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第5章
61話
しおりを挟む「イシス様。ご無事で…本当に…何よりでごさいました」
メイド長のミリアムさんは、涙ぐんで私の手をギュッと握っている。
娘のアリエルさんが…側でミリアムさんの背をさすっている。
「イシス様、メイド長は…イシス様が辺境の地へ行かれてから元気がなかったのですよ」
そんなに心配してくれていたのね。
私はミリアムさんとアリエルさんを…抱き締めた。
「明後日…フェルナンド様と婚姻契約をされ、お2人は晴れて夫婦となられます。
お式やお披露目までの準備期間は、アリエルの他に3名が専属メイドとしてお側に仕えます」
「契約だけじゃなくて、お式?お披露目が…また後であるの?」
「えぇ…あら?フェルナンド様からお聞きになっておられませんか?」
「ん?…えぇっと…聞いたの…かな?」
婚姻契約と結婚式やお披露目は、同日中に行うのが一般的なのだとか。
花嫁は結婚式までにピカピカに磨き上げられ、準備を整える。
ついさっきまで辺境の地にいた私は、花嫁準備など一切やっていなかったことに気付く。
このままではお披露目などできない…髪も肌も何のお手入れもせずに放置していたもの。…後日になるわけよね…。
「婚約期間を終えたらすぐに婚姻契約を結びたいという…フェルナンド様のお気持ち優先ですわ。お式までは1ヶ月ほどございます」
辺境の地では、侯爵家としての格式高い式も花嫁準備も行えない。だから、婚姻契約を先に結ぶことは決定事項だったみたい。
「ごゆっくりお休みいただきたいところなのですが…明日の謁見のため…ドレスのサイズ調整だけ、手早くさせていただきます」
──────────
急に宮殿へ行くことになったので、カイラ様の使っていないドレスをお借りし、サイズを直して着ていくことになった。
カイラ様は既婚者なので、どちらかというとドレスは落ち着いた色合いのものが多い。
濃いブルーの布地に白のシフォン生地を薄く重ね合わせた…シックでありながら柔らかい印象のドレス。濃青はフェルナンド様の色。
「ウフフ、イシス様ったらご機嫌ですね」
「そう?辺境の地ではドレスなんて一度も着ていないから…何だか女の子になってる?」
アリエルさんと3人のメイドで、腕やウエスト部分を仮止めしたり縫ったりしている。
「この辺り…もう少し膨らみがあったほうがよろしいかと…」
ドレスの腰回りをもっとふっくらさせてはどうか?とメイドたちが話し合っている。
「え?デザインはこのままで大丈夫よ?素敵なドレスだもの、サイズだけ合わせて貰えたら十分だと思うの。
謁見は短い時間だし…そんなに頑張らなくても…ね?」
私がペラペラとそう話すと、初めて私と接したメイドたちは…キョトンとしたり、頬を染めたりしていた。
『イシス様って、とても…可愛らしいのね。それに、私たちにも普通に接してくださるわ』
『見つめられたら…私、何だか照れてしまう』
『ねぇ、どんなドレスでもイシス様なら素敵に着こなせるのではなくって?』
とりあえず、身体にフィットするように調整を終えると…フェルナンド様がやって来た。
「フェル、どう?カイラ姉様のドレスなの」
私はふわふわシフォン生地の裾を軽く摘んで…クルクルとその場で回って見せた。
「青がよく似合う。ドレスは久しぶりだね…見惚れたよ。…明日、連れて行きたくないな…」
ため息を漏らすフェルナンド様が私を抱き寄せ、髪や頬に何度も口づける。
メイドの皆さんは、私たちを見ないように…そっと視線を外してくれているけれど、これはちょっと恥ずかしい。
あれ?
部屋で2人きりだった辺境の地では、周りなど気にせずチュッチュしていたような気がする。
いけない!私ったら開放的になり過ぎていたのでは?!
ここは侯爵家、気を付けたほうがよさそう…。
「イシス、婚姻の記念に…私からのプレゼントだ。アリエル、明日はこのネックレスを着けるように」
そう言って、宝石の入った箱を手渡すフェルナンド様。
「はい、フェルナンド様。畏まりました」
受け取ったアリエルさんは、宝石を私に見せてくれる。
大きなイエローダイヤモンド…その周りにサファイアを散りばめたデザインのネックレスと、耳飾りのセット。
「素敵。こんな大きなダイヤ…初めて見たわ。フェル、ありがとう!」
「気に入ったか?…アリエル、ドレス合わせが終わったならイシスを連れて行きたい」
「すぐにお支度をいたします」
「では、外で待っている」
フェルナンド様は、私の唇にそっと口づけ…部屋を出て行った。
あぁっ!…もう…人前で、そんなことしちゃダメ!
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