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身体測定ー7
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脱衣所の中が女たちだけになると、ハナとナナ・ネネがさっさと衣類――レオーネ国の着物――を脱ぎ捨てていった。
ハナもナナ・ネネも裾は太腿の長さまでは無く、腰に巻いているコルセットのような『帯』というものを解いていく。
「かわいいわよねー、これ!」
と、ヴァレンティーナが帯を手に取ってはしゃぐ。
ハナもナナ・ネネも、いつもこれを背中で大きなリボンのように結んでいた。歩いたり走ったり、飛び跳ねたり、風が吹くと端が優雅に靡いている。
「わたしはあんまり着ないんですよね、レオーネ国の着物。こっちの服の方がすぐに着れるし楽なので。というか、こっちの顔や骨格をしているわたしには、こっちの服の方が馴染むんですよね」
と、アラブの妹ルフィーナ。レオーネ国出身でレオーネ国在住のメッゾサングエだが、言われてみれば見かける度にこっちのワンピースを着ている。
「そやなぁ。ウチもこっちに来てから、こっちのドレスばっかりや」
と、こちらもレオーネ国出身・王太子妃アヤメも続くと、ルフィーナが「ええ?」と少し声高になった。
「それは残念な気がします、アヤメ殿下。レオーネ国の王女殿下には変わりないんですから、こっちでも着ましょうよ。家政婦長やベルさんが、着付け覚えてくれたみたいですし」
「せやけど、浮くやん。ウチ、おとんみたいに目立ちたがりちゃうから……」
「そうだけどさ、たまには着なよ。アヤメがこっちに馴染み過ぎちゃうのも、なんだか寂しい気がするよ。それにランドも喜びそうだし」
とハナが言うと、アヤメが「えっ」と言って問い返す。
「そ、そかな? ランド、喜ぶかなっ……?」
「喜ぶだろ?」
とハナがベルを見ると、それは「スィー」と微笑した。
「オルランド様は、きっとお喜びになりますよ。マストランジェロ一族の男性は、女性に色々な衣装を着せたがる傾向があるように存じますし」
「そうよね」
と言って、ヴァレンティーナが嬉しそうに「ふふ」と笑った。
「私が着せ返して遊ぶベルのヴェスティート、今ではたっくさんあるのよ。父上が次から次へと作ってくれるから。そして着せ替えをしたベルを見せに行くと、いつもデレデレになるのよ、父上」
と今度はおかしそうに「ふふ」と笑う。
「だからアヤメちゃんも、色んな衣装を着たら良いと思うわ。レオーネ国の着物ってとっても素敵なんだし、ランド兄上大喜びよ」
「そ、そか……! ほな、たまには着るわ、レオーネの着物!」
「それがいい」
と同意したハナが、先ほどの男たちのように「1番!」と挙手した。
「あたいはハナ! 苗字は強いて言うならサイトウ。趣味は遊漁……っていうか、手掴みで魚獲り。でも最近は最上級闇魔法の勉強、勉強で出来ないし、寝る前に書いてるベルとの交換日記かな。最近の唯一の楽しみが、これなんだよ。特技は属性の闇魔法なんだろうけど、あたいは格闘もそれなり。まぁ……誰も殺したことはないんだけど」
とハナが俯くと、ベルがその名を呼んだ。顔を上げると、親友の優しい微笑がある。
「それで良いのですよ、ハナは。むしろ、いつまでもそうであってくれると助かります」
ナナ・ネネが「そうだぞ」と声を揃えた。
「こっちの民衆、ハナに一番心許してる」
「タロウやあちきらよりも、人間殺したことないハナに一番安心してる」
「そういえば……そうかな? あ、初恋はまだないや、あたい。好みのオスは、うーん……ガットのオスは好きになれそうにないんだよなぁ。やりたいことやったらすぐどっか消えて、食う・寝る・遊ぶのお気楽ネコ生に明け暮れる奴ばっかだから。兄貴は宮廷育ちのこともあって幸いそうはならなかったけど、基本的にガットのオスって子育てはすべてメス任せなんだよ。自分の子だっていうのに、顔すら見に来なかったりするし。あたいは好きになれないね、そんなオス」
レオーネ国王太子マサムネの従者・ハナ(満19歳)は――
兄タロウがそうであるように、純血の人型猫耳モストロであるガット・ネーロ。
黒猫の耳に、黒猫の尻尾。
黒髪に、黄色い瞳。
まさに猫のような顔立ちで、笑ったときだけ小さめの牙が見える。
レオーネ国の宮廷生まれ宮廷育ちで、常に人間と共に生活してきた。
兄タロウもそうだが、本来のガットの性質よりは人間に近い。
その人間の性質の中でも心優しく、王太子を守り、王太子のために働く従者ながら、戦場でも未だに人間やモストロの命を奪うことが出来ないでいた。
本当はタロウの方が優しいのだが、妹がこうだからタロウは自身の手を2倍汚しているのだと言って、ハナは申し訳なさそうにする。
初めて出来た友人はベルで、それは今や親友で、とてもとても大切に想っている。
そのベルはフラヴィオのために命を張るような女だから、それを守るために、いざというとき手を汚す覚悟を決めたことは、まだ誰にも言っていない。
その身体測定の結果は、身長はタロウと同じ160cmだった。
タロウがモストロは人間とは骨から違うとは言っていたが、本当にそのようで、人間の感覚からするとハナは50kgも無いように見えるのに、58kgもあった。
「何度見ても不思議な体重やわぁ。ついでに、ハナって上からいくつなん?」
とアヤメが訊いて来たので、ベルが巻尺でさらにハナの身体を測ってみる。
胸回り82cm・腰回り58cm・尻周り85cmだった。
「うっ」と、アヤメのペチャっとした愛らしい丸顔が引き攣った。
「ハナ、ウチより細いんちゃう…!? もういややウチ、測りたくないーっ!」
ハナが呆れ顔で「もー」と言った。
「レオーネ国の人間の女は、細けりゃ細いほどいいって思ってる傾向があるよなー。あたいはマサムネに随伴して色んな国を回ったけど、レオーネ国の女は貧乏でもないのに意味不明に細いぞ」
「そんなん、一昔前の話やで。こっちのパンケーキがレオーネ国に伝来してから、ぽっちゃり女子増えたもん」
「大したことないって。レオーネ国のぽっちゃりって、こっちじゃ普通か痩せてる方だぞ。ちなみにあたいらモストロは、太ろうとしても太れない体質なだけだ。元の体型から大幅にズレることが無いんだ、死ぬまで」
ナナ・ネネが挙手した。
「2番。ナナ」
「3番。ネネ」
「趣味は昼寝」
「特技は属性の風魔法」
「初恋ってなんだ」
「恋って感覚が分からない」
「好みのオス?」
「タロウでいいんじゃないか」
マサムネの従者ナナ・ネネ(満21歳)は――
双子のガット・ティグラート。虎柄の猫耳と猫尻尾を持つ。
その炎のように赤い髪と緑色の瞳は、野生のティグラートに多い。
やはり猫のような顔立ちをしているところは、タロウ・ハナ兄妹と一緒。
でも野良猫だって一匹一匹違う顔をしているように、同じ系統の顔でも似ているわけじゃない。
タロウ・ハナはすっきりとした奥二重の瞼をしているが、ナナ・ネネははっきりとした二重瞼で、上下にふさふさと生えている睫毛がくるんとして華やかな印象だった。
またタロウ・ハナ兄妹は人間に近い性格をしているが、こちらは本来のガットの性格に近い。いつだって正直で、嘘を吐くということが出来ない。
なので、そういうつもりが無くても自ら敵を増やしていることも少なくない。
陰口を叩かれたり、嫌がらせをされれば間違っても気持ち良いものではないが、人間寄りの性格をしているタロウ・ハナよりは幾分マシな気がしている。
タロウ・ハナは、ここカプリコルノでモストロを理由に蔑まれ、陰口を叩かれ、石やゴミを投げられていた頃に、胸を痛めて涙を流していた故に。
普段からカプリコルノ国で暮らしていて、それが毎日となったら話は別だっただろうが、ナナ・ネネはたまに来ていたこっちでそういうことをされ、涙を流したことまでは無かった。
どちらかと言ったら、怒りを抑えることで必死だった。
宮廷生まれ宮廷育ちで、戦場以外では人間を傷付けないよう躾けられているから、必死に堪えていた。
陰口だけならまだしも、石やゴミを投げられるということは攻撃されているのと変わらなく、人間でなくモストロだったら問答無用で反撃していた。
本来のガットにとって、それが生き抜く上で当たり前のこと故に。
尚、数時間前にナナはガット・ネーロの長男ポチを、ネネはガット・ティグラートの長女タマを産んだばかり。
どちらの父親もタロウで、子作りの際はマサムネがタロウをナナ・ネネの部屋に押し込み、仕事を終えるまで施錠した。
種付けの仕事に来たにも関わらず、緊張でかちんこちんに固まり、正座して世間話ばかりするタロウを、2匹で襲うような形になって、無事に子を授かった。
そんな2匹の身体測定の結果は、寸分のズレもなくぴったり一緒。
身長162cm・体重60kg。
胸回り85cm・腰回り58cm・尻周り87cmだった。
アヤメが顔を塞いで「いややー」と喚く。
「ウチ、絶対測りとうない! 恥ずかしい!」
「それ、ワタシの台詞だからねアヤメちゃん……」
と、ここへ来たときからずっと絶望に染まった顔をしているのは、はち切れそうな胸元と臀部をしているベラドンナ。
「どれくらいあるのかしら」
と横からアリーチェに腹肉を摘ままれて、「きゃあ!」と声を上げる。
アリーチェは「いい?」と言いながら、持って来ていた一枚の紙を広げた。
「見て、ベラちゃん。天使の皆も。ここにお義姉様の、あの完璧過ぎた身体の記録が残されているわ。去年の今頃のものだから、亡くなる1カ月くらい前のものね」
それには、王妃ヴィットーリア(享年33歳)の身体の詳細が書かれていた。
身長168cm・体重52kg。
胸回り94cm・腰回り56cm・尻周り96cm。
現実離れした身体に、天使軍が引いていく。
服を脱いで身長を測る柱の前に立っていたルフィーナの喉が、ごくりと鳴った。
「陛下の後釜は、その身体と比べられるということですか……!」
「後釜でなくとも、さぞ比較されているでしょう女がここに居ますよ」
と、淡々と無表情で言ったベルの栗色の瞳に、きらりと涙光る。
ルフィーナがベルの胸元に目を落として狼狽し、「すみませんでした」と言ったら氷のような視線に射貫かれた。
「ごごごごめんなさいっ、ベルさんっ……!」
「お気になさらず、ルフィーナさん。4番目ですね」
「あっ、えとっ、4番! ルフィーナ・スズキです! 趣味はお金稼ぎ、特技はお金持ちからぼったくることです。魔法の中では治癒や補助、テレトラスポルトです。テレトラスポルトは仕事で頻繁に使うので、特に得意ですね。攻撃魔法に関しては、人を傷つけることはしたくないので、敢えて修得していないのもあります。でも、勝手に属性の風魔法が出てしまうことがあるので、気を付けないと……。初恋は、アドルフォ閣下かなぁ。小さい頃はちょっといいなと思う男の子がいても、兄がすぐに追っ払ってしまっていたので。好みも心身共に強いアドルフォ閣下と言ったらそうなのですが、えと、わたし、あの、やっぱり……」
とルフィーナがベルを見ると、それは「スィー」と微笑した。
安堵して言葉を続ける。
「わたしは、フラヴィオ・マストランジェロ陛下が好きです。陛下は精神的にか弱いところもありますが、とても真っ直ぐで、善良で、尊敬できるお人なので……」
もう一度恐る恐るベルを見ると、やはりそれは落ち着いた様子で微笑していた。
「では、身体測定をしてみましょう。ルフィーナさんもメッゾサングエですから、やはり見た目より体重があるのでしょうか。アラブさんはよく分かりませんでした」
「兄もわたしも、ティグラートの血が三分の一だけで人間に近いですからね。人間とあまり変わらないんじゃないかなぁ?」
オルキデーア軍大将アラブの異父妹である、ルフィーナ・スズキ(満22歳)は――
ガット・ティグラートのメスと、レオーネ人の男のあいだに出来た母は、兄アラブと一緒。
母は自由奔放に生き、世界各国をテレトラスポルトで回る旅商人で、兄アラブの父は恐らくヴィルジネ人だが、ルフィーナの父は恐らくカプリコルノ人だろうとのことだった。
たしかにここカプリコルノ国の人間の顔立ちをしていて、赤い巻き髪や若草色の瞳はティグラート譲りのように思える。
赤い髪と緑の瞳というのはこの辺の人間にもいるし、猫耳も尻尾も無いので、モストロの目を持たぬ者にはただの人間に見られることがほとんど。
性格はティグラート譲りのところがあり、正直な口をしていた。
その一方で、職業は母と同じテレトラスポルト旅商人になり、稼いだ金は貧困に苦しむ人々のために使うような性格。
まだ子供の頃、母とこの国へ商売に来たが、まったくもって売れなくて困っていたことがあった。
そこにフラヴィオが現れ、事情を話したら商品をすべて買って行ってくれた。
そのときのことは、守銭奴宰相ベルには口が裂けても言えないし、言ってはいけないことはフラヴィオとの暗黙の了解になっている。
何故ならそのときの商品は、レオーネ国の浜辺から集めて来た『単なる砂』で、母はそれを『宝石のなる木が生えて来る魔法の砂』だと嘘を吐いて売っていた。
それだけでも胡散臭すぎる商人だったが、母はそれをお猪口に一杯3万オーロという、ぼったくり価格で出していた。
フラヴィオはあのとき「凄い砂だな」とさも驚いたように言っていたが、今思えばすべて分かっていたのだ。
「売上金をどうするのだ?」
そう問われ、ルフィーナはこう答えた。
「食べることができない人たちに、食べものを買って持っていってあげるの」
だから買ってくれたのだ。
単なる砂を全部まとめて「10億オーロで足りるか?」と、見れば明らかなことを言いながら。
カプリコルノ国を去ってから、母は馬鹿な国王だと言って笑い転げていた。
そして10億オーロのうち2億オーロは母が好きに使ってしまったが、残りの8億オーロはルフィーナが責任もって食料や生活用品に変え、貧困に苦しむ人々に届けた。
そんなガット・ティグラートのメッゾサングエ、ルフィーナの身体測定の結果は、身長160cm・体重54kgだった。
「ルフィーナさんも、見た目より体重がありましたね」
「そうでしたか。わたしはそんなもんだと思ってましたけどね。わたしよりレオーネ人の女性の方が、華奢な骨格してる感じがしますし」
胸回りは86cm・腰回りは60cm・尻周りは86cmだった。
「あの、これは……わたしがもし陛下の後釜に選ばれた場合、せめて腰をあと4cm絞れということなのでしょうか」
「違う違う、いいのよこれで」
と、ベラドンナ。
「だって、骨格の問題もあるんだから。お姉様って骨格そのものが普通のカプリコルノ人より華奢だったのよね。ワタシの身長と骨格じゃー、まず腰回り60cmを切ることなんて無理だし。絶対無理だし?」
とアリーチェを見ると、それは「そうかもしれないけど」と溜め息を吐いた。
「ベラちゃん60cmどころか、70cmも切ってないわよ。だから呆れてるんじゃない、わたし」
「え、70cm? まさか」
「そのまさかよ、ベラちゃん。どう見ても、まさか」
とアリーチェが、「はい」と次の測定を待っているベルとピエトラの方を指差した。
「天使番号1番から順に、いくわよ?」
ハナもナナ・ネネも裾は太腿の長さまでは無く、腰に巻いているコルセットのような『帯』というものを解いていく。
「かわいいわよねー、これ!」
と、ヴァレンティーナが帯を手に取ってはしゃぐ。
ハナもナナ・ネネも、いつもこれを背中で大きなリボンのように結んでいた。歩いたり走ったり、飛び跳ねたり、風が吹くと端が優雅に靡いている。
「わたしはあんまり着ないんですよね、レオーネ国の着物。こっちの服の方がすぐに着れるし楽なので。というか、こっちの顔や骨格をしているわたしには、こっちの服の方が馴染むんですよね」
と、アラブの妹ルフィーナ。レオーネ国出身でレオーネ国在住のメッゾサングエだが、言われてみれば見かける度にこっちのワンピースを着ている。
「そやなぁ。ウチもこっちに来てから、こっちのドレスばっかりや」
と、こちらもレオーネ国出身・王太子妃アヤメも続くと、ルフィーナが「ええ?」と少し声高になった。
「それは残念な気がします、アヤメ殿下。レオーネ国の王女殿下には変わりないんですから、こっちでも着ましょうよ。家政婦長やベルさんが、着付け覚えてくれたみたいですし」
「せやけど、浮くやん。ウチ、おとんみたいに目立ちたがりちゃうから……」
「そうだけどさ、たまには着なよ。アヤメがこっちに馴染み過ぎちゃうのも、なんだか寂しい気がするよ。それにランドも喜びそうだし」
とハナが言うと、アヤメが「えっ」と言って問い返す。
「そ、そかな? ランド、喜ぶかなっ……?」
「喜ぶだろ?」
とハナがベルを見ると、それは「スィー」と微笑した。
「オルランド様は、きっとお喜びになりますよ。マストランジェロ一族の男性は、女性に色々な衣装を着せたがる傾向があるように存じますし」
「そうよね」
と言って、ヴァレンティーナが嬉しそうに「ふふ」と笑った。
「私が着せ返して遊ぶベルのヴェスティート、今ではたっくさんあるのよ。父上が次から次へと作ってくれるから。そして着せ替えをしたベルを見せに行くと、いつもデレデレになるのよ、父上」
と今度はおかしそうに「ふふ」と笑う。
「だからアヤメちゃんも、色んな衣装を着たら良いと思うわ。レオーネ国の着物ってとっても素敵なんだし、ランド兄上大喜びよ」
「そ、そか……! ほな、たまには着るわ、レオーネの着物!」
「それがいい」
と同意したハナが、先ほどの男たちのように「1番!」と挙手した。
「あたいはハナ! 苗字は強いて言うならサイトウ。趣味は遊漁……っていうか、手掴みで魚獲り。でも最近は最上級闇魔法の勉強、勉強で出来ないし、寝る前に書いてるベルとの交換日記かな。最近の唯一の楽しみが、これなんだよ。特技は属性の闇魔法なんだろうけど、あたいは格闘もそれなり。まぁ……誰も殺したことはないんだけど」
とハナが俯くと、ベルがその名を呼んだ。顔を上げると、親友の優しい微笑がある。
「それで良いのですよ、ハナは。むしろ、いつまでもそうであってくれると助かります」
ナナ・ネネが「そうだぞ」と声を揃えた。
「こっちの民衆、ハナに一番心許してる」
「タロウやあちきらよりも、人間殺したことないハナに一番安心してる」
「そういえば……そうかな? あ、初恋はまだないや、あたい。好みのオスは、うーん……ガットのオスは好きになれそうにないんだよなぁ。やりたいことやったらすぐどっか消えて、食う・寝る・遊ぶのお気楽ネコ生に明け暮れる奴ばっかだから。兄貴は宮廷育ちのこともあって幸いそうはならなかったけど、基本的にガットのオスって子育てはすべてメス任せなんだよ。自分の子だっていうのに、顔すら見に来なかったりするし。あたいは好きになれないね、そんなオス」
レオーネ国王太子マサムネの従者・ハナ(満19歳)は――
兄タロウがそうであるように、純血の人型猫耳モストロであるガット・ネーロ。
黒猫の耳に、黒猫の尻尾。
黒髪に、黄色い瞳。
まさに猫のような顔立ちで、笑ったときだけ小さめの牙が見える。
レオーネ国の宮廷生まれ宮廷育ちで、常に人間と共に生活してきた。
兄タロウもそうだが、本来のガットの性質よりは人間に近い。
その人間の性質の中でも心優しく、王太子を守り、王太子のために働く従者ながら、戦場でも未だに人間やモストロの命を奪うことが出来ないでいた。
本当はタロウの方が優しいのだが、妹がこうだからタロウは自身の手を2倍汚しているのだと言って、ハナは申し訳なさそうにする。
初めて出来た友人はベルで、それは今や親友で、とてもとても大切に想っている。
そのベルはフラヴィオのために命を張るような女だから、それを守るために、いざというとき手を汚す覚悟を決めたことは、まだ誰にも言っていない。
その身体測定の結果は、身長はタロウと同じ160cmだった。
タロウがモストロは人間とは骨から違うとは言っていたが、本当にそのようで、人間の感覚からするとハナは50kgも無いように見えるのに、58kgもあった。
「何度見ても不思議な体重やわぁ。ついでに、ハナって上からいくつなん?」
とアヤメが訊いて来たので、ベルが巻尺でさらにハナの身体を測ってみる。
胸回り82cm・腰回り58cm・尻周り85cmだった。
「うっ」と、アヤメのペチャっとした愛らしい丸顔が引き攣った。
「ハナ、ウチより細いんちゃう…!? もういややウチ、測りたくないーっ!」
ハナが呆れ顔で「もー」と言った。
「レオーネ国の人間の女は、細けりゃ細いほどいいって思ってる傾向があるよなー。あたいはマサムネに随伴して色んな国を回ったけど、レオーネ国の女は貧乏でもないのに意味不明に細いぞ」
「そんなん、一昔前の話やで。こっちのパンケーキがレオーネ国に伝来してから、ぽっちゃり女子増えたもん」
「大したことないって。レオーネ国のぽっちゃりって、こっちじゃ普通か痩せてる方だぞ。ちなみにあたいらモストロは、太ろうとしても太れない体質なだけだ。元の体型から大幅にズレることが無いんだ、死ぬまで」
ナナ・ネネが挙手した。
「2番。ナナ」
「3番。ネネ」
「趣味は昼寝」
「特技は属性の風魔法」
「初恋ってなんだ」
「恋って感覚が分からない」
「好みのオス?」
「タロウでいいんじゃないか」
マサムネの従者ナナ・ネネ(満21歳)は――
双子のガット・ティグラート。虎柄の猫耳と猫尻尾を持つ。
その炎のように赤い髪と緑色の瞳は、野生のティグラートに多い。
やはり猫のような顔立ちをしているところは、タロウ・ハナ兄妹と一緒。
でも野良猫だって一匹一匹違う顔をしているように、同じ系統の顔でも似ているわけじゃない。
タロウ・ハナはすっきりとした奥二重の瞼をしているが、ナナ・ネネははっきりとした二重瞼で、上下にふさふさと生えている睫毛がくるんとして華やかな印象だった。
またタロウ・ハナ兄妹は人間に近い性格をしているが、こちらは本来のガットの性格に近い。いつだって正直で、嘘を吐くということが出来ない。
なので、そういうつもりが無くても自ら敵を増やしていることも少なくない。
陰口を叩かれたり、嫌がらせをされれば間違っても気持ち良いものではないが、人間寄りの性格をしているタロウ・ハナよりは幾分マシな気がしている。
タロウ・ハナは、ここカプリコルノでモストロを理由に蔑まれ、陰口を叩かれ、石やゴミを投げられていた頃に、胸を痛めて涙を流していた故に。
普段からカプリコルノ国で暮らしていて、それが毎日となったら話は別だっただろうが、ナナ・ネネはたまに来ていたこっちでそういうことをされ、涙を流したことまでは無かった。
どちらかと言ったら、怒りを抑えることで必死だった。
宮廷生まれ宮廷育ちで、戦場以外では人間を傷付けないよう躾けられているから、必死に堪えていた。
陰口だけならまだしも、石やゴミを投げられるということは攻撃されているのと変わらなく、人間でなくモストロだったら問答無用で反撃していた。
本来のガットにとって、それが生き抜く上で当たり前のこと故に。
尚、数時間前にナナはガット・ネーロの長男ポチを、ネネはガット・ティグラートの長女タマを産んだばかり。
どちらの父親もタロウで、子作りの際はマサムネがタロウをナナ・ネネの部屋に押し込み、仕事を終えるまで施錠した。
種付けの仕事に来たにも関わらず、緊張でかちんこちんに固まり、正座して世間話ばかりするタロウを、2匹で襲うような形になって、無事に子を授かった。
そんな2匹の身体測定の結果は、寸分のズレもなくぴったり一緒。
身長162cm・体重60kg。
胸回り85cm・腰回り58cm・尻周り87cmだった。
アヤメが顔を塞いで「いややー」と喚く。
「ウチ、絶対測りとうない! 恥ずかしい!」
「それ、ワタシの台詞だからねアヤメちゃん……」
と、ここへ来たときからずっと絶望に染まった顔をしているのは、はち切れそうな胸元と臀部をしているベラドンナ。
「どれくらいあるのかしら」
と横からアリーチェに腹肉を摘ままれて、「きゃあ!」と声を上げる。
アリーチェは「いい?」と言いながら、持って来ていた一枚の紙を広げた。
「見て、ベラちゃん。天使の皆も。ここにお義姉様の、あの完璧過ぎた身体の記録が残されているわ。去年の今頃のものだから、亡くなる1カ月くらい前のものね」
それには、王妃ヴィットーリア(享年33歳)の身体の詳細が書かれていた。
身長168cm・体重52kg。
胸回り94cm・腰回り56cm・尻周り96cm。
現実離れした身体に、天使軍が引いていく。
服を脱いで身長を測る柱の前に立っていたルフィーナの喉が、ごくりと鳴った。
「陛下の後釜は、その身体と比べられるということですか……!」
「後釜でなくとも、さぞ比較されているでしょう女がここに居ますよ」
と、淡々と無表情で言ったベルの栗色の瞳に、きらりと涙光る。
ルフィーナがベルの胸元に目を落として狼狽し、「すみませんでした」と言ったら氷のような視線に射貫かれた。
「ごごごごめんなさいっ、ベルさんっ……!」
「お気になさらず、ルフィーナさん。4番目ですね」
「あっ、えとっ、4番! ルフィーナ・スズキです! 趣味はお金稼ぎ、特技はお金持ちからぼったくることです。魔法の中では治癒や補助、テレトラスポルトです。テレトラスポルトは仕事で頻繁に使うので、特に得意ですね。攻撃魔法に関しては、人を傷つけることはしたくないので、敢えて修得していないのもあります。でも、勝手に属性の風魔法が出てしまうことがあるので、気を付けないと……。初恋は、アドルフォ閣下かなぁ。小さい頃はちょっといいなと思う男の子がいても、兄がすぐに追っ払ってしまっていたので。好みも心身共に強いアドルフォ閣下と言ったらそうなのですが、えと、わたし、あの、やっぱり……」
とルフィーナがベルを見ると、それは「スィー」と微笑した。
安堵して言葉を続ける。
「わたしは、フラヴィオ・マストランジェロ陛下が好きです。陛下は精神的にか弱いところもありますが、とても真っ直ぐで、善良で、尊敬できるお人なので……」
もう一度恐る恐るベルを見ると、やはりそれは落ち着いた様子で微笑していた。
「では、身体測定をしてみましょう。ルフィーナさんもメッゾサングエですから、やはり見た目より体重があるのでしょうか。アラブさんはよく分かりませんでした」
「兄もわたしも、ティグラートの血が三分の一だけで人間に近いですからね。人間とあまり変わらないんじゃないかなぁ?」
オルキデーア軍大将アラブの異父妹である、ルフィーナ・スズキ(満22歳)は――
ガット・ティグラートのメスと、レオーネ人の男のあいだに出来た母は、兄アラブと一緒。
母は自由奔放に生き、世界各国をテレトラスポルトで回る旅商人で、兄アラブの父は恐らくヴィルジネ人だが、ルフィーナの父は恐らくカプリコルノ人だろうとのことだった。
たしかにここカプリコルノ国の人間の顔立ちをしていて、赤い巻き髪や若草色の瞳はティグラート譲りのように思える。
赤い髪と緑の瞳というのはこの辺の人間にもいるし、猫耳も尻尾も無いので、モストロの目を持たぬ者にはただの人間に見られることがほとんど。
性格はティグラート譲りのところがあり、正直な口をしていた。
その一方で、職業は母と同じテレトラスポルト旅商人になり、稼いだ金は貧困に苦しむ人々のために使うような性格。
まだ子供の頃、母とこの国へ商売に来たが、まったくもって売れなくて困っていたことがあった。
そこにフラヴィオが現れ、事情を話したら商品をすべて買って行ってくれた。
そのときのことは、守銭奴宰相ベルには口が裂けても言えないし、言ってはいけないことはフラヴィオとの暗黙の了解になっている。
何故ならそのときの商品は、レオーネ国の浜辺から集めて来た『単なる砂』で、母はそれを『宝石のなる木が生えて来る魔法の砂』だと嘘を吐いて売っていた。
それだけでも胡散臭すぎる商人だったが、母はそれをお猪口に一杯3万オーロという、ぼったくり価格で出していた。
フラヴィオはあのとき「凄い砂だな」とさも驚いたように言っていたが、今思えばすべて分かっていたのだ。
「売上金をどうするのだ?」
そう問われ、ルフィーナはこう答えた。
「食べることができない人たちに、食べものを買って持っていってあげるの」
だから買ってくれたのだ。
単なる砂を全部まとめて「10億オーロで足りるか?」と、見れば明らかなことを言いながら。
カプリコルノ国を去ってから、母は馬鹿な国王だと言って笑い転げていた。
そして10億オーロのうち2億オーロは母が好きに使ってしまったが、残りの8億オーロはルフィーナが責任もって食料や生活用品に変え、貧困に苦しむ人々に届けた。
そんなガット・ティグラートのメッゾサングエ、ルフィーナの身体測定の結果は、身長160cm・体重54kgだった。
「ルフィーナさんも、見た目より体重がありましたね」
「そうでしたか。わたしはそんなもんだと思ってましたけどね。わたしよりレオーネ人の女性の方が、華奢な骨格してる感じがしますし」
胸回りは86cm・腰回りは60cm・尻周りは86cmだった。
「あの、これは……わたしがもし陛下の後釜に選ばれた場合、せめて腰をあと4cm絞れということなのでしょうか」
「違う違う、いいのよこれで」
と、ベラドンナ。
「だって、骨格の問題もあるんだから。お姉様って骨格そのものが普通のカプリコルノ人より華奢だったのよね。ワタシの身長と骨格じゃー、まず腰回り60cmを切ることなんて無理だし。絶対無理だし?」
とアリーチェを見ると、それは「そうかもしれないけど」と溜め息を吐いた。
「ベラちゃん60cmどころか、70cmも切ってないわよ。だから呆れてるんじゃない、わたし」
「え、70cm? まさか」
「そのまさかよ、ベラちゃん。どう見ても、まさか」
とアリーチェが、「はい」と次の測定を待っているベルとピエトラの方を指差した。
「天使番号1番から順に、いくわよ?」
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