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王女の告白と庭師
しおりを挟む名前なんだっけ?
一度聞いた話にうとうとしながら、俺は目の端で庭師のお爺ちゃんを捉えていた。
彼はちょうど掌の上に乗せたものに息を吹きかけたところだった。掌の上から無数の花びらが温室中に散って行く。何かの魔法なんだろうな。公爵家ともなると庭師でも相当魔力が強いらしい。その上、品もあるな。
彼にこの話聞かせても良いんだろうか?
トップシークレットじゃないのか?
こっちのお爺ちゃんも、ゾフィーも気にしている様子はなく、彼の魔法を見てにっこり微笑んでたから良いんだろうな。俺はその思考を放棄した。
眠い……。
眠気に負けそうな俺の横で、トップシークレットな打ち明け話は続いて行く。
渦中の王女の失踪に殆どの人が安堵した。
王太子夫婦が事故とはいえ敵対する同士が会えば角突き合わせるような事態の中で亡くなった事で、皆自分たちの主張に後ろめたさを感じていた。やり始めたはいいが、これで良いのか何かに踊らされているのではという思いを強く持っていた者も多くいて。
その時はまだ、ゾフィーのお爺ちゃんであるところの先代の国王陛下も健在であったため、そして真相は明かされなかったが、孫がいなくなったことに慌てる様子も見せず……とすれば、国王自ら画策、少なからず何らかの関与をしているという事は王女は敵対する者に始末されたという事ではない。
失踪なんて逃げてしまうことは王族としてはあるまじき責任放棄で追及されれば窮地に立たされても致し方ないところだったが、王女派の人間でさえそこは胸を撫で下ろしたのだ。
全てがホントに、王女というピース一つ無くなっただけで、こんなに上手く収まるものかというほど、静かに落ち着いて行った。
ただ一人だけ納得も安堵もしていない、混乱と怒りに突き落とされた人間が居た。
ハロルド=ステファン。
ジョバンニ=カスティーリャ、と名乗っていた男。
カスティーリャは王女のミドルネームだが、元は御母堂の故郷の名である。それを自分の名前にした。彼の執着がよく分かる。
彼女と彼の婚約は大人たちの政略的な思惑だったが彼にとっては忌むべきものではなく歓迎すべきものだった。
彼は前世の記憶を持っており、目の前の人と生まれる前にどういう約束を交わしたか分かっていたから。
「そういうのって分かるの?」
「分かるものらしいね」
異世界からの転生者だというのは本当だった。
その時彼らは男同士で、その国ではそれは悪いこととされるものだった。
「で、来世で幸せになろうねと誓い合ったらしいんだが」
そう。
「私は女に生まれたし」
その事は微妙で。
彼は現世でもどうやら同性愛者で。
この、魔法のある世界では、性転換も簡単ではないが比較的出来るもので。偏見もないし。向こうの世界でも難しいが出来ないことではなかったな。
「女である事もそれなりに気に入ってるし」
男になって欲しい。
どんどん拗れていく。
彼も訳分かんなくなってたんじゃないか。
「前世が不遇だったから何かのご褒美の気がしたのかな」
「貴族で、何もかもに恵まれて、しかも前世で結ばれなかった恋人が許嫁として目の前に居ればね」
「出来なかったこと、許されなかったことが全て叶うと思ったんだろう」
ゾフィーを国王にしたい。
男にもしたい。
ローデンハイムのような男子が優遇される大国がお隣で、そういう国の方が多いのも確かだったので、女王では侮られると言う理由もこじつけられた。性転換した国王ってどうなのよ? って思わない事もないけど。性転換した方々ごめんなさい。
弟君を国王にしたくて暴走していた人々にも彼女が女であるということは良い言い訳になった。なってる?
「私も最初は、小さい頃は前世の記憶あったんだけどね」
頭が良い悪いとか、魔力が多い少ないは関係ない。
現世を生きる中で忘れていくものだ。忘れないと生きられない。頭の良い人ほど混乱するものなのかも知れない。
でも彼は忘れなかった。
忘れなくても、現世との折り合いを着けれられれば良かったのだが。
彼にとってそれは難しく。事ある毎、彼女の記憶を呼び戻そうとした。いつしか、会う時には前世ではこうだったという話しかしなくなり、それはお互いに苦痛になり。
「関係を終わらせることだけ考えるようになった」
彼女は。
姿を消す事で弟に王位継承権を与え。
「渡りに船だったよ」
王位継承権を放棄するということは、彼からハロルド=ステファンから逃げられるということでもあった
彼女は全てをリセットすることに成功した。
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