【本編完結】番に忘れられたけど、推しとして支える事にした ~16年越しの巣作りを~

墨尽(ぼくじん)

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 ロジェはそれから二日間、ルキウスの言葉通り呼ばれることは無かった。お陰で仕事が捗り、睡眠時間もいつもより確保できた。
 しかしその次の日には呼びつけられ、ロジェはいつものように執務机で貪られた。地獄の再スタートである。

 そんな日々が続いたある夜。

 いつものようにロジェを組み敷いたルキウスは、一度目の精を放ったあと、大きな溜め息を吐いた。下敷きになっていたロジェの顔に、彼の白い髪がはらりと落ちる。
 ロジェは荒い息を吐きながら、驚きのままルキウスの顔を見上げた。いつもなら二度三度と立て続けに求められるのが当たり前だったからだ。

 ルキウスは緩慢に髪をかき上げると、あっさりとロジェから離れた。そして執務室の端の方へと移動していく。

 ロジェは目を瞬かせながらルキウスの動向を窺う。何度も抱かれてきたが、こうもあっさり終わる事なんてなかったからだ。
 しかし彼が戻って来る気配はなく、ロジェはどこか拍子抜けしながら上体を起こす。そして腹についていた白濁を拭って、乱れた衣服を整えた。

 気だるげに周囲を見渡すと、今日は清掃班を入れるほど汚れていないようだ。慌てて出ていく必要がないのは、正直助かる。
 どこからか、疲れたようなルキウスの声が聞こえてくる。

「落ち着いたら出ていけ。明日は早い」
「……」

 早く終わったとはいえ、身体には重い怠さが残ったままだ。返事の代わりに立ち上がると、ロジェはルキウスの姿を探す。


 執務室の隅には小さなテーブルがあり、ルキウスはそこで酒を呷っていた。テーブルにはいつも酒が常備してあり、朝まで飲む彼を見たことは一度や二度ではない。
 時には酒を飲みながら行為に及ぶ、というのもままあった。
 
「……飲みすぎですよ」
「なんだと?」
「いつも飲んでますよね? 身体に悪い」

 こちらを振り返ったルキウスは、眉根に深い皺を刻んでいた。『不快』という言葉を貼り付けたような表情だ。道具のように使っている部下に諫められ、驚きと怒りも感じているかもしれない。
 しかしルキウスが飲んでいる銘柄はアルコール度数も高い。いくら魔族と言えど、飲み過ぎは良くないだろう。

「……お前は、本当に何なんだ」
「真っ当な事を言っています。酒量が多すぎるのでは?」
「俺を気遣う芝居など、不快になるだけだ」

 吐き捨てて、ルキウスは見せつけるようにグラスへと酒を注ぐ。そして舌打ちをした口へと流し込むようにして酒を飲む。その姿はいつもよりどこか感情的だ。

 ロジェの胸がつんと痛む。その隣で酒を飲めたら、どれだけ良いだろう。
 ルキウスの話に耳を傾けて、その肚に溜まったものを吐き出させたら、少しは酒量も減るのだろうか。

「……閣下……。僕には気を遣わなくて、大丈夫ですよ」
「……なに?」
「殿下に取り入るつもりはないし、あなたに懸想することもない。だからその事を恐れて、牽制する必要はありません。疲れるでしょう?」

 ルキウスの瞳が、少しだけ揺れて見えた。そこには確かに昔の面影がある。
 持っていたグラスを静かに下ろして、ルキウスは吐息と共に声を漏らした。

「……お前は……本当に得体が知れないな……」
「その得体が知れない男のケツに、毎夜突っ込んでる閣下もどうかと思いますけど」
「……チッ……しかも言う事は言う」

 再度落とされた舌打ちは、先ほどとは違って軽いものだった。心なしか表情も緩んでいる。
 ロジェは心底嬉しかった。こうしたくだらない会話のやりとりが、胸躍るほど懐かしい。頬が緩みそうになるのを、必死で、本当に必死に耐える。
 ルキウスはそんなロジェに気付かないまま、視線を足元へと落とす。

「……鬼将軍、鬼畜、冷酷皇子……俺は確かに、それらの名をつけられるほどの男だ。生物として重要な何かが欠落している。情というものが一切湧かない。だから情を向けられても、煩わしさしか感じない」
「……」

 ルキウスが本格的に『冷酷』などと言われ始めたのは、ちょうど10年ほど前。彼がアンリール妃と離縁した時からだ。
 結婚して僅か2年で離縁し、二人の間に出来た娘もアンリールに引き取られた。
 離縁の理由は、主にルキウスにあった。彼が子供ができるなり別居し、母子との関わりを絶ったからだ。

「俺は子供にも情を向けられない。……生まれる前は、子供が出来れば変わると思っていた。……子供には愛を注げるだろうと。しかし俺は、微塵も情を抱けなかった。とんだ欠陥品だ」
「……う~ん、確かに。それはそうかもしれませんね」
「……っふ、やはり言うな。お前は……」

 顔を上げたルキウスは、口元に自嘲的な笑みを湛えていた。ロジェの不敬な言葉に憤慨する様子もない。
 少し疲れたようにも見えるその顔に、ロジェは手を伸ばしたくてたまらなかった。
 ルキウスはこれまで何度、こうして自分を責めてきたのだろう。
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