異世界神話をこの俺が!?――コンプレックスを乗り越えろ――

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)

文字の大きさ
14 / 89
第1章 ようやく始まった俺の冒険

3.猫は猫でも…

しおりを挟む
「う、うぅ~ん……。」

 顔をザリザリとしたもので撫でられ、そのくすぐったさに俺は目を覚ました。
 目を開けると、目の前には俺の頬を舐めて起こそうとしているパウロがいた。

「なんだよ~。くずぐったいよ、パウロ。もう起きたから…。もう、止めてよパウロ。」

「ニャ!」

「おはよう。」

 じゃれついてくるパウロの頭を撫でながら朝の挨拶を交わすと、俺はテントを出て欠伸をしながら湖のほとりまで歩いた。
 湖の水は夜の寒さで冷やされており、顔を洗うとスッキリと目が覚めた。

「うおぉ~! 冷たくて気持ち良い!」

 俺は朝の支度をしている間に馬の世話をしておこうと、昨晩繋いでいたテントの傍らから湖のほとりまで連れてきて水を飲ませた。
 その間にテントを片付けたりしていると、馬はあちこちにワサワサと生えている草を食んでいた。

「よしっ! 俺達も朝ごはんにするか。」

 パウロには昨晩と同じくお湯でふやかした干し肉を与え、俺は干し肉とパンとお茶にした。

「取りあえず保存食をと思って干し肉と固焼きパンを買っておいたけど…、このパンって顎がすごく疲れるな~。もうちょっと食べやすい保存食とかあれば良いのに…。この世界って、旅の携帯保存食に関しては種類もそんなに無いから食事は微妙だしなぁ……。前に来た救世主は旅をしなかったのか? 遺していった日本の文化の中にも旅に使えそうな物はなかったし…。」

 俺は疲れた顎をさすりながら右手に持つパンを睨んだ。

「目的地のアシュワガンダまではまだだろうし、今日寄れそうな村か街にでも何か美味しい物があると良いんだけど……。じゃないと俺の顎がそのうち壊れちゃうよ。なぁ、パウロ。お前のご飯だって探さなきゃならないしな。」

「ニィ。」

 横でふやかした干し肉を食べていたパウロがこちらを振り返り、元気よく返事をした。
 俺は片づけを済ませると焚火を埋め、パウロを昨日と同じ様に抱いて馬に乗った。

「パウロ、寝ても良いけど落ちない様にしろよ。」

「ニッ!」

 包まれた風呂敷の中からパウロの元気な声がした。


 そうして俺は馬をまた東へ東へと走らせていると、少し大きな村が見えてきた。
 自らの持つ魔力の量、それを現す髪の色で身分の決まるこの世界は、それによって着る事のできる服の色までも決められている。
 俺は面倒事を避ける為、身分を少し低く見せようと予め着ていた平民のモスグリーン色の外套のフードを髪の色が見えない様に目深に被った。
 村に入ると村長の家がどこにあるのか村人に聞き、挨拶をしておいた。

「ほぉ~。剣士を目指して修行の旅をしているのですか。元々は聖都に…。ここは茶畑があるぐらいで何もない村ですが、一応宿はあります。どうぞゆっくりして行ってください。」

 この世界では聖都と呼ばれる首都に住んでいて、剣士を目指していると言えば平民が旅をしていても怪しまれない。
 貴族や神官なんかだと妙なしがらみや問題も出てくるので、色々と考えた末にこれが一番自由に動けると判断したのだ。
 この村に一軒だけある宿は良い感じに古びていて、正に有名人が泊まりにくる“隠れ宿”という雰囲気だった。
 暮れる時間にはまだ少し早かったが、今日はここに泊まる事にした。

「いらっしゃい! お客さん、1名様?」

「あぁ。後、表に馬を1頭止めてある。それと……。」

 俺は包んで抱っこしていたパウロの風呂敷を少しめくり、受付をしていた娘に顔を見せた。

「まぁ! 可愛い~ぃ!」

「ニ~ィ!」

「コウモリ猫の子供なんだが、どうやら母猫と逸れてしまった様で俺が世話をしているんだ。この子も一緒なんだが……泊まれる? 俺とこの子の食事とかも頼めるかい?」

「えぇ、大丈夫ですよ~! 併設している酒場に用意しておくので、食べに来てくださいね。コウモリ猫が居ついた店は繁盛するって言うから縁起ものですし、問題はありませんから。」

「へ~ぇ、そうなんだ~。」

 元居た世界での招き猫みたいなものだろうか。

「お客さん、知らないんですか? ほら、これ。本物のコウモリ猫は難しいんで木彫りなんですけど…、うちの宿にも置いてあるんですよ。」

 そう言って、ニコニコしながら受付カウンターの端に置いてある木で作られた手の平サイズのコウモリ猫を指して見せてくれた。
 それは……目以外は真っ黒い色をしていて翼が生えているって事以外は、まんま招き猫のポーズをしている木彫りの猫だった。

「馬は横にある厩舎に入れておくとして、猫ちゃんの年齢はいくつくらいですかね~? もう離乳食も過ぎて普通食で良い頃でしょうか?」

「あぁ。今朝もふやかした干し肉を食べていたぐらいだし大丈夫だと思う。」

「……なら、腕によりをかけて作りますね~!」

 娘はとてもやる気になっており、嬉しそうだった。
 きっと俺だけだったらここまでやる気にはなってなかっただろう…。
 パウロという可愛い存在が一緒だったから娘もあそこまで嬉しそうにやる気を出していたのだろうな。

「まぁ、ちょっとだけ複雑な気持ちだけども……。パウロのおかげで美味しいご飯にありつけるという事で…、良しとするか~ぁ。」

 俺は困り顔で笑いながらパウロを撫でた。
 それから案内された部屋は2階の角部屋で、とても寝心地の良さそうなベッドが設えてあった。
 部屋の確認を済ませると、パウロと持っていた紐で少し遊んだ後にベッドに寝かしつけ、俺は宿屋の娘に村のことを聞きに行った。
 夕飯まではまだ時間があったので疲れを取ろうと、この村に1つだけあるという薬湯へと入りに公衆浴場に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...