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第1章 ようやく始まった俺の冒険
4.災害…か?
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「ほ~ぉ、これは……。薬湯って聞いていたからもっと薬臭いのかと思ってたけど…。」
俺は風呂の薄緑色の湯の中から香る、緑茶の様ななんとも心地の良い爽やかな匂いに懐かしさを覚え、ホッとした。
ちょうど今は誰も居らず、貸し切り状態の中で一度に10人位は入れそうな大きな湯舟に1人ジャブンと浸かり、少し冷えていた体をお湯で解した。
「村人は管理する代わりにタダらしいけど…。それでも旅人に銅貨3枚で使わせてもらえるのはありがたいよな~。この世界に始めて来た時は、文明が中世ヨーロッパみたいな感じだったから貴族の家でもないとお風呂は入れないものだろうと諦めていたけど…。その昔に来た、2人目の救世主が地球の古代ローマ人で風呂文化を広めてたって言うんだから、後から来た日本人の俺としては嬉しい事だ。1日1回は風呂に入りたかったしな~。」
この世界で2番目に大きくて古い国、マニウス国で祀られている聖人マニウス。
世界で初めて外の世界から招かれた救世主として三千年前に風呂文化をもたらし、戦乱の時代に入ればたちまちどんな痛みも治すという温泉を作って人々を癒したとされるらしいと聞いた。
昔々、腰痛や膝痛などで歩けなくなった事により早世する人の多かった時代において、それは人間の寿命を飛躍的に伸ばし、それまでは文明が発生しても根付くことなく何度も衰退を繰り返していた人間に大いなる繁栄をもたらした、今でもずっと人々にとって有難がられる存在なのだからすごい。
「俺と同じで、地球ではマニウスもただの一般市民だっただろうに…。こっちでは風呂を作っただけで三千年も語り継がれる神様になっちゃうんだからビックリだよな~。マニウス国では今でも聖人が作った温泉がそこかしこで湧いているって言うし、あっちの国に行ったら温泉巡りでもしようかな~…。」
お風呂の気持ち良さに神様からの使命を忘れ、すっかりと俺は旅気分に浸っていた。
その時、静寂を打ち破るかの様に浴場のドアがガラリと開けられた。
「お客さん、大変だ! 村の茶畑で魔力渦が発生した! ここもじきに嵐になるから避難した方が良い!」
ドアを開けたのはあの宿屋の受付をしていた娘だった。
娘はパウロを抱きかかえて俺の前に現れた。
「パヴォル? それはいったい……?」
「魔力の濃い場所では稀に発生する嵐さ! 普段はあちこちに霧散している自然の魔力が何かの切欠で一か所に集まってしまい、渦を巻いて竜巻の様な物を発生させるのよ。その魔力の渦は周りにある様々なものの魔力を奪っていきながら移動して破壊してしまう、人間の私らにはどうしようもない自然災害さ。どんなに規模が小さくとも、魔力渦が発生しちゃったら物的被害が出ることは諦めて逃げるしかない……。1日も経てば魔力渦も消えてなくなる。だからこの子を連れて避難するんだ! さぁ早く!」
俺は急いで風呂から出ると服を着て、宿屋の娘に渡されたパウロを抱きかかえた。
だがその後、俺は宿屋の娘が案内しようとした避難場所の方へは行こうとしなかった。
「ちょ、ちょっと。どこへ行くのよ。」
「気になる事があるんだ! 俺は大丈夫だから……。先に行ってて。」
宿屋の娘が止めるのも聞かずに制止を振り切って俺は畑の方から逃げてくる人の流れに逆らい、畑を目指して歩いた。
20分程歩いて見えてきた畑の中心では、真っ黒でまだ小さい竜巻が渦を巻いていた。
「あれが魔力渦か~。俺はこの世界にとって異質なモノだから、こういう魔力を吸われるとかって現象は俺には影響がないって神様も前に言っていたし……。稀に起こる災害だって宿の子は言っていたけど、壊された聖書の影響によって起きた可能性は全く無いのか調べておかなきゃな! パウロ、そこでジッとしていてくれよ。」
俺は懐にしまったパウロに話しかけた。
だがパウロは怖がっているのか何も返事は無かった。
「あっ! あれは……。」
俺はジワジワと動く魔力渦の周りで、渦を巻く切欠になったのは何だったのか調べていると逃げ遅れた村人が倒れていた。
「だ、大丈夫か?」
傍に寄って声をかけてみるが完全に意識を失っている様で応答はなかったが、手を口元に当ててみると息をしていたので生きてはいるらしかった。
調査を諦めてとりあえず避難所まで連れて行こうと、意識のない村人を抱きかかえて避難所まで向かおうとした。
しかしそれを阻害する様に魔力渦は俺の目の前をウロチョロとした。
どうにか避けようと動いた俺に魔力渦は意志を持つが如く襲い掛かってきたので逃げる事もできなくなった。
流石に直撃すれば魔力を吸われることが無くとも竜巻の威力があるので死ぬことはなくとも無事に済むわけがないと覚悟を決め、俺はその場で唇を噛み締めてギュッと目を閉じた。
すると俺に直撃した魔力渦は何か巨大な物にでも衝突し打ち砕かれたかの様に、一瞬にして霧散していった。
「…………へっ?」
何が何だか分からずに驚きのあまり一瞬固まってしまっていたが、ひとまず魔力渦は消えてなくなり脅威は去ったらしかったので安堵した。
そして突然消えた魔力渦に呆気にとられて忘れかけていたが、抱えていた意識のない村人を漸く避難所まで運ぶことができた。
「いくら何でも皆があんなに恐れる魔力渦を……、竜巻をこの身一つがぶつかっただけで破壊できるなんておかしいだろ…。もしかしてこれが『神力』の1つ目なのか!? 剣技の訓練中だっていつも傷だらけで生傷が絶えなかったのに……。」
俺は破壊しただけでなく、自分の身に怪我の1つも無い事に驚いた。
俺は風呂の薄緑色の湯の中から香る、緑茶の様ななんとも心地の良い爽やかな匂いに懐かしさを覚え、ホッとした。
ちょうど今は誰も居らず、貸し切り状態の中で一度に10人位は入れそうな大きな湯舟に1人ジャブンと浸かり、少し冷えていた体をお湯で解した。
「村人は管理する代わりにタダらしいけど…。それでも旅人に銅貨3枚で使わせてもらえるのはありがたいよな~。この世界に始めて来た時は、文明が中世ヨーロッパみたいな感じだったから貴族の家でもないとお風呂は入れないものだろうと諦めていたけど…。その昔に来た、2人目の救世主が地球の古代ローマ人で風呂文化を広めてたって言うんだから、後から来た日本人の俺としては嬉しい事だ。1日1回は風呂に入りたかったしな~。」
この世界で2番目に大きくて古い国、マニウス国で祀られている聖人マニウス。
世界で初めて外の世界から招かれた救世主として三千年前に風呂文化をもたらし、戦乱の時代に入ればたちまちどんな痛みも治すという温泉を作って人々を癒したとされるらしいと聞いた。
昔々、腰痛や膝痛などで歩けなくなった事により早世する人の多かった時代において、それは人間の寿命を飛躍的に伸ばし、それまでは文明が発生しても根付くことなく何度も衰退を繰り返していた人間に大いなる繁栄をもたらした、今でもずっと人々にとって有難がられる存在なのだからすごい。
「俺と同じで、地球ではマニウスもただの一般市民だっただろうに…。こっちでは風呂を作っただけで三千年も語り継がれる神様になっちゃうんだからビックリだよな~。マニウス国では今でも聖人が作った温泉がそこかしこで湧いているって言うし、あっちの国に行ったら温泉巡りでもしようかな~…。」
お風呂の気持ち良さに神様からの使命を忘れ、すっかりと俺は旅気分に浸っていた。
その時、静寂を打ち破るかの様に浴場のドアがガラリと開けられた。
「お客さん、大変だ! 村の茶畑で魔力渦が発生した! ここもじきに嵐になるから避難した方が良い!」
ドアを開けたのはあの宿屋の受付をしていた娘だった。
娘はパウロを抱きかかえて俺の前に現れた。
「パヴォル? それはいったい……?」
「魔力の濃い場所では稀に発生する嵐さ! 普段はあちこちに霧散している自然の魔力が何かの切欠で一か所に集まってしまい、渦を巻いて竜巻の様な物を発生させるのよ。その魔力の渦は周りにある様々なものの魔力を奪っていきながら移動して破壊してしまう、人間の私らにはどうしようもない自然災害さ。どんなに規模が小さくとも、魔力渦が発生しちゃったら物的被害が出ることは諦めて逃げるしかない……。1日も経てば魔力渦も消えてなくなる。だからこの子を連れて避難するんだ! さぁ早く!」
俺は急いで風呂から出ると服を着て、宿屋の娘に渡されたパウロを抱きかかえた。
だがその後、俺は宿屋の娘が案内しようとした避難場所の方へは行こうとしなかった。
「ちょ、ちょっと。どこへ行くのよ。」
「気になる事があるんだ! 俺は大丈夫だから……。先に行ってて。」
宿屋の娘が止めるのも聞かずに制止を振り切って俺は畑の方から逃げてくる人の流れに逆らい、畑を目指して歩いた。
20分程歩いて見えてきた畑の中心では、真っ黒でまだ小さい竜巻が渦を巻いていた。
「あれが魔力渦か~。俺はこの世界にとって異質なモノだから、こういう魔力を吸われるとかって現象は俺には影響がないって神様も前に言っていたし……。稀に起こる災害だって宿の子は言っていたけど、壊された聖書の影響によって起きた可能性は全く無いのか調べておかなきゃな! パウロ、そこでジッとしていてくれよ。」
俺は懐にしまったパウロに話しかけた。
だがパウロは怖がっているのか何も返事は無かった。
「あっ! あれは……。」
俺はジワジワと動く魔力渦の周りで、渦を巻く切欠になったのは何だったのか調べていると逃げ遅れた村人が倒れていた。
「だ、大丈夫か?」
傍に寄って声をかけてみるが完全に意識を失っている様で応答はなかったが、手を口元に当ててみると息をしていたので生きてはいるらしかった。
調査を諦めてとりあえず避難所まで連れて行こうと、意識のない村人を抱きかかえて避難所まで向かおうとした。
しかしそれを阻害する様に魔力渦は俺の目の前をウロチョロとした。
どうにか避けようと動いた俺に魔力渦は意志を持つが如く襲い掛かってきたので逃げる事もできなくなった。
流石に直撃すれば魔力を吸われることが無くとも竜巻の威力があるので死ぬことはなくとも無事に済むわけがないと覚悟を決め、俺はその場で唇を噛み締めてギュッと目を閉じた。
すると俺に直撃した魔力渦は何か巨大な物にでも衝突し打ち砕かれたかの様に、一瞬にして霧散していった。
「…………へっ?」
何が何だか分からずに驚きのあまり一瞬固まってしまっていたが、ひとまず魔力渦は消えてなくなり脅威は去ったらしかったので安堵した。
そして突然消えた魔力渦に呆気にとられて忘れかけていたが、抱えていた意識のない村人を漸く避難所まで運ぶことができた。
「いくら何でも皆があんなに恐れる魔力渦を……、竜巻をこの身一つがぶつかっただけで破壊できるなんておかしいだろ…。もしかしてこれが『神力』の1つ目なのか!? 剣技の訓練中だっていつも傷だらけで生傷が絶えなかったのに……。」
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