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第11話ー3
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ベルの耳にも、甲板上からの声が聞こえてくる。
「げっ、なんだコレ!」
女の声だった。
カンクロ語故にベルには理解出来ないが、次に犬の鳴き声が聞こえて来て、声の主はメスのカーネ・ロッソだと察する。
「とりあえず、この財宝はハナ号に!」
「そうだな!」
と、現在いる船倉内の大量の財宝を「ふんっ」と魔法で持ち上げたハナ。
付かず離れずの距離を保って付いてきているはずのハナ号に、テレトラスポルトした。
上甲板に財宝を置き、間髪入れずテレトラスポルトでベルのところに戻る。
猫耳が痒くなる程にけたたましく鳴り響く犬の鳴き声に、船倉内の船員たちが目を覚まし出したところだった。
ここでまた魔法を使って眠りや麻痺、石化させる余力は無く、今度は別の意味で眠ってもらう。
「うっにゃあぁぁぁあっ!」
と気合の入った猫の鳴き声と共に、ハナが拳で船員たちを失神させていく。
時に壁を走り、時に飛翔して空中から蹴りを入れたりと、その優れた運動能力にベルは「なんと……」と感嘆する。
「フラヴィオ様やフェーデ様、ドルフ様のような運動能力を持つモストロがいるとは……びっくりです」
「いやいや、それ逆だから。びっくりはフラビーたちの方だから」
天井――甲板上――からメスのカーネ・ロッソの声が聞こえてくる。
「わわっ、そこのネコムスメ何やってる!」
ハナはベルに「ここにいろ!」と言うなり、右拳を突き上げながら飛び上がった。
それは船倉内に飛び降りようとしていたカーネ・ロッソの顎に命中し、共に上空へと突き上げていく。
「ぎゃいぃぃぃん!」と犬の鳴き声が響いた。
ハナが甲板上を見下ろすと、そこには目を覚ました船員や、船倉から登って来た船員たちで埋め尽くされていた。
「――こいつ!」
赤い犬の耳と尻尾を、ピンと立たせ。
口を閉じていても見える、大きな牙を剥き出しにし。
肩まである茶色の髪を逆立てた、メスのカーネ・ロッソ(外見年齢20歳前後)が、宙で身を翻して体勢を立て直した。
ハナの首筋に噛みつこうとしたがバッリエーラに弾かれ、横っ面にハナの拳を食らって甲板上の船員に衝突する。
今度は「ぎゃん!」と鳴き声を響かせた。
一方、ハナが両足を揃えて甲板に降り立つと、武器を構えていた船員たちが警戒して後退って行く。
「おまえら、海賊だな? ヴィルジネ国民を殺し、財宝を略奪したとなっちゃー、逃がしてやるわけにはいかないぞ!」
「うるさい! せっかく奪った財宝奪いやがって! 返せ!」
と、カーネ・ロッソが牙を向きながら甲高い声を上げた。
「さもないと、おまえこそ生かして返さないからな! 人間の女の臭いも一匹だけするが、それだけで勝てると思ってるのか、このバカネコ!」
「なんだと、このバカ犬! あたいらガットの半分しか魔力ないくせに、偉そうに! てか、あたいは王太子付きのガットだ! 並のガットよりも魔力があるのは当然、腕っぷしもないとなれないんだ! 舐めんなよ!」
とハナが構えると、カーネ・ロッソが両脇にいる船員の腕を掴んだ。
それを合図に、船員たちが近くにいる仲間の腕や肩を掴んで繋がっていく。
そしてカーネ・ロッソがバッリエーラを唱えると、船員たちを魔法の盾が包み込んでいった。
ハナが「ふん」と失笑する。
「魔力が低い分、ペラッペラのバッリエーラだな。いいのか、二重、三重にしなくて? あーそうだな、これだけの人数がいちゃーおまえ程度じゃ無理か。この船を推進させるだけでも結構な力使っただろうし、治癒魔法掛ける余裕無くなっちゃうもんな」
「うるさい! こいつらの仕事はおまえのバッリエーラを壊すこと! それだけならこれで充分! ヤロウ共、行けーっ!」
甲板上にいる100人を超える船員が武器を振り上げ、ハナ目掛けて吶喊する。
ハナは軽い足取りで、左右に、斜めに、宙にとひょいひょい避けながら、隙を見て反撃に出る。
一段目で鋭い爪を立てた左手で敵のバッリエーラを破壊し、二段目の右拳で殴り飛ばす。
すると、ごった返している甲板上の敵が将棋倒しになっていった。
「ハナ、今のは何の音ですか?」
と、船倉の梯子の下に立っているベルが問うた。
突如、ガラスを割ったような音が聞こえたのだ。
「これか?」
と、ハナが回し蹴りで3人のバッリエーラを破壊すると、3回連続して同じ音が聞こえた。
「バッリエーラが――魔法の盾が、割れる音さ」
「ふむ。人間の目には見えませんが、音は聞こえるのですね」
「そうなんだ。だから掛けられた回数と割られた回数は覚えておくといい――って」
またバッリエーラが割れる音がした。
「あたいも一枚割られた、くそぅ!」
ということは、ハナのバッリエーラはあと9枚だ。
それがすべて割れる前にと、ベルは梯子を昇って行き、船倉口から出る前に一度止まった。
「ハナ、私はまだ見ていない船倉を調べます」
「分かった、まだ略奪された財宝あるかもしれないしな」
ハナはちょっと待っているよう言うと、左舷最後方の周りにいる敵のバッリエーラを破砕し、倒していった。
「今だ!」のハナの合図の刹那、ベルは船倉口から出た。
中で倒れている船員が昇って来られないよう、右太腿に装備していた短剣で梯子の縄を切り落としてから、隣の船倉――左舷最後方――の梯子を降りていく。
そこには黒くて丸いものがあって、これは何かと一瞬考えた後に察した。
大砲は甲板上に2門しか確認出来なかったが、その砲弾は多数積まれているようだった。
他には無いようなので、すぐに梯子を登って行く。
「ハナ、隣に移ります」
「了解!」
とまたハナに周りの敵を倒してもらうと、ベルは隣の船倉――右舷、最後方――の梯子を降りて行った。
砲弾があれだけあったのだから、当然火薬も大量にあった――火薬庫だった。
他には無く、またすぐ梯子を登ろうとしたベルは、ふと思い止まった。
火薬樽をひとつだけ空け、転がしながら火薬を部屋中に撒いておく。
そして、またハナに同じことをしてもらい、次の船倉――右舷、後方から2つめ――に降りて行った。
「ハナ、バッリエーラはあと何枚ですか?」
「7枚!」
ベルは梯子の途中で飛び降り、すぐさま船倉内を調べる。
なんだか畑のこやしみたいな臭いがするなと思ったら、船底には藁が敷かれており、豚と羊が一頭ずついて擦り寄って来た。
困惑した。
「あ、あの……ハナ?」
「ああ、それ? 食用だよ。ほら、塩漬け肉ばっかじゃ飽きるだろ? どれくらいいる?」
「か、家畜も積むものなのですね…………豚と羊が一頭ずつです」
「んじゃ、テレトラスポルトでハナ号に帰る時、ぎりぎり連れて行ってやれるかな。これ以上、魔法を使わなければ、の話だけど」
その言葉の直後、バッリエーラの割れる音がした――「あと、6枚」
ベルは次の船倉――右舷・中央――に降りて行った。
天井付近――甲板裏――から吊り寝床が複数ぶら下がり、船底にはムシロが敷かれていた。
船員の人数からして明らかにここだけでは足りないが、寝室には間違いなさそうだった。
釣り寝床の方には何も無いようだったが、船底に敷かれたムシロや枕の下などを手早く確認していく。
「金貨やら真珠やらが複数出てきますね」
「おーい、ワンコロ。財宝かっぱらった奴らがいるってよー?」
とハナがカンクロ語で言うと、カーネ・ロッソが仰天した様子で犬の鳴き声を上げた。
「――どっ、どいつだコラァァァ!」
その怒声と共に、ハナのバッリエーラがもう一枚割れてあと5枚になった。
しかしその直後、ハナに襲い掛かっていた船員たちの動きがピタリと止まった。
困惑して見つめ合う者。
小刻みに震えている者。
動揺を隠すように「どいつだコラァ!」とカーネ・ロッソに続いて声を荒げる者。
素知らぬ顔をしている者。
やれやれと言った様子で呆れている者。
ハナの目には疑わしい人物の検討が付いたが、カーネ・ロッソは平常心を失った様子で顔を真っ赤にし、癇癪を起している。
「どいつだ、どいつだ、どいつだ! リージンの財宝盗んだ奴、どいつだ! 許さないぞ! リージンのだ、リージンの財宝だ! 返せ! 返せ! 返せ!」
「そのリージンて、おまえの名前か?」
「違う、船長だ! ホンファのご主人様だ!」
「ホンファがおまえの名前か?」
「そうだ! ホンファの名前がホンファだ!」
「ふーん?」
とカーネ・ロッソ――ホンファと会話しながら、ハナは船倉口まで登って来ていたベルに手で合図を出す。
身体を移動させ、ベルの姿を背面に隠しながら会話を続ける。
ベルは無事に次の船倉――右舷・前方から2つめ――に降りて行った。
「ホンファ、ちょっと訊く。おまえ、3年前にはもうリージン船長に飼われてたか?」
その問いに、それまでぎゃんぎゃんと喚いていたホンファがふと落ち着いた。
「3年前?」
と鸚鵡返しにし、片手を出して指を折りながら過去を思い出していく。
「えーと、リージンと一緒に夏を過ごすのは、いーち、にーい、さーん……だから、えーと、そうだ、ちょうど3年前から飼われてるぞ」
「この3年間に、数々の海賊行為をしてきたんだろうな」
とハナが言うと、ホンファが「そうだ!」と言って誇らしげに笑んだ。
「ホンファのご主人様は大海賊! ホンファ、頑張って魔法覚えて、色んな国の人間ぶっ殺して財宝略奪するの手伝った! すごいだろ!」
「ああ、凄いな」
「そーだろ、そーだろ! ホンファすごいだろ!」
と、ホンファがふんぞり返っている隙に、ベルは最後の船倉――右舷・最前方――へ。
ホンファの自慢話は続く。
「リージンに飼われて最初の仕事で、ホンファは大手柄を立てたんだ! だからホンファ、リージンにとっても可愛がられてる! え、どんな手柄を立てたのかって? 仕方ないな、教えてやるか! んっとな、すっげー遠くの国に、すっげー金持ちの、見つけるのも大変なくらい、すっげーちっちゃい宝島があってな?」
ハナの黒猫の耳がぴくりと動く。
「カプリコルノ島のことか?」
最後の船倉内を調べていたベルも反応する。
カンクロ語は分からなくても、『カプリコルノ』は容易に聞き取れた。
「そうそう、それ! 宝島カプリコルノ! 向こうの商船に、乗組員を全員連れてテレトラスポルトして、麻痺魔法かけて、皆殺しにして、財宝ぜーーーんぶ奪ってやったんだ! 知ってるか? あそこの国王とその側近、すっげー強くって、どんな海賊も皆殺しにされてきたんだ。でも、ホンファがやってやったんだ! すごいだろ! 所詮、人間なんて魔法に掛けちまえば、ちょちょいのちょいだ!」
とホンファが、さも愉快そうに哄笑する。
「いや、ホンファ……カプリコルノ国王フラヴィオ・マストランジェロ陛下と、その側近――フェデリコ・マストランジェロ閣下、アドルフォ・ガリバルディ閣下の3人は、その商船に乗ってなかったろ?」
『カプリコルノ』に加えて『フラヴィオ・マストランジェロ』、『フェデリコ・マストランジェロ』、『アドルフォ・ガリバルディ』の3人の名がベルの耳に届く。
ベルが梯子に手を掛けると同時に、ホンファの顔がムッとした。
「いや、乗ってたに違いない! リージンが次行ったらぶっ殺されるからって、もう向こう行ってないけど、そんな心配はいらないんだ! だって、ホンファが殺したんだから! すごいだろ!」
「あのな、ホンファ……その3人には、おまえ程度の麻痺魔法じゃ、まず通らないんだぞ? 麻痺魔法は闇属性で、ガット・ネーロの属性も闇だからあたいは大得意だけど、それでもあの3人には一瞬しか効かないんだから」
ギシ、ギシ、ギシ……――
梯子をゆっくりと登って来る音が、ハナの黒猫の耳に聞こえてくる。
ホンファがさらにムッとして甲高く怒号した。
「通るし、通った! ホンファ、フラヴィオ・マストランジェロたち殺した! すごいだろ! あんまりホンファをバカにするなよ、バカネコ!」
「あー分かったわかった、ホンファ……分かったから早く謝っとけ。ただ主に忠実なだけのおまえは、ちょっと救ってやりたいんだ。ほら、土下座しろ……は、早く!」
梯子を昇る音が止った。
真後ろから漂う気配に寒気を覚え、ハナの背筋を冷や汗が伝っていく。
ホンファの牙が剥き出しになった。
「ふざけるな! 土下座って、誰にだ! する相手なんかいないだろ! だってホンファ、リージンの命令通りにカプリコルノの奴ら皆殺しにしたんだから! そして財宝だって奪ってやったんだから! すごいだろ! へっ! ざまぁ、フラヴィオ・マストランジェロ! バーカバーカ! フラヴィオ・マストランジェロのブワァァァカ! 大したことないな、力の王なんて! フラヴィオ・マストランジェロの弱小王!」
「ああ、ホンファ……おまえ、もう、終わりだ――」
顔色無しになったハナが、ふと頭を抱えてしゃがみ込む。
するとその刹那、ハナの真後ろに立っていた人物から、びゅんと放たれたクロスボウの矢。
それは真っ直ぐにホンファの顔面へと向かって行き、その身を守っていた魔法の盾に命中した。
大きな破砕音が、辺りに響き渡る。
「――ぎゃうんっ!?」
目前まで迫って来た鏃に仰天し、ホンファが尻を付いた。
矢が飛んできた方――しゃがみ込んでいるハナの真後ろを見ると、それは立っていた。
「げっ、なんだコレ!」
女の声だった。
カンクロ語故にベルには理解出来ないが、次に犬の鳴き声が聞こえて来て、声の主はメスのカーネ・ロッソだと察する。
「とりあえず、この財宝はハナ号に!」
「そうだな!」
と、現在いる船倉内の大量の財宝を「ふんっ」と魔法で持ち上げたハナ。
付かず離れずの距離を保って付いてきているはずのハナ号に、テレトラスポルトした。
上甲板に財宝を置き、間髪入れずテレトラスポルトでベルのところに戻る。
猫耳が痒くなる程にけたたましく鳴り響く犬の鳴き声に、船倉内の船員たちが目を覚まし出したところだった。
ここでまた魔法を使って眠りや麻痺、石化させる余力は無く、今度は別の意味で眠ってもらう。
「うっにゃあぁぁぁあっ!」
と気合の入った猫の鳴き声と共に、ハナが拳で船員たちを失神させていく。
時に壁を走り、時に飛翔して空中から蹴りを入れたりと、その優れた運動能力にベルは「なんと……」と感嘆する。
「フラヴィオ様やフェーデ様、ドルフ様のような運動能力を持つモストロがいるとは……びっくりです」
「いやいや、それ逆だから。びっくりはフラビーたちの方だから」
天井――甲板上――からメスのカーネ・ロッソの声が聞こえてくる。
「わわっ、そこのネコムスメ何やってる!」
ハナはベルに「ここにいろ!」と言うなり、右拳を突き上げながら飛び上がった。
それは船倉内に飛び降りようとしていたカーネ・ロッソの顎に命中し、共に上空へと突き上げていく。
「ぎゃいぃぃぃん!」と犬の鳴き声が響いた。
ハナが甲板上を見下ろすと、そこには目を覚ました船員や、船倉から登って来た船員たちで埋め尽くされていた。
「――こいつ!」
赤い犬の耳と尻尾を、ピンと立たせ。
口を閉じていても見える、大きな牙を剥き出しにし。
肩まである茶色の髪を逆立てた、メスのカーネ・ロッソ(外見年齢20歳前後)が、宙で身を翻して体勢を立て直した。
ハナの首筋に噛みつこうとしたがバッリエーラに弾かれ、横っ面にハナの拳を食らって甲板上の船員に衝突する。
今度は「ぎゃん!」と鳴き声を響かせた。
一方、ハナが両足を揃えて甲板に降り立つと、武器を構えていた船員たちが警戒して後退って行く。
「おまえら、海賊だな? ヴィルジネ国民を殺し、財宝を略奪したとなっちゃー、逃がしてやるわけにはいかないぞ!」
「うるさい! せっかく奪った財宝奪いやがって! 返せ!」
と、カーネ・ロッソが牙を向きながら甲高い声を上げた。
「さもないと、おまえこそ生かして返さないからな! 人間の女の臭いも一匹だけするが、それだけで勝てると思ってるのか、このバカネコ!」
「なんだと、このバカ犬! あたいらガットの半分しか魔力ないくせに、偉そうに! てか、あたいは王太子付きのガットだ! 並のガットよりも魔力があるのは当然、腕っぷしもないとなれないんだ! 舐めんなよ!」
とハナが構えると、カーネ・ロッソが両脇にいる船員の腕を掴んだ。
それを合図に、船員たちが近くにいる仲間の腕や肩を掴んで繋がっていく。
そしてカーネ・ロッソがバッリエーラを唱えると、船員たちを魔法の盾が包み込んでいった。
ハナが「ふん」と失笑する。
「魔力が低い分、ペラッペラのバッリエーラだな。いいのか、二重、三重にしなくて? あーそうだな、これだけの人数がいちゃーおまえ程度じゃ無理か。この船を推進させるだけでも結構な力使っただろうし、治癒魔法掛ける余裕無くなっちゃうもんな」
「うるさい! こいつらの仕事はおまえのバッリエーラを壊すこと! それだけならこれで充分! ヤロウ共、行けーっ!」
甲板上にいる100人を超える船員が武器を振り上げ、ハナ目掛けて吶喊する。
ハナは軽い足取りで、左右に、斜めに、宙にとひょいひょい避けながら、隙を見て反撃に出る。
一段目で鋭い爪を立てた左手で敵のバッリエーラを破壊し、二段目の右拳で殴り飛ばす。
すると、ごった返している甲板上の敵が将棋倒しになっていった。
「ハナ、今のは何の音ですか?」
と、船倉の梯子の下に立っているベルが問うた。
突如、ガラスを割ったような音が聞こえたのだ。
「これか?」
と、ハナが回し蹴りで3人のバッリエーラを破壊すると、3回連続して同じ音が聞こえた。
「バッリエーラが――魔法の盾が、割れる音さ」
「ふむ。人間の目には見えませんが、音は聞こえるのですね」
「そうなんだ。だから掛けられた回数と割られた回数は覚えておくといい――って」
またバッリエーラが割れる音がした。
「あたいも一枚割られた、くそぅ!」
ということは、ハナのバッリエーラはあと9枚だ。
それがすべて割れる前にと、ベルは梯子を昇って行き、船倉口から出る前に一度止まった。
「ハナ、私はまだ見ていない船倉を調べます」
「分かった、まだ略奪された財宝あるかもしれないしな」
ハナはちょっと待っているよう言うと、左舷最後方の周りにいる敵のバッリエーラを破砕し、倒していった。
「今だ!」のハナの合図の刹那、ベルは船倉口から出た。
中で倒れている船員が昇って来られないよう、右太腿に装備していた短剣で梯子の縄を切り落としてから、隣の船倉――左舷最後方――の梯子を降りていく。
そこには黒くて丸いものがあって、これは何かと一瞬考えた後に察した。
大砲は甲板上に2門しか確認出来なかったが、その砲弾は多数積まれているようだった。
他には無いようなので、すぐに梯子を登って行く。
「ハナ、隣に移ります」
「了解!」
とまたハナに周りの敵を倒してもらうと、ベルは隣の船倉――右舷、最後方――の梯子を降りて行った。
砲弾があれだけあったのだから、当然火薬も大量にあった――火薬庫だった。
他には無く、またすぐ梯子を登ろうとしたベルは、ふと思い止まった。
火薬樽をひとつだけ空け、転がしながら火薬を部屋中に撒いておく。
そして、またハナに同じことをしてもらい、次の船倉――右舷、後方から2つめ――に降りて行った。
「ハナ、バッリエーラはあと何枚ですか?」
「7枚!」
ベルは梯子の途中で飛び降り、すぐさま船倉内を調べる。
なんだか畑のこやしみたいな臭いがするなと思ったら、船底には藁が敷かれており、豚と羊が一頭ずついて擦り寄って来た。
困惑した。
「あ、あの……ハナ?」
「ああ、それ? 食用だよ。ほら、塩漬け肉ばっかじゃ飽きるだろ? どれくらいいる?」
「か、家畜も積むものなのですね…………豚と羊が一頭ずつです」
「んじゃ、テレトラスポルトでハナ号に帰る時、ぎりぎり連れて行ってやれるかな。これ以上、魔法を使わなければ、の話だけど」
その言葉の直後、バッリエーラの割れる音がした――「あと、6枚」
ベルは次の船倉――右舷・中央――に降りて行った。
天井付近――甲板裏――から吊り寝床が複数ぶら下がり、船底にはムシロが敷かれていた。
船員の人数からして明らかにここだけでは足りないが、寝室には間違いなさそうだった。
釣り寝床の方には何も無いようだったが、船底に敷かれたムシロや枕の下などを手早く確認していく。
「金貨やら真珠やらが複数出てきますね」
「おーい、ワンコロ。財宝かっぱらった奴らがいるってよー?」
とハナがカンクロ語で言うと、カーネ・ロッソが仰天した様子で犬の鳴き声を上げた。
「――どっ、どいつだコラァァァ!」
その怒声と共に、ハナのバッリエーラがもう一枚割れてあと5枚になった。
しかしその直後、ハナに襲い掛かっていた船員たちの動きがピタリと止まった。
困惑して見つめ合う者。
小刻みに震えている者。
動揺を隠すように「どいつだコラァ!」とカーネ・ロッソに続いて声を荒げる者。
素知らぬ顔をしている者。
やれやれと言った様子で呆れている者。
ハナの目には疑わしい人物の検討が付いたが、カーネ・ロッソは平常心を失った様子で顔を真っ赤にし、癇癪を起している。
「どいつだ、どいつだ、どいつだ! リージンの財宝盗んだ奴、どいつだ! 許さないぞ! リージンのだ、リージンの財宝だ! 返せ! 返せ! 返せ!」
「そのリージンて、おまえの名前か?」
「違う、船長だ! ホンファのご主人様だ!」
「ホンファがおまえの名前か?」
「そうだ! ホンファの名前がホンファだ!」
「ふーん?」
とカーネ・ロッソ――ホンファと会話しながら、ハナは船倉口まで登って来ていたベルに手で合図を出す。
身体を移動させ、ベルの姿を背面に隠しながら会話を続ける。
ベルは無事に次の船倉――右舷・前方から2つめ――に降りて行った。
「ホンファ、ちょっと訊く。おまえ、3年前にはもうリージン船長に飼われてたか?」
その問いに、それまでぎゃんぎゃんと喚いていたホンファがふと落ち着いた。
「3年前?」
と鸚鵡返しにし、片手を出して指を折りながら過去を思い出していく。
「えーと、リージンと一緒に夏を過ごすのは、いーち、にーい、さーん……だから、えーと、そうだ、ちょうど3年前から飼われてるぞ」
「この3年間に、数々の海賊行為をしてきたんだろうな」
とハナが言うと、ホンファが「そうだ!」と言って誇らしげに笑んだ。
「ホンファのご主人様は大海賊! ホンファ、頑張って魔法覚えて、色んな国の人間ぶっ殺して財宝略奪するの手伝った! すごいだろ!」
「ああ、凄いな」
「そーだろ、そーだろ! ホンファすごいだろ!」
と、ホンファがふんぞり返っている隙に、ベルは最後の船倉――右舷・最前方――へ。
ホンファの自慢話は続く。
「リージンに飼われて最初の仕事で、ホンファは大手柄を立てたんだ! だからホンファ、リージンにとっても可愛がられてる! え、どんな手柄を立てたのかって? 仕方ないな、教えてやるか! んっとな、すっげー遠くの国に、すっげー金持ちの、見つけるのも大変なくらい、すっげーちっちゃい宝島があってな?」
ハナの黒猫の耳がぴくりと動く。
「カプリコルノ島のことか?」
最後の船倉内を調べていたベルも反応する。
カンクロ語は分からなくても、『カプリコルノ』は容易に聞き取れた。
「そうそう、それ! 宝島カプリコルノ! 向こうの商船に、乗組員を全員連れてテレトラスポルトして、麻痺魔法かけて、皆殺しにして、財宝ぜーーーんぶ奪ってやったんだ! 知ってるか? あそこの国王とその側近、すっげー強くって、どんな海賊も皆殺しにされてきたんだ。でも、ホンファがやってやったんだ! すごいだろ! 所詮、人間なんて魔法に掛けちまえば、ちょちょいのちょいだ!」
とホンファが、さも愉快そうに哄笑する。
「いや、ホンファ……カプリコルノ国王フラヴィオ・マストランジェロ陛下と、その側近――フェデリコ・マストランジェロ閣下、アドルフォ・ガリバルディ閣下の3人は、その商船に乗ってなかったろ?」
『カプリコルノ』に加えて『フラヴィオ・マストランジェロ』、『フェデリコ・マストランジェロ』、『アドルフォ・ガリバルディ』の3人の名がベルの耳に届く。
ベルが梯子に手を掛けると同時に、ホンファの顔がムッとした。
「いや、乗ってたに違いない! リージンが次行ったらぶっ殺されるからって、もう向こう行ってないけど、そんな心配はいらないんだ! だって、ホンファが殺したんだから! すごいだろ!」
「あのな、ホンファ……その3人には、おまえ程度の麻痺魔法じゃ、まず通らないんだぞ? 麻痺魔法は闇属性で、ガット・ネーロの属性も闇だからあたいは大得意だけど、それでもあの3人には一瞬しか効かないんだから」
ギシ、ギシ、ギシ……――
梯子をゆっくりと登って来る音が、ハナの黒猫の耳に聞こえてくる。
ホンファがさらにムッとして甲高く怒号した。
「通るし、通った! ホンファ、フラヴィオ・マストランジェロたち殺した! すごいだろ! あんまりホンファをバカにするなよ、バカネコ!」
「あー分かったわかった、ホンファ……分かったから早く謝っとけ。ただ主に忠実なだけのおまえは、ちょっと救ってやりたいんだ。ほら、土下座しろ……は、早く!」
梯子を昇る音が止った。
真後ろから漂う気配に寒気を覚え、ハナの背筋を冷や汗が伝っていく。
ホンファの牙が剥き出しになった。
「ふざけるな! 土下座って、誰にだ! する相手なんかいないだろ! だってホンファ、リージンの命令通りにカプリコルノの奴ら皆殺しにしたんだから! そして財宝だって奪ってやったんだから! すごいだろ! へっ! ざまぁ、フラヴィオ・マストランジェロ! バーカバーカ! フラヴィオ・マストランジェロのブワァァァカ! 大したことないな、力の王なんて! フラヴィオ・マストランジェロの弱小王!」
「ああ、ホンファ……おまえ、もう、終わりだ――」
顔色無しになったハナが、ふと頭を抱えてしゃがみ込む。
するとその刹那、ハナの真後ろに立っていた人物から、びゅんと放たれたクロスボウの矢。
それは真っ直ぐにホンファの顔面へと向かって行き、その身を守っていた魔法の盾に命中した。
大きな破砕音が、辺りに響き渡る。
「――ぎゃうんっ!?」
目前まで迫って来た鏃に仰天し、ホンファが尻を付いた。
矢が飛んできた方――しゃがみ込んでいるハナの真後ろを見ると、それは立っていた。
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