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「殿下、こちらをご覧ください」
ザザドが手を伸ばし、ルキウスの持っていた資料を捲る。そしてそこに記されていた一文を指で指し示した。
____ 国民剣技大会、特別賞を受賞。半魔でありながら上位入賞を果たす。
「……この大会、殿下は毎年観戦されています。……シンを覚えていらっしゃいますか? ちょうど、13年前です」
「……あの頃……俺は……」
「分かっております。しかし……」
「いや、待て……」
じわり、と当時の情景がルキウスの頭に浮かぶ。
熱気に包まれた闘技場。反して冷めきった自分の心。
そしてルキウスの前に、一人の男が現れる。
『殿下、ご無沙汰しております。アカツキ領のジョルノでございます。この度、うちの家令の子が上位入賞を果たしまして……感謝の意を込めてご挨拶に参りました。……さ、シン。ご挨拶を』
『……殿下……』
アカツキの後ろから、小柄な青年が顔を出した。
ふわりと柔らかそうな金の髪。愛らしい琥珀色の瞳と、控えめな鼻。
ルキウスは彼を一瞥すると、アカツキに視線を移した。
『___ 女のように華奢だな。それに……半魔の身で、良く上位に食い込んだものだ』
『恐れ入ります。……シン、……お褒めの言葉を頂いたよ。……お礼を』
『……っ、こ………光栄です………』
その時の青年の顔を、ルキウスは覚えている。
褒められているというのに、どうしてか彼は打ちひしがれたような表情を浮かべたのだ。
その絶望といってもいい表情が、縋るようにルキウスを見上げる顔が、酷く美しかったのを覚えている。
「____ そうか。あの時の……」
「あの時の殿下が覚えているという事は、やはりアースターさんは特別だったのかもしれませんね」
「……そうだな……」
ルキウスは指の力を抜いて、手元の書類をその場に落とす。
16年前、ある出来事があってから、ルキウスは感情の一部を失った。同時に半年分の記憶もすっぽりと抜け落ちている。
喪失感に苛まれ、それから数年は『ただ生かされていた』という記憶しかない。がらんどうの毎日だった。
そんなルキウスが自我を取り戻し始めたのが、ちょうど13年前だ。
それがシンと会ったことに関連しているかどうかは、今となっては分からない。
ただ、今しがた甦ったばかりのシンの表情が、ルキウスの頭から離れなくなっていた。
何かとてつもない間違いを犯している。そんな気がしてならない。
*****
意識を取り戻したロジェは、自分のいる場所の違和感に気が付いた。
未だにがんがんと鳴り響く頭をどうにか動かし、周りを見渡す。
ロジェがいるのは円形のだだっ広い寝台の上だ。天蓋付きの豪奢なもので、言うまでも無いが自分のものではない。
見上げれば、天蓋のど真ん中に魔王族の紋章が描かれていた。
ここが誰の部屋か当たりをつけた所で、次いで湧き上がったのは焦りである。
(……えっと、多分だけど……ルキウスの部屋だよな?)
ここに来るまでの記憶は、朧げすぎてはっきりとしない。
視察から戻ってきて報告書を作成した所までは覚えている。しかしその時点で発熱していたので、記憶は途切れ途切れだ。
ロジェは回らない思考を掻き回し、自身の身体の状況を把握しようと努めた。冷静に状況を判断しないと、大変な事になりそうだ。
発熱のせいか関節は痛むが、尻に違和感はない。つまり事後、ここにいる訳ではないようだ。
(……俺の事だから、いつものように夜伽代わりを命令されて、馬鹿みたいに『はい』って返事したんだろうな……)
予測だが、ルキウスから今日も夜の相手をするように指示されたのだろう。
熱で朦朧としていたため記憶が無いが、ロジェはルキウスからの頼みは断らないと胸に決めている。
彼の望みでロジェが出来る事ならば、「はい」としか言わないだろう。
どうしてここにいるのかについては不明だが、きっと今から抱かれるに違いない。
しかし如何せん、今日は体調が思わしくない。今の状態で抱かれれば、確実に限界を超えるだろう。
(いや、いつも限界は超えてるけど……今日は何と言うか……生命の危機? って感じか?)
大げさだろうか。と自問自答してみれば、そのまま意識を失いそうになる。
やはり無理そうだと確信するも、これまでも失神した状態で抱かれてきた事を思い出した。
後が怖いが、スタート時点から失神状態でも良いのなら、抱かれても問題ないかもしれない。
しかし……。
「――目が覚めたのか?」
「……か、っか……」
気が付けば、扉の前にルキウスが立っていた。風呂上がりであるのか、白い髪がしっとりと垂れて、銀の房はいつもより濃い線を描いている。
ガウンの合わせ目からは、男らしい鎖骨と盛り上がった胸筋が覗く。
ロジェが万全だったら悩殺されていたが、今は生命の危機だからだろうか。冷静にその姿を見つめることができた。
ザザドが手を伸ばし、ルキウスの持っていた資料を捲る。そしてそこに記されていた一文を指で指し示した。
____ 国民剣技大会、特別賞を受賞。半魔でありながら上位入賞を果たす。
「……この大会、殿下は毎年観戦されています。……シンを覚えていらっしゃいますか? ちょうど、13年前です」
「……あの頃……俺は……」
「分かっております。しかし……」
「いや、待て……」
じわり、と当時の情景がルキウスの頭に浮かぶ。
熱気に包まれた闘技場。反して冷めきった自分の心。
そしてルキウスの前に、一人の男が現れる。
『殿下、ご無沙汰しております。アカツキ領のジョルノでございます。この度、うちの家令の子が上位入賞を果たしまして……感謝の意を込めてご挨拶に参りました。……さ、シン。ご挨拶を』
『……殿下……』
アカツキの後ろから、小柄な青年が顔を出した。
ふわりと柔らかそうな金の髪。愛らしい琥珀色の瞳と、控えめな鼻。
ルキウスは彼を一瞥すると、アカツキに視線を移した。
『___ 女のように華奢だな。それに……半魔の身で、良く上位に食い込んだものだ』
『恐れ入ります。……シン、……お褒めの言葉を頂いたよ。……お礼を』
『……っ、こ………光栄です………』
その時の青年の顔を、ルキウスは覚えている。
褒められているというのに、どうしてか彼は打ちひしがれたような表情を浮かべたのだ。
その絶望といってもいい表情が、縋るようにルキウスを見上げる顔が、酷く美しかったのを覚えている。
「____ そうか。あの時の……」
「あの時の殿下が覚えているという事は、やはりアースターさんは特別だったのかもしれませんね」
「……そうだな……」
ルキウスは指の力を抜いて、手元の書類をその場に落とす。
16年前、ある出来事があってから、ルキウスは感情の一部を失った。同時に半年分の記憶もすっぽりと抜け落ちている。
喪失感に苛まれ、それから数年は『ただ生かされていた』という記憶しかない。がらんどうの毎日だった。
そんなルキウスが自我を取り戻し始めたのが、ちょうど13年前だ。
それがシンと会ったことに関連しているかどうかは、今となっては分からない。
ただ、今しがた甦ったばかりのシンの表情が、ルキウスの頭から離れなくなっていた。
何かとてつもない間違いを犯している。そんな気がしてならない。
*****
意識を取り戻したロジェは、自分のいる場所の違和感に気が付いた。
未だにがんがんと鳴り響く頭をどうにか動かし、周りを見渡す。
ロジェがいるのは円形のだだっ広い寝台の上だ。天蓋付きの豪奢なもので、言うまでも無いが自分のものではない。
見上げれば、天蓋のど真ん中に魔王族の紋章が描かれていた。
ここが誰の部屋か当たりをつけた所で、次いで湧き上がったのは焦りである。
(……えっと、多分だけど……ルキウスの部屋だよな?)
ここに来るまでの記憶は、朧げすぎてはっきりとしない。
視察から戻ってきて報告書を作成した所までは覚えている。しかしその時点で発熱していたので、記憶は途切れ途切れだ。
ロジェは回らない思考を掻き回し、自身の身体の状況を把握しようと努めた。冷静に状況を判断しないと、大変な事になりそうだ。
発熱のせいか関節は痛むが、尻に違和感はない。つまり事後、ここにいる訳ではないようだ。
(……俺の事だから、いつものように夜伽代わりを命令されて、馬鹿みたいに『はい』って返事したんだろうな……)
予測だが、ルキウスから今日も夜の相手をするように指示されたのだろう。
熱で朦朧としていたため記憶が無いが、ロジェはルキウスからの頼みは断らないと胸に決めている。
彼の望みでロジェが出来る事ならば、「はい」としか言わないだろう。
どうしてここにいるのかについては不明だが、きっと今から抱かれるに違いない。
しかし如何せん、今日は体調が思わしくない。今の状態で抱かれれば、確実に限界を超えるだろう。
(いや、いつも限界は超えてるけど……今日は何と言うか……生命の危機? って感じか?)
大げさだろうか。と自問自答してみれば、そのまま意識を失いそうになる。
やはり無理そうだと確信するも、これまでも失神した状態で抱かれてきた事を思い出した。
後が怖いが、スタート時点から失神状態でも良いのなら、抱かれても問題ないかもしれない。
しかし……。
「――目が覚めたのか?」
「……か、っか……」
気が付けば、扉の前にルキウスが立っていた。風呂上がりであるのか、白い髪がしっとりと垂れて、銀の房はいつもより濃い線を描いている。
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