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第2章 神話の歪み
10.リリアの説得
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「おはようございま~す。ルカです。」
俺はグイドに教えられたリリアの家まで行き、ドアをノックして中にいるだろうリリア母子に呼びかけた。
だが家の中からは言い争う声が聞こえ、ドアが開けられるまでに少々時間がかかった。
「お兄ちゃ~ん! 待ってたよ。」
やっと開けられたドアから出迎えてくれたのは少し困り眉で泣きそうな顔をしたリリアだった。
ドアから見えた部屋の奥ではリリアの母親が機嫌が悪そうにそっぽを向いて食卓の椅子に座っており、俺が来たのに気が付くと立ち上がり、焦ってオロオロしだした。
「ル、ルカ様っ…! すみません…、みっともない所をお見せしてしまって……。それに娘の我儘で朝からこちらにお呼びたてしてしまったみたいで……。」
「いえ……。俺もリリアの様子が気になってはいたので………。」
向かい合ったまま数十秒の沈黙が続き、耐え切れくなったリリアの母親が突然スッと左の方へと動いた。
「お、お茶を淹れますね…。そちらの椅子に、どうぞお座りください…。」
そう言って部屋の壁際にある薪コンロに火を着けてケトルにお湯を沸かし、落ち着かない様子でティーポットやカップを出してお茶の用意をし始めた。
俺は何があったのかと思い、指定された食卓の椅子に座ると、横に座ったリリアに小声で聞いてみた。
「おい、リリア。ドアが開く前に言い争う声も聞こえたんだけど…、説得は失敗したのか?」
「うん……。うちは父さんが戦争に巻き込まれて死んでから母さんと2人だけだったし、私もまだ成人してないから外に出すのはって…。それに、いくらヒュドラから救ってくれたお兄ちゃんが一緒でも、旅なんて危険な事はさせられないからって……。」
「それは…、まぁ……、そうだよ、な………。」
リリアはシュンと肩を落とし、悲しそうな顔をしていた。
「ルカ様…。」
「は、はいっ!」
黙ってお茶の用意をしていたリリアの母親がお茶の入った3つのティーカップを乗せたお盆を持ってこちらに振り向き、長い沈黙を打ち破るかの様に沈んだ感じで俺の名前を呼んだ声に、コソコソと話していたのがバレたのかとドキリとした。
「娘は……。娘は、私が許可すればこの村を離れてルカ様が一緒に旅に連れて行ってくれると言っているのですが…、本当なのですか?」
「えぇ、まぁ……。いくら村の為とはいえ、何も知らされずに突如同じ村に住むそれまで信頼していた大人らに誘拐され、気が付けばヒュドラの許に転がされていたのです…。怖くなって、もうここには居たくないと言い出したのは仕方が無いかと……。」
「そう、ですか………。うちは見ての通りの母と子の2人ぐらしでしてこの子の父親も戦争で早くに亡くなっております。それでも2人力を合わせてこれまでやってきたのです。それが……、成人もまだな娘が突然旅に出て居なくなるだなんて……。何も、娘をヒュドラから救っていただいた貴方を信用していないというんじゃありません。ですが………。」
リリアの母親は娘が突然言い出した思いがけない事にどうして良いのか分からないといった風であった。
「俺もリリアに一緒に連れて行けと言われた時はまだ子供だから母親と一緒に居た方が良いと思いました。ですが覚悟も無く、あまりにもショックな体験をして余程怖い思いをしたんでしょう…。リリアのそんな顔を見てると……。だから母親である貴方が許可するならと言って了解したのです。」
リリアは俺と母親の話が一向に進まない事に次第に苛立ってきた様子であった。
「ねぇ、母さん。私はもうこの村には怖くて住みたくないの! 生贄にされかけたのを救ってくれた旅人のお兄ちゃんに出会えたのも会えたこの事も縁だと思うの……。だから私を…、お兄ちゃんと一緒に旅に出ることを許して! お願いっ!」
「でもねぇ……、貴方はまだ10歳だし、いくら恩人だと言ってもルカ様は赤の他人よ? まだ子供とはいえ赤の他人と一緒に男女2人きりで旅をするだなんて………。結婚もできなく……、いえ、それよりも何かあったらどうするのっ!?」
まだ渋り続ける母親にとうとう痺れを切らしたのか、リリアは俺が頭を隠す為に被っていたフードを剥ぎ、俺の左手を掴んで机の上に出した。
「もうすぐ11歳よ! もう子供じゃないわ。それにお兄ちゃんはね……、あの伝説の救世主様なのよ! その方が神より与えられた使命を全うする為の旅にお供をする最初の人間になるだなんて、後々にはとても栄誉あることになるわ! それに……。」
リリアは机の上に置かされた俺の左腕にバッとしがみ付いてきた。
「赤の他人同士で旅をするのがマズいって言うのなら…私、お兄ちゃんと結婚するわっ! 結婚しとけば何かがあったとしても大丈夫でしょ? 母さん!」
リリアの母親も、俺も、目が飛び出る程に唐突なリリアの告白に驚愕した。
「リ、リリア…。あ、貴方はまだ、10歳なのよ? 結婚なんて早すぎるわっ!」
「リリアっ! お前……。」
俺の肩を引っ張って自分の方に顔を引き寄せ、驚いてリリアの顔の方を向いた俺の頬にリリアはキスをした。
「教会の教えが正しいのならば、救世主様との契りに限り、結婚は何歳でもして良かったはずよ! それが例え成人年齢に達していなくてもねっ。神話でも聖人様に成人年齢に達する前に結婚して神の盃を賜ったって人が何人かいたって記録があったはずよ!」
してやったりと言った顔でリリアは母親の方を見て、鼻息荒く息巻いていた。
その様子に呆気に取られてリリアの母親は口を半開きにして固まっていたが、フゥーっとため息を吐くと、観念したのか一言「分かったわ…。」と言った。
母親のその言葉にリリアは俺に満面の笑みを見せ、幼い子供の様に燥ぎだした。
俺はグイドに教えられたリリアの家まで行き、ドアをノックして中にいるだろうリリア母子に呼びかけた。
だが家の中からは言い争う声が聞こえ、ドアが開けられるまでに少々時間がかかった。
「お兄ちゃ~ん! 待ってたよ。」
やっと開けられたドアから出迎えてくれたのは少し困り眉で泣きそうな顔をしたリリアだった。
ドアから見えた部屋の奥ではリリアの母親が機嫌が悪そうにそっぽを向いて食卓の椅子に座っており、俺が来たのに気が付くと立ち上がり、焦ってオロオロしだした。
「ル、ルカ様っ…! すみません…、みっともない所をお見せしてしまって……。それに娘の我儘で朝からこちらにお呼びたてしてしまったみたいで……。」
「いえ……。俺もリリアの様子が気になってはいたので………。」
向かい合ったまま数十秒の沈黙が続き、耐え切れくなったリリアの母親が突然スッと左の方へと動いた。
「お、お茶を淹れますね…。そちらの椅子に、どうぞお座りください…。」
そう言って部屋の壁際にある薪コンロに火を着けてケトルにお湯を沸かし、落ち着かない様子でティーポットやカップを出してお茶の用意をし始めた。
俺は何があったのかと思い、指定された食卓の椅子に座ると、横に座ったリリアに小声で聞いてみた。
「おい、リリア。ドアが開く前に言い争う声も聞こえたんだけど…、説得は失敗したのか?」
「うん……。うちは父さんが戦争に巻き込まれて死んでから母さんと2人だけだったし、私もまだ成人してないから外に出すのはって…。それに、いくらヒュドラから救ってくれたお兄ちゃんが一緒でも、旅なんて危険な事はさせられないからって……。」
「それは…、まぁ……、そうだよ、な………。」
リリアはシュンと肩を落とし、悲しそうな顔をしていた。
「ルカ様…。」
「は、はいっ!」
黙ってお茶の用意をしていたリリアの母親がお茶の入った3つのティーカップを乗せたお盆を持ってこちらに振り向き、長い沈黙を打ち破るかの様に沈んだ感じで俺の名前を呼んだ声に、コソコソと話していたのがバレたのかとドキリとした。
「娘は……。娘は、私が許可すればこの村を離れてルカ様が一緒に旅に連れて行ってくれると言っているのですが…、本当なのですか?」
「えぇ、まぁ……。いくら村の為とはいえ、何も知らされずに突如同じ村に住むそれまで信頼していた大人らに誘拐され、気が付けばヒュドラの許に転がされていたのです…。怖くなって、もうここには居たくないと言い出したのは仕方が無いかと……。」
「そう、ですか………。うちは見ての通りの母と子の2人ぐらしでしてこの子の父親も戦争で早くに亡くなっております。それでも2人力を合わせてこれまでやってきたのです。それが……、成人もまだな娘が突然旅に出て居なくなるだなんて……。何も、娘をヒュドラから救っていただいた貴方を信用していないというんじゃありません。ですが………。」
リリアの母親は娘が突然言い出した思いがけない事にどうして良いのか分からないといった風であった。
「俺もリリアに一緒に連れて行けと言われた時はまだ子供だから母親と一緒に居た方が良いと思いました。ですが覚悟も無く、あまりにもショックな体験をして余程怖い思いをしたんでしょう…。リリアのそんな顔を見てると……。だから母親である貴方が許可するならと言って了解したのです。」
リリアは俺と母親の話が一向に進まない事に次第に苛立ってきた様子であった。
「ねぇ、母さん。私はもうこの村には怖くて住みたくないの! 生贄にされかけたのを救ってくれた旅人のお兄ちゃんに出会えたのも会えたこの事も縁だと思うの……。だから私を…、お兄ちゃんと一緒に旅に出ることを許して! お願いっ!」
「でもねぇ……、貴方はまだ10歳だし、いくら恩人だと言ってもルカ様は赤の他人よ? まだ子供とはいえ赤の他人と一緒に男女2人きりで旅をするだなんて………。結婚もできなく……、いえ、それよりも何かあったらどうするのっ!?」
まだ渋り続ける母親にとうとう痺れを切らしたのか、リリアは俺が頭を隠す為に被っていたフードを剥ぎ、俺の左手を掴んで机の上に出した。
「もうすぐ11歳よ! もう子供じゃないわ。それにお兄ちゃんはね……、あの伝説の救世主様なのよ! その方が神より与えられた使命を全うする為の旅にお供をする最初の人間になるだなんて、後々にはとても栄誉あることになるわ! それに……。」
リリアは机の上に置かされた俺の左腕にバッとしがみ付いてきた。
「赤の他人同士で旅をするのがマズいって言うのなら…私、お兄ちゃんと結婚するわっ! 結婚しとけば何かがあったとしても大丈夫でしょ? 母さん!」
リリアの母親も、俺も、目が飛び出る程に唐突なリリアの告白に驚愕した。
「リ、リリア…。あ、貴方はまだ、10歳なのよ? 結婚なんて早すぎるわっ!」
「リリアっ! お前……。」
俺の肩を引っ張って自分の方に顔を引き寄せ、驚いてリリアの顔の方を向いた俺の頬にリリアはキスをした。
「教会の教えが正しいのならば、救世主様との契りに限り、結婚は何歳でもして良かったはずよ! それが例え成人年齢に達していなくてもねっ。神話でも聖人様に成人年齢に達する前に結婚して神の盃を賜ったって人が何人かいたって記録があったはずよ!」
してやったりと言った顔でリリアは母親の方を見て、鼻息荒く息巻いていた。
その様子に呆気に取られてリリアの母親は口を半開きにして固まっていたが、フゥーっとため息を吐くと、観念したのか一言「分かったわ…。」と言った。
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