前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

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最終章

209 貴族社会4

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“お詫びの品”の一件を聞いたアシュリーは、グラスに残ったワインを静かに飲み干す。


「…兄上が、フロム嬢に好意を持っていたとは…」


アフィラムの目の前で偶然起きたアクシデントは、茶会で作り笑顔しか見せない婚約者候補ディルカの活動的な一面と、初めて言葉を交わした調合師フロムの純朴さを知るきっかけになった。

フロムを意識し始めた硬派な兄は、使いを出すと決めるまで一月の間どのように過ごしたのか?アシュリー自身にも経験のある切ない心の動きや変化を想像する。
未婚の王族が個人の宮殿へ直接招く異性は特別視され易く、誤解を生む誘い文句は本来ご法度。秘匿とされる狼を飼い犬と称した上で『会いに来て欲しい』と伝えたのは、恐らく苦肉の策だろう。


「使者を送った時点で脅迫と受け取られたことが誤算だったと言うべきか…想いは届かなかったのだな」

「社交の場へ出ないフロム嬢は、銀狼以外にアフィラム殿下との接点がありませんものね。だからこそ、怯えてしまったのでしょう」

「あぁ…皆それぞれに事情がある」


その年に成人した貴族令嬢を王宮へ招いて祝うデビュタント以降、アシュリーは公的なパーティーでフロムを見掛けていないと言う。
若い女性が身に着ける装身具の中で、眼鏡は『ダンスお断り』の意思表示と見なされる場合があり、舞踏会ではパートナー探しに支障を来すマイナスアイテム。晴れの舞台で眼鏡姿の令嬢は珍しく、印象に残っていた。


「伯爵家以上になると、王国の大きな行事を欠席すれば理由を問わず不敬だと裏で囁かれる。フロム嬢は家の体面を保つため、形式的に参加をしただけのように見えた」

「形式的?」

「誰とも踊っていなかったからな」

「…デビュタントで、踊らずに…?」


デビュタント会場で新成人が最も輝くファーストダンス。婚約者不在の令嬢の多くは、男性親族と踊っている。
かつて…アシュリーの母ヴィヴィアンが踊らなかった理由は、辺境の地にいた婚約者と当日まで会えず、ダンスの練習不足で悪目立ちしてしまうせいだった。


「踊れなかったのかもしれない。ドレス姿は初々しいというより、着慣れていない感じがした」

「…それは…」


初めてドレスを着た時の動き辛さには、レティシアも衝撃を受けた覚えがある。ダンスを習っていれば、少なくともドレスの扱いに不自由はしないはず。つまり、伯爵家が指導を怠っていたという意味だ。

自分と似た白いドレスに身を包んだ令嬢たちが家族の祝福を受けて軽やかに舞い踊る会場の片隅で、ただひたすらそれを眺めながら時間を過ごしたフロムの心の痛みを思うととても辛かった。


「…ドレスを見るのも…嫌になるわよね…」

「ん?……と、話が少し逸れたな。それで、フロム嬢はゴードンの能力と何の関係があるんだ?」


俯いてため息を漏らすレティシアを膝へ抱え上げ、湯浴み後のしっとりと艶やかな髪に口付けたアシュリーは、愛情を込めた魔力香で優しく包み込む。

自由を好む彼女は、大公妃となるために制約の多い貴族の暮らしに馴染まざるを得ない。この短期間で努力を重ね、現世のレティシアが17年培ってきた侯爵令嬢としての立ち居振る舞いを見事に引き継ぎ、さらに輝きを増した。
しかし、淑女のマナーが完璧であっても、理不尽な問題に突き当たれば理解と感情の隔たりに苦痛を感じるのは人として当然のこと。清廉で正義感の強いレティシアが高位貴族中心の偏った文化や志向に沿うわけはなく、アシュリーとしても心苦しい思いがある。


「もしかすると、フロム嬢も魔法を使えるのではないかと思ったのです」

「……ほう?」


レティシアは甘く爽やかな香りが心地よいアシュリーの胸の中へスッポリと収まり、首元に額を擦り寄せて小さな声で答えた。

フェイロン子爵家で飼育している馬の中に、飛び切り気性が荒く怪我の絶えない牝馬が一頭いる。繁殖期にも種馬を寄せ付けず、怪我の治療時は薬や魔法で眠らせる手間が要るため通常よりも費用が掛かり困っていた。
サンドラの話によれば、その馬はフロムを前にすると途端に大人しくなる。しかも、光や音、脚への接触といった刺激に対して過敏に反応をする極めて稀な重い病気を患っていると診たフロムの魔法薬のお陰で症状が治まり始め、今や完治目前のところまで来ていた。

これが特別な話かと言えばそうではなく、フロムは家を出て動物病院で住み込みの調合師として働いていた時から、錯乱状態の動物がいれば宥め落ち着かせ、且つ正しい診断と診立てを行い良薬を生成していたらしい。
彼女の魔法薬の質の良さは、自ずと獣医師の間でよく知られるようになる。一人立ちした今でも元の勤め先とは懇意にしており、頼まれれば往診への付き添いも請け負っていた。


「フロム嬢が動物を治療する様子は、まるで会話をしているみたいだと言われているそうです」

「気になるのか?」

「…私たちは友人ですが、そこまで踏み込むのはよくないでしょうか?もし、彼女と同じ感覚を共有できる相手がいるのならと思って…でも、ゴードンは自分の魔力を疎ましく感じていた時期がありますよね…隠すべき魔法だとしたら、余計なことをして困らせたくはないし…」


最後のほうは、ガウンに顔を埋めてモゴモゴと呟くから言葉がよく聞き取れない。ゴードンはレティシアの命令が何であれ従うというのに、双方の気持ちを深く考え過ぎるあまり答えを出せないのだろうと、アシュリーは心優しい恋人を抱いたまま微笑んだ。


「大丈夫だ、フロム嬢のことは銀狼に聞けばいい。あれは破格の魔力を持つ…ゴードンに任せておけば心配ない」




──────────
──────────




「ちょっと待て、結び目が」

「あ、やっ…くすぐったい!」


赤い頬を両手で覆いベッドの上で肩を左右に揺らして転がるレティシアは、今宵『浴衣』を着ている。
肌触りのいい木綿で織られた白地に桔梗柄の異世界のガウンは、姉の聖女サオリからの誕生日プレゼントだった。


「こら、暴れるな!ベッドから落ちるぞ」


腰にきつく結ばれた細めの『帯』が辛うじて布を押さえているものの、両肩は開けて胸の谷間は露わ、下半身はレースの下着も両足も丸見えになっている。いつもなら恥ずかしがるレティシアが、異国情緒溢れる格好で豊満な肉体を堂々と灯りの下に晒していた。


「参ったな…君は酔うと羞恥心が薄れるようだ」


白ワインを飲み終えた後、アシュリーがレティシアへ贈ったのは生まれ年のワイン。18年熟成された濃厚で芳醇な果実の香りに適度な酸味と深みのある味わいの赤ワインは、大人のお酒と呼ぶに相応しい。
レティシアの希望で二度目の乾杯をするも、グラス一杯飲んだ辺りで碧い瞳がぼんやりと空を彷徨う。危うい足取りでフラフラ立ち歩き『暑い』と浴衣を脱ごうとしたため、ベッドへ運んで今に至る。


「…はやく…ぬがせて…」

「分かった」


トロンとした小悪魔の眼差しで脱力するレティシアの浴衣と下着を剥いで裸にすると、気持ちよさそうに細く白い肢体をシーツに擦り付けてくねらせる。艶めかしい光景にアシュリーはゴクリと喉を鳴らし、ガウンを脱いで…痛いくらいに張り詰めた下半身を下穿きから解放した。


「私は、誘われている…んだよな?」


眠そうに瞼を半分閉じたレティシアに口付け、唇を甘噛みして合図を送る。素直に開いた口の中へ舌を滑り込ませ、甘い唾液を絡め取り、舌先で咥内を擽りながら執拗に這い回った。

いつの間にか首に抱きついていたレティシアも、恍惚とした表情で唇を寄せて来る。お互いが求め合っているという幸福感、湧き上がる愛情には底がなく、何度抱いても抱き足りない。今すぐ身体の奥深くで繋がりたい、乱暴に突き上げて啼かせたい衝動を抑え、ゆっくりと胸を揉みしだく。指の腹が熱を帯びた肌に沈んで、ギュッと強めに掴むと弾力を感じるのがアシュリーは好きだった。


「…あっ…ン……ん…」


両方の胸を弄ると、レティシアは小さく喘いでもどかしそうに腰を揺らす。感じやすい彼女は、秘部が疼き出すのを堪らえようと内股を締める。そうはさせまいと、ツンと立つ淡いピンク色をした胸の頂を指先で忙しなく弾いた。


「ひゃん!あっ…いやっ…ダメ!そこは…だめぇ」

「知ってるよ」


イヤイヤと首を振るレティシアの胸先を咥えて舌で丁寧に擦り、舐めて吸ってを繰り返す。同時に濡れた媚肉を指でたっぷりと愛撫して潤いを促せば、達する寸前の甲高い声と甘く淫靡な香りがアシュリーをさらに興奮させる。


「…んっ…ぁ……も…だめなの…ゆるしてぇ…」

「レティシア、私が欲しい?」


小刻みに肯くレティシアが『欲しい』と耳元で囁いた瞬間、隆々と立ち上がった太い雄芯が蜜口を貫いた。








────────── next 210 (貴族社会5)

公開が遅くなりまして大変申し訳ありません。いつも読んで下さる皆様、誠にありがとうございます。

※編集途中での間違いがございました。ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません(9/2)



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