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第2章 神話の歪み
9.パウロと“マルスの樹”
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「ルカさ~ん、飲んでるか~? 食ってるか~?」
空も闇色に染まり、星が降り注がんばかりに頭上を埋め尽くす中で、やっとできたヒュドラ退治の祝いの宴が盛り上がりをみせていた。
程よく酔った村人数人に絡まれたりもしたが、皆一様に俺に感謝の言葉を述べた。
だがリリアを攫った生贄強硬派だった村人らは居心地が悪そうに隅に塊り、多くの村人たちに謝辞を述べられて謙遜している態度の俺の事をチラチラと見ていた。
これ以上の面倒事には巻き込まれたくなかったので、下手に関わらない様にその人たちのことは見ない様にした。
「美味いにゃ~。アダムとイブももっと食べるにゃ~。」
「パウロ様。こんな美味しい食事にご一緒できて幸せです!」
「パウロ様、の、言う通り、すごい、美味しい、ですね……。」
俺の傍らではパウロと、あのアダムとイブと名前を付けた2匹の猫が村人の出してくれた料理を美味しそうに頬張り、茶トラ猫のアダムに至ってはがっつき過ぎてスムーズに喋れてはいなかった。
「ハハハッ! アダム、そんなに急いで食べると喉に詰まらすよ。」
猫たちの楽しそうな様子を見ながらミードを飲んでいると、俺は和やかな気持ちになっていた。
「しっかし、この串焼きもワンタンスープもコロッケも美味いね。これがまさかあのヒュドラだとは思えない程美味しいよ。お酒にも合うし! この味はあの見た目からは想像ができなかったな~……。」
「ふふっ…。喜んでもらえて光栄です。お代わりをどうぞ…。」
リリアの母親が気を利かせ、お酒のコップがもうすぐ空になりそうな時になって、村人たちが楽しげに騒いでいる所から少し離れた場所に座っていた俺に、お酒のお代わりを運んできたので話しかけた。
「ルカ様には娘を助けていただいた御恩がありますし、お礼らしいお礼もできませんが……、たくさん食べて飲んで、今夜の祝宴を楽しんでくださいね。」
そう言ってニッコリと微笑むと、娘と年の然程変わらない女の子と2人でお喋りをしているリリアの所へと帰っていった。
「そういえば、パウロ。……あの“マルスの樹”の事は知っていたの?」
「ん? ここに来る前に神様に聞いていたのにゃ。」
パウロは食べていたヒュドラの脂が付いた手を舐めながら俺の質問に答えた。
「ここに来る前って?」
「ワタチもよく覚えていないんだけどにゃ…。神様に聞いたら、この世界に生まれる前に、地球って所でルカと一緒に暮らしていたことがあるらしいのにゃ。んで、生まれた時に神様に聖なる山に1本だけある樹に実っている黄金の実を食べなさい。そうすれば貴方の願いは叶うでしょうって言われて……、それだけにゃ。」
「えっ!?」
「なんか、魔力の濃い実が生る、食べれば願い事が叶う樹だと言ってたにゃ。でも、欲深い人間には毒にしかならないらしいにゃ。」
パウロにこの聖なる庭園で生まれる前に、前世で俺と会っていた、しかも暮らしていたと言われて心底驚いた。
「それは…、いつ頃の事か分かるかい?」
「ごめんにゃ……。詳しい事は覚えていないのにゃ……。」
パウロはヒュドラの串焼きを食べていた手も止め、耳をペタンと伏せて申し訳なさそうにしていた。
「ううん。覚えていないのならしょうがないよね……。」
俺はパウロを撫でて元気づけた。
パウロ自身が前世の事を殆ど覚えていないと言うので分からないが、「もしかして…。」と俺はこの時思っていた。
「俺がこっちにくる3年前に死んじゃった、あの“クロ”……か?」
確証はないがなんとなくそう思っていた。
宴はその後も恐怖から解放された村人たちによって大いに盛り上がり、俺もすっかりと酔っぱらってしまった。
昨日と同じく、俺はグイドの家に泊まらせてもらった。
村での宴が終わってからもグイドの家で、ヒュドラや荷獣車での一件のお礼だと言われてグイドが秘蔵のオフィーリア国の二日酔い防止にもなるというお酒を振る舞ってくれ、遅くまで語り合った。
翌朝、あのお酒の効果か大量にお酒を飲んだのにも関わらずスッキリと目覚められた。
「おはようございます。」
グイドの家の外に出ると、昨日とは違って皆明るい顔をして洗濯や掃除、畑の世話等に精を出していた。
「おはよう、ルカさん。昨日は遅くまでこの家に灯りが点いていた様だけど…、宴の後もグイドに付き合って深酒してたんじゃないかい? グイドは飲兵衛だからねぇ……。」
「うるせぇ、バァさん。村の外から来た人に余計な事を言うんじゃないよ。」
近所に住んでいるというお婆さんと朝の挨拶を交わしていると、それ以上言うなとばかりにグイドよりも年上らしきお婆さんの後ろから話を遮る様にグイドがやってきた。
「あら、居たの? グイド。」
朗らかに笑ってグイドを見るこのお婆さんが苦手なのか、グイドは決まりが悪そうな顔をしていた。
「今起きたとこかい? ルカさん。」
「えぇ。昨晩はあんなに飲んだのにグイドさんのおかげでスッキリと目覚める事ができました。」
俺はニコリと笑って答えた。
「そうか…。ちょっと前にリリアに会ってな、お前さんが起きたら家まで呼んでくれって頼まれたんだが……。」
「そうですか…。何の用ですかね~。」
「さぁな~。昨日の事で改めてお礼がしたいとかじゃないかの~ぉ?」
昨日の事と言われ、俺はリリアが母親に了承を得ることができたら旅に連れて行くといった事を思い出した。
「じゃあ、とりあえず伝えたからな~。」
そう言うとグイドは家の中に入っていった。
空も闇色に染まり、星が降り注がんばかりに頭上を埋め尽くす中で、やっとできたヒュドラ退治の祝いの宴が盛り上がりをみせていた。
程よく酔った村人数人に絡まれたりもしたが、皆一様に俺に感謝の言葉を述べた。
だがリリアを攫った生贄強硬派だった村人らは居心地が悪そうに隅に塊り、多くの村人たちに謝辞を述べられて謙遜している態度の俺の事をチラチラと見ていた。
これ以上の面倒事には巻き込まれたくなかったので、下手に関わらない様にその人たちのことは見ない様にした。
「美味いにゃ~。アダムとイブももっと食べるにゃ~。」
「パウロ様。こんな美味しい食事にご一緒できて幸せです!」
「パウロ様、の、言う通り、すごい、美味しい、ですね……。」
俺の傍らではパウロと、あのアダムとイブと名前を付けた2匹の猫が村人の出してくれた料理を美味しそうに頬張り、茶トラ猫のアダムに至ってはがっつき過ぎてスムーズに喋れてはいなかった。
「ハハハッ! アダム、そんなに急いで食べると喉に詰まらすよ。」
猫たちの楽しそうな様子を見ながらミードを飲んでいると、俺は和やかな気持ちになっていた。
「しっかし、この串焼きもワンタンスープもコロッケも美味いね。これがまさかあのヒュドラだとは思えない程美味しいよ。お酒にも合うし! この味はあの見た目からは想像ができなかったな~……。」
「ふふっ…。喜んでもらえて光栄です。お代わりをどうぞ…。」
リリアの母親が気を利かせ、お酒のコップがもうすぐ空になりそうな時になって、村人たちが楽しげに騒いでいる所から少し離れた場所に座っていた俺に、お酒のお代わりを運んできたので話しかけた。
「ルカ様には娘を助けていただいた御恩がありますし、お礼らしいお礼もできませんが……、たくさん食べて飲んで、今夜の祝宴を楽しんでくださいね。」
そう言ってニッコリと微笑むと、娘と年の然程変わらない女の子と2人でお喋りをしているリリアの所へと帰っていった。
「そういえば、パウロ。……あの“マルスの樹”の事は知っていたの?」
「ん? ここに来る前に神様に聞いていたのにゃ。」
パウロは食べていたヒュドラの脂が付いた手を舐めながら俺の質問に答えた。
「ここに来る前って?」
「ワタチもよく覚えていないんだけどにゃ…。神様に聞いたら、この世界に生まれる前に、地球って所でルカと一緒に暮らしていたことがあるらしいのにゃ。んで、生まれた時に神様に聖なる山に1本だけある樹に実っている黄金の実を食べなさい。そうすれば貴方の願いは叶うでしょうって言われて……、それだけにゃ。」
「えっ!?」
「なんか、魔力の濃い実が生る、食べれば願い事が叶う樹だと言ってたにゃ。でも、欲深い人間には毒にしかならないらしいにゃ。」
パウロにこの聖なる庭園で生まれる前に、前世で俺と会っていた、しかも暮らしていたと言われて心底驚いた。
「それは…、いつ頃の事か分かるかい?」
「ごめんにゃ……。詳しい事は覚えていないのにゃ……。」
パウロはヒュドラの串焼きを食べていた手も止め、耳をペタンと伏せて申し訳なさそうにしていた。
「ううん。覚えていないのならしょうがないよね……。」
俺はパウロを撫でて元気づけた。
パウロ自身が前世の事を殆ど覚えていないと言うので分からないが、「もしかして…。」と俺はこの時思っていた。
「俺がこっちにくる3年前に死んじゃった、あの“クロ”……か?」
確証はないがなんとなくそう思っていた。
宴はその後も恐怖から解放された村人たちによって大いに盛り上がり、俺もすっかりと酔っぱらってしまった。
昨日と同じく、俺はグイドの家に泊まらせてもらった。
村での宴が終わってからもグイドの家で、ヒュドラや荷獣車での一件のお礼だと言われてグイドが秘蔵のオフィーリア国の二日酔い防止にもなるというお酒を振る舞ってくれ、遅くまで語り合った。
翌朝、あのお酒の効果か大量にお酒を飲んだのにも関わらずスッキリと目覚められた。
「おはようございます。」
グイドの家の外に出ると、昨日とは違って皆明るい顔をして洗濯や掃除、畑の世話等に精を出していた。
「おはよう、ルカさん。昨日は遅くまでこの家に灯りが点いていた様だけど…、宴の後もグイドに付き合って深酒してたんじゃないかい? グイドは飲兵衛だからねぇ……。」
「うるせぇ、バァさん。村の外から来た人に余計な事を言うんじゃないよ。」
近所に住んでいるというお婆さんと朝の挨拶を交わしていると、それ以上言うなとばかりにグイドよりも年上らしきお婆さんの後ろから話を遮る様にグイドがやってきた。
「あら、居たの? グイド。」
朗らかに笑ってグイドを見るこのお婆さんが苦手なのか、グイドは決まりが悪そうな顔をしていた。
「今起きたとこかい? ルカさん。」
「えぇ。昨晩はあんなに飲んだのにグイドさんのおかげでスッキリと目覚める事ができました。」
俺はニコリと笑って答えた。
「そうか…。ちょっと前にリリアに会ってな、お前さんが起きたら家まで呼んでくれって頼まれたんだが……。」
「そうですか…。何の用ですかね~。」
「さぁな~。昨日の事で改めてお礼がしたいとかじゃないかの~ぉ?」
昨日の事と言われ、俺はリリアが母親に了承を得ることができたら旅に連れて行くといった事を思い出した。
「じゃあ、とりあえず伝えたからな~。」
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