星降る真夏の夜に、妖精の森で迷子になる。

折原ノエル

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昔々おとぎの国にお姫さまがいました。

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『昔々おとぎの国にお姫さまがおりました』

「ゾフィーの告白はそんな始まり方が良いね」
 ヒヨリがそんな風に言った。

 俺たちはマーカス家のティーパーティで聞いてたが、ゾフィーはリリーにはちゃんと言っておきたかったみたいで。

 お爺ちゃんとキールもあの場には居なかったから、二人も交えてあの日の告白の再現である。



「あれは私の婚約者だったんだ」
 衝撃の告白は始まった。

 このローデンハイムを始めとして幾つかの大国に囲まれた小さな国がある。
 《エルメリア》と言う。
 魔力が多い人間が多く生まれる国だそうで。
 高価な宝石を産出し農業国としても一級なこの国が大陸の侵略を受けなかったのは、ひとえに魔力の強い人間が多かったおかげだが、当たり前のこと王室の者は特にその傾向が顕著で。普通に三種類の属性の魔法が使える者も多く輩出して来た。
 彼女の様に。

《マーゴット・カスティーリャ=エルメリア》

 ゾフィーの本名。
 親が付けた名前。
 ファミリー・ネームに国名の当てられる名前。

 そう。彼女はおとぎの国のお姫さまだった。

「皆既月食の最中に生まれたんだと」
「ホントに御伽話だね」
 言って笑ったのはライトだったと思う。

 当時の王太子の第一子として生まれた彼女は生まれた時から魔力が異常に強くて、揺りかごごと宙に浮き上がり乳母さんたちを慌てさせるのも日常茶飯事だったとか。でも魔力の強いのは王族として褒められこそすれ疎まれるようなことはなかった。
 事情が変わったのは、彼女が二歳の時、弟が生まれたことだった。
 弟が生まれたからといって、彼女が蔑ろにされることなんて全くなく、家族が増えて幸せも倍増。順風満帆だった。ーーのように見えた。
 家族仲は非常に普通に良かったのだ。本当に。
 だけど小国とはいえ、そこは王族。
 あやかって利権を欲しがる人間は引も切らない。
 後を継ぐのは男のみ、とか決まってたら逆に話が楽だったのかも知れない。
 どちらかに何か問題があれば良かったのかも知れない。
 ところが問題があるどころか、二人とも非常に優秀だった。
 非常に優秀な上に人格も良く出来て、推す側の人間としては、こちらのお子の方が王位を継ぐ方が望ましいと、会う度接する度思いを強くして行った。
 そして、王女派と王子派に分かれて争うのは、周辺国にとって都合良く。多分水面下で色々手を伸ばされ操られていたのだろうが。

 成長するごとこのままではマズいというのは誰の目にも明らかで、優秀である当の本人たちが一番状況を良く把握していた。

 そんな時最悪の事態は起こった。
 彼女たちの両親が出向いた先で事故に遭って亡くなってしまったのだ。
 誰かに何かを画策された証拠は無い。純粋にただの事故の可能性の方が高いのに関わらず。勘繰る輩も居て。関係あるないに関わらず状況が状況なだけに勘繰らない方が難しいもので。

「間違いなく、事故だよ。行って見たから」
 当時まだ成人してなかった女の子は言った。世界の中でトップクラスの魔力の持ち主の。

 国を挙げての葬儀に、各国から要人が席を連ねたが、思惑が無い訳がなく。

 皆んなもう止めたかったんだろうが、誰にも止められない。

「人が死んだら後に退けないものでね」

 
 で、当時の国王陛下ーーゾフィーのお爺ちゃんだ。ゾフィーの決心もあって。

 彼女は姿を消した。

 上手く収まったように思えた。
 でもやっぱり、納得の行かない人はいるもので。
 その筆頭は、というか唯一納得いかなかったのが彼女の婚約者である、ハロルド=ステファンである。
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