リズエッタのチート飯

10期

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オベントウ

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 我が家の食事はいつだって一般家庭より豪華で美味い。

 栄養面だってそこらの貴族王族に負けないほど良いだろうし、寧ろ品種改良されていてなお美味しく栄養のある野菜をとってる私達の方が心身ともに健康だと胸を張れる。

 だがしかし、今後は食肉に限ってはいつでも食べたい時に、とは言い切れなくなりそうなのが現状である。
 少なからず庭での酪農・畜産がうまくいくまで、食べる肉の量を抑えていかなくてはならない。いくら祖父がファングを大量に狩っているとはいえ、狩れる数は限られているのだ。
 家のそばの森からファング自体がいなくなってしまったらそれこそ大問題だし、いくら繁殖能力が高いファングでも狩り尽くしていいとはいえないのである。



 ということを前提に考え、私は孤児達へのお弁当の内容を少し変えることにした。
 前までは唐揚げ、骨つき肉、卵焼き等々、限りのあるものもおかずとして用意してきたが、今度からは腹持ちを重視し、尚且つ市場で買える魚をメインにしよう思っている。とは言ってもいきなり肉をなくすのはあんまりなので、たまぁに入れてやるつもりでもいる。

 そして本日のメニューはもち米を入れた筍ご飯と五目ご飯のおにぎりと、白飯の中に海苔の佃煮を入れたおにぎり。
 デザートの代わりに鬼まんじゅうだ。


 メニューが決まったところでシャンタルとパメラを呼び、私達は調理に取り掛かる。
 毎日新しい亜人達の世話に追われる二人には悪いが私だって五十人以上の飯を一人で作れるはずもなく、こうして二人の手を借りることが多くなってきたのだ。レドに手伝ってもらうのが一番手際がいいのだが、一番ここで権力のあるレドには亜人達を監視、管理してもらうのが一番いい。その方が彼らも誰が一番発言力を持っているのか理解するだろう。

 まずはじめに筍御飯の主役である筍をアク抜きし、くし形に切る。
 ほかの具は鶏のミンチを醤油とみりんで炒めたものを入れるだけとシンプルなものとし、筍本来の味を楽しむつもりだ。
 ご飯を炊く時は事前に浸しておいたもち米も混ぜ、醤油と味醂、しいたけと昆布で作っただしを入れ、具である筍と鶏そぼろを混ぜて炊く。

 五目ご飯に鶏モモとしめじ、人参とこんにゃく、牛蒡を具として用意した。
 こんにゃくは勿論庭でできたこんにゃくイモを使って作ったものなのだが、それを作る過程でうっかりティグルが生のまま口にし悲惨な事になったのは別の話としよう。

 こちらも筍御飯と同じようにコメの入った釜に醤油、酒、味醂、砂糖、出汁を加え、具材を加えて後は炊くだけど。
 いつもよりも香ばしい、少し焦げたようなにおいが鼻孔をくすぐり、グゥとお腹が小さくないた。

 後一種類のおにぎりは作り置きの海苔の佃煮を白飯に入れるだけなので、炊くのに手間はかからない。しかし海苔も海で採れる海藻に手を加えているものでそうは多く無いので、今回は朝食には出さずおにぎりだけの具としよう。







「さて次は朝食の準備だ! あ、今後ご飯を作る際はお肉を抑えて魚多めで! そしてご飯かパンをつけること! いいね? んじゃシャンタルは干し魚を焼いて、パメラは私と一緒におにぎり握って!」

 ある程度時間が経ちご飯が炊けたところで、私達は次の作業に取り掛かった。

 シャンタルが焼き始めた干し魚は市場で大量買した魚を庭で開き、天日干しにしたものだ。
 塩水に浸してからの水切り、天日干しと少々手間がかかっているかこれがまた美味い。
 塩味のきいた魚はご飯がとても進むのだ。
 魚の種類や大きさもまちまちだが、うちの庭でしか食べられない魚料理といっても過言ではないだろう。

 シャンタルが網で魚を焼き始めれば香ばしいにおいが辺りに広がり、ちょろちょろと顔を出してくる亜人が現れ始める。
 彼らは一定距離を開けて近づくことはないが、ミランがちゃっかりと自分で五目ご飯をよそい食べ始めると次から次へと茶碗を持って列をなす。
 分けてやる暇は無いぞとしゃもじを渡せば、挙動不審になりながらも誘惑に負けきれず山盛りにご飯を盛って席についてがっついた。

 他のおかずはまだ用意できていないのに、五目ご飯ならばそれだけで構わないようである。
 炊いた米の量は一升炊き釜五つ分。
 白飯一釜。筍ふた釜。五目ご飯ふた釜。
 単純計算で百六十人前は炊けている。

 これだけ炊けば一日は持つだろうと思っていたが、この食いつきじゃ持たないかもしれない。

 急遽きゅうりと茄子の浅漬けを大量に作りテーブルに出し、ミランに頼んで大量のフルーツも用意してもらってそれらも食べて腹を膨らませるように考慮した。

 そうこうしているうちに魚は焼き上がり、大皿は山盛りになっていた。本当は個人個人のお皿に用意してあげたいのだが、今はまだ全て揃っていない。なので大皿で我慢してもらうしか無いだろう。

 必死におにぎりを作り終えたところで筍の葉に包む作業へパメラは移り、私はデザートの準備に取り掛かる。

 材料はサツマイモと小麦と砂糖と水、少しの塩だけ。
 蒸籠に布を敷き、サツマイモの角切りを混ぜた手のひらサイズの生地をのせて蒸すだけの簡単蒸しパンだ。

 お弁当用なので数は多く無いのだが、後ろでそれをじぃっと睨んでいるシャンタル達の分は余計に作っておくことは忘れずに。
 仕事に対価は必要なのだ。



 私は鬼まんじゅうを蒸している間に味見用に小さめに作ったおにぎりをパクリと口に頬張り、ゆっくりと咀嚼する。

 筍御飯は筍のシャクシャクとした歯ごたえと独特の旨味がねっちりとしたお米にマッチし、鶏そぼろの肉の出汁も染み込んでいてなお美味しい。

 五目ご飯はしめじや牛蒡の深みのある味と鶏肉の油の旨味、時折ぷにっと歯を弾くこんにゃくがアクセントになっていていろんな味と食感があり美味い。

 海苔の佃煮を入れたおにぎりは最初はお米本来の甘さが口に広がり、佃煮が出たところで甘さとしょっぱさが混じり合う。
 味の濃い佃煮を白飯が薄め、いい塩梅に美味さだけ引き立てている逸品ともいえよう。

「うまぁーー。 ってミランどうしたの?」

 モグモグとおにぎりを食べていれば、お椀を持ちながら私の隣に並んでいたのは鳥人ミランだ。
 どうしたのと首をかしげると"焦げたの、食べたい"とだけ口にし、何故か視線は蒸籠へと向かっている。
 きっとお焦げの部分を言っているのだなとしょうがなくその部分を釜から掘り出し分けてあげるも、視線はその先の蒸籠へ向かったままだ。

「もしかして、あれも食べたい感じ?」
「ーーみんな、食べたい。 駄目か?」

 私が問いかけるとようやく視線をこちらに向け、コテンとミランは首を傾けた。
 みんな、というのがミランだけではなく他の亜人を指す言葉だとしたら、どう考えても量が足りない。
 私が首を横に振りこれはあげられないと拒否の言葉を吐くと、ミランだけではなく周りの亜人達からも小さな息が漏れるのがわかった。

「これはあげられないけど、あとでおやつ作ってあげるよ。 あまーいやつ! みんなの分も作るとなると手が足りないんだけど、手伝ってくれる?」
「ーーっもちろん、だ!」

 おやつ楽しみ! と目を輝かせたミランに倉庫にある黒糖と片栗粉と小豆の準備と、大豆の収穫を頼み、後でねと指切りを交わした。





 その後残りの亜人達やレドにも朝食を食べてもらい、私はひたすら籠へお弁当を敷き詰めていく。若干形の悪いものも出てきそうだが、文句は言わせない。
 籠の上へ布で包んだ鬼まんじゅうをそっと乗せれば、出かける準備は完了だ。

「シャンタル、パメラ! これ今日のお駄賃、鬼まんじゅうね。 二つずつあるからゆっくりお食べ」
「オニマンジュウ! ありがたく頂く!」
「フワフワですね! 美味しそう!」

 まだ暖かい鬼まんじゅうを手渡せば嬉しそうに二人は笑い、それを悔しそうに見ているティグルとレドの顔が見える。
 そんな二人にミランは後でおやつがあると教えたようで、二人は尻尾を垂らしながらも渋々諦めたようだ。


 私も自分へのご褒美と鬼まんじゅうを一つ口にし、その甘くもっちりとした食感を楽しみながら急いでお弁当を売りに駆け出した。




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