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第2章 神話の歪み
8.村人たちの出迎え
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荷車にヒュドラの肉塊を山盛りに載せ、俺とリリアが曳いて村に戻ると村人たちがソワソワと落ち着かない様子で総出で集まって待っていた。
俺たちが山道から降りてきたのを発見すると、リリアは両手を広げて駆け寄ってきた涙目の母親に抱き付かれ、俺はワッと周りに寄ってきた村人たちに取り囲まれた。
「兄さん、その大量にある肉はもしかして……。」
「そう! あのヒュドラだよ。リリアに美味しいって聞いたのでね、持って降りたのさ。まぁ、この荷車じゃ流石に全部とはいかなかったが……。」
「「「おぉぉぉぉー!」」」
村人のほぼ全員から感嘆の声があがった。
「いや~ぁ、本当にあのヒュドラを倒せるとはね…。肉もそれだけあれば随分と助かるよ!」
「滅多と食べる事のできない高級食材のヒュドラを食べる事ができるなんて……俺ぁ感動だよ。今夜は肉祭りだなっ!」
村人たちと俺が歓喜に湧いていると、俺が帰ってくるのを待っていたエルフに肩を掴まれた。
「おいっ! お前……。お前一人でどうやってあのヒュドラを倒したというんだ? 我らから買った酒はどう使ったんだ? さっき言っていた特殊な手法とは何なのだ? 今まで待ってやったのだから教えろ!」
あの商隊のリーダーらしきエルフが少し偉そうな態度で俺に詰め寄ってきた。
俺を待っていたというのはエルフたちが勝手にやっていた事だからどうでも良いのだが…、村人たちも聞きたそうに興味津々に目をキラキラさせていたので話すことにした。
「ヒュドラって首が9個もあるだろ? 俺一人しか戦える人間はいなかったし、一つの首と戦っている間に別の首から攻撃が飛んでくる可能性があったから、爆発させたりとかの一度に決着の付く方法で倒そうかと初めは思っていたんだ…。そこにリリアを人質に取られてるって聞いて派手な戦闘はできないな~と思って……。それで昔ヒュドラは酒が大好物だって聞いたことがあったから、酔わせて暴れない様にさせてから倒そうと思ったんだ。勿論! リリアの安全を確保した上でね。」
「そこまでするなら毒でも喰わせてやれば良かったのではないか?」
「あんな大蛇が死ぬ程の毒物なんてここにはありませんよ。それに人質がいる状態で毒物だって匂いで感付かれてしまっては、激怒してもっとひどい事が起こる可能性もあっただろうし…。もし毒を喰わせることができたとしても、効くまでにどれ程の時間がかかる事か分からないしね。そんなに知性のある魔物でもなかったし、うまい事俺の作戦に引っかかってくれたよ。」
俺からの説明を聞いて、エルフのリーダーは呆れていた。
「人質の安全を優先する為、か……。とはいえ、あんな魔物如きに美味い酒をくれてやるなど、正気とは思えんな……。」
「あっ、はははははははは………。」
俺は愛想笑いをして、これ以上エルフたちが突っかかってくる難に遭わないように逃れようとした。
「さぁ、立ち話はそこまでだ。」
村長が手をパンパンと叩いて場を仕切り出した。
「さぁさ、今夜はヒュドラの危機が去った祝いの宴だ! 女衆はこの肉を使って宴の準備をしてくれ。大活躍した、このルカ様の為に美味い物を作ってくれよ。」
「勿論だよ!」
「まかせとくれ!」
村の女らは出番だとばかりにやる気になっていた。
「男衆は村の広場中央に営火の準備と、余った肉を保存食に加工する作業をしてくれ。明日ヒュドラの皮と一緒に肉も、街に売りに行くんだから丁寧に扱えよ~。」
村人たちはウキウキとした様子で村長の指示に従ってそれぞれの作業に向かった。
「お前さんらオフィーリア国の人らはどうするかね? 今夜の村の宴に参加して行くかい?」
村長はエルフたちに一応とばかりに素っ気なく聞いた。
「冗談はよしてくれ! お前らサクラヴェール国の人間と違って、肉など穢れたものの宴なぞ…、ゾッとする……。ヒュドラの脅威も無くなってボポラ山も通れる様になったことだし、我らはこのまま国に帰る。ボポラ山の道さえ通ることができれば直ぐに帰る事ができるのだから、まだこの時間でも問題はない。」
そう言ってエルフたちはあの不思議な乗り物に乗りこむと、サッサとボポラ山の道の方へ向かい、オフィーリア国へと帰ってしまった。
村長はフッと疲れた様に息を吐くと、やれやれといった様子だった。
「やっぱりか…。あやつらオフィーリア国の連中はいつもサクラヴェール国をバカにしよるの……。まったく…、隣国なのに少しは仲良くしようとは思わんのかね………。」
「アシュワガンダの街で市を開いていた時はそんなに悪い印象じゃなかったんだけどな……。」
俺がそんな事を口にすると、村長は俺にだけ聞こえる声でボソリと溢して去っていった。
「まぁ、あやつらだって腐っても商人だからな…。商売をする時ぐらいは多少なりとて愛想も良くするだろ……。いくらオフィーリア国民以外の人種は全員バカだと思っていてもな……。」
そういうものかと思い、オフィーリア国に行くのに少し気が重たくなった。
俺がため息をついていると、一度母親と一緒に家へと戻ろうとしていたリリアがこちらへと振り向くと数歩の距離を走ってきた。
「お兄ちゃん。帰り道で約束した通り、ちゃんと内緒にしてるからね。お兄ちゃんが救世主様だって誰にも言ってないよ。」
ソッと耳打ちをした後に、俺にウィンクをしてから母親の許へと戻っていった。
俺たちが山道から降りてきたのを発見すると、リリアは両手を広げて駆け寄ってきた涙目の母親に抱き付かれ、俺はワッと周りに寄ってきた村人たちに取り囲まれた。
「兄さん、その大量にある肉はもしかして……。」
「そう! あのヒュドラだよ。リリアに美味しいって聞いたのでね、持って降りたのさ。まぁ、この荷車じゃ流石に全部とはいかなかったが……。」
「「「おぉぉぉぉー!」」」
村人のほぼ全員から感嘆の声があがった。
「いや~ぁ、本当にあのヒュドラを倒せるとはね…。肉もそれだけあれば随分と助かるよ!」
「滅多と食べる事のできない高級食材のヒュドラを食べる事ができるなんて……俺ぁ感動だよ。今夜は肉祭りだなっ!」
村人たちと俺が歓喜に湧いていると、俺が帰ってくるのを待っていたエルフに肩を掴まれた。
「おいっ! お前……。お前一人でどうやってあのヒュドラを倒したというんだ? 我らから買った酒はどう使ったんだ? さっき言っていた特殊な手法とは何なのだ? 今まで待ってやったのだから教えろ!」
あの商隊のリーダーらしきエルフが少し偉そうな態度で俺に詰め寄ってきた。
俺を待っていたというのはエルフたちが勝手にやっていた事だからどうでも良いのだが…、村人たちも聞きたそうに興味津々に目をキラキラさせていたので話すことにした。
「ヒュドラって首が9個もあるだろ? 俺一人しか戦える人間はいなかったし、一つの首と戦っている間に別の首から攻撃が飛んでくる可能性があったから、爆発させたりとかの一度に決着の付く方法で倒そうかと初めは思っていたんだ…。そこにリリアを人質に取られてるって聞いて派手な戦闘はできないな~と思って……。それで昔ヒュドラは酒が大好物だって聞いたことがあったから、酔わせて暴れない様にさせてから倒そうと思ったんだ。勿論! リリアの安全を確保した上でね。」
「そこまでするなら毒でも喰わせてやれば良かったのではないか?」
「あんな大蛇が死ぬ程の毒物なんてここにはありませんよ。それに人質がいる状態で毒物だって匂いで感付かれてしまっては、激怒してもっとひどい事が起こる可能性もあっただろうし…。もし毒を喰わせることができたとしても、効くまでにどれ程の時間がかかる事か分からないしね。そんなに知性のある魔物でもなかったし、うまい事俺の作戦に引っかかってくれたよ。」
俺からの説明を聞いて、エルフのリーダーは呆れていた。
「人質の安全を優先する為、か……。とはいえ、あんな魔物如きに美味い酒をくれてやるなど、正気とは思えんな……。」
「あっ、はははははははは………。」
俺は愛想笑いをして、これ以上エルフたちが突っかかってくる難に遭わないように逃れようとした。
「さぁ、立ち話はそこまでだ。」
村長が手をパンパンと叩いて場を仕切り出した。
「さぁさ、今夜はヒュドラの危機が去った祝いの宴だ! 女衆はこの肉を使って宴の準備をしてくれ。大活躍した、このルカ様の為に美味い物を作ってくれよ。」
「勿論だよ!」
「まかせとくれ!」
村の女らは出番だとばかりにやる気になっていた。
「男衆は村の広場中央に営火の準備と、余った肉を保存食に加工する作業をしてくれ。明日ヒュドラの皮と一緒に肉も、街に売りに行くんだから丁寧に扱えよ~。」
村人たちはウキウキとした様子で村長の指示に従ってそれぞれの作業に向かった。
「お前さんらオフィーリア国の人らはどうするかね? 今夜の村の宴に参加して行くかい?」
村長はエルフたちに一応とばかりに素っ気なく聞いた。
「冗談はよしてくれ! お前らサクラヴェール国の人間と違って、肉など穢れたものの宴なぞ…、ゾッとする……。ヒュドラの脅威も無くなってボポラ山も通れる様になったことだし、我らはこのまま国に帰る。ボポラ山の道さえ通ることができれば直ぐに帰る事ができるのだから、まだこの時間でも問題はない。」
そう言ってエルフたちはあの不思議な乗り物に乗りこむと、サッサとボポラ山の道の方へ向かい、オフィーリア国へと帰ってしまった。
村長はフッと疲れた様に息を吐くと、やれやれといった様子だった。
「やっぱりか…。あやつらオフィーリア国の連中はいつもサクラヴェール国をバカにしよるの……。まったく…、隣国なのに少しは仲良くしようとは思わんのかね………。」
「アシュワガンダの街で市を開いていた時はそんなに悪い印象じゃなかったんだけどな……。」
俺がそんな事を口にすると、村長は俺にだけ聞こえる声でボソリと溢して去っていった。
「まぁ、あやつらだって腐っても商人だからな…。商売をする時ぐらいは多少なりとて愛想も良くするだろ……。いくらオフィーリア国民以外の人種は全員バカだと思っていてもな……。」
そういうものかと思い、オフィーリア国に行くのに少し気が重たくなった。
俺がため息をついていると、一度母親と一緒に家へと戻ろうとしていたリリアがこちらへと振り向くと数歩の距離を走ってきた。
「お兄ちゃん。帰り道で約束した通り、ちゃんと内緒にしてるからね。お兄ちゃんが救世主様だって誰にも言ってないよ。」
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