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ルキウスの雰囲気も穏やかで、やはりガイナスとは気が置けない仲なのだろう。
「ルキウス兄さま!」
ガイナスの後方から、女性が駆け寄ってきた。彼女はルキウスの隣に来ると、その腕に巻き付く。
反対側にいたロジェは、咄嗟にルキウスから距離を置いた。
「お久しぶりです、兄さま!」
「……スヴェラ……。晩餐会だぞ、もっと落ち着きなさい」
「だって兄さまと会うの、久しぶりなんですもの」
濡れ羽色の髪を揺らし、スヴェラは拗ねたように口を尖らせた。
瞳の色は紅で、髪とのコントラストが絶妙な美を醸し出している。女性にしては凛とした顔立ちだが、誰もが目を奪われるような強さを持った美しさだ。
(……この人がフェルグス公爵の娘、スヴェラ嬢か……)
いつか貰ったマフラーは、本当はスヴェラのために作られたものだと聞いた。ルキウスにとって彼女は特別な存在なのだろう。
スヴェラには取り巻きがいたようで、ルキウスの周りに魔族の女性たちが集まってきた。
ロジェの周りもあっという間に彼女らのテリトリーとなり、香水の香りがむっと香る。
スヴェラはルキウスの腕をぎゅっと抱き寄せ、その豊満な胸を惜しげもなく押し付けた。
「兄さま、お誕生日プレゼントありがとうございました! 百合のブローチ、毎日つけているわ」
「ああ、似合っている」
いつもの拍子でルキウスが淡々と零すが、スヴェラはそれでも嬉しそうに微笑みを返す。
彼女の年齢は19歳だが、ルキウスの前では少女のように無邪気に見えた。
スヴェラの胸元を見ると、可愛らしいブローチがついている。白や黄色の百合がブーケのようになっているブローチで、赤いドレスにとても映えていた。
「今年は動物モチーフじゃなくて驚いたわ! まさかお花なんて!」
「……お前はもう、動物が好きな年じゃないかと思ってな」
「最近は鳥が好きよ! だけど兄さまに頂けるものなら何でも嬉しいわ……」
スヴェラの様子や口調からは、ルキウスへの並々ならぬ執着が見て取れた。
ロジェの姿は目に入っているはずなのに、ルキウスとの親しさをこれでもかと見せつけているように感じる。
たっぷりのいちゃいちゃアピールの後、スヴェラはやっとロジェへと視線を向けた。
「あら、兄さま。こちらのお方は?」
「俺の秘書官で、アースターという。文官だ」
「へぇ、半魔ですよね? 文官だなんて、随分努力家なんですね」
こちらに向けられた視線に、半魔に対する侮蔑の色はなかった。しかし特大盛りの敵意が感じられる。
ロジェは16年前、ルキウスからスヴェラの話を聞いたことがある。
妹のように可愛がっている事や、当時2歳だったスヴェラから熱烈なプロポーズを受けたことなど、微笑ましい話ばかりだったのを思い出す。
しかしながら、数年が経った今は状況が違う。
スヴェラの想いは恋心から愛へと代わり、ぐつぐつと滾っていったのだ。そしてそれを隠そうともしなかった。
ルキウスが婚約したと聞いた時、スヴェラは怒り狂い、手が付けられないほどだったのだという。
アンリールに婚約を破棄するように迫ったり、王城へ出向いて二人の婚約が如何に不釣り合いなものであるか訴えることもあった。
そして望みが叶わないと知ると自殺未遂まで起こしたようなのだ。
スヴェラは才女と名高く、人を魅了する素質も兼ね備えている。ルキウスとスヴェラが結婚すべきだという意見は、彼女が幼いころから多くあった。
だからこそスヴェラ自身もルキウスの婚約には絶望したのだろう。
「……意外だわ。お兄さま、男性は嗜む程度だと思っていたけど」
「性別で選んだことは一度もない」
「へぇ」
赤い唇を小さく開くと、スヴェラはロジェをじっと見つめる。瞳の奥に含まれる剣呑さに気付いて、ロジェは心の中で苦笑いを浮かべた。
スヴェラだけではなく、周りの女性たちからも棘入りの視線がばんばん飛んでくる。こうした視線で見つめられるのは慣れていないが、ロジェが怯むことはなかった。
ロジェは微笑むと、恭しく頭を垂れる。
「シン・アースターです。第一軍司令部で文官を務めております」
「文官ねぇ……。でもあなた、帯剣してるじゃない」
魔族の流儀なのか、晩餐会と言う華やかな場所でも帯剣が許されている。許されているどころか、剣を佩いていないと礼を欠いていると見なされる事もあるという。
ロジェは剣に下げられている飾り玉を指に絡め、穏やかな口調で言う。
「ええ。帯剣許可証ならあります。閣下もご存じです」
「ああ、こいつは強いぞ」
ルキウスから優しく微笑みかけられ、ロジェはにかりと得意げに笑みを返す。しかしそれが呼び水となって、周囲がざわざわと静かに騒ぎ始めた。
「ルキウス殿下が笑ったぞ」
「……嘘でしょ?」
「あいつ、一体誰だ?」
どうやらルキウスの笑顔は貴重だったらしく、ロジェは笑みを作っていた口の端をぎゅっと結んだ。
確かに少し前まで、ルキウスの笑顔は貴重だった。
最近は頻繁に笑顔を見せてくれるようになったが、それでも大半が唇の片方を少し上げただけのささやかなものだ。
今日のような笑顔は本当に珍しい。
「ルキウス兄さま!」
ガイナスの後方から、女性が駆け寄ってきた。彼女はルキウスの隣に来ると、その腕に巻き付く。
反対側にいたロジェは、咄嗟にルキウスから距離を置いた。
「お久しぶりです、兄さま!」
「……スヴェラ……。晩餐会だぞ、もっと落ち着きなさい」
「だって兄さまと会うの、久しぶりなんですもの」
濡れ羽色の髪を揺らし、スヴェラは拗ねたように口を尖らせた。
瞳の色は紅で、髪とのコントラストが絶妙な美を醸し出している。女性にしては凛とした顔立ちだが、誰もが目を奪われるような強さを持った美しさだ。
(……この人がフェルグス公爵の娘、スヴェラ嬢か……)
いつか貰ったマフラーは、本当はスヴェラのために作られたものだと聞いた。ルキウスにとって彼女は特別な存在なのだろう。
スヴェラには取り巻きがいたようで、ルキウスの周りに魔族の女性たちが集まってきた。
ロジェの周りもあっという間に彼女らのテリトリーとなり、香水の香りがむっと香る。
スヴェラはルキウスの腕をぎゅっと抱き寄せ、その豊満な胸を惜しげもなく押し付けた。
「兄さま、お誕生日プレゼントありがとうございました! 百合のブローチ、毎日つけているわ」
「ああ、似合っている」
いつもの拍子でルキウスが淡々と零すが、スヴェラはそれでも嬉しそうに微笑みを返す。
彼女の年齢は19歳だが、ルキウスの前では少女のように無邪気に見えた。
スヴェラの胸元を見ると、可愛らしいブローチがついている。白や黄色の百合がブーケのようになっているブローチで、赤いドレスにとても映えていた。
「今年は動物モチーフじゃなくて驚いたわ! まさかお花なんて!」
「……お前はもう、動物が好きな年じゃないかと思ってな」
「最近は鳥が好きよ! だけど兄さまに頂けるものなら何でも嬉しいわ……」
スヴェラの様子や口調からは、ルキウスへの並々ならぬ執着が見て取れた。
ロジェの姿は目に入っているはずなのに、ルキウスとの親しさをこれでもかと見せつけているように感じる。
たっぷりのいちゃいちゃアピールの後、スヴェラはやっとロジェへと視線を向けた。
「あら、兄さま。こちらのお方は?」
「俺の秘書官で、アースターという。文官だ」
「へぇ、半魔ですよね? 文官だなんて、随分努力家なんですね」
こちらに向けられた視線に、半魔に対する侮蔑の色はなかった。しかし特大盛りの敵意が感じられる。
ロジェは16年前、ルキウスからスヴェラの話を聞いたことがある。
妹のように可愛がっている事や、当時2歳だったスヴェラから熱烈なプロポーズを受けたことなど、微笑ましい話ばかりだったのを思い出す。
しかしながら、数年が経った今は状況が違う。
スヴェラの想いは恋心から愛へと代わり、ぐつぐつと滾っていったのだ。そしてそれを隠そうともしなかった。
ルキウスが婚約したと聞いた時、スヴェラは怒り狂い、手が付けられないほどだったのだという。
アンリールに婚約を破棄するように迫ったり、王城へ出向いて二人の婚約が如何に不釣り合いなものであるか訴えることもあった。
そして望みが叶わないと知ると自殺未遂まで起こしたようなのだ。
スヴェラは才女と名高く、人を魅了する素質も兼ね備えている。ルキウスとスヴェラが結婚すべきだという意見は、彼女が幼いころから多くあった。
だからこそスヴェラ自身もルキウスの婚約には絶望したのだろう。
「……意外だわ。お兄さま、男性は嗜む程度だと思っていたけど」
「性別で選んだことは一度もない」
「へぇ」
赤い唇を小さく開くと、スヴェラはロジェをじっと見つめる。瞳の奥に含まれる剣呑さに気付いて、ロジェは心の中で苦笑いを浮かべた。
スヴェラだけではなく、周りの女性たちからも棘入りの視線がばんばん飛んでくる。こうした視線で見つめられるのは慣れていないが、ロジェが怯むことはなかった。
ロジェは微笑むと、恭しく頭を垂れる。
「シン・アースターです。第一軍司令部で文官を務めております」
「文官ねぇ……。でもあなた、帯剣してるじゃない」
魔族の流儀なのか、晩餐会と言う華やかな場所でも帯剣が許されている。許されているどころか、剣を佩いていないと礼を欠いていると見なされる事もあるという。
ロジェは剣に下げられている飾り玉を指に絡め、穏やかな口調で言う。
「ええ。帯剣許可証ならあります。閣下もご存じです」
「ああ、こいつは強いぞ」
ルキウスから優しく微笑みかけられ、ロジェはにかりと得意げに笑みを返す。しかしそれが呼び水となって、周囲がざわざわと静かに騒ぎ始めた。
「ルキウス殿下が笑ったぞ」
「……嘘でしょ?」
「あいつ、一体誰だ?」
どうやらルキウスの笑顔は貴重だったらしく、ロジェは笑みを作っていた口の端をぎゅっと結んだ。
確かに少し前まで、ルキウスの笑顔は貴重だった。
最近は頻繁に笑顔を見せてくれるようになったが、それでも大半が唇の片方を少し上げただけのささやかなものだ。
今日のような笑顔は本当に珍しい。
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