7 / 33
第7話 乙女の生贄
しおりを挟む
エステルは困惑していた。
一年近くぶりに訪れた義妹の来訪は思いもよらないものであったからだ。
「あなたに断る権利なんてないわよねぇ? お・ね・え・さ・ま」
「……ねぇ、エマ。その赤ん坊って誰の子供なの? 父親は――」
「――さぁ? 誰かしらね~」
気になって尋ねたエステルの深刻な質問にも実に軽く、まるで昨日のディナーの内容でも思い出すかのようにエマは答えるのである。
「まぁ、そんなことはどうだっていいのよ。なかったことにするのですからね。全てはお姉様のことになるの」
ニッコリと満面の笑みをうかべてエマは自分の胸に手をやる。
「そして私は清らかな乙女のまま。なんの汚点もないキレイな身のままで王太子様のもとへと輿入れしますの」
聖女でも気取っているのか、この一瞬ばかりは本当に出会ったばかりの頃に見ていた無邪気な子供の顔のようにエステルにも見えた。
「では、そういうことですから。よろしくお願いしますわね。三日後の夜に迎えの馬車を寄越しますから」
「夜!?」
「えぇ。お姉様は幽閉された事で精神を病まれてお亡くなりになった――ってことにしますの。だから極秘に一度お邸に戻っていただかなくてはなりませんのよ」
「なっ……」
エステルはギョッとした。
「仕方ないでしょ? この館に入った者は棺になってでしか出られない決まりなんですもの。生きている姿を見られるわけにはいかないの。――罪人がそれ以外の理由で外になんて出られるとでも思ってらしたの?」
クスクスと笑うとエマはまたフードを被り、ハンナにも何やら告げてこの館から出て行ったのであった。
「お嬢様……」
ガックリと床に膝から崩れ落ちて放心状態になってしまったエステルに気が付き、心配そうにハンナは声を掛けた。
「大丈夫……。えぇ、大丈夫よ。ごめんなさい」
ガクガクと足を震わせながら立ち上がろうとするエステルに手を貸し、ハンナは体を支えながら椅子へと座らせた。
「ありがとう、ハンナ」
「いえ…………」
どうにも重々しい空気の中で無言が続き、息苦しさを覚えたハンナはどうにかしたく……。
「わ、私……温かいお茶を入れ直してきますね」
冷めきったお茶の入ったティーカップとティーポットを机の上から下げようと手を賭けたその時、服の端をギュッとエステルが掴んでくるのだった。
「お嬢様?」
「ハンナはさっき……何を言われていたの?」
そう聞かれてハンナは背筋がピリッとなるのを感じた。
「私は――この件の真実を外に漏らさぬよう、口封じの為に『棺』になってもらうこともあるいは……と」
エステルは『棺』という言葉に驚き、俯いていた顔をバッと上へと上げてハンナの顔を見た。
「そんなっ――!! ハンナが……」
一年近くぶりに訪れた義妹の来訪は思いもよらないものであったからだ。
「あなたに断る権利なんてないわよねぇ? お・ね・え・さ・ま」
「……ねぇ、エマ。その赤ん坊って誰の子供なの? 父親は――」
「――さぁ? 誰かしらね~」
気になって尋ねたエステルの深刻な質問にも実に軽く、まるで昨日のディナーの内容でも思い出すかのようにエマは答えるのである。
「まぁ、そんなことはどうだっていいのよ。なかったことにするのですからね。全てはお姉様のことになるの」
ニッコリと満面の笑みをうかべてエマは自分の胸に手をやる。
「そして私は清らかな乙女のまま。なんの汚点もないキレイな身のままで王太子様のもとへと輿入れしますの」
聖女でも気取っているのか、この一瞬ばかりは本当に出会ったばかりの頃に見ていた無邪気な子供の顔のようにエステルにも見えた。
「では、そういうことですから。よろしくお願いしますわね。三日後の夜に迎えの馬車を寄越しますから」
「夜!?」
「えぇ。お姉様は幽閉された事で精神を病まれてお亡くなりになった――ってことにしますの。だから極秘に一度お邸に戻っていただかなくてはなりませんのよ」
「なっ……」
エステルはギョッとした。
「仕方ないでしょ? この館に入った者は棺になってでしか出られない決まりなんですもの。生きている姿を見られるわけにはいかないの。――罪人がそれ以外の理由で外になんて出られるとでも思ってらしたの?」
クスクスと笑うとエマはまたフードを被り、ハンナにも何やら告げてこの館から出て行ったのであった。
「お嬢様……」
ガックリと床に膝から崩れ落ちて放心状態になってしまったエステルに気が付き、心配そうにハンナは声を掛けた。
「大丈夫……。えぇ、大丈夫よ。ごめんなさい」
ガクガクと足を震わせながら立ち上がろうとするエステルに手を貸し、ハンナは体を支えながら椅子へと座らせた。
「ありがとう、ハンナ」
「いえ…………」
どうにも重々しい空気の中で無言が続き、息苦しさを覚えたハンナはどうにかしたく……。
「わ、私……温かいお茶を入れ直してきますね」
冷めきったお茶の入ったティーカップとティーポットを机の上から下げようと手を賭けたその時、服の端をギュッとエステルが掴んでくるのだった。
「お嬢様?」
「ハンナはさっき……何を言われていたの?」
そう聞かれてハンナは背筋がピリッとなるのを感じた。
「私は――この件の真実を外に漏らさぬよう、口封じの為に『棺』になってもらうこともあるいは……と」
エステルは『棺』という言葉に驚き、俯いていた顔をバッと上へと上げてハンナの顔を見た。
「そんなっ――!! ハンナが……」
56
あなたにおすすめの小説
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる