リズエッタのチート飯

10期

文字の大きさ
46 / 149

★交渉

しおりを挟む



 



 ガレリオ・バーベイルとただの商人であるスヴェンは一つのテーブルを挟み、向かい合わせに座っていた。
 この場にリズエッタが居ないのはガレリオからすれば取引相手のヨハネスの孫に気を使ったものであり、スヴェンからすれば一々口を挟む邪魔者を隔離したに過ぎない。

「この度は食事だけではなく、こちらに宿泊までさせて頂き感謝致します」

「いや、今後とも貴公等には世話になる。 これくらいはさせてもらわんと」

 余計なことをと内心スヴェンは考えているが顔には出さず、お気遣いありがとうございますと単調に答えた。
 もし仮に街の宿を取れたのならば食事は乾飯とお湯だけでも美味い飯が食え、厨房を借りることが出来たらもっとマシな食事をとることが出来ただろう。ガレリオの行為はどうしてもリズエッタの作る料理の虜になっているスヴェンからしてみればありがた迷惑でしかなかった。

 ガレリオからすればスヴェンが運ぶ貨物はそれこそ宝の山。下手な宿泊先に止めて街の人間、はたまた騎士や冒険者に個別に商売をさせない為、そして何よりリズエッタを通してヨハネスに恩を売る為である。その行為がから回っていることをガレリオは知るすべは無いが、普通に考えれば平民や商人が領主の屋敷で食事をし宿泊するなんて滅多に無い事であり、リズエッタやスヴェンに邪険にされるような行為では無い。

 互いの思考が交錯する最中、にこやかに口を開いたのはガリレオの方だった。

「して、今後何れ程の亜人を用意した方が良いだろうか」

「ーーそうですね」

 今回ガリレオから買った亜人は二人、そのうち一人は片腕がない。そして何より彼女達がすぐに働けるほど健康な状態とはいえなかった。
 となると健康な状態にし仕事を覚えさせるのが一ヶ月から二ヶ月、その間にまた新たに亜人を追加するのはヨハネスやレド、リズエッタの負担になり兼ねない。一旦あの二人に仕事を覚えさせその後から追加した方が無難だろう。

 人数も多すぎては駄目だ。
 下手に多くすればリズエッタに逆らう輩も出てるかもしれない。それならば少人数づつ増やしていき徐々に拡大してく方が安全だ。

「取り敢えず少人数づつ用意してくださると助かります。 いきなり増えても管理しきれませんので」

「ならば此方から従者を送っても良いが」

「いえ、その方達を泊める場所も食事も用意出来ませんのでご遠慮致します」

 本音を言うのならば領主側の人間を彼処に、庭に入れたくはない。
 リズエッタの許可がなければ出入りできない場所だが、さすがに其処に信頼出来ない人間を住まわすなどもってのほか。
 売られた亜人は帰る場所すらあるのかも分からない者達故に、最悪庭に閉じ込めておくいう手段もとれるが人はそうはいかない。ましてやリズエッタ以外に主人をもつ人間など例外だ。いつ裏切るか分かりゃしない。

 しかしながら領主としては大量に生産してもらいたいという思いもあり、そう簡単にひくことはなかった。それに断るということは領主を信頼していないという事にも繋がってしまうのである。ならばその信頼をより深いものにする行動をとることが最善だとスヴェンは考えた。

「ーー領主様、大変恐縮ですがひとつお願いを聞いてはくださりませんか?」

「何だ、申してみろ」

「ーー今後もし、他の貴族や商人達が私どもに取引を求めてくるかもしれません。 その時は領主様からそのもの達に手を引くようにと声をかけて頂きたいのです」

 商人であるスヴェンからしたら取引先を多く持つのは大変好ましい。けれどそのせいでいちいち遠出までして、わざわざ不味い飯を食べるのは嫌だった。何よりグルムンドやダンジョン、領主にものを卸せばそれだけで十分に生きていける金は手にはいり、わざわざ他の商人に喧嘩を売るように手を広げることは無い。
 現に今まで騎士団に卸していた商人からすればスヴェンはその取引先を奪い、恨まれる可能性は十分にある。
 ならばガリレオ・バーベイルと言う後ろ盾を使わないことは無いのだ。

「貴公はそれでいいのかな? 折角の儲け話だろうに」

「儲けよりも平和に暮らせたら満足なんです」

 なんて台詞はリズエッタの庭があるから言える言葉なのだが、確かにそうだった。

 リズエッタは誰よりも自身の幸せを、家族の幸せを願い、これまでの儲けは殆ど貯蓄に回している。アルノーの将来のためにもとまた個別に貯蓄をし、彼女がする贅沢と言えば生活に欠かせない鍋やナイフを厳選して選んで買うことと、今回のような特別な時に着る洋服を買うことくらいだ。
 ときよりそれでは余りにも可哀想だとヨハネスが可愛らしいスカートや髪留めをスヴェンに頼み買ってきてもらうが、服を買うならズボンにしろと髪留めなんてそこらへんの枝で十分だと言って洒落っ気もない。

 唯一リズエッタがお金を出してでも欲しいと思っているのは亜人の奴隷くらいであり、それはガリレオがいれば事足りる。
 故にこれ以上の取引先は要らないし、これ以上無駄に働きたくないのが本音中の本音なのだ。


 一方ガリレオはスヴェンのその申し出に歓喜していた。

 それを望んでいるのならばと表情を変えずに頷き、テーブルの上の紅茶を手に取り口に含む。

 いくら亜人を用意したところで元となる素材は限られた量しか獲れないとガリレオは考えていた。干し肉に使うファングにしても延々と狩り続けられる程の群れがエスター付近にいるとは限らず、ドライフルーツ用の果物も季節によって収穫できるものは変わってくる。故にスヴェンがより多くの取引先を持つことは、ガリレオにとっては危惧すべき物事の一つだと言えたのだ。
 それをスヴェンの方からガリレオのみのと取引を望むと言われればそれを断る理由もなく、むしろ他の貴族、商人に圧力をかけても彼等からは感謝しかされない。

「もし領主様でも断りきれない相手が出てきた場合は、なるべく間に入って頂けると助かります。 何せ私は元は冒険者、商人として生きてきたわけでは御座いません。 きっと騙され、いいように使われるのがオチです」

「よろしい、貴公に不利益にならぬよう善処しよう」

 ガリレオ・バーベイルは此の国、アリエスゲーテでは名の通った伯爵だ。そんな彼が断りきれない相手は公爵や侯爵、王族に限られる。それを見越してスヴェンは頼んでいる訳ではなかったのだが、ガリレオはそのもの達に判断を良しとし、スヴェンに対して中々できる商人だと誤認識する事になってしまったのである。




 今この場で互いの思考が交わりかわされた約束は後に十分に果たされ、スヴェンを始めリズエッタまでもが貴族の後ろ盾ほど有難いものはないとガリレオに感謝するようになるのである。






しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

兄の親友が彼氏になって、ただいちゃいちゃするだけの話

狭山雪菜
恋愛
篠田青葉はひょんなきっかけで、1コ上の兄の親友と付き合う事となった。 そんな2人のただただいちゃいちゃしているだけのお話です。 この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...