29 / 29
第2章
最終話 新しい朝、変わらぬ誓い
しおりを挟む
(エリアナ視点・王都近郊)
王都の門が再び開いたとき、外を埋め尽くしていた数千の民は、一斉に固唾を呑んでその行方を見守った。夕闇が迫る中、門の奥から現れたのは、松明の炎に照らされた二人の姿だった。
正装を纏ったエリアナと、その隣で彼女に歩調を合わせるアレクシス。二人が請願団の前に立ち止まると、重い静寂が広がった。
「……皆さま、お待たせいたしました」
エリアナの声は、夜の冷気に溶け込み、けれど隅々まで明瞭に届いた。
「皆さまの願いは、正しく聞き届けられました。物流の復旧、そして地方の再建…… これらはすべて、王太子殿下と宰相閣下の名において、最優先事項として約束されました」
一瞬の静寂の後、それは起きた。歓声というにはあまりに重く、嗚咽というにはあまりに力強い、数千人の安堵が夜の空気を震わせたのだ。
先頭にいたあの若者が、信じられないものを見るような目でエリアナを見つめ、それから力なく笑った。
「……本当に、やりやがったんだな。」
彼は一歩前へ出ると、エリアナの前に膝をついた。それは貴族への儀礼ではなく、自分たちを救った「象徴」への、心からの敬意だった。
「……私たちと共に最後まで歩んでくださったこと、心より感謝いたします、エリアナ様」
ループ前、彼らの言葉は絶望で象られていた。けれど今は、その言葉が揺るぎない絆の証となった。
エリアナは微笑み、彼の手を優しく取った。
「ええ。約束しましたもの。……私はこれからも、皆さまが愛するこの国を、皆さまと共に守り続けると」
アレクシスもまた、民衆に向けて宣言した。
「皆の勇気に感謝する。……明日からは、武器の代わりに希望を持って、それぞれの町へ戻ってほしい。君たちが作りたい未来を、今度は私が、王宮から支えよう」
その夜、王都の門の外には、温かい焚き火がいくつも灯った。それはかつての「反乱の火」ではなく、新しい時代を祝う「希望の灯火」だった。
◇◇◇
数日後。王宮の喧騒から離れた公爵家の庭園で、エリアナは一人、風に吹かれていた。お茶会の準備が整い、いつものようにミレーヌが静かに歩み寄る。
「エリアナ様、殿下がお見えになりました」
振り返ると、そこにはダニエルを伴ったアレクシスがいた。ループ前には決して見ることのできなかった、身分も立場も超えて一つの目的を成し遂げた「チーム」の姿がそこにあった。
「お父様は?」
「閣下は今、宰相閣下と新しい物流網の図面を囲んでおられます。……お二人とも、随分と熱くなっておいででしたよ」
ダニエルが少し愉快そうに報告する。エリアナは、ようやく心からの安らぎを感じていた。
父・ルーカスは、公爵としての重圧を分かち合う「共闘者」を得て、ミレーヌとダニエルは、暗殺や消息不明という運命を回避して、今ここにいる。
そして、
「エリアナ。……改めて、礼を言わせてほしい」
アレクシスが彼女の前に立ち、その手を取った。
「君が私を、そしてこの国を信じてくれたから、私は今日ここに立っていられる。 ……これから先、険しい道もあるだろう。だが、君がいれば、どんな苦難だって越えていける」
「……ふふ、お上手ですわね、殿下」
エリアナは微笑み、彼に寄り添った。
ふと、視線の先に赤いバラの花が咲いているのが見えた。ループ前の最後に見た、あの断頭台に咲いた「血の花」を思い出す。
けれど今の彼女にとって、その色はもう恐怖の象徴ではなかった。それは、夜明けを告げる太陽の色であり、情熱を持って生きる人々の鼓動の色だ。
「……さあ、行きましょうか」
空は高く、どこまでも澄み渡っていた。
ーーfin.
王都の門が再び開いたとき、外を埋め尽くしていた数千の民は、一斉に固唾を呑んでその行方を見守った。夕闇が迫る中、門の奥から現れたのは、松明の炎に照らされた二人の姿だった。
正装を纏ったエリアナと、その隣で彼女に歩調を合わせるアレクシス。二人が請願団の前に立ち止まると、重い静寂が広がった。
「……皆さま、お待たせいたしました」
エリアナの声は、夜の冷気に溶け込み、けれど隅々まで明瞭に届いた。
「皆さまの願いは、正しく聞き届けられました。物流の復旧、そして地方の再建…… これらはすべて、王太子殿下と宰相閣下の名において、最優先事項として約束されました」
一瞬の静寂の後、それは起きた。歓声というにはあまりに重く、嗚咽というにはあまりに力強い、数千人の安堵が夜の空気を震わせたのだ。
先頭にいたあの若者が、信じられないものを見るような目でエリアナを見つめ、それから力なく笑った。
「……本当に、やりやがったんだな。」
彼は一歩前へ出ると、エリアナの前に膝をついた。それは貴族への儀礼ではなく、自分たちを救った「象徴」への、心からの敬意だった。
「……私たちと共に最後まで歩んでくださったこと、心より感謝いたします、エリアナ様」
ループ前、彼らの言葉は絶望で象られていた。けれど今は、その言葉が揺るぎない絆の証となった。
エリアナは微笑み、彼の手を優しく取った。
「ええ。約束しましたもの。……私はこれからも、皆さまが愛するこの国を、皆さまと共に守り続けると」
アレクシスもまた、民衆に向けて宣言した。
「皆の勇気に感謝する。……明日からは、武器の代わりに希望を持って、それぞれの町へ戻ってほしい。君たちが作りたい未来を、今度は私が、王宮から支えよう」
その夜、王都の門の外には、温かい焚き火がいくつも灯った。それはかつての「反乱の火」ではなく、新しい時代を祝う「希望の灯火」だった。
◇◇◇
数日後。王宮の喧騒から離れた公爵家の庭園で、エリアナは一人、風に吹かれていた。お茶会の準備が整い、いつものようにミレーヌが静かに歩み寄る。
「エリアナ様、殿下がお見えになりました」
振り返ると、そこにはダニエルを伴ったアレクシスがいた。ループ前には決して見ることのできなかった、身分も立場も超えて一つの目的を成し遂げた「チーム」の姿がそこにあった。
「お父様は?」
「閣下は今、宰相閣下と新しい物流網の図面を囲んでおられます。……お二人とも、随分と熱くなっておいででしたよ」
ダニエルが少し愉快そうに報告する。エリアナは、ようやく心からの安らぎを感じていた。
父・ルーカスは、公爵としての重圧を分かち合う「共闘者」を得て、ミレーヌとダニエルは、暗殺や消息不明という運命を回避して、今ここにいる。
そして、
「エリアナ。……改めて、礼を言わせてほしい」
アレクシスが彼女の前に立ち、その手を取った。
「君が私を、そしてこの国を信じてくれたから、私は今日ここに立っていられる。 ……これから先、険しい道もあるだろう。だが、君がいれば、どんな苦難だって越えていける」
「……ふふ、お上手ですわね、殿下」
エリアナは微笑み、彼に寄り添った。
ふと、視線の先に赤いバラの花が咲いているのが見えた。ループ前の最後に見た、あの断頭台に咲いた「血の花」を思い出す。
けれど今の彼女にとって、その色はもう恐怖の象徴ではなかった。それは、夜明けを告げる太陽の色であり、情熱を持って生きる人々の鼓動の色だ。
「……さあ、行きましょうか」
空は高く、どこまでも澄み渡っていた。
ーーfin.
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる