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第3章
閑話(フェルナンドSide)
しおりを挟む入江の調査に向かった日、私は不覚にも呪いに取り込まれてしまった。
イシスがすぐに呪いを断ち切ってくれたお陰で、大事には至らなかったが…呪術は魔術と似ているものの…やはり異質なのだと体感して分かった。
それにしても、イシスがあれほど積極的にキスを強請るとは…意外だった…うれしい意味で。
可愛いイシスが瞳を涙でいっぱいにして…キスしろと言う。
一瞬…天国に呼ばれたのかと…。
生きていてよかったと思う。
イシスの唇も…舌も…口腔内も…恍惚とした表情も…私が独り占めにしたあの瞬間を忘れたくはない。
あの時、夢で…黒いオーラを纏った女たちが、次々と身体を密着させたり触れてきたりしたのだ。
暗い闇の中に引きずり込むように誘い、汚れた手でベタベタと撫で回す。
気持ちが悪くて私は暴れたが、抜け出せなかった。
髪に触れた手を遮ろうとして、反射的に手を握った。
「…フェル…?」
気遣うような…優しい…イシスの声。
気付けば、嫌な女たちは皆いなくなっていた。
ぼんやりと…視界にイシスの艶めく黒い髪が見えた気がして…あぁ、自分は夢を見ていたのだと理解する。
夢で本当によかった…と。
水が私の喉を潤す。
ひんやり冷たいイシスの唇が、何度も私の唇を食むような感覚。
次第に意識がはっきりとして、周りの景色も鮮明になる。無事に戻ってこれたとホッとした。
私はイシスに膝枕をされていた。初膝枕だ。現実だよな?
イシスの顔は不安気で、瞳には涙…愛しい人に心配をかけてしまった…と後悔をする。
同時に、飛龍討伐の時にイシスを追いかけた私の気持ちが分かったのではないか?そんな意地悪なことも考えた。
「…イシス…心配するな、もう大丈夫だ」
私の言葉を聞いたイシスの表情は、無防備で無垢な少女のようだ。
気を付けて欲しい…君を我がものにしたい…汚したくてたまらなくなるだろう。
強請られずとも…私からキスしていたよ。…いっぱいね…。
───────────
「イシス嬢、あなたにお目にかかれてとても光栄です。ルミナスと申します」
とんでもなくイカれた男が城にやって来た。
何だかんだと理由をつけては私のイシスに気安く触れ、婚約者など気にしない素振りを見せる。
気に入らない。
イシスは“変な人よね”と、全く気にしていないみたいだが…あれはイシスに気がある。
魔塔に所属し、次期魔塔主候補といわれている優秀な男だ。エルフと人のハーフらしい。
しかし、あの性格では魔塔主などは無理だろうな。フン。
クリストファー殿下が『イシス嬢争奪戦』などというから、変に警戒してしまう。
皇族や魔塔には目を光らせておかなければ。
「ルミナス様は、聖魔力をお持ちだわ」
…は?…
あのイカれた男が、最も稀な聖魔力を持っているだと?やめてくれ。
「聖魔力持ちは、神殿所属だろう?」
「…じゃあ…多分、隠してる?のかな?」
コテン、と首を傾げるイシスが超絶可愛い。
聖魔力は治癒や浄化などに絶大な効果をもたらす。
帝国の神殿が管理し…特に、聖女と呼ばれる女性を多く囲っていると聞く。
イシスの話では“龍の呪い”が強力だったために…ルミナスが入江に近付くには、聖魔力を使う以外選択肢がなかったのだろう…とのことだ。
「聖魔力を使っているところを、見られたくなかったのね。…視てしまったけれど…」
私たちをあの場から退け…1人で入江の内側へと向かうしかなかったんだな。
だから、嘘をついて…あんな中途半端な場所で私たちを足止めしたのか。
まぁ、イシスには嘘など通用しないから。
ルミナスよ、全てバレているぞ。
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