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第1章
閑話2 (フェルナンドSide)
しおりを挟むようやく手がかりを見つけた。
伯爵家の敷地内にある小さな小屋に、誰かが住んでいるようだ。
しばらく見張っていると、小屋の扉がそっと開き…そこから、ほんの少しだが魔力の揺らぎが視えた。
これは恐らく“隠密の術”で姿を消している状態だろう。姿は見えないが…ゆっくり移動していくかすかな魔力の後を私は追った。
皇族は暗殺される危険と常に隣り合わせだ。それ故、皇族に仕える者は先ず危険察知の訓練を受ける。
当然、隠密の術を見破ることも…だ。
しかし…この魔術師の隠密の術は見事だ。
オーラの視える私は気付くことができたが、普通なら見破ることは困難だろう。
この姿の見えない魔術師が、グランド様から指導を受けたイルシス嬢なら…ありえる…いや、そうであって欲しい。
30分後、私は驚いていた。
私が追いかけていた魔術師が、レストランの裏口へと入って行ったからだ。
隠密の術を解いたところで…变化の術を施していたために、分かったのは魔術師=少女だったということのみ。
本来の姿を目にすることはできなかった。
あの少女がイルシス嬢で間違いないのでは…?
だとしたら、伯爵家を抜け出して街で働いているなどと…誰が想像しただろうか。
その日、裏口から飛び出してきた少女とぶつかった。抱き止めた瞬間、あまりの軽さに驚愕する。
「…痩せ過ぎだ…」
小屋へと運ばれていた粗末な食事を思い出し、苦々しい気持ちになった。
──────────
イルシス嬢の姿は確認できないが、イルシス嬢である可能性が最も高い少女をターゲットとして、何日か観察することにした。
私も帝国皇子殿下の側近である以上、仕事を片手間にはできないため…殿下にお願いして皇族専用の特殊部隊“影”をお借りした。
我が侯爵家の“影”に任せてもよかったが、皇族の“影”が見たことは公的に有効な証言となり得る。
今後の保険といったところだ。
「へぇ…堅物で、人嫌いのフェルナンドが興味を持つなんて…気になるなぁ」
「殿下、勘違いなさらないで下さい。何度も申し上げましたが、恩師からのお願いなのです」
私が人嫌いなのはオーラを視てしまうからであって…要するに、周りに毒気を持つ輩しかいないからですよ。
20歳の殿下は普段真面目でいらっしゃるのだが、珍しいことや面白いことに興味を持つと…なかなかに面倒な方だ。
今は婚約者を決めている真っ最中で、候補の令嬢たちを皆等しく扱う必要があるため、厳しく行動を制限されていらっしゃる。
婚約者選びは、殿下の気持ちなど半分も反映はされない。まぁ、退屈なのだろう。
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