処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!

みかぼう。

文字の大きさ
8 / 34
第1章

第7話 沈黙の会議室

(エリアナ視点・王都の会議室)

 会議室に入った瞬間、空気の重さが分かった。重厚な扉が閉まる音が、少し遅れて反響する。

 高い天井。磨かれた長机。席に着いた貴族たちの視線は、静かだが、様々な思惑が渦巻いていた。

 エリアナは一礼してから、用意された席に着く。王都での会議に慣れていないわけではない。それでも、今日は少し違った。地方視察の報告。それが議題であることは分かっている。

 ――聞かれるのは、内容だけではない。

 誰が、どう語るのか。どこに重きを置くのか。そういう場だと、エリアナは理解していた。

◇◇◇

「では、公爵令嬢エリアナ。地方視察について、報告を」

 司会役の貴族が、淡々と促す。エリアナは立ち上がり、軽く息を整えた。

「はい」

 声は落ち着いていた。意識して、感情を抑える。

「今回視察した町では、市が立ち、周辺の村からも人が集まっていました。表向きには活気があり、交易も続いています」

 何人かが頷く。

「一方で、物流の遅れが出ています。倉が詰まり、荷下ろしに時間がかかっているという声がありました」

 手元の書類に視線を落とし、数字を確認する。

「人口は微増。ただし、季節ごとの変動が大きく、安定しているとは言い切れません」

 淡々と、事実だけを並べる。父から教えられた「線」を越えないよう、慎重に言葉を選んでいた。

 活気がある。余裕があるとは言っていない。
 苦しい。だが、破綻しているとも言っていない。

 その線を、慎重に歩く。

「町の人々の声は、多様でした。現状に不満を持つ者もいれば、今は耐えるべきだと考える者もいます。いずれも、生活の延長として出ている声だと感じました」

 言い切らず、そう添える。

◇◇◇

 最初は、静かだった。誰も遮らない。誰も笑わない。報告としては、整っている。だが、質疑に入った途端、空気が変わった。

「確認ですが」

 一人の貴族が、指を組んだまま口を開く。

「つまり、不満は蓄積している、と?」

 エリアナはすぐには答えなかった。

「不満という言葉で一括りにするのは、難しいかと」
「では、統制の問題ではありませんか?」

 別の声が重なる。

「物流の遅れ、人口の流動。地方の管理が追いついていないのでは?」

 問いは穏やかだが、意図が隠されている。あたかも「不備があるから、中央が介入すべきだ」と誘導されているかのような違和感。

 エリアナは、視線を上げた。

「現地では、管理が及ばないというより、変化の速度に追いつこうとしている、という印象を受けました」
「変化、ですか」

 誰かが小さく繰り返す。

「地方の期待が、過剰になっている可能性は?」

 その言葉に、わずかなざわめきが走る。

 エリアナは、一拍置いた。ここで強く否定すれば、感情的に見える。肯定すれば、現地の声を切り捨てることになる。

「少なくとも、現地では、“変えたい”という声が、生活の延長として出ていました」

 それ以上、踏み込まない。説明も、擁護も、しない。そうすることが、父の言う「正しい在り方」だと信じていたから。

◇◇◇

 沈黙が落ちた。短いが、確かな間。

 誰かが書記を見る。ペンが、紙の上を走る音が、やけに大きく聞こえた。

 エリアナは、視線の動きを感じたが、気に留めなかった。必要なことは、言った。余計なことは、言っていない。

 そう思っていた。だが、空気は微妙に変わっていた。誰も直接は言わない。だが、視線の動きや、わずかな間の取り方が、一つの評価を、静かに行き渡らせていく。

 若い。現場に近い。感情が入っている。

 そんな受け取られ方が、言葉にならないまま、場に残った。そしてそれは、エリアナの預かり知らぬところで「政治的なラベル」として彼女の背中に貼られていく。

◇◇◇

「地方の発展は、王国全体にとって重要です」

 王太子アレクシスが、ゆっくりと視線を巡らせてから口を開いた。感情を煽るでも、誰かを責めるでもない。いつも通りの、穏やかな調子だった。

「短期的な安定だけでなく、中長期的な成長を考える必要があります」

 アレクシスが言葉を尽くしている。エリアナには、アレクシスの真摯な思いがよく分かった。

 だが、周囲の反応は薄かった。彼の言葉は正しい。正しすぎて、この政治的な駆け引きの場では、何の重みも持たずに空転していた。頷く者はいる。しかし、議論は広がらない。どこかで、「その話は、今ではない」という空気が漂っていた。

◇◇◇

 宰相は、発言しなかった。席に深く腰掛け、表情を変えずに、全体を見ている。エリアナの報告も、質疑の応酬も、王太子の言葉も。すべてを、等距離で。

 その瞳は、獲物が網にかかるのを静かに待つ蜘蛛のようだった。エリアナが「正しさ」を語れば語るほど、彼女を追い詰めるための糸が強固に張り巡らされていくことに、彼女は気づかない。

 やがて、宰相が一言だけ告げる。

「報告は、受け取りました」

 それだけだった。評価も、結論も、ない。会議は、そのまま次の議題へ移る。

◇◇◇

 会議が終わり、席を立つ。廊下に出ると、張りつめていた空気が、少しだけ緩んだ。

 エリアナは、深く息を吐く。

 ――うまくいった、はず。必要なことは伝えた。偏ってはいない。

 そう思っていた。しかし、解散する流れの中から、小さな声が耳に入った。

「……地方寄りだな」
「若いからな」
「感情が入るのも無理はない」

 それらは、悪意ではなかった。ただの評価だった。だが、その評価は、静かに残る。

 王太子が、少し遅れて追いつく。

「……気にすることはない」

 そう言われ、エリアナは小さく笑った。

「はい。私も、そう思っています」

 その言葉に、嘘はなかった。これが後にどのような罪の形となって返ってくるのか、知る術もなかったから。
感想 0

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ

夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」 華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。 王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている―― そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。 婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。 けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。 距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。 両思いなのに、想いはすれ違っていく。 けれど彼は知っている。 五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、 そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。 ――我儘でいい。 そう決めたのは、ずっと昔のことだった。 悪役令嬢だと勘違いしている少女と、 溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。 ※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。