酒池肉林王と7番目の天使~番外編集~

日向かなた

文字の大きさ
22 / 51

10番目の天使(本編45話の省略分・後編)

しおりを挟む
 ――1492年9月22日は、カプリコルノ国の第二王子でありサジッターリオ国の国王であるコラード・マストランジェロの16歳の誕生日だった。

 コラードもまた、ベルと同様に両国を行き来してパラータや祝宴を開催しなければならないため多忙な一日だった。

「ねぇ、ばあや。16歳になった記念に身体測定して。オレ、もうすっかり父上やフェーデ叔父上よりも目線が上に来るんだ」

 その体重は『力の王』・『力の王弟』には及ばないものの、身長は2人を超えて185cmになっていた。

 10月にはフラヴィオの弟――カプリコルノ国の大公フェデリコの妻アリーチェが32歳に、第四王子ティートが9歳に。

 そして、きたるは、11月11日。

 フェデリコ35歳の誕生日でもあったその日、アリーチェに陣痛がやって来た。

 第6子故にアリーチェは慣れ切っていて、静かで軽いお産だった。

「ハイ」

 と、つるんと出した第6子――夫妻にとって最後の子は、次女カテリーナ――10番目の天使だった。

 母親譲りの深い金の髪とはしばみ色の瞳は、すぐ上の兄レオナルドとお揃い。

 顔立ちはどちらかと言ったら父親譲りで、可愛いというよりは美人顔だった。

 愛称は『リーナ』。

 その姿を拝もうと、乳母の部屋の中にはわらわらと人が集まって来る。

 天使軍元帥こと7番目の天使ベルが、眠っているカテリーナに向かって一礼した。

「天使軍にご入隊おめでとうございます。カテリーナ様、あなたはフラヴィオ・マストランジェロ陛下の10番目の天使です」

「美人だなぁ、リーナ。何よりも健康に育つのだぞ。ちなみにこれは、そなたと同い年の従兄弟のサルヴァトーレだ」

 とフラヴィオが、カテリーナの右隣に生後5ヶ月のサルヴァトーレを寝かせて「ふふふ」とデレた。

「可愛いだろう?」

 その傍ら、カテリーナの姉である6番目の天使ビアンカが「フクザツだわ」と、言葉通りの表情を見せた。

「来年ティーナちゃまが成人したら、未成年女子の中でビアンカがいちばん可愛くなるはずだったのに……これじゃ、いちばんはビアンカなんだかリーナなんだか分からなくなっちゃったじゃない」

 と文句を言いながら、カテリーナの髪を撫でる。

 その色は自身と同じだが、一見して姉妹に見えるほど似てはいなかった。

 母アリーチェそっくりな顔立ちで生まれて来たビアンカは垂れ目がちで、カテリーナは吊り目がち。

 ビアンカが小振りで可愛らしい印象の鼻をしているのに対し、カテリーナは赤ん坊ながらすっと鼻筋が通り、綺麗な形をしていた。

「でもま、いいわ。碧眼ってところがビアンカの方が上だし、ビアンカはリーナの姉上だもの。ビアンカはかわいい系のいちばんで、リーナは美人系のいちばんってことにしてあげる」

 生後6ヶ月の息子ライモンドを連れてやって来たコラードは、それをカテリーナの左側に寝かせる。

 最も高貴な瞳の色といえば碧眼だが、ライモンドの母親譲りの紫色の瞳はとても珍しく神秘的で、いつ見てもその美しさは碧眼に勝るとも劣らない。

「こいつもリーナと同い年なんだ、よろしくな。えーと、オレとリーナが従兄弟だから……リーナから見たライモンドってなんて言うんだ? 単に『従兄弟の子』?」

「『従甥いとこおい』よ」

 と、コラードの妻でライモンドの母・サジッターリオ国女王シャルロッテ。

 レットに並んでいる3人の赤ん坊を、じっくり見比べる。

「男の子がひとりで、女の子が2人に見えるわ。不思議なくらいトーレから男の子の雰囲気がしないのだけど……もしかして、トーレって見た目だけじゃなく中身も女の子だったりして」

 フラヴィオは嬉しそうに「おおっ」と碧眼を煌めかせたが、ベルの方には衝撃が走る。

「や、止めてくださいシャルロッテ陛下…! 私はトーレを『力の王』の息子として、強く逞しく育てたいのです……!」

「冗談よ、ベル。いえでも……やっぱりそうでもないかしら」

「えっ……!?」

「この子、そういうトーレの雰囲気を感じ取ってるからこうなんじゃないの?」

 この子――絶世の美幼児レオナルド。

 一見してフラヴィオ・フェデリコ兄弟そっくりなそれは、せっかく妹が生まれたというのにサルヴァトーレの方に恍惚としている。

「すきです、トーレでんか」

 と2歳児にしては大きな身体を屈めて、サルヴァトーレの頬にバーチョする。

 ここで狼狽するは、レオナルドの父と伯父。

「――まっ……待て待て待て待て!」

 と、伯父はサルヴァトーレを取り上げるように抱っこし、父はレオナルドを遠ざけるように抱っこする。

「レオおまえ、2歳児のくせにすでにマストランジェロ一族の男の匂いがプンプンするな! トーレの神聖な頬にバーチョをかますなんて、一体誰を見て覚えたというのだ!」

「兄上かと!」

「気持ちは分かるが、トーレは男だレオ! 従兄弟ならば結婚は可能だが、男同士で結婚出来る制度はうちには無い! 諦めるのだ!」

「そうだレオ、諦めるんだ! 父上はおまえに将来、子孫を残して欲しいんだ! トーレなんてカンクロ国の王太子だから尚のことだ、重要な義務なんだ! でもトーレは男で、おまえも男だから、例え将来うちに同性同士で結婚できる制度が出来たとしても、子孫を残すことが出来ないから駄目だ!」

 父と伯父の顔を交互に見るレオナルドの榛色の瞳にじわじわと涙が滲み、「わーん」と泣き出す。

 すると「レオ!」と2歳児とは思えない野太い声上げた、アドルフォの次男・筋骨隆々巨大2歳児ジルベルト。

「なにしやがる!」

 と、フラヴィオとフェデリコの足を力一杯踏み付けた。

 2歳児とは思えない怪力に激痛が走り、2人が「い゛っ!」と声を上げてしゃがみ込む。

「おっ、おまえが何をしてるんだ、ジル!」

 と父アドルフォに怒号されると、ジルベルトが尚のこと激昂した。

「レオとトーレ、ケッコンさせてやれよ!」

 と、ボコボコとアドルフォの腹に殴り掛かる。

 普通に痛いアドルフォが驚愕していく。

 普通に痛いこと自体が、普通じゃなかった。

 鋼よりも硬いかもしれない腹が、たしかに痛みを上げていく。

「ジル、おま……明日から剣――竹刀を持て。もう『中の中庭』で鍛錬を積むんだ。おまえは将来、俺を超える……!」

 どよめきが起こる乳母の部屋の中、ベルが覚束ない足取りで廊下へと出て行く。

 ジルベルトの力は想像を超えて頼りになりそうだが、なんかサルヴァトーレとレオナルドの恋を応援しているし、急に将来が心配になってきた。

「き…禁断の愛……!」

 よれよれと、廊下に座り込む。

「ま…まさか……まさか、せっかくカンクロ国を王家マストランジェロ一族のものにしたというのに、たったの二代で終わってしまうのではっ……」

 背後から「大丈夫ですよ」と笑い混じりの声が聞こえた。

 ベルの後を追い、乳母の部屋から出て来たルフィーナが立っていた。

「そ、そうでしょうかルフィーナさんっ……」

 とベルが震え声で問うと、ルフィーナがきっぱりと「スィー」と笑顔で答えた。

「大丈夫ですか」

 と、ベルの手を引いて立たせる。

「まだ小さいですし、その辺のことをまだよく分かっていないだけなんですよ。それなりの年齢になったら、サルヴァトーレ殿下も男の子っぽくなって来て、レオナルドさんも普通に女の子と結婚したいって思うようになるはずです。あくまでも、女性が大好きなマストランジェロ一族の男性なんですから」

「そう……ですよね」

 とベルが安堵の溜め息を吐く。

 ルフィーナのお腹を見た。

「いつになるでしょうね」

「メッゾサングエなので、何とも。もし女の子が――シルヴィアが生まれたら……それは11番目の天使にしていただけるのでしょうか」

「それはもちろんです。ルフィーナさんだって、9番目の天使ではありませんか」

「そうですが……わたしは当然、シルヴィアも天使には相応しくありませんし……」

「ルフィーナさん」

 と、今度はベルがルフィーナを安堵させる番だった。

 その両手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑みかける。

「忘れないでください。皆も私も、付いているのですから」

「スィー、ベルさん。また弱気になってごめんなさい」

 とルフィーナはベルの手を握り返すと、笑顔に戻った。

 世界一の大国の女王が味方というだけで、とても大きな安心感に包まれる。

 二人の我が子が入っているお腹を優しく摩った。

「アレッサンドロかな、シルヴィアかな、どっちもかな……何も怖くないよ。あなたたちは、大きな大きな盾に守られているから。安心して生まれて来てね」

 そして1492年12月31日に、アレッサンドロが。

 日付変わって1493年1月1日に、シルヴィアが――11番目の天使が、誕生した。





※本編に戻ります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

処理中です...