗りこんで包帯をきつく巻くと、キースからうめき声が漏れる。痛みに反応があった事に、光太朗は胸を撫でおろした。
(班長はもう戦えない。どこか安全な場所に移動しないと……)
周囲を見回すが、それらしい場所はない。後方には崖が迫っている。
人影があった方向を睨み、光太朗はアゲハとキースを庇うように立つ。すると雨で霞んだ向こうから、人影が近付いてきた。
132
あなたにおすすめの小説
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる