異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

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第0章 これが始まりの物語

6.神様からのお願い

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 アルテロに人払いされ、俺一人きりとなった礼拝堂は気持ち悪いぐらい静かだった。
 俺は祈りの儀式の為に跪き、神の化身となるシンボルを見上げると、教会の一番奥にある祭壇の上の壁には見慣れたマークを模したオブジェクトが掲げられていたのに驚いた。

「これは…鳥居……だよな? どっからどう見ても……。一体どういう………ただの偶然か? …まぁ、とりあえずは祈りの儀式とやらをして、神様と話してみるか…………。」

 俺は先程アルテロに説明を受けた様に首から石の付いたネックレスを外し、手の平の上に乗せて頭の上まで掲げ、目を閉じて祈った。

「神様、どうしてこんな状況になったのか、俺の身に何が起こったのか教えてください。」

 するとどこからともなく「おまちしておりました。」という声が聞こえたと思ったら周りが一瞬真っ暗になり、かと思えば次の瞬間には俺は温かな光に包まれていた。
 目を開けると、目の前には昔話にでも出てきそうな天女の様な姿があった。

「あなたが……神、様…ですか? まさか実際に目の前で会えるとは……それに俺の見た事のある様な恰好で……和風な雰囲気がこの世界のモノじゃない様な………。」

「はい。私がこの世界で『神』と呼ばれる一人であり、君をこの世界へと呼んだ張本人です。私の姿があなたの国のモノに似ているのは、この教会で信仰されている宗教が以前お招きした貴方の世界の日本人を聖人として祀ったものなので……、その影響なのでしょう。また別の国へと行き、私を主神として祀る別の宗教の教会へ行くと私の姿も違って見えますよ。」

 俺の問いかけに、目の前に現れた神様は優しくゆっくりと答えたが、話の後半の部分に驚愕した。

「以前? 俺と同じ様に? やっぱりここは異世界なのか?」

「はい、そうです。まずはこの世界『聖なる庭園フィノナガルト』についてと、君をこの世界に呼んだ理由についてお話ししましょう。」

「その前に聞かせてくれ! 俺は死んだからこの世界に来たのか? あっちの世界で俺は今どうなっているんだ?」

 俺は本題の話をする前に、非常に重要な事をまず一番初めに聞く事にした。

「いいえ、君は死んではいません。ただ魂が2つに別れたのです。その片方がこちらの世界に来たにすぎません。元の世界での君も、普通に生活して今現在も何の変りもなく人生を送っているはずですよ。」

 そう言って左手の平の上からその空中に“地球での俺の姿”を映し出した。

「2つに別れたってどういうことだ!?」

「君はあちらの世界で元々双子として誕生するはずでした。それが何かの拍子に胎内で2人の体は融合し、1人の体の中に2人の魂が宿る事となって生まれたのです。ですがずっと1人の体の中に2人分の魂が居続けることはできません。そんな中で今回の私のお手伝いとしてのお招きに呼応したのが2人の内の片方の君だったのです。今ではあちらの世界とこちらの世界の体、それぞれの1つの体に魂が1つずつ宿り、本来の形に戻っているだけなので安心してください。」

 思いもしなかった衝撃の事実を聞かされ、目が点になった。

「その事、俺の母さんや……あっちの世界の俺は知っているのか?」

「いいえ知りません。人間が気が付く前、分かる前に2人の体は融合したので、お呼びしたことも含めて誰も何も知らないのです。」

「そうか……それなら良いんだ! どうせ俺はあっちの世界には帰れないんだろうし、帰ったとしても居場所なんて無いんだろう? それならここで第2の人生をやり直す…、いや、生き直すまでだ!! 神様、さっき俺を手伝いの為に呼んだって言っていたな。何をすれば良いんだ?」

 俺はこの神様の話に帰りたかった思いなど、なんだか心にモヤモヤとしていたものが吹っ切れ、この世界で生きていこうと決意した。

「この世界は、君の世界にはない『魔力』という力で満たされています。魔力は生まれる前から誰もが持っており、母親の胎内にいる間は安定していますが生まれた瞬間から乱れ、感情の乱高下によって魔力が爆発し、それによって自分自身の一部や周りにあるあらゆる物を破壊します。それを防ぐ為に人間たちは“聖なる天空”という石を生まれた時から肌身離さず身に着け、自らの意思でコントロールできるようになる年齢になるまで石に魔力を封じ込め、その後も死ぬまでいざという時の為に貯め続ける事ができます。そして石は最初に身に着けた持ち主以外の魔力はその後も吸収せず、持ち主以外の人に使う事も出来ません。その副作用として持ち主の個人情報を記録し、持ち主自身の記憶をも記録し続けるのです。なのでこの世界に住まう人間はほぼ全て、1人1個は必ず持っている物なのです。事情により、他の人間以外が身に着けていることもありますが……。」

「へ~ぇ。それで俺の首にもこの石のネックレスがかかっていたのか。……この身に覚えのない黒い服は何故着ていたの? 黒髪と合わせて俺の事を皆『神官様、神官様』って呼ぶんだけど………?」

「生まれた時は少ないので最初は誰もが色は薄いのですが…、体内に溜め込む事のできる魔力が多ければ多い程髪の色は黒く染まるのです。この世界ではそれを“夜空色”と言い、魔力が多すぎると瞳も黒くなるのですが、夜空の様に星が瞳の中に見えることもあります。そして黒く染まる程の魔力の持ち主は皆、神官の職に就いて各国の大神殿に奉納されている…君の世界で言う所の『聖書』を他の国から守るのです。その神官が着る式服が今君の着ている服なのですよ。私の着せたその服のおかげで無事、この世界の人間達に教会まで連れて来てもらう事ができ、こうして私と話をすることができたでしょう?」

 そういうと神様はニッコリと笑って話を続けた。

「そしてこの世界にある宗教は全て私を主神とし、私の子供たちである火の精霊王・水の精霊王・大地の精霊王・風の精霊王を共に祀ったものです。それが今まで人間に与えた4つの契約書、『聖書』の契約者によって4人それぞれを神と人間とを繋ぐ聖人として祀った宗派へと発展し、4つの大きな国ができました。今、その聖書が何者かによって一部破壊され、世界中で異変が起こっているのです! それを調査し、元に戻すのを手助けしてください。」


―――――はぁ!?
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