星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ミフク

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規格外の彼女

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 俺はその最初の一団の端に、グエンとゾフィーとジュジュを見つけた。
 グエンが俺を見付けて目を見開いた。
 後で聞いたら、驚いていたのは俺が無事で先に転移してたからではなく、泣いてたかららしい。
 だが当たり前だが彼は俺に説明もなくまた事故現場に戻る為に転移して消えた。何百人もの人を一度に転移は出来ない。
 同じ様に、ゾフィーもジュジュも消えて、そして何人もの人々を伴って現れまた消えてを繰り返して、最後に漸く彼らを伴って来た。


 リロイ、ヒヨリにライト、お爺ちゃんとキールをゾフィーとジュジュの間に見つけて、心の底からの安堵した。

 そして俺はその時初めて自分が泣いてる事に気付いた。


 


 マーカス家の結構な数の招待客たちは温室では手狭なので外庭の方まで溢れかえってた。
 飛行船が不時着した庭だ。変な二つ名とか付くんじゃないか。
 客だけでなく勿論執事やメイド、シェフたちも居て、マーカス家そのまま引越して来たみたいになっていた。流石だと思ったのは、クライヴさんを筆頭にアームストロング家の人々がいつの間にかやって来て、突然の珍客ーー失礼ーー賓客たちを、文字通りさばき始めて、あんな大人数を館の方に次々と収容して行った事だった。
 その時も俺はただ呆然と眺めているだけで、自分の無力に情けなくなる一方だった。



 最後なんだろうな。多分、避難の転移はこれで終わりなんだと思う。
 ぼわん、ってカンジだった。皆のようにゆっくりマーブル模様から形を整えたわけじゃなく。
 彼女は現れた。
 グエンが頭を抱えている。
「何でこんなに重いんだ?」
 傍にマーカス夫人。
「三十人飛ばすより疲れるって、どういう事?!」
 四次元の空間でも、彼女は予想通り規格外だったらしい。

「リリー!!!」

 当の規格外彼女は、愛娘を見つけて叫んだ。
 彼女の叫び声で温室ガラスが震えたのは気のせいでは無いと思う。
 大勢の人々が現れても変らず優雅に宙を泳いでいた魚たちが慌てて木の陰に隠れてしまう。
「サメかよ」
 サメの方が良かったんじゃないだろうか。サメに魚は予備知識があるけど、マーカス夫人は未知の生物だし。俺らにとってもそうか……。



 俺に比べて、マーカス家の令嬢は、“泰然自若”という四文字熟語そのまま自分自身で、お茶会を続ける。

「あら、お母様。
 ご無事で良かったですわ」
 リリー?
「何よりです」
 イヴ?

 ドレスのあちこちに焼け焦げを作って、髪を振り乱し顔を煤で汚しているマーカス夫人に同情を覚え、俺も苦笑が隠せない。
 愛娘を心配して転移を最後まで拒否して屋敷中を探し回ったのだろう事は容易に想像がつく。
 グエンたちは何回か行ったり来たりしてたから、リリーがこっちに居ることを夫人に知らせて、やっとこっちに引き摺ってこれたんだろうな。


 密かに溜息を吐いてると、いつの間にか傍に来てたリロイにそっと抱きしめられた。
 俺は人目も憚らず彼に抱きついた。


 だって誰も俺たちの事なんか気にしてないし。



「いやあ、一日で両方の公爵家に来る事が出来るとは!」
「不幸中の幸いでしたわね」
「私、この温室、一度お邪魔したかったんですの!」
「私もですわ」
「噂で聞くより、素敵!」
 お魚、隠れちゃいましたけどね。
 爆破事件に巻き込まれたというのに、お客たちもおおまか暢気で、アームストロング家の、パーティーは開いても公開されないレアな温室に興奮している。
 爆破に衝撃を受けて大泣きしている御令嬢なんかもいる事はいるんだが、その泣き方は元気で、後の心配要らなさそうだった。彼女たちは周りの人たちに付き添われて屋敷の中に誘われてった。
 逆にアームストロング家を楽しんでる人々は、リリーに倣ってお茶を始めた。日が暮れ始めているので少し早い夕食が始まりそうだ。いや晩餐会?
「お茶もお茶菓子も、公爵家ともなると最高級品ですわね」
 ご満悦である。
「あんな事の後ではまた格別ですな」
 あんな事に全く衝撃受けてないでしょ?
 俺は脱力してしまう。
 まあ、俺たちにしてみれば有難いんだけど。ヒステリックに騒がれる事もあり得たので。


 エドモンド警部たちは事後処理でこちらには来ていない。でも都合良く一緒に居てくれたお陰で俺たちは警察には疑われないだろう。いや? 俺は疑われんのかな?
 俺だけ爆発が起こった時傍に居なかったしな。黒猫の鳴き声も通用するかなぁ。もともとその話は信用されてないんだろうけど。信用されてないというより眉唾ものだよな。
 でもその時、リリーの憤慨した声が聞こえた。
「リズベスト伯爵夫人ですわ。
 私見ましたもの。
 お母様の衣装部屋から出て来るところ。すぐ後に爆発が起こって。
 リョウが居てくれたお陰で傷ひとつ無かったんですのよ」

 庇ってくれるのは、感謝してくれるのは嬉しいんだけど、転移魔法が使える事がバレたのはマズいのではなかろうか。新たな問題だ。

 それと転移して来た中に、何故かというかやはりと言うか、ジョバンニ=カスティーリャとリズベスト伯爵夫人は居なかった。
 そしてそれ以降、彼と彼女は消えてしまった。
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