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第0章 これが始まりの物語
2.ここは何処?
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「えっ!? いや、謝るのは俺の方で…」
やっと人に会えた、ここが何処なのか聞くことが出来ると思ってホッとしていたらこの小屋の住人らしき男に何故か謝られてしまっていた。
謝るのは非常事態とはいえ勝手に小屋の中に入った、しかも住人不在の中で眠りこけていた俺の方なのに…、その状況に訳が分からず戸惑いながら訊ねた。
「あの…貴方様の様な方って、いったいどういう…?」
「そこまで真っ黒な髪で、黒のローブまで羽織ってらっしゃる貴方様は神官…いや、大神官様でしょう?」
そう言ってその男は顔を床に付けたまま身を小刻みに震わせていた。
黒髪で黒いローブを着ているだけで神官って…、しかも何だかすごく偉いっぽい人に思われているらしい。
「違うから! 俺はそんなたいそうな人ではなくて一般庶民だから! 落ち着いて顔を上げて。立って普通にして。」
俺の言葉にその男は恐る恐る顔を上げ、俺の顔色をうかがう様にこちらを見ながら申し訳なさげな顔をしてゆっくりと立ち上がった。
「本当に貴方様は大神官様ではないので?」
俺は首をこれでもかと縦に振った。
「うんうん。そうだよ! この服とローブも自分の物じゃないし…。気が付いたらいつの間にかこれを着てて……、小舟に横たわって海の真ん中へ居ただけで自分でもよく分からないんだ。」
黒髪で、尚且つ黒いローブまで着ているのに神官ではないという事がまるで信じられないという風に、ビクビクと少し腰が引けた様な姿勢で下から見上げるように俺を訝しげな目つきで見てきた。
そのどうにもコミュニケーションが取りにくそうな雰囲気からどうにかしなければと思い、どうしたら誤解が解けるだろうかと考えあぐねていると、その男は突然ハッと何かを思いついた様な顔をしてこちらの目を見た。
「もしかして貴方様は…記憶喪失なのでは? …そうであるならば納得ができます。きっとそうに違いありません! そういえば神官様は巨大な力を持つのと引き換えに魔力が極度に枯渇しすぎると記憶が不安定になることがあると聞いたことがありますし……。記憶喪失であるならばそのおかしな挙動も納得が出来ます!!」
………えっ!?
「そうであるならば急いで教会にお連れしなければならないのですが…。しかしもう夜が来ますので今日すぐには無理です。幸い今、近くの村には街の役人が税の調査に来ていて馬車があります。明日の昼頃には街へお帰りになると言ってらしたのでそれに貴方様も乗せて教会まで連れて行ってもらいましょう。」
さっきまで警戒して怯えていたその男の顔は何か胸にすとんと落ちた様で、一変して明るくなった。そして俺が何言う間もなく街にある教会へと連れて行かれる事が決まっていた。
「今日はもう暮れて危ないので近くの村までも行くことができず……、申し訳ございませんがうちの小屋で一晩過ごしてもらうより仕方ありません。」
そう言うと謝りながらその男の近くにあった棚にあるランプに火を着けた。
空気取りの為の小さな穴と、ガラスではなく木板でできた窓で塞がれたものがあるだけの小屋の中は、小さなランプの灯りが一つ点いただけでもかなり明るくなったように思えた。
「海辺の夜は冷え込みますし、大したものはできませんが夕飯に温かいスープとパンをご用意しますね。私はこちらで寝ますのでそのベッドはお使いください。」
そう言って薪ストーブの前の床を指差した。
ベッドが一つしかなくソファの類も無いとはいえ突然の来訪者である俺がベッドで住人であるこの男が床でというのは申し訳なさすぎる。
「いや、俺が床で……。」
そう何度も言ってみたが「そんな簡素なベッドだっていうのも申し訳ないのに床になど畏れ多い」と言って頑として譲らず、結局俺がベッドで寝ることになった。あまりにも申し訳なさ過ぎて今夜は寝れる気がしないなと思った。
夕飯の時はには少し話をすることができた。
この男の名前がトランということ。
トランは漁師で少し離れた近くの村にも家があり、その家とこの小屋を行ったり来たりして生活していること。
村の家では数人の村人に手伝ってもらって魚を燻製にしたり調味液に漬けたりと、魚介類を加工する仕事をしているということ。
この国の名前はサクラヴェールと言い、大陸にある4番目に大きな国であるということ。
明日行く街の名前はフェンネル領のサントルという名前の小さな街であるということ。
トランはずっと神官だと勘違いしたままなので、ちょっと話をするのもいちいち畏まってくるので最初はなかなか話も進まず大変だった。
しかし俺が終始申し訳なさげにしているのと、記憶喪失であるという勘違いもあってからは少し気も緩んだのか、段々と怯えることも無く色々と喋ってくれるようになった。
「その近くの村やサントルまではどれぐらいかかるの?」
「村までは歩いて20分ぐらいですかね。村から街までは……馬車だとたぶん5時間ほどだと思いますよ。」
馬車で5時間…、それはどれ程の距離なのだろうか……。
馬車になんて乗ったことも無いので、5時間というのが近いのか遠いのかも分からず、ただ頷くことしかできなかった。
「私もサントルぐらいなら仕事や買い物で行った事がありますが庶民が乗れるのはウルフトラムって荷獣車ぐらいです。貴族や神官様方が乗れるような馬車だと荷獣車よりも速いのでもしかしたらもう少し早く着くかもしれません。」
「荷獣車? ウルフトラムってどんな物なんだい?」
詳しく聞いてみるとそれは車輪の付いた犬ぞりの様なものであるらしい。
「さぁ、もう夜も遅いですしそろそろ寝ましょう。」
そう言ってベッドに促されたので横になることにした。
俺が横になったのを確認すると、トランはゴザの様なものを敷いてその上にクッションの様なものを置き、寝床を作ってからランプの火を息でふうっと消した。
やっと人に会えた、ここが何処なのか聞くことが出来ると思ってホッとしていたらこの小屋の住人らしき男に何故か謝られてしまっていた。
謝るのは非常事態とはいえ勝手に小屋の中に入った、しかも住人不在の中で眠りこけていた俺の方なのに…、その状況に訳が分からず戸惑いながら訊ねた。
「あの…貴方様の様な方って、いったいどういう…?」
「そこまで真っ黒な髪で、黒のローブまで羽織ってらっしゃる貴方様は神官…いや、大神官様でしょう?」
そう言ってその男は顔を床に付けたまま身を小刻みに震わせていた。
黒髪で黒いローブを着ているだけで神官って…、しかも何だかすごく偉いっぽい人に思われているらしい。
「違うから! 俺はそんなたいそうな人ではなくて一般庶民だから! 落ち着いて顔を上げて。立って普通にして。」
俺の言葉にその男は恐る恐る顔を上げ、俺の顔色をうかがう様にこちらを見ながら申し訳なさげな顔をしてゆっくりと立ち上がった。
「本当に貴方様は大神官様ではないので?」
俺は首をこれでもかと縦に振った。
「うんうん。そうだよ! この服とローブも自分の物じゃないし…。気が付いたらいつの間にかこれを着てて……、小舟に横たわって海の真ん中へ居ただけで自分でもよく分からないんだ。」
黒髪で、尚且つ黒いローブまで着ているのに神官ではないという事がまるで信じられないという風に、ビクビクと少し腰が引けた様な姿勢で下から見上げるように俺を訝しげな目つきで見てきた。
そのどうにもコミュニケーションが取りにくそうな雰囲気からどうにかしなければと思い、どうしたら誤解が解けるだろうかと考えあぐねていると、その男は突然ハッと何かを思いついた様な顔をしてこちらの目を見た。
「もしかして貴方様は…記憶喪失なのでは? …そうであるならば納得ができます。きっとそうに違いありません! そういえば神官様は巨大な力を持つのと引き換えに魔力が極度に枯渇しすぎると記憶が不安定になることがあると聞いたことがありますし……。記憶喪失であるならばそのおかしな挙動も納得が出来ます!!」
………えっ!?
「そうであるならば急いで教会にお連れしなければならないのですが…。しかしもう夜が来ますので今日すぐには無理です。幸い今、近くの村には街の役人が税の調査に来ていて馬車があります。明日の昼頃には街へお帰りになると言ってらしたのでそれに貴方様も乗せて教会まで連れて行ってもらいましょう。」
さっきまで警戒して怯えていたその男の顔は何か胸にすとんと落ちた様で、一変して明るくなった。そして俺が何言う間もなく街にある教会へと連れて行かれる事が決まっていた。
「今日はもう暮れて危ないので近くの村までも行くことができず……、申し訳ございませんがうちの小屋で一晩過ごしてもらうより仕方ありません。」
そう言うと謝りながらその男の近くにあった棚にあるランプに火を着けた。
空気取りの為の小さな穴と、ガラスではなく木板でできた窓で塞がれたものがあるだけの小屋の中は、小さなランプの灯りが一つ点いただけでもかなり明るくなったように思えた。
「海辺の夜は冷え込みますし、大したものはできませんが夕飯に温かいスープとパンをご用意しますね。私はこちらで寝ますのでそのベッドはお使いください。」
そう言って薪ストーブの前の床を指差した。
ベッドが一つしかなくソファの類も無いとはいえ突然の来訪者である俺がベッドで住人であるこの男が床でというのは申し訳なさすぎる。
「いや、俺が床で……。」
そう何度も言ってみたが「そんな簡素なベッドだっていうのも申し訳ないのに床になど畏れ多い」と言って頑として譲らず、結局俺がベッドで寝ることになった。あまりにも申し訳なさ過ぎて今夜は寝れる気がしないなと思った。
夕飯の時はには少し話をすることができた。
この男の名前がトランということ。
トランは漁師で少し離れた近くの村にも家があり、その家とこの小屋を行ったり来たりして生活していること。
村の家では数人の村人に手伝ってもらって魚を燻製にしたり調味液に漬けたりと、魚介類を加工する仕事をしているということ。
この国の名前はサクラヴェールと言い、大陸にある4番目に大きな国であるということ。
明日行く街の名前はフェンネル領のサントルという名前の小さな街であるということ。
トランはずっと神官だと勘違いしたままなので、ちょっと話をするのもいちいち畏まってくるので最初はなかなか話も進まず大変だった。
しかし俺が終始申し訳なさげにしているのと、記憶喪失であるという勘違いもあってからは少し気も緩んだのか、段々と怯えることも無く色々と喋ってくれるようになった。
「その近くの村やサントルまではどれぐらいかかるの?」
「村までは歩いて20分ぐらいですかね。村から街までは……馬車だとたぶん5時間ほどだと思いますよ。」
馬車で5時間…、それはどれ程の距離なのだろうか……。
馬車になんて乗ったことも無いので、5時間というのが近いのか遠いのかも分からず、ただ頷くことしかできなかった。
「私もサントルぐらいなら仕事や買い物で行った事がありますが庶民が乗れるのはウルフトラムって荷獣車ぐらいです。貴族や神官様方が乗れるような馬車だと荷獣車よりも速いのでもしかしたらもう少し早く着くかもしれません。」
「荷獣車? ウルフトラムってどんな物なんだい?」
詳しく聞いてみるとそれは車輪の付いた犬ぞりの様なものであるらしい。
「さぁ、もう夜も遅いですしそろそろ寝ましょう。」
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