飢えるのは嫌だったし、男を食い物とすることにした!

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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 場所は都会過ぎず田舎過ぎず、そんなに豊かでもないが極貧というわけでもない。
 そして税金徴収をされた後は一時的に少し貧乏になるという程度の、どこにでもある平穏でありきたりな農村で、父・母・兄・私の4人となる家族に、私は生まれた。
 ここで『今世』と言ったのは、私はこの世界とは別の異世界から来た転生者だからなのである。
 近頃流行りのラノベやアニメよろしく前世の記憶を持ったまま、神様にいくつかの特殊能力を貰ってこの世界のビエノ帝国という所へと降り立った。
 生まれた直後の記憶はなんとなく朧気に覚えてはいるが、そこはその辺にいる普通の人と同じ様に赤ん坊の時分に自我も無く記憶は消え、7歳の誕生日までは前世の記憶は封印されて育った。
 まぁ、確かに神様の言う通り『自分』と言う意識と記憶を持ったままオムツを替えられたりオッパイを飲まされたりするのはなかなかの羞恥プレイで、そんなのは耐えられたものではなかっただろう。
 だからそれなりにしっかりとする年齢となって『私』が新たな世界に適応できるまで、魂に記憶された前世の記憶を封印されていたのには記憶が解放されて暫くした後に神様へと感謝をした。


「アディル~。そろそろ教会に行く時間よ~。」

 この日、自分の部屋で私は、今日の日の為に誂えた特別な衣装に着替えて支度をしていた。

「は~い。今行くよ、ママ。」

 この世界では前の世界であった『七五三』の様な行事があるらしく、子供は皆7歳になるとその月の儀式の日だけは特別に着飾った衣装で教会に向かい、特別な礼拝を行うという習わしがある。
 この時に7歳となった子供が1人でパンを捏ねて焼き、それを自らの肉体の代わりとして神に捧げるのだ。
 大昔には代わりのパンではなく本当に子供自ら肉体を捧げたことがあったらしく、今でも一部の地域ではその風習も残っている所もあるとかないとか………。
 だがまぁ……古代ならともかく、を7歳というまだまだ幼き少女がいまだにするというのも問題だと、時代とともに廃れた。
 その結果がパンなのである。

「おぉ! よく似合ってるじゃないか。アディル姫。」

 3つ年上の兄はリビングに出てきた私の、普段着ない様なフリルとリボンがたくさん付いたフワフワの黄色いドレス姿に、揶揄からかうかの様に身振り手振りも交えてちょっとオーバーに私を褒め称えた。

「ちょっとやめてよ! お兄ちゃん!」

 私は兄のそのオーバーなリアクションに恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしてしまっていた。

「ハッハッハッハッハッハッ!」

 そんな兄と私の様子を見て、父は大口を開けて快活に笑っていた。

「さぁ、行きましょう。」

 遅れてはダメだからと母にそう促され、私たち家族は私が7歳になったお祝いの儀式をする為に教会へと向かった。
 どんなものだろうかと期待していた儀式はなんと言うか――とても単純なものだった。
 教会に着くといつもの様に讃美歌を歌い、その後はこの村で今月7歳になった子供らが順番に前にある壇上の神像の許へ行き、自らの肉体の代わりとなるパンを祭壇に捧げる。
 その後に横に居る神父様の傍へと行って膝をつき、頭を垂れて祈りを捧げると聖なる樹木とされる樹の枝で作られた、神道で言うところの玉串の様な物で両肩と頭を順番に撫でられるのだ。
 その次に神様が新たな信徒となる私たちをこの先もお守りくださいますようにという、ありがたい祈りの言葉を神父様から聞くとそれで終わりという呆気ないものだった。
 この儀式を成人となる15歳の時にも少し形を変えて行うらしく、女の場合、一説にはその時に無垢な処女おとめでなければこの植物の葉の色が変わり、それによって将来に影響を及ぼすとかっていう伝承もあるんだとか。
 まぁ、そもそもが7歳の儀式を正式にやっていたような昔には邪神の子を宿しているかどうか調べる為とかなんとか――その意味合いはガラリと変わっているらしいが………。
 私がこの年齢になるまでに知り得た情報を元にして想像するに、結婚も――ましてや成人すらする前に子供を孕んでしまうような女っていうものは邪神に魅入られた穢れた存在だからっぽい。
 勿論、女一人で妊娠なんてできようはずもないので村に居る誰かが必ずその子種となる男なわけなのだが……神代に近い大昔のせいか何故かそうは考えられずに男は一切罰せられなかった。
 だから成人未満で妊娠した女の子供は全て邪神の血を引く子とされ、その女はもれなく村から追放されたらしい。
 私はそんなのはアホらしいと思いながら今はそんなルールがなくて良かったと他の子供が終えるのをボーっと眺め、自らの順番が来ても流れ作業の様に儀式を済ませて終わらせた。

「もうっ、アディルったら……。」

 大切な7歳のお祝いの儀式を、他の子供と違って淡々と流れ作業の様にこなしているだけの私の様子に、後ろの方で見ている母は照れて恥ずかしいだけだろうと思い、しょうがない子ねと眉をひそめながらも微笑んでいた。
 実のところ、私は生まれてからちょうど7年となった3日前の誕生日の夜、前世の記憶を取り戻していたことによって中身は既に大人だったのもあり、私にとっては形だけの儀式に何も思わなくなっていたのだった。
 前世の記憶を取り戻したばかりの一昨日の昼辺りまでは今世と前世の記憶が混濁し、少し混乱することもあったが今ではもう落ち着き、自らの現状について分かる事も増えた。
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