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第6章
75話
しおりを挟む今日は、朝早くから仕立て屋へと出かけていた。
「イシス、どうだった?」
結婚式で着るドレスの試着を済ませた私に、フェルナンド様が感想を聞いてくる。
「私の身体にピッタリサイズになっていたわ!お義母様が信頼されている仕立て屋さんは流石です」
「…イシスったら…本当に私のドレスを直して着るなんて、しょうがない娘ねぇ」
そう言いながら、お義母様は少し微笑んでいる。
私は、お義母様が結婚する時に着用された“ウエディングドレス”を使わせていただくことになり…今日、サイズ調整後の確認を無事に終えた。
新たにドレスを作るにはあまり時間がなかったということもあるし、お義母様とフェルナンド様のドレスバトルがまた始まったらややこしくなる気がしていたし…。
何より、お義母様の衣装部屋に飾ってあったドレスがとても素敵だと思ったので…私からお願いをしてみたのです。
お金を節約できて、お気に入りのドレスも着れるなんて!とにかく最高だわ。
デビュタントに参加していない私にとって、真っ白に輝くウエディングドレスは特別なもの。
細かい宝石が散りばめられたスカート部分は、歩いて揺れる度にキラキラと光って美しい。
デザインは非常にシンプルで、すっきりとしたスレンダーライン。私の身体にこれがピタリと合ったの。
高級な布地の質感がより際立って見える“一級品”です。
肩までを出すオフショルダータイプのドレスは初めてで、肌の露出は少し多め。
最近は、全身…お肌のお手入れも念入りなのです。
「まさか…見せて貰えないとはな。私だけ仲間外れにして。後1週間、楽しみに待つしかないか」
最初は不服そうだったフェルナンド様、1週間後のお式がさらに待ち遠しくなったみたい。
私が肩を出したドレスを着ているのを見たら…当日卒倒しないかしら?今から心配だわ。
──────────
その日の夕方。
「生まれたっ!そうか男の子か、母子ともに無事か?!」
アンディ義兄様が歓喜の声を上げ、カイラ義姉様の部屋へと駆けて行く。
談話室に集まり、カイラ義姉様の無事な出産を祈っていた私たち家族。
お義父様とお義母様は、吉報が届いてホッとされている。
「無事に生まれてよかった。後で私たちも会いに行こう。
あぁ…そうか…イシス、君が今日仕立て屋に行く予定を朝早くにした理由が…分かったぞ」
フェルナンド様が謎を解き明かした!という顔をする。
うふふ…とってもお目出度いサプライズよね?
この幸せな場には、家族全員が揃っていたいじゃない?
私たちは笑いながら2人で抱き合い、新たな命の誕生を喜んだ。
長男レイノルト、長女ジェシカ、そして…次男ブルック。
ランチェスター侯爵家は安泰です!
───────────
「赤ちゃん、可愛かったわね」
「元気に泣いていたな」
生まれたてホヤホヤの可愛らしい甥っ子に、私はもうすでにメロメロになっていました。
「自分がこんな気持ちになるとは想像もしていなかったのだが、イシス…私も、その…欲しいなと思った」
少し頬を染めて恥ずかしそうに“子が欲しい”と話すフェルナンド様。
「…え?…」
手にしていたワイングラスを、うっかり手放しそうになる。そういえば…今まで話題にしたことがなかったかも。
「私とイシスの…子…」
私もフェルナンド様の子供を生みたいわ。可愛いに決まっているもの。
「奥様の意見はどうかな?」
「…し…自然に…お任せ?」
フェルナンド様は、それはそれは…甘くてとろけるような微笑みを私に向けた。
「じゃあ、私の子をいつ授かってもいいの?」
「えぇ、勿論よ。愛し合っている夫婦は、跡継ぎや子作りを心配したりしないって…前にフェルが言っていたわ」
“そうだよ”
と、軽く頷いたフェルナンド様の口元が…ニヤリとする。
「側近に復帰してまだ間もないが、結婚式後の3日間は仕事を休みにして貰ったんだ。殿下には、一切連絡してこないようにと頼んである。
イシス、君を私の側から一時も離さないつもりだからね」
そう言って、まるで宝物を扱うみたいに優しくふんわりと私を抱き込む。
「それは、辺境の地にいた時とは…また違うの?」
「ん…?…多分、部屋から出られないかな…」
「なぜ…出られないの?」
『…いっぱい抱きたいからだよ…』
何か小声で囁いた後、戸惑う私の口を封じるように…熱い口づけをしてくる。
何だか誤魔化されてしまったような?
…まさか…初めての私に、無茶なことはしないわよね?
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