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第4章
53話
しおりを挟む「本当に…皆様方にはご迷惑をお掛けした」
辺境伯様とローウェン様は、揃って私たちに頭を下げる。
「これで終わりではなく…まだ、話には続きがあります。辺境伯、聞く覚悟はできていらっしゃいますか?」
「……はい……」
「呪いですが…簡潔に言うと、銀色の器には飛龍を呼ぶ呪い、器の中身には子殺しの呪いがかかっていました」
「……な……こ、子殺し…?!…だと…」
「『飛龍を呼ぶ』とは、生物を狂わせ誘い込むこと。あの場所…この地にかけられた呪いです。
『子殺し』とは、対象者の子供を呪い殺すこと。辺境伯、あなたにかけられた呪いです。
つまり…この城を飛龍に襲わせ、あなたの跡継ぎを皆殺しにするという呪いだ」
ルミナス様!そこは言い方があるでしょう?!
「ま…まさか、そんな…やはり…私のせいなのかっ…」
辺境伯様の顔は完全に血の気を失っていた。
「…嘘だ、嘘だっ!!…あぁ…アレン!…シルフィ!…わあぁぁ!……すまない、すまない…ローウェン!」
辺境伯様が狂ったように子供たちの名前を何度も泣きながら呼ぶ。
ローウェン様が抱きかかえてもその叫びは止まない…。
フェルナンド様は俯いて目を閉じ、黙っていた。
こんな時でも変らないのが…『2重の呪いで死にかけた』…と、仏頂面のルミナス様。
確かに、死にかけたなら機嫌が悪くなっても仕方はないけれど…もう少し周りを見てください。
「イシス嬢、中身は何だった?」
「え…中身?…ルミナス様は見たのでは…?」
「器の中は、真っ黒な…強い…濃い呪いの邪気だけだった。何かモノが入っていた形跡はなかったよ。
イシス嬢が中身を知っているのなら、最初は中身があったが…今はない。
要するに、子殺しの呪いは本懐を遂げたということだ」
それは…辺境伯様のお2人の子供が、呪いにより命を喪ったという意味に他ならない。
「器の中に入っていたのは、赤い飛龍の“胎児”だと思います」
器の中身が空だったのならば、私が視たのは胎児の念?ということになる。
胎児は飛龍を呼び込むための道具にされたのだと…そう思ってはいた。それがまさか、子殺しの呪いだったなんて。
「“胎児”か。子殺しの呪いの媒体としては、最も強いとされるものだな。そこにも龍を使うとは…凄い執念を感じる。一体、術者はどんなヤツだよ」
本当に…犯人はどのような人物なの。
辺境伯夫人を愛していたのに…その愛する人が生んだ子供を呪うだなんて。
辺境伯様は叫ばなくなったものの、まだ嗚咽を漏らしている。とても見ていられない…。
私たちはローウェン様にご挨拶をして、執務室をそっと出た。
──────────
「…あれ?イシス…おやすみのキスは?」
私は、ベットでフェルナンド様の胸にキュッとしがみついていた。
「……………」
私が黙っていると、フェルナンド様は上掛けを肩まで引き上げて…ポンポン…と、軽く私の背中をたたいてくれる。
「…ずっと…このままでも…私はいいよ…」
「…ずっと?…」
「離れないでいてくれたら…いい」
「キスできなくても?」
「…したい…」
「正直」
「君には…嘘をつけない。キスしていい?」
私はしがみついていた胸から離れる。
フェルナンド様はチュッと啄むように軽く口づけると、優しく髪を撫でてくれた。
「どうした?」
瞳は濃いブルーなのに…あったかくて慈しむような眼差し…。
「…ん…飛龍の赤ちゃんのこと。討伐された母龍のお腹から、まだ生きているのに取り出されて…可哀想だった。
しかも…子殺しの呪いに使われていただなんて…」
「それは、記憶…か…」
「うん…視えちゃったから。強い念があったのかもって」
「…そうか…苦しかったな…」
「…うん…」
フェルナンド様が肩をそっと撫で、トントンしてくれる。
私の中に溜まっている嫌な気持ちが少し軽くなった。
辺境伯様は…大丈夫なのかな。
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