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ゼロになる
第203話
しおりを挟む(……多くのフェブールを授かって、王は権力に溺れた。それが世間で言われている王の評価だ。……まさか王が、フェブールに操られているなんて、誰も思わないよね……)
神からの授かりものであるフェブールが国を害すなど、誰も思わない。権力を奪われた左上宮だけが反発を示したが、彼らが敵うはずもなかった。
ディティが王宮にいるだけで、誰しもが思考を侵食されていく。左上宮側のウィリアムも、王宮にいる限りディティには逆らえない。
ザキュリオの王であるランシスは酒を呷り、ウィリアムを見ると口端を吊り上げる。
「……やっと来たか」
「……陛下。……隣に王妃様がおられますが……」
「構わん。服を脱げ」
グラスを床に放り投げ、ランシスは立ち上がった。男らしい眉も、長い睫毛も黄金に輝き、精悍な顔つきは300歳が近づいても精気に満ちている。
ウィリアムは一歩引くと、握りしめてたペンダントを離した。
「……陛下、困ります。僕は本来、抱かれる方では無いんですよ。男娼は空いていなかったので?」
「そう言うな。……今日はアキネがあまり持たなくてな。それに久々にお前を抱きたくなった」
横たわるアキネを見て、ウィリアムは大げさに溜息を零した。この光景を見慣れてしまった自分にも、もう何も思わなくなってしまった。
「久々と申されますが、僕はつい先日、陛下にきついお仕置きを頂いたばかりなのですが……」
「…………その仕置きで、思い出したが……」
ランシスが視線を落とし、自らの手の平を見る。そこに巻いてある包帯を見て、ウィリアムの心臓が不穏に跳ねた。
目線を落としたまま、ランシスが何かを思い出したかのように笑う。
「お前がフェンデと誤認した、あれ。なかなか良いな」
「……いつ、彼をご覧に?」
「こっそり味見をしに行った。……良い男だ。最後まで味わえなかったのが、心残りだ」
言うなり、ランシスはウィリアムの腕を掴み、引きずるように寝台へ移動する。
彼は乱雑にウィリアムを押し倒し、その上へ伸し掛かった。ランシスの金の髪がさらりと垂れると、それがウィリアムの頬に触れる。
ランシスを見上げたウィリアムの耳に、光太朗の声が甦る。
『そういえばキスされたときに、髪が顔に触れた気がする。……髪が長いやつかもな』
ウィリアムが予想した『最悪の相手』は、皮肉にも的中した。
ランシスの手がウィリアムのシャツに伸び、中にあったペンダントを引きずり出す。それを興味なさげに見ながら、ランシスは零した。
「……転移者には、男でも孕める者がいるらしいな。噂の域を出ないが、リガレイア国王もそうであると聞く。……もしもあれがそうであったなら、紛れもなく神の授かりものであろう」
「彼は違います。……陛下もそうお決めになったではありませんか」
「認めれば、あれはリーリュイのものとなろう。……それではつまらん」
「……残念ですが、違うでしょうね。ユムトも違いましたし……」
動揺を悟られないよう、ウィリアムは笑って見せた。しかし胸はじくじくと鈍く痛む。
(……ほんと……どうすれば良かったんだろうね、コータロー。君はやっぱりランパルに留まっていたほうが……)
そう思うと同時に、朗らかに笑う光太朗が浮かぶ。
騎士らやリーリュイの側にいる彼は、本当に幸せそうだった。その隣に並びたかったと、心底思えるほど。
(……そうだ、僕はいつも間違える。大丈夫。きっと、君は…………)
ウィリアムは思考を切り替えて、いつもの役割を果たすべく目を閉じた。
この王宮に光太朗がいる。それだけで、心はいつもより強くなる気がする。
________
大きな木の根元に手の平を当て、光太朗は目を閉じる。
晄露は鉱脈のようなもので繋がっていると、光太朗は思っていた。しかし肆羽宮の地面には、その脈がない。
探しても探しても、見つかるのは腐った晄露ばかり。困り切っていたところ、この木の根元は他と違う事に気が付いた。
肆羽宮の庭の中でも、一際大きな木だ。幹に鼻を近づけると、微かに晄露の良いにおいがする。
(……多分、晄露が正常だった時からある木なんだろうな。晄露を吸って、ここまで育ったのか……)
鼻を啜って、手の平に集中する。呼応する晄露を必死で探していると、背中に柔らかいものが触れた。
肩に掛けられた上着を掴んで、光太朗は振り返る。そこにいたイーオは、光太朗を咎めるように眉根を寄せた。
「やはりここでしたか。庭に出るときは、何か羽織って下さい」
「……ごめん、直ぐに戻るつもりだった」
上着の合わせ目を引き寄せて、光太朗はまた鼻を啜った。
ザキュリオの冬は本当に寒い。もうすぐ春が来るというのに、寒さはまったく緩まない。
光太朗の触れていた木を見上げ、イーオがぽつりと呟く。
「……アキーシャの木ですね。春になれば黄色の花をたくさんつける木です。……しかし肆羽宮にあるこの木は、長く花を付けていないと聞きます」
「この木、花が咲くのか? 随分大きな木だよなぁ」
「剪定しなければ、際限なく伸びる丈夫な樹木です。……それと、コウ様。朝食の準備が整いました」
イーオに視線を向け、光太朗は憂いを含んだ表情を浮かべる。
「……カザンさん、やっぱ具合悪いか?」
「先ほど薬を処方し、今は改善しています」
「今日は一日、休ませてあげてくれ。……肆羽宮の外に出さないように」
「御意」
カザンの体調が悪くなったのは、つい数日前からだ。カザンだけではない。肆羽宮から一歩でも出た者は、必ず顔を青くして帰ってくるのだ。
ディティの晄露が起こす害を知っているからこそ、本能は抵抗しようとする。しかし抵抗すればするほど、身体への負担が大きい。
アゲハを抱いたまま外に出れば影響も少なくなるが、アゲハも最近は眠っている時間が多い。やはりダメージを抱えていたようで、キースに抱かれたまま眠って過ごしている。
(アゲハ、やっぱりずっと無理してたんだろうな……。他の皆も……どうしたらいいのか……)
素直に操られていた方が、身体への負担が少ない。そう気付いてからは、光太朗も色々と悩むことが多くなった。
そして思考の端に引っ掛かる違和感を、いつも考えている。
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