上 下
65 / 110
第4章

53話

しおりを挟む

「本当に…皆様方にはご迷惑をお掛けした」


辺境伯様とローウェン様は、揃って私たちに頭を下げる。


「これで終わりではなく…まだ、話には続きがあります。辺境伯、聞く覚悟はできていらっしゃいますか?」

「……はい……」

「呪いですが…簡潔に言うと、銀色の器には飛龍を呼ぶ呪い、器の中身には子殺しの呪いがかかっていました」

「……な……こ、子殺し…?!…だと…」

「『飛龍を呼ぶ』とは、生物を狂わせ誘い込むこと。あの場所…この地にかけられた呪いです。
『子殺し』とは、対象者の子供を呪い殺すこと。辺境伯、あなたにかけられた呪いです。

つまり…この城を飛龍に襲わせ、あなたの跡継ぎを皆殺し・・・にするという呪いだ」


ルミナス様!そこは言い方があるでしょう?!


「ま…まさか、そんな…やはり…私のせいなのかっ…」


辺境伯様の顔は完全に血の気を失っていた。


「…嘘だ、嘘だっ!!…あぁ…アレン!…シルフィ!…わあぁぁ!……すまない、すまない…ローウェン!」


辺境伯様が狂ったように子供たちの名前を何度も泣きながら呼ぶ。
ローウェン様が抱きかかえてもその叫びは止まない…。


フェルナンド様は俯いて目を閉じ、黙っていた。





こんな時でも変らないのが…『2重の呪いで死にかけた』…と、仏頂面のルミナス様。
確かに、死にかけたなら機嫌が悪くなっても仕方はないけれど…もう少し周りを見てください。


「イシス嬢、中身は何だった?」

「え…中身?…ルミナス様は見たのでは…?」

「器の中は、真っ黒な…強い…濃い呪いの邪気だけだった。何かモノ・・が入っていた形跡はなかったよ。
イシス嬢が中身を知っているのなら、最初は中身があったが…今はない。

要するに、子殺しの呪いは本懐を遂げたということだ」


それは…辺境伯様のお2人の子供が、呪いにより命を喪ったという意味に他ならない。


「器の中に入っていたのは、赤い飛龍の“胎児”だと思います」


器の中身が空だったのならば、私が視た・・のは胎児の念?ということになる。

胎児は飛龍を呼び込むための道具にされたのだと…そう思ってはいた。それがまさか、子殺しの呪いだったなんて。


「“胎児”か。子殺しの呪いの媒体としては、最も強いとされるものだな。そこにも龍を使うとは…凄い執念を感じる。一体、術者はどんなヤツだよ」


本当に…犯人はどのような人物なの。
辺境伯夫人を愛していたのに…その愛する人が生んだ子供を呪うだなんて。


辺境伯様は叫ばなくなったものの、まだ嗚咽を漏らしている。とても見ていられない…。

私たちはローウェン様にご挨拶をして、執務室をそっと出た。




──────────




「…あれ?イシス…おやすみのキスは?」


私は、ベットでフェルナンド様の胸にキュッとしがみついていた。


「……………」


私が黙っていると、フェルナンド様は上掛けを肩まで引き上げて…ポンポン…と、軽く私の背中をたたいてくれる。


「…ずっと…このままでも…私はいいよ…」

「…ずっと?…」

「離れないでいてくれたら…いい」

「キスできなくても?」

「…したい…」

「正直」

「君には…嘘をつけない。キスしていい?」


私はしがみついていた胸から離れる。
フェルナンド様はチュッと啄むように軽く口づけると、優しく髪を撫でてくれた。


「どうした?」


瞳は濃いブルーなのに…あったかくて慈しむような眼差し…。


「…ん…飛龍の赤ちゃんのこと。討伐された母龍のお腹から、まだ生きているのに取り出されて…可哀想だった。
しかも…子殺しの呪いに使われていただなんて…」

「それは、記憶…か…」

「うん…視えちゃったから。強い念があったのかもって」

「…そうか…苦しかったな…」

「…うん…」


フェルナンド様が肩をそっと撫で、トントンしてくれる。
私の中に溜まっている嫌な気持ちが少し軽くなった。


辺境伯様は…大丈夫なのかな。







しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】待ってください

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:42

魔拳のデイドリーマー

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,171pt お気に入り:8,522

俺と先生の愛ある託卵生活

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:302

【R18】お飾り妻は諦める~旦那様、貴方を想うのはもうやめます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:459

突然の契約結婚は……楽、でした。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85,482pt お気に入り:2,295

処理中です...