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第50話ー3
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――約2時間後。
パラータから帰ってきたフラヴィオとベルが、1階で待っていたらしいハナのテレトラスポルトで自室前に現れた。
泣き疲れ、扉に力無く寄り掛かっていたサルヴァトーレが、父フラヴィオに「よしよし」と抱っこされたら、その首に抱き付いてまた「えーん」と泣き出した。
「話はざっと聞いた。可哀想にな、トーレ。でも大丈夫だぞ、アレックスは本当はおまえのことを嫌ってなどいないからな」
ベルが扉を叩く。
「アレックス様、シルビー様、ベル母上ですよ」
「父上もいるぞ。開けてくれ」
すると中から駆け寄って来る足音が聞こえてきて、鍵の開く音がした。
フラヴィオはサルヴァトーレをルフィーナに預けながら、「皆はここにいてくれ」と言うと、ベルと中へ入っていった。
すぐ目前に双子が居て、ベルがその前に両膝を突くと、アレッサンドロが「ベル母上!」と首に抱き付いた。
堰を切ったように泣き出す。
「アレックスわるくないのに! シルビーわるくないのに!」
「ええ、そうですねアレックス様。ベル母上はすべて分かっておりますよ」
「父上もぜーんぶ分かってるぞアレックス、シルビー。使用人の皆に責められて辛かったであろう。よく頑張ったな」
とフラヴィオはシルヴィアを抱っこすると、ソファに腰掛けた。
その隣にアレッサンドロを抱っこしたベルも着く。
「どうして! どうしてみんな、トーレ兄上ばっかり! アレックスとシルビーはいらないの!」
とアレッサンドロが嘆くと、フラヴィオが「いらない?」と鸚鵡返しに問うた。
「何を言っているのだ、アレックス? いらないなんてとんでもない、おまえたちはこの国に必要とされて生まれて来たのだぞ。たしかに今は、おまえたちを認められていない使用人や民衆がいるが、いずれ皆おまえたちに感謝するようになる。おまえたちはこの国に欠かすことの出来ない、とても素晴らしい子たちなのだから」
「えっ……?」
と、双子がフラヴィオとベルの顔を交互に見ると、ベルが「そうですよ」と言った。
抱っこしているアレッサンドロの身体を抱き締めながら、「良いですか」優しい声で続ける。
「アレックス様も、シルビー様も、この先ずっと忘れてはなりません。どんなに辛い想いをしているときだって、あなた方にはとても強い味方がたくさんいるということを。あなた方は、たくさんの味方にとてもとても愛されているということを。あなた方には、いつだってこのベル母上やお父上、お母上、叔父上・叔母上たちに、兄弟・従兄弟たち、さらにじいやとばあや、フィコ料理長、そして友好国の国王陛下たちやその他諸々の味方が付いているのですよ。みんなみんな、アレックス様とシルビー様を愛していますよ」
「ほんとっ……?」
と双子が問うと、フラヴィオが「もちろんだ」と言った。
「何もトーレだけ愛されているのではないぞ? おまえたちだって、とても愛されているのだ。ちなみにな、敵がいるのもおまえたちだけではない。マストランジェロ王家というのは常に国の頂点にいる。そうである以上、敵は消えない。特に国王に敵は付きものだ。多いのだぞ、父上も、ベル母上も」
双子が「えっ!?」と狼狽して見たのは、見るからに強い父上ではなく、か弱いベル母上の方。
「ベル母上、いじめられてるの!? アレックスがやっつけてあげる!」
「ベル母上、シルビーがまもってあげる!」
フラヴィオが「ああ、そうだ」と言いながら、双子の頭を撫でた。
「そのために――弱いものを守るために、おまえたちは生まれて来たのだ。アレックスは魔法剣士として兄上たちと共に戦場で敵を倒し、シルビーは怪我をした者たちを治癒魔法で救う。それがおまえたちの仕事だ。それはとても立派で、誇り高き仕事だ」
とフラヴィオが「出来るか?」と双子に問うた。
それらは顔を見合わせると、頷き合ってフラヴィオの顔を見た。
「スィー、父上」
「よし」とフラヴィオの手が、もう一度双子の頭を撫でる。
「ならば、誰に何を言われても気にするな。さっきも言ったが今はどうであれ、いずれ皆がおまえたちに感謝するようになる。そして誰が何と言おうと、おまえたちはとても立派な子なのだから。誇り高きマストランジェロ一族の子なのだから。良いな?」
「スィー、父上」
とそこには、強く爛々と煌めく碧眼と、大きな若草色の瞳があった。
フラヴィオが「おっと、それから」と続ける。
「あのな、アレックス。トーレのことは、『兄上』ではなく『姉上』だと思って接するのだ。トーレもマストランジェロ一族の男ではあるが、正直今までの中で一番か弱く生まれて来た。おまえが守らなければならない対象だ」
「スィー、父上!」
とアレッサンドロがビシッと挙手して承知した傍ら、ベルが口を尖らせてフラヴィオを小突いた。
「ま、まだトーレがか弱いとは決まっていないではありませんかっ……!」
「いや、気付けアモーレ。アレックスの手足が筋肉で硬いのに対し、トーレは未だにプニプニだ。3つからの『中の中庭』での鍛錬が始まる前から分かる。トーレは無い、力が無い。下手したら将来、シルビーよりも無い」
「そ、そんなことはっ……!」
「無事に頭の方は賢く生まれて来たのだから、運動不足にならない程度に鍛錬しつつ、あとはそっちを伸ばした方が良い。将来、政をするのだし、それで良い」
「もちろん、将来の国王として頭の方も伸ばしますが、私はトーレを『力の王』の息子として……そう、フェーデ様やレオ様のように文武両道に!」
「諦めるのだ」
「早いです! トーレはまだ2歳ですよ!」
と揉め始めた2人の膝から、双子がぴょんと飛び降りた。
戸口へと向かって行き、扉を開ける。
そこには泣きながら待っていたサルヴァトーレや母たちの他、心配してやって来たレオーネ国一同もいた。
「アレックス、シルビー」
とレオーネ国一同の手が、双子の頭を撫でる。
「おまえたちには、このレオーネ国王のムネおいちゃんたちが付いてるんやでー? 裏切ったりせんから、ずっとずっと味方やから、おまえたち二人だけやないんやから、もう不貞腐れたらあかんで?」
双子が嬉しそうに「スィー」と笑顔を見せた。
その後アレッサンドロが、サルヴァトーレに「ごめんなさい」と頭を下げる。
「アレックス、トーレのこと、すき?」
としゃくり上げながら問うてきたサルヴァトーレの瞼を、アレックスが袖で拭う。
「すきだよ、トーレ姉上。父上のおたんじょう日のうたげが始まるから、行こう?」
と右手でサルヴァトーレの手を握り、左手でシルヴィアの手を握って、階段の方へと向かって行く。
「あれ? トーレって『姉上』なの?」
「うん。父上が言ってた」
「そうなんだ。トーレ、男の子だと思ってた」
その背を見送りながら、ルフィーナが「ふう」と息を吐いた。
「やっと一件落着ですか」
「いや、なんか今度は勘違いが起きていたでござりまするが……『王子』でござるよ、トーレ殿下は?」
とムサシが見たのは、突然興奮した様子でうろうろとし始めたレオナルド。
それは「えっ」とムサシの顔を見ると、分かりやすく沈んでいった。
「そうなんだ、やっぱり……」
「おまえ、まだ男に恋してんのかよ」
と呆れながらレオナルドの胸元をどついたジルベルトが、辺りを見回す。
「で、オレの将来の嫁はどこ行った?」
「ジル、まだ人妻に恋してるの?」
「いーんだよ。ティーナはそのうちオレを選ぶ」
「本当にそうなるんじゃ……」
とルフィーナが不安げに呟いた。
その顔を一瞥した猫4匹が、猫耳を済ませる。
耳が良く利くあまり、町の雑踏の中にいるような感覚になる宮廷内の声を聞き取り、ヴァレンティーナの位置を特定する。
猫耳は、ベルの部屋の窓辺――宮廷の外の裏庭へと向いて行った。
「ティーナはもう宴会会場にいるみたいだよ、ジル」
とタロウが言うと、ジルベルトが承知してレオナルド・ムサシと共に階段を降りて行った。
猫4匹はベルの部屋に入り、ソファで子育て問題について口論している2人の脇を通り過ぎ、窓辺へと向かって行く。
窓を開けてヴァレンティーナを探すと、それはアクアーリオ国用に用意された円卓に夫と並んで着いていた。
夫アクアーリオ王太子は不機嫌そうな仏頂面で、ヴァレンティーナは沈んだ表情で俯いている。
4匹の耳は、その会話を聞き取ることが出来た。
「――…嫌な奴だ……」
ハナが呟くと、タロウが小声で返した。
「たしかに僕も好きになれないよ、あのアクアーリオ王太子は。でも子孫が産まれないってことは、きっと向こうにとっても重要な問題なんだよ」
ナナ・ネネも囁き声を出す。
「あいつが言ってる通り、ティーナは離婚してやればいい」
「あいつと離婚して、アクアーリオを奪ってやればいい」
タロウが「駄目だよ」と妻たちに返した。
「ティーナ自身がそれを望んでいないんだから。ティーナはフラビーとも違う、ベルとも違う、コラードとも違う。争いを好まず、一切の血を流すことを嫌う平和的な君主だ。略奪することは、ティーナにとって不本意なことだよ」
ハナがフンと鼻を鳴らす。
「上から目線で「このまま男を産まなかったら捨てるからな」とか言いやがって、あのクソ王太子。そうなったらティーナがどんなに止めたって、フラビーもベルもコラードも許すわけがないぞ。カプリコルノ国民もまず許さないだろうし、マサムネだって許さないし、当然あたいだって許さないからな。大体、ティーナの目的はアクアーリオ国民を救うことだけど、そのための最善の策はティーナがアクアーリオ女王になることだろ」
ナナ・ネネが同意して頷いた。
「ティーナが離婚したら決まりだ」
「ティーナが離婚したら戦争だ」
また「駄目だよ」と言おうとしたタロウだったが、その言葉はどうにもこうにも喉の奥に消えていった。
「そうだね……誰もが心から愛する5番目の天使の不幸は、許されることじゃないね」
でも、
「やっぱり、そんなことにはなりませんように……――」
パラータから帰ってきたフラヴィオとベルが、1階で待っていたらしいハナのテレトラスポルトで自室前に現れた。
泣き疲れ、扉に力無く寄り掛かっていたサルヴァトーレが、父フラヴィオに「よしよし」と抱っこされたら、その首に抱き付いてまた「えーん」と泣き出した。
「話はざっと聞いた。可哀想にな、トーレ。でも大丈夫だぞ、アレックスは本当はおまえのことを嫌ってなどいないからな」
ベルが扉を叩く。
「アレックス様、シルビー様、ベル母上ですよ」
「父上もいるぞ。開けてくれ」
すると中から駆け寄って来る足音が聞こえてきて、鍵の開く音がした。
フラヴィオはサルヴァトーレをルフィーナに預けながら、「皆はここにいてくれ」と言うと、ベルと中へ入っていった。
すぐ目前に双子が居て、ベルがその前に両膝を突くと、アレッサンドロが「ベル母上!」と首に抱き付いた。
堰を切ったように泣き出す。
「アレックスわるくないのに! シルビーわるくないのに!」
「ええ、そうですねアレックス様。ベル母上はすべて分かっておりますよ」
「父上もぜーんぶ分かってるぞアレックス、シルビー。使用人の皆に責められて辛かったであろう。よく頑張ったな」
とフラヴィオはシルヴィアを抱っこすると、ソファに腰掛けた。
その隣にアレッサンドロを抱っこしたベルも着く。
「どうして! どうしてみんな、トーレ兄上ばっかり! アレックスとシルビーはいらないの!」
とアレッサンドロが嘆くと、フラヴィオが「いらない?」と鸚鵡返しに問うた。
「何を言っているのだ、アレックス? いらないなんてとんでもない、おまえたちはこの国に必要とされて生まれて来たのだぞ。たしかに今は、おまえたちを認められていない使用人や民衆がいるが、いずれ皆おまえたちに感謝するようになる。おまえたちはこの国に欠かすことの出来ない、とても素晴らしい子たちなのだから」
「えっ……?」
と、双子がフラヴィオとベルの顔を交互に見ると、ベルが「そうですよ」と言った。
抱っこしているアレッサンドロの身体を抱き締めながら、「良いですか」優しい声で続ける。
「アレックス様も、シルビー様も、この先ずっと忘れてはなりません。どんなに辛い想いをしているときだって、あなた方にはとても強い味方がたくさんいるということを。あなた方は、たくさんの味方にとてもとても愛されているということを。あなた方には、いつだってこのベル母上やお父上、お母上、叔父上・叔母上たちに、兄弟・従兄弟たち、さらにじいやとばあや、フィコ料理長、そして友好国の国王陛下たちやその他諸々の味方が付いているのですよ。みんなみんな、アレックス様とシルビー様を愛していますよ」
「ほんとっ……?」
と双子が問うと、フラヴィオが「もちろんだ」と言った。
「何もトーレだけ愛されているのではないぞ? おまえたちだって、とても愛されているのだ。ちなみにな、敵がいるのもおまえたちだけではない。マストランジェロ王家というのは常に国の頂点にいる。そうである以上、敵は消えない。特に国王に敵は付きものだ。多いのだぞ、父上も、ベル母上も」
双子が「えっ!?」と狼狽して見たのは、見るからに強い父上ではなく、か弱いベル母上の方。
「ベル母上、いじめられてるの!? アレックスがやっつけてあげる!」
「ベル母上、シルビーがまもってあげる!」
フラヴィオが「ああ、そうだ」と言いながら、双子の頭を撫でた。
「そのために――弱いものを守るために、おまえたちは生まれて来たのだ。アレックスは魔法剣士として兄上たちと共に戦場で敵を倒し、シルビーは怪我をした者たちを治癒魔法で救う。それがおまえたちの仕事だ。それはとても立派で、誇り高き仕事だ」
とフラヴィオが「出来るか?」と双子に問うた。
それらは顔を見合わせると、頷き合ってフラヴィオの顔を見た。
「スィー、父上」
「よし」とフラヴィオの手が、もう一度双子の頭を撫でる。
「ならば、誰に何を言われても気にするな。さっきも言ったが今はどうであれ、いずれ皆がおまえたちに感謝するようになる。そして誰が何と言おうと、おまえたちはとても立派な子なのだから。誇り高きマストランジェロ一族の子なのだから。良いな?」
「スィー、父上」
とそこには、強く爛々と煌めく碧眼と、大きな若草色の瞳があった。
フラヴィオが「おっと、それから」と続ける。
「あのな、アレックス。トーレのことは、『兄上』ではなく『姉上』だと思って接するのだ。トーレもマストランジェロ一族の男ではあるが、正直今までの中で一番か弱く生まれて来た。おまえが守らなければならない対象だ」
「スィー、父上!」
とアレッサンドロがビシッと挙手して承知した傍ら、ベルが口を尖らせてフラヴィオを小突いた。
「ま、まだトーレがか弱いとは決まっていないではありませんかっ……!」
「いや、気付けアモーレ。アレックスの手足が筋肉で硬いのに対し、トーレは未だにプニプニだ。3つからの『中の中庭』での鍛錬が始まる前から分かる。トーレは無い、力が無い。下手したら将来、シルビーよりも無い」
「そ、そんなことはっ……!」
「無事に頭の方は賢く生まれて来たのだから、運動不足にならない程度に鍛錬しつつ、あとはそっちを伸ばした方が良い。将来、政をするのだし、それで良い」
「もちろん、将来の国王として頭の方も伸ばしますが、私はトーレを『力の王』の息子として……そう、フェーデ様やレオ様のように文武両道に!」
「諦めるのだ」
「早いです! トーレはまだ2歳ですよ!」
と揉め始めた2人の膝から、双子がぴょんと飛び降りた。
戸口へと向かって行き、扉を開ける。
そこには泣きながら待っていたサルヴァトーレや母たちの他、心配してやって来たレオーネ国一同もいた。
「アレックス、シルビー」
とレオーネ国一同の手が、双子の頭を撫でる。
「おまえたちには、このレオーネ国王のムネおいちゃんたちが付いてるんやでー? 裏切ったりせんから、ずっとずっと味方やから、おまえたち二人だけやないんやから、もう不貞腐れたらあかんで?」
双子が嬉しそうに「スィー」と笑顔を見せた。
その後アレッサンドロが、サルヴァトーレに「ごめんなさい」と頭を下げる。
「アレックス、トーレのこと、すき?」
としゃくり上げながら問うてきたサルヴァトーレの瞼を、アレックスが袖で拭う。
「すきだよ、トーレ姉上。父上のおたんじょう日のうたげが始まるから、行こう?」
と右手でサルヴァトーレの手を握り、左手でシルヴィアの手を握って、階段の方へと向かって行く。
「あれ? トーレって『姉上』なの?」
「うん。父上が言ってた」
「そうなんだ。トーレ、男の子だと思ってた」
その背を見送りながら、ルフィーナが「ふう」と息を吐いた。
「やっと一件落着ですか」
「いや、なんか今度は勘違いが起きていたでござりまするが……『王子』でござるよ、トーレ殿下は?」
とムサシが見たのは、突然興奮した様子でうろうろとし始めたレオナルド。
それは「えっ」とムサシの顔を見ると、分かりやすく沈んでいった。
「そうなんだ、やっぱり……」
「おまえ、まだ男に恋してんのかよ」
と呆れながらレオナルドの胸元をどついたジルベルトが、辺りを見回す。
「で、オレの将来の嫁はどこ行った?」
「ジル、まだ人妻に恋してるの?」
「いーんだよ。ティーナはそのうちオレを選ぶ」
「本当にそうなるんじゃ……」
とルフィーナが不安げに呟いた。
その顔を一瞥した猫4匹が、猫耳を済ませる。
耳が良く利くあまり、町の雑踏の中にいるような感覚になる宮廷内の声を聞き取り、ヴァレンティーナの位置を特定する。
猫耳は、ベルの部屋の窓辺――宮廷の外の裏庭へと向いて行った。
「ティーナはもう宴会会場にいるみたいだよ、ジル」
とタロウが言うと、ジルベルトが承知してレオナルド・ムサシと共に階段を降りて行った。
猫4匹はベルの部屋に入り、ソファで子育て問題について口論している2人の脇を通り過ぎ、窓辺へと向かって行く。
窓を開けてヴァレンティーナを探すと、それはアクアーリオ国用に用意された円卓に夫と並んで着いていた。
夫アクアーリオ王太子は不機嫌そうな仏頂面で、ヴァレンティーナは沈んだ表情で俯いている。
4匹の耳は、その会話を聞き取ることが出来た。
「――…嫌な奴だ……」
ハナが呟くと、タロウが小声で返した。
「たしかに僕も好きになれないよ、あのアクアーリオ王太子は。でも子孫が産まれないってことは、きっと向こうにとっても重要な問題なんだよ」
ナナ・ネネも囁き声を出す。
「あいつが言ってる通り、ティーナは離婚してやればいい」
「あいつと離婚して、アクアーリオを奪ってやればいい」
タロウが「駄目だよ」と妻たちに返した。
「ティーナ自身がそれを望んでいないんだから。ティーナはフラビーとも違う、ベルとも違う、コラードとも違う。争いを好まず、一切の血を流すことを嫌う平和的な君主だ。略奪することは、ティーナにとって不本意なことだよ」
ハナがフンと鼻を鳴らす。
「上から目線で「このまま男を産まなかったら捨てるからな」とか言いやがって、あのクソ王太子。そうなったらティーナがどんなに止めたって、フラビーもベルもコラードも許すわけがないぞ。カプリコルノ国民もまず許さないだろうし、マサムネだって許さないし、当然あたいだって許さないからな。大体、ティーナの目的はアクアーリオ国民を救うことだけど、そのための最善の策はティーナがアクアーリオ女王になることだろ」
ナナ・ネネが同意して頷いた。
「ティーナが離婚したら決まりだ」
「ティーナが離婚したら戦争だ」
また「駄目だよ」と言おうとしたタロウだったが、その言葉はどうにもこうにも喉の奥に消えていった。
「そうだね……誰もが心から愛する5番目の天使の不幸は、許されることじゃないね」
でも、
「やっぱり、そんなことにはなりませんように……――」
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