異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
15 / 89
第1章 ようやく始まった俺の冒険

4.災害…か?

しおりを挟む
「ほ~ぉ、これは……。薬湯って聞いていたからもっと薬臭いのかと思ってたけど…。」

 俺は風呂の薄緑色の湯の中から香る、緑茶の様ななんとも心地の良い爽やかな匂いに懐かしさを覚え、ホッとした。
 ちょうど今は誰も居らず、貸し切り状態の中で一度に10人位は入れそうな大きな湯舟に1人ジャブンと浸かり、少し冷えていた体をお湯で解した。

「村人は管理する代わりにタダらしいけど…。それでも旅人に銅貨3枚で使わせてもらえるのはありがたいよな~。この世界に始めて来た時は、文明が中世ヨーロッパみたいな感じだったから貴族の家でもないとお風呂は入れないものだろうと諦めていたけど…。その昔に来た、2人目の救世主が地球の古代ローマ人で風呂文化を広めてたって言うんだから、後から来た日本人の俺としては嬉しい事だ。1日1回は風呂に入りたかったしな~。」

 この世界で2番目に大きくて古い国、マニウス国で祀られている聖人マニウス。
 世界で初めて外の世界から招かれた救世主として三千年前に風呂文化をもたらし、戦乱の時代に入ればたちまちどんな痛みも治すという温泉を作って人々を癒したとされるらしいと聞いた。
 昔々、腰痛や膝痛などで歩けなくなった事により早世する人の多かった時代において、それは人間の寿命を飛躍的に伸ばし、それまでは文明が発生しても根付くことなく何度も衰退を繰り返していた人間に大いなる繁栄をもたらした、今でもずっと人々にとって有難がられる存在なのだからすごい。

「俺と同じで、地球ではマニウスもただの一般市民だっただろうに…。こっちでは風呂を作っただけで三千年も語り継がれる神様になっちゃうんだからビックリだよな~。マニウス国では今でも聖人が作った温泉がそこかしこで湧いているって言うし、あっちの国に行ったら温泉巡りでもしようかな~…。」

 お風呂の気持ち良さに神様からの使命を忘れ、すっかりと俺は旅気分に浸っていた。
 その時、静寂を打ち破るかの様に浴場のドアがガラリと開けられた。

「お客さん、大変だ! 村の茶畑で魔力渦パヴォルが発生した! ここもじきに嵐になるから避難した方が良い!」

 ドアを開けたのはあの宿屋の受付をしていた娘だった。
 娘はパウロを抱きかかえて俺の前に現れた。

「パヴォル? それはいったい……?」

「魔力の濃い場所では稀に発生する嵐さ! 普段はあちこちに霧散している自然の魔力が何かの切欠で一か所に集まってしまい、渦を巻いて竜巻の様な物を発生させるのよ。その魔力の渦は周りにある様々なものの魔力を奪っていきながら移動して破壊してしまう、人間の私らにはどうしようもない自然災害さ。どんなに規模が小さくとも、魔力渦パヴォルが発生しちゃったら物的被害が出ることは諦めて逃げるしかない……。1日も経てば魔力渦パヴォルも消えてなくなる。だからこの子を連れて避難するんだ! さぁ早く!」

 俺は急いで風呂から出ると服を着て、宿屋の娘に渡されたパウロを抱きかかえた。
 だがその後、俺は宿屋の娘が案内しようとした避難場所の方へは行こうとしなかった。

「ちょ、ちょっと。どこへ行くのよ。」

「気になる事があるんだ! 俺は大丈夫だから……。先に行ってて。」

 宿屋の娘が止めるのも聞かずに制止を振り切って俺は畑の方から逃げてくる人の流れに逆らい、畑を目指して歩いた。


 20分程歩いて見えてきた畑の中心では、真っ黒でまだ小さい竜巻が渦を巻いていた。

「あれが魔力渦パヴォルか~。俺はこの世界にとって異質なモノだから、こういう魔力を吸われるとかって現象は俺には影響がないって神様も前に言っていたし……。稀に起こる災害だって宿の子は言っていたけど、壊された聖書の影響によって起きた可能性は全く無いのか調べておかなきゃな! パウロ、そこでジッとしていてくれよ。」

 俺は懐にしまったパウロに話しかけた。
 だがパウロは怖がっているのか何も返事は無かった。

「あっ! あれは……。」

 俺はジワジワと動く魔力渦パヴォルの周りで、渦を巻く切欠になったのは何だったのか調べていると逃げ遅れた村人が倒れていた。

「だ、大丈夫か?」

 傍に寄って声をかけてみるが完全に意識を失っている様で応答はなかったが、手を口元に当ててみると息をしていたので生きてはいるらしかった。
 調査を諦めてとりあえず避難所まで連れて行こうと、意識のない村人を抱きかかえて避難所まで向かおうとした。
 しかしそれを阻害する様に魔力渦パヴォルは俺の目の前をウロチョロとした。
 どうにか避けようと動いた俺に魔力渦パヴォルは意志を持つが如く襲い掛かってきたので逃げる事もできなくなった。
 流石に直撃すれば魔力を吸われることが無くとも竜巻の威力があるので死ぬことはなくとも無事に済むわけがないと覚悟を決め、俺はその場で唇を噛み締めてギュッと目を閉じた。
 すると俺に直撃した魔力渦パヴォルは何か巨大な物にでも衝突し打ち砕かれたかの様に、一瞬にして霧散していった。

「…………へっ?」

 何が何だか分からずに驚きのあまり一瞬固まってしまっていたが、ひとまず魔力渦パヴォルは消えてなくなり脅威は去ったらしかったので安堵した。
 そして突然消えた魔力渦パヴォルに呆気にとられて忘れかけていたが、抱えていた意識のない村人を漸く避難所まで運ぶことができた。

「いくら何でも皆があんなに恐れる魔力渦パヴォルを……、竜巻をこの身一つがぶつかっただけで破壊できるなんておかしいだろ…。もしかしてこれが『神力』の1つ目なのか!? 剣技の訓練中だっていつも傷だらけで生傷が絶えなかったのに……。」

 俺は破壊しただけでなく、自分の身に怪我の1つも無い事に驚いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...