異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
12 / 89
第1章 ようやく始まった俺の冒険

1.旅立ち と 久しぶりの声

しおりを挟む
「今日でこの街ともおさらばか~。」

 俺は馬の手綱を引きながら城下街を歩き、街の雰囲気を味わいながら感慨に耽っていた
 神様と約束した1年が経ち、俺も16歳となってグンと背が伸び、中身も少し大人へと成長していた。
 最初は井戸から水を汲むことさえ一人ではできなかった貧弱な体も、今では酒樽をひょいっと持ち上げれる程までになった。

「訓練と勉強の毎日で城から街に出たのなんて少ないけど…。でも屋台で買って食べた焼鳥は甘いタレが香ばしくてすごく美味しかったな~。街外れでした野営訓練の時に、鶏肉料理は俺の良く知る鶏じゃなくて“コカトリス”って鶏と蛇が合体した様なモンスターを使ってるんだって、食べた後で聞いたときは暫くの間は食べられなかったけど………。ここって本当に異世界なんだよな~。」

 空を見上げ、今見ている空の青さが自分の記憶の中にある地球で見たものと同じだと感じて不思議な気持ちになった。

「しかしあの王様…、サクラ王は、途中まではまだ良かったんだけど…、最後はなんかちょっと苦手な感じだったな~。俺に良くする程に権威を示すことができるからって言って、さっきも色々と持たせようとしたりとか……自分の娘を従者にと差し出そうとまでしてきたのには困ったな………。」

 俺はさっき城から出る前にあった事を思い出してため息をついた。
 旅立ちのパレードをしようとまで言い出した時は「予算が…」と宰相や侍従たちに言われ止められていたが、あれやこれやと王様の口から出てきて断るのが大変で、旅立ちからすでに疲れていた。

「立派な馬1頭と、ある程度の旅の資金も貰ったし。野営訓練の時に自分で買った道具一式もあるからこれで充分なんだけどな~。それにお姫様を従者にするなんて畏れ多いし…。この国以外はざっくりとしか分からないけど地図も貰ったことだし、しばらくは1人でじっくりと冒険してみるかな。」

 俺はこの街の最後の思い出に焼鳥を数本買い、それから門を通って街の外へと出た。
 門を通ると馬に乗り、少し離れた所にある森へと続く小高い丘の頂上に立つ1本のリンゴの木のところまで歩いた。
 振り返って街を見下ろすと、今日からここを起点に俺の人生は新たに始まるんだと意気込んだ。
 すると足元が光り、「ルカ…。」と俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
 驚いて後ろを向くと、リンゴの木のそばには背中に蝙蝠の様な羽を生やした大きな黒猫が居た。

「ルカ…。」

 誰も人間は居ないのに聞こえる声に驚き、俺はキョロキョロした後にまさかと疑いながら黒猫をジーっと見た。

「もしかして……まさかとは思うが………お前が喋ってる?」

「そうです。私がこの子の体をお借りして君に話しかけています。」

「えっ? えっ? えぇー!? もしかして………その声は神様なの?」

 俺はどうしてこんなところから声がという思いがけない事に吃驚したあまり後ろに倒れてしまい、尻もちをついた。

「えぇ、そうですよ。ルカ、よく頑張りましたね。1年で逞しく変わって…。これならこれからの旅に充分耐えられそうですね。体と魂の繋がりもだいぶ強まった様です。」

「そういえば神様。俺に助けてって言っていたけども、これから俺はどうすれば良いの?」

 第一段階の課題を終えた俺は、元々の目的だった次にやるべきことを質問した。

「1年前に『聖書が何者かによって一部破壊され、世界中で異変が起こっている』と言いましたね。この世界における聖書とは、以前『救世主との契約書』だと言いましたが、契約者とこの世界の成り立ちにおける神話を記したものなのです。」

「神話…。」

 俺はお城で勉強した神話の内容を思い出しながら聞いた。

「契約者である救世主の使う言語は“神の言語”となり、救世主のもつ神力は特別な能力として詳しく記されます。また救世主が必要だと強く願い、私が呼応するとそれまでに存在していない植物や動物でも、神力によって創世神話として刻み込み、新たに生み出すことができるのです。聖書に、その聖書の契約者のみができる『記す』という行為により、動植物だけじゃなく文化・文明も生み出すことができ、その信徒は聖書のもつ範囲において特別な加護を得られるのです。言葉もその加護によって、救世主と信徒は同じ言語を話すことができる様になるのです。しかし……。」

「しかしそれは壊された、と………。」

「そうです。聖書は壊されると、その壊された部分に記されていたものが失われます。と言っても一度にすぐ消えて無くなるのではなく、徐々に跡形も無く消え去っていき……、最後にはこの世界に暮らす全ての生き物たちの記憶からも、どんなものでも永遠と失われてしまうのです。失われたものは2度と戻ってはきません。そしてこの調査と修復は、この世界の人間では聖書の影響を受け、記憶が書き換えられたり消えたりしてしまうのでできないのです。」

 俺はゾッとして冷や汗をかき、ゴクリと唾を飲んだ。

「それでその調査と修復を、別の世界から来て今既にある4つの聖書の影響のない俺がすれば良いんだね。とても難しそうだけど頑張るよ! その為にこの1年勉強して鍛えたんだから。」

「ありがとう…。まずはここから東へずーっといった所にあるアシュワガンダという街に行ってみてください。そこは交易都市なので様々な情報も得られるでしょう。」

「分かりました、神様!」

「それと………このコウモリ猫の子供は、母猫からはぐれて1人だったので君にお任せします。甘えん坊なので大変でしょうが、大人になればきっと頼りになる、良い相棒になると思いますよ。」

「えっ? 子猫!?」

 俺が生まれてから12歳の時に死ぬまで一緒に育った大人の猫と同じ大きさだったのに『子猫』と言われて驚愕した。

「大人になれば、君の元の世界にいたトラと同じぐらいの大きさになりますよ…………。」

 そう言って神様はその子猫の体から消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...