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第2章
33話(29話後半の続き)
しおりを挟む…政略結婚、役目、責任…
私が言葉を失っているところ…さらに…追い打ちをかけるような話を、フェルナンド様がする。
「その役目だが…明日朝一番に、辺境の地へ行くことになった」
「辺境?明日って…そんな、急に?」
「緊急事態なんだ。ここに戻って来れるかは分からない。…いや、…おそらく…無理か…」
もう戻って来れない?
なぜ?どうしてそんな簡単なことみたいに…言うの…?
フェルナンド様は魔法剣士だけど、皇子殿下付きのお仕事ではなかったの?
さっきから、私の心臓がドクドクと激しく波打っている。嫌な予感がしてきた。
「…フェル兄様…」
不安になった私は、フェルナンド様に近付いて…濃いブルーの瞳を見つめた。
─少しだけ…未来を視せて─
♢
大きなお城で、たくさんの人が武器を持って走り回る姿が見える。
赤色の髪の男性、魔術師、逃げまどう兵士…これは、魔物と戦っているみたい。
フェルナンド様が空を見上げて、苦しそうに喘いでいるわ。頭から…血を流している。
すぐ近くには赤い龍。何度も火を吹いてる。
♢
…何てこと…。
こんな危険な場所に行くというの?駄目よ!絶対に引き止めないと!
「イシス?」
「それは、お仕事なの?」
「いや。ガーラント辺境伯から、後継者になって欲しいと言われたんだ。
ご令息が飛龍討伐で亡くなってね…今、戦力不足に陥っている」
つまり、飛龍や魔物と戦う最前線に行くってこと?
それに…後継者って…?
「フェル兄様は、そのまま辺境伯になってしまうの?」
「ガーラント辺境伯令嬢と婚姻契約を結べば…将来的にはそうだね…だけど…」
「断れないの?!」
部屋の空気がピリッと肌に感じた。
フェルナンド様の動きが…一瞬ピタリと止まる。
私はハッとした!
いけない、つい…感情的になって魔力が溢れ出てしまったかも。
フェルナンド様は、力なく首を左右に振った。
「侯爵家は、辺境伯と共に帝国を守る防衛の要だからね。それに、皇命なんだ。行かないという選択肢は…ないよ」
黙って俯く私の頬を、フェルナンド様が指先でそっと撫でる。
「イシスは…私がいなくても平気?」
そんな…急にいなくなるって…よく分からない。
何か言わなきゃと思うのに、俯いたまま上手く言葉が出てこない。
こんなの…いつもの私じゃない。
でも、行ったら駄目なの。
辺境の地で怪我をして…フェルナンド様は苦しむ。分かっていて行かせられるわけがない!
どうしよう?どうしたらいい?…胸が…凄く苦しい。
「ねぇ、イシス。…私は…君がいないとダメなんだ」
「……ダメ?……」
私もフェルナンド様がいなくなったら…知らないところで怪我したり…死んじゃったりしたら…ダメだよ?
嫌だよ?耐えられないよ?
「…うん。…本当に…もう…ダメなんだ…」
ポロポロと…わたしの瞳から大粒の涙が溢れる。フェルナンド様の顔が涙で歪んで見えない。
「じゃあ…行かないで!……お願いっ!……」
気が付けば、フェルナンド様の胸の中にきつく抱き締められていた。
いつもの爽やかな香りとは違う…野性的で男らしい香りがして…ドキドキするのに、このまま離して欲しくない。
フェルナンド様と触れ合うと、どうしてこんな不思議な気持ちになるの?
「…無理だ…」
それは…やっぱり、王命には従うしかないってこと?
「イシスと離れるなんて…私には無理だよ。絶対にね」
あ…そっち?
「…それなら…私も一緒に行く!」
─私がフェルナンド様を守ってみせるから─
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