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第5章
閑話(クリストファーSide)
しおりを挟む3ヶ月で偉業を成し遂げ、フェルナンドは辺境の地から帝都に帰ってきた。
父上は、婚姻契約を控えて忙しいフェルナンドとイシス嬢を…強引に宮殿へと呼び出したらしい。
謁見と食事会にはかなりの時間を取られる。特に食事会。
なぜ食事会まで必要なのか?わけが分からない。
正装するのも正直…面倒だ。
「いや…あまりにも急ですよね…」
側近候補の文官は、戸惑った様子でスケジュール調整をしている。
「ご命令だからな、仕方がない。兄上のほうが…今ごろもっと大変だと思うぞ」
「…確かにそうですね…。フェルナンド様が帝都にお戻りになったということは、殿下のお側にも?」
「側近に返り咲くか…うーん…お前はどう思う?」
フェルナンドがいなくなってから、中心となって働いてくれているのは彼を含め3人だ。
「いえ、私からは何とも…ですが、ご結婚後の予定にもよりますよね」
予定か。
今のところ何も聞いてはいないが、私が公爵になるまで側近を続けて貰えたら…うれしいなぁ。
───────────
「私が…皇太子に?」
それなりの覚悟はあったと思うが…兄上は謙虚な方だから、自分でいいのか?と…問うように父上を見ていた。
「先ずは、お前の気持ちを確認しておきたくてな」
執務室の奥にある父上の私室。
夜遅く、兄上と私は密かに呼ばれてこの場へと来ていた。
「父上からのご指名ならば…お受けしたいと思っております」
「よく言った、安心したぞ。クリストファーは、公爵となってもエリックをしっかりと支えてくれるか?」
「無論、全力で兄上をお支えいたします」
兄上が皇太子に決まった。
当然そうなるであろうと思ってはいたのだが、側妃の子も皇子であるから…少し気にしていた。
側妃は元伯爵令嬢のため、帝国内の有力な伯爵家とは特に懇意にしている。
伯爵家は地方の領土を治め、税収なども任されている重要な地位。繋がりを持っておくこと自体はとても大事だ。
ただ…今の側妃のように、一部の伯爵家と過度に密な関係を持つことは悪い影響を及ぼす可能性がある。
特に、第二皇子派の筆頭であるアンデヴァイセン伯爵家には汚れた噂が絶えないのだ。
父上はその辺りをしっかり目と耳で確認されてはいるが、無理に切り離すことまではなさらない。
皇太子の任命から、また何か動き出すことを考慮して…傍観している状況とも思える。
「これは…私の“独り言”なのだがな…」
兄上と私は、突然何だろう?と父上を見た。
「イシス嬢という、今の帝国にとって女神のような子爵令嬢が現れた。
近く、ランチェスター侯爵令息フェルナンドと婚姻契約を結ぶらしいが…それでは勿体ない。そう私は思っている。
もっと、帝国の力になるような婚姻契約があるのではないかと…考えているところだ」
まさか…父上…イシス嬢に興味を持ったのか?!
「魔塔からは“イシス嬢を欲しい”と言って…魔塔主自らが相談に出向いて来た。どうやら魔術師としての実力はかなりのようだ。
明日は、イシス嬢がどのような令嬢であるのか…この目で確かめてみたい。
話だけではどうにも実感がわかぬからな。…楽しみだ…」
──────────
父上はイシス嬢の迫力に負けた。楽しむどころか完敗だ。
父上は…この帝都の宮殿で守られ過ぎて、全てのカンが鈍ってきているんじゃないかな?
辺境伯の希望を安易に受け入れて、状況確認もせずフェルナンドを婿入りさせようとしたり…
強さの実感がわかないとか言って、興味本位でイシス嬢を自分の思い通りにしようとしたり…
そもそも、皇命を覆してきた時に気付くべきだったんだ…敵わない相手であると。
その辺の騎士より強いご令嬢ではなく、圧倒的な強さを隠し持つご令嬢なんだから。
見えてない部分は想像以上ということだよ?
魔力を持つ持たないの差はあるけれど、あまりにも間抜けだなと…怯える父上を見て…私は呆れていた。
何でも“政略結婚”させれば済むと…思わないでくれ。
従うばかりのこっちは、もうウンザリなんだよ。
あの2人は愛し合っている。放っておいてやればいい。
─それとも、父上はフェルナンドに呪われたいのか?─
驚いたのは、兄上が積極的にイシス嬢に近付こうとしていたことだ。
冷静で物静かで控え目、女性に興味など一切持たないあの兄上が。
まぁ…私も初めて会った時、イシス嬢に惹かれたから…気持ちは何となく分かる。
身近な令嬢たちとは全く別の人種みたいで、不思議な魅力溢れる令嬢だからな…。
でも、フェルナンドが溺愛している。あれには勝てない。
兄上がイシス嬢を見て“美しい”と呟いたことは…永遠に私の胸に秘めておこう。
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